5.使い魔になって使い魔ができました
「はあ……。とりあえず、一回魔力流すぞ。目、閉じてろ」
さっきからため息ばっかりついています、このイケメン。
そのうち禿げるんじゃない?
だけども、今は魔力です。
「お願いしまーす」
とりあえず素直に目を閉じた。
だって話が先に進まないし。
額に何か暖かいものを感じる。
たぶん、イケメンの手だろう。
そこから暖かいものがゆっくりと全身に流れていく。
これが、魔力?
その流れが、胸に集まってくる。
……あれ?
すごく熱くなったんですけど、今の何?
なんか、嫌な予感がするんですが……?
「あ……」
恐る恐る目を開けたら、イケメンがなんか『しまった……』って顔してますが。
え、嫌な予感しか感じない。
「……今の、何?」
「……お前が、巻き込まれたにせよ召喚された立場ってことを忘れていた」
イケメンが一歩、後ろに下がりながら顔を引きつらせた。
そのイケメンに対して、一歩近づいて胸倉を掴む私。
「……つまり?」
「……今ので契約してしまった、です……」
「「………」」
契約?
使い魔の?
私が、このイケメンの使い魔?
人間の私が?
ジー……(無言でひたすらイケメンを見る)
ダラダラダラダラ(顔中汗かいている。イケメンが台無し)
ウロウロウロウロ(ワンコが早く契約しろと言わんばかりにウロついている)
………。
「ワンコー。おいでー」
「がう!」
「おい……」
「魔力流してー、はい契約完了ー」
「がーう」
「あの……」
「名前はねープリン!」
「がうっ!?」
「その……」
「嫌なの?しょーがないなー。じゃあシリウスでいいや。略してしぃちゃんね」
「が~う~」
「お願いです話を聞いてください」
はい、完璧無視っていたイケメンが、ついに耐え切れなくなったのか土下座してきましたー。
この世界にも土下座の文化はあるんだね。
いいことだと思います。
とりあえずは、イケメンの言い分でも聞きましょうか。
「で?」
「あー……異界のものなら、呼ぶとき以外は異界に戻ってもらってたらいいんだけど、お前は多分例外なんだ」
「で?」
「えー……それ以外だと、契約するまでいた自分の魔力が濃い住処にいるか、常に主の傍にいるかの2択なんだ」
「で?」
「……ちなみに、召喚主からあまり離れると、使い魔の力は激減される」
「で?」
「……悪いんだが、契約ってどっちかが死ぬまで解除されない。……なので、異世界から来て魔力も知らないお前の場合は、俺の傍にいるしかない、です……」
土下座して説明していたイケメンの語尾がだんだん小さくなる。
ふむふむ、なるほどねー。
つまり私に自由はなくなっちゃったってわけなんですね。
「……しぃちゃん」
「がう?」
「……殺っておしまい」
「がああっ!!!!」
「どわあああっ!!!!?」
それまで大人しく座っていたしぃちゃんが、私の言葉をきっかけに牙を剥き出しにしてイケメンに襲い掛かった。
つまり、このイケメンが逝っちゃえば問題ないってことだもんね?
この森で唯一出会った人だろうが、私の自由と引き換えなら関係ないです。
私の人権を返してもらいますから。
「潔く逝け!!!」
「ちょ!?お前との契約のおかげで、俺の魔力からっぽなんだぞ!!?マジで殺す気か!!!」
「よし、逝けって意味を辞書で調べる時間くらいはあげよう」
「なんだその微妙な優しさは!!!」
「いらないならさっさと食われちゃいなよ!!!」
「ぐるぅう!!」
「待った!!待て!!!おすわり!!!」
焦りまくったイケメンが、そこいらの普通の犬にするのと同じようなことを口走った。
そんなのでしぃちゃんが止まるわけがない。
……と思っていたのですけど。
「がるっ!?」
しぃちゃんが急に止まった。
しぃちゃんもびっくりしているから、自分で自発的に止まろうと思ったわけじゃないみたい。
どうしたの?
「使役している奴の使い魔にも、命令は有効で助かった……」
安心したのか、疲れ切った様子で仰向けに倒れたイケメン。
つまり私はイケメンの使い魔だから、私の使い魔のしぃちゃんにも言うことは聞かせられるってこと?
何そのつまらない決まり事。
絶対いつかそんな決まり潰してやるんだから。
「ま、今はいいや。ここってどこ?」
「ぐえっ!?」
え、何をしたかって?
ぐったり倒れてるイケメンのお腹を踏んだだけですよ?
顔を踏もうか悩んだんだけど、汗びっしょりで嫌だったんだもん。
靴が汗で汚れちゃうのはヤです。
「そ、それが人に聞く態度か……?」
お腹を押さえて咳込みながら起き上がるイケメン。
だけどね?
「うっかりミスで私の人権奪っちゃった奴に対して、そんな気遣いは必要ですか?」
「うっ……すいません」
「はい、謝ってる暇があるなら説明。あと、近くの町に連れて行って……ていうか、君の家に連れて行って」
離れられないなら仕方ないし。
いつまでもこんな何にもない森の中にいたってつまらない。
何より、いい加減ゆっくり休める所に行きたいです。
「あ、ああ……転移はまだ出来ないが、回復するまで説明する。……だから、いい加減そいつを大人しくさせてください」
じっと隙あらばイケメンに襲い掛かろうとしているしぃちゃんを指さすイケメン。
「しぃちゃん、おいで~」
「が~う♪♪」
名前を呼ぶと、大きな尻尾をぶんぶん振って擦りよって来た。
可愛い子です。
「いい子いい子。また今度殺ろうね~」
「がう!」
「次があるのか!?」
「説明は?」
「……はい」
なんかボヤいているけどスルー。
イケメンは色々と諦めたようなため息をついて説明をしてくれた。
長ったらしいから要約すると。
この世界はアスフォードというらしい。
国は大きく分けて4つ。
フィレンチェ王国(東)、ツヴァイス皇国(西)、フィルス公国(南)、ギルフォード帝国(北)
後は小国がいくつもあるみたい。
私が今いるのは、フィレンチェ王国の王都近くの森の奥深く。
かなり強い魔物がでるみたいで、ギルドの上位ランクである二つ名以外は近寄らない場所だから、このイケメンが見つけてくれないと、たぶん一生人に会わなかったっぽいです。
うん、やっぱり龍雅は見つけた瞬間、顔面中心に殴ってやる。
「……あれ、二つ名持ちしか来ないってことは、君は結構強いの?」
あんまり強そうには見えないんだけどねー。
うっかり者だし。
「……まあ、お前は俺の使役にいるから言ってもいいか。フィレンチェ王国の全帝『万物の覇者』だ」
「へ~……」
全帝ってことは、フィレンチェ王国で一番強い人って言っていたよね。
この人が一番強い人で、フィレンチェ王国は大丈夫なのかな……。
それよりも、ちょっと突っ込みたいんだけどいいですか?
「真面目に『万物の覇者』って言って恥ずかしくない?」
だって、『万物の覇者だ(キリ)』て感じだよ?
イケメンだから恥ずかしくないの?
あ、龍雅も同じことしそう。
イケメン系にはそういう恥じらいが備わってないのかな?
とりあえずアレだね。
「なんか可哀相」
「お前もう黙れ!!」
イケメンは涙目で怒った後、拗ねたように地面にしゃがみこんで『の』の字を書きだした!
さすがに弄りすぎた?
「えーと。全帝って一番強い人なんでしょー?」
「……」
ピクッとイケメンの肩が動いた。
「私と同じくらいの歳なのに、すごいねー!」
「……」
ピクピクっと今度は耳が小さく動いた。
「ほんとすごいよねー!若いからこそ、うっかりミスもしちゃうんだろうけど」
あ、しまった。
つい本音が。
「……」
ずーん……という感じで、少しずつ上がっていた頭が再び落ちたイケメン。
うわ、めんど。
さらに暗くなったし。
この人ってあれだよね。
全帝とか言ってるけど、実際ただの根暗ですよ。
こんな人が私の主になるの、嫌だなー。
これはちょっと調教して性格を変えるか、隙をみてしぃちゃんに襲わすしかないね。
うん、頑張ろ。
「よし!じゃあ王都に行こう!」
「……」
「……」
「げはっ」
一瞬体を浮かして咳込むイケメン。
はい、私が鳩尾を蹴り上げたからです。
反応してくれないと、独り言を言ってるみたいで恥ずかしかったんです。
「じゃ、王都に行こうか」
「……はい」
ニコニコ笑って話しかけると、イケメンはブルブル震えながら頷いた。
最初から反応してくれたらよかったんですよ?
ちなみに、イケメンの魔力が結局全然回復していなかったため、私はしぃちゃんの背中に乗って行きました。
イケメン?
しぃちゃんの尻尾に必死で捕まって何か叫んでいましたよ?