46.聞いていませんから
先生に悪戯した後は、ちゃんと生徒会室までお使いです。
浅い学園生活の中で今まで無縁な場所だから、場所なんて知りません。
カインと一緒に校内地図を見ながらようやくたどり着いたよ……。
地図、読むの苦手だから入る前から疲れました。
書類を届けたら、さっさと帰ろう。
そう思いながら、ノックしてから開ける生徒会室への扉。
「失礼しまー……す?」
……んん?
なんか扉開けたら、生徒が軽く数十人席についていますけど、何事?
どうしてそんなに驚いた目で見られてんの。
とりあえず、言えることは一つ。
「……嫌な予感がしてきたんですけど」
「同じく」
思わず呟いた言葉に、全力で同意するカイン。
よし、こうなったら書類だけ置いて逃亡ですな。
逃げるが勝ち!
……そう思っていました。
「ルディス君!シドウさん!!来てくれたのね!!」
「よかった!1-Sからは今年も誰も来れないのかと思ったよ!」
「ありがとう!!」
なんか逃亡する前に学年主任の先生と席の真ん中あたりに座っていた人たちが、すごい勢いでこっちに走ってきました。
なんだろう、みなさんが感激のあまり涙目なんですけど。
ついでに後には、残りの生徒さん達が固めている。
あ、もう逃げられない気がしました。
「……何なんですか?私たち、ソル先生にこのプリントを届けてくれって言われただけなんですけど」
『え!?』
私が先生から預かった書類が入った封筒を差し出すと、みなさん一斉に驚かれた。
いや『え!?』って言われても、こっちが『え!?』なんですけど。
なんで学年主任の先生ってば、こんなに顔引きつらせているわけ?
嫌な予感がしてきましたよ。
思わず封筒を開けて中の書類を取り出す。
「「……」」
中に入っていたのは、書類じゃなくて一枚の紙。
『生徒会、がんば!』
そう書かれただけの、紙。
……完全に私たちを売りましたな、あの担任。
思わず紙を握りつぶした私と、そのぐしゃぐしゃになった紙を手に取ってビリビリと破くカインさん。
「なーんにも聞いていないですからね、私たち」
カインが破り捨てた紙クズを踏みつけながらニッコリ笑って言うと、学年主任の先生の顔が思いっきり引きつった。
「じゃ、じゃあクラス委員と生徒会役員になってくれるわけじゃ……?」
「そんなの初耳ですけど」
「知らん」
「……あんの怠慢教師……絞め……」
……わぁお。
ラピス様に劣らぬ真っ黒いオーラです。
最後の方が小声で聞こえなかったけど、まぁとりあえずソル先生乙!
てか、自業自得!!
「とりあえず、俺たちはそんなの引き受けた覚えもないので失礼します」
厄介ごとには関わりたくないカインが、そそくさと私の腕を掴んで部屋から出て行こうとした。
……出ていきたかったね。
なんかね、ドアを塞いでいた人たちが一斉に土下座していらっしゃったんです。
そして前にいた生徒会っぽい人たちも、同様にドアの方に回って土下座をしているんです。
何これ。
この土下座集団をかき分けて出て行ったら、私たち完璧悪者じゃん。
いや、別に悪者になっても対して気にしないけどさ。
ただね、後味が悪いんです……。
「……あの、通してもらえますか?」
「頼む!あの王家と六大貴族が集合している1-Sには、今年こそ役員を出させないといけないんだ!」
「お願いよ!あれだけ勢ぞろいして我儘を言いまくっているのも知っているけど、高等部からはクラス行事とかが多いの!!今迄みたいに役員の子達が我儘に耐えかねて辞めてしまうということがない、あなたたちにお願いしたいの!!」
「私たちも!!同じ学年という理由だけで、Sクラスの方たちの仕事まで回されたら大変なんです!!お願いします!」
……この部屋にいるほぼ全員に土下座されてお願いされているこの状況を、断れる勇者っていますか?
「だが断る」
隣にいた!?
カインってば、なかなか非道な性格していたんだね!?
◇◇◇◇
……は?
俺は今、口を開いていなかったぞ?
なのになんで俺の声がしたんだ?
「……カイン、君もなかなか非道だね」
愛良が白い眼で俺を凝視している。
いや、待て!
「お、俺じゃないぞ!」
「いやいや、明らかにあなたの声でしたけど?」
「それは俺も驚いたが、俺じゃ……「にしてもお前、本当に残念な胸だな」(カインボイス)……」
「……ああ゛?」
……俺は本当に何も言っていないんだ。
なのに、愛良に言ってはならない禁句用語が、俺の声で言われた。
もう愛良の目が(死にたいの?死にたいんだよね?死刑決定)と言っているようにしか見えない。
いっくら愛良が可哀相な胸の持ち主で、それが消しようがない事実だとしても、俺は間違っても言っていないのに。
「ほ、本当に俺じゃないんです……「絶壁が偉そうに言うなよ」(カイン略)……」
「黙れやボケ。いっぺん死にたいんか?あ゛?」
愛良のドスの利いた声と、聞き慣れない口調。
俺は、今この場を全力で逃亡したい。
いや、どうせ逃げ切れないだろうが。
なにせ、今は神族として自覚した愛良の方が確実に強い。
魔法については俺の方が上だが、いかんせんこいつには馬鹿力が存在する。
しかも最近の早朝トレーニングの組手の際には、俺が身体強化しても馬鹿力セーブの腕輪つけた状態の愛良にすら敵わないという理不尽な結果が定着しつつある。
そんな愛良が、マジでキレている。
俺、明日の朝日を拝めるのか……?
……いや、諦めるな俺!
俺の声は後ろから聞こえてきた。
つまり、犯人は後ろにいる!
「誰だ俺のフリをしたやつは!!?」
愛良に殴られる前に後ろを振り返った俺は、しかし誰もいない状況に絶望した。
生徒や先生たちはドアの前で土下座の状態で道をふさいでいるから、後ろには壁しかなかったのだ。
……俺の人生終わったな。
「……カイン」
「……」
愛良が恐ろしすぎて、振り返れない。
ショックすぎて立ち直れないのもあるかもしれないが。
「これ、何?」
「は?」
思わず振り返れば、アイラの腕の中にいるシリウスが何か黒いモノを咥えている。
微妙にバタバタと動いているソレ。
「……なんだ、それ?」
「カインの背中にくっついていた。コウモリ?」
「おうよ!ラブリーなコウモリに変身してみたんだけどどうよ!?って、痛ってぇ!お犬様、もうちょっと噛む力緩めて!!」
シリウスに咥えられながらも、苦しそうに動き回る黒いコウモリ。
は?
この声って、つい最近聞いたことあるよな。
「……お前、死……コス王か?」
「いえーい!せいかーいっ!!」
やっぱりか。
やっぱりコスプレ大好きの死神王だったんだ。
そして変身が出来るということは、声真似もできるよな。
ということは、こいつが犯人だったんだよな!?
「お前か?お前だな?お前が俺の声で愛良の前で絶対言ってはならないワードを言いやがったんだな?」
「ちょ、ストップ!そっちはやめっ……いぎゃああああ!!!」
絶叫を上げて、ぐったりと大人しくなったコウモリ。
俺はただ鷲掴みにしたコウモリの羽をあらぬ方向へ曲げただけだ。
愛良のように神(父親)の羽を折って千切ったりはしていない。
「愛良、さっきからの暴言の犯人はこいつだ。俺じゃない」
「……よかったねーしぃちゃん、おもちゃができたよー」
「わーう!」
棒読みの言葉を発した愛良は、ニコニコと不自然なほど笑みを浮かべたままコウモリを床に放り投げてシリウスを下ろした。
嬉しそうに転がっているコウモリにじゃれかかっているシリウス。
半分食われている気もするが、コス王なら問題ないだろう。
俺たちは、完全に存在を忘れていた生徒会の連中をどうにかしないといけないな。
「……おい、愛良。どうするんだ?」
「へ?何が?」
「何がってな……」
この完全に置いてけぼり状態の先生+αをどうするか聞いているというのに……。
なんでこいつはこんなにも余裕なんだ?
「学年主任のせんせーも生徒かいちょーさんたちも、みーんな何も見なかったよね?特に、絶壁とか、なーんにも聞いていないよね?」
愛良が効果音すら聞こえる笑顔で話しかけると、その場にいた全員が顔を青ざめて首を縦にぶんぶんと振りまくった。
……こいつの、脅すときの笑顔って何なんだろう。
パッと見は可愛いのに、背景が真っ黒だ。
これに逆らえる奴はさすがにいないよな。
(腹黒い奴には誰しもが逆らえないもんだって)
シリウスから逃げるために、俺の肩によじ登ってきたコス王が念話で話しかけてきた。
小声でも恐らく愛良には聞こえていただろうから、念話してきて正解だな。
(お前、本当に何しに来たんだ?)
(仕事終わらせたから遊びに来た。なのにお犬様に殺されそうになる俺様って何?)
その遊びに、確実にさっきの禁句ワードも入っているよな。
もういい。
これだけシリウスに絞められた跡なら、こいつは放置していても問題ないだろ。
(これ以上ボロボロにされたくなかったら、とりあえず今この場では黙っていろ。そのうちシリウスに食われるぞ)
(イエッサー!怖いから俺様黙る!)
ガクガクブルブルと震えながら何度も頷くコス王。
賢明な判断だな。
使い魔とかのランクが知りたいってことだったのでー。
天界の中でトップから言うと、
神王(天界トップ)→愛良パパ(No.2)→その他の世界神(上級神)→神族(中級神:コス王含む)→フェンリル(神狼)→上級天使→中級天使&属性神
になります。
その中で使い魔として普通に契約できるのは上級天使まで。
その以上は召喚することも不可能。
ちなみに、愛良は神族(見習い)レベル、カインは愛良との契約の影響で上級天使レベルの力です。
下剋上、完了ですな(笑)




