42.時間前集合は30秒前ですか
◇◇◇◇
禁忌召喚事件の翌日。
今日は禁忌召喚のごたごたで学園は休講。
何でも、わざとでないにしても禁忌召喚をしたことは大問題で後処理が大変みたい。
幸い犠牲はでなかったからいいものの、昨日の夜は大騒ぎだったみたいだよ、先生たちが。
ちなみにソル先生は私たちを囮にしたことで1カ月の無償報酬+Sクラスの生徒が禁忌召喚をしたことで半年間の減給だって。
昨日の夜に疲れ切った様子の学園長のおじいちゃんが、寮の部屋にお茶しに来たときに教えてくれたの。
だいぶお疲れが溜まっていたみたいだから、肩叩きしておいたよ。
なのに、今日も学園のお仕事とは別のお仕事があるんだけどね。
今日は前から決まっていた帝の顔合わせ会です。
なので私とカインは空間転移で学園を抜け出して、ギルド『純白の騎士』の会議室に来ています。
もちろん私たちと分からないようにマントを被っているよ。
カインは最初に会った時と同じ、怪しさ満点の黒いマント。
私も同じ黒いマントなんだけどね。
体格誤魔化せるようにちょっと大きめに作ったけど。
マントの中でしぃちゃんを抱っこしてても気づかれないようにしないといけないし。
別にしぃちゃんは寮で待っていてもらってもいいのかもしれないけど、単純に私がしぃちゃんと離れたくなかっただけです。
カインにはだーいぶ渋がられたけどね。
隙あらばカインに噛み付こうとする子だから。
とりあえずは一言。
「……他の人はまだ来ないのー?」
「わうー……」
ただいま、会議が始まる15分前。
それなのに、私たち以外誰もいません。
え、早めに集合しようって人、この世界にはいないの?
私たちが早すぎ?
「帝たちは基本自由人だからな。会議が始まる30秒前には全員揃うと思う」
なぜに30秒前。
なぜ秒読みなんですか。
せめて5分前にしようよ。
まぁ、時間通りに始まるなら別に気にはしないけど。
「……それで、龍雅はフルボッコするの?」
確か、禁忌召喚でドタドタしている時に言ってたよね。
ボコっていいかって。
「ほぼ確実にな。どうせ他の帝たちも好戦的なのがいるし、そいつが率先してやるんじゃないか?」
「面白そうだったら参加しよー。けど、新入りに喧嘩売るのが恒例なら、私に対しても喧嘩売ってくるんじゃないの?」
カインと魔法なしの手合わせだと勝てるけど、魔法ありだったら私ボロ負けだよ?
帝の人たちに喧嘩売られるのは嫌だなー。
「あら。それは私が全帝のミスを他の帝全員に懇切丁寧に説明したから大丈夫よー」
「「……」」
……恐ろしい。
真っ赤なマントを被った大柄な男の人がおねぇ口調で入ってきた。
うん、うちんとこのオカマスターですねー。
前全帝で今は炎帝なんですね。
炎帝の時もおねぇ口調なんですね、怖いです。
そしてちょっと気持ち悪いです。
「……その口調で、すでに炎帝はマスターって知られているんじゃないの?」
むしろ、確実にばれますよね。
少しでも話した瞬間、分かっちゃいますよね。
だって、うちんとこのギルドは民営最大ギルドですよ?
ご近所さん達には『オカマスター』ってよばれて親しまれていますからね?
「全員が全員正体を隠しているわけじゃないからな」
「そうよー?全帝やっていた時も、この口調だったんだからー」
マジですか。
少しは取り繕うとかしましょうよ。
マスター、オカマ歴何年なんですか。
さっきからもうお腹が痛いんですけど。
爆笑したいのにオカマスターの前だし、他の帝がいつくるか分からないから必死に耐えてるけどそろそろ限界。
マント被ってて良かった。
絶対今、変な顔だ。
「そうだ、愛良ちゃん」
「はひ……」
笑いたいの我慢してたから変な返事になった。
恥ずかしいのに誰も突っ込んでくれないのも悲しい。
「愛良ちゃんは、なるべく会議の時は話さないようにしなさいね。たぶん声であなたの幼馴染にバレるだろうし、用があるときは全帝か私に念話をしてきてね」
「分かりました」
龍雅にばれたらめんどくさそうだし、黙っておきますか。
しぃちゃんとモフモフして遊んどこう。
龍雅がいると大変だけど、しぃちゃんで癒されてたら問題ないもんね。
そんなこんなしているうちに、時間ギリギリになって他の帝たちが転移して一斉にやってきた。
いやもう、本当にみなさん30秒前に来たよ。
時間にきっちりし過ぎてやいませんかい。
全帝の席に座っているカインに一礼した後、それぞれの席に座るマント集団。
みなさんカラフルですねー。
誰がどの属性の帝か一瞬で分かりました。
「わざわざ集まってもらって悪いな。今日は新しく俺と同じくZランクになった者を紹介する。まずは俺の隣にいる『万物の操者』だ。操者には俺の補佐をしてもらう」
カインの紹介に、一応頭を下げる。
うん、なんだろう。
すっごくみなさんから、生暖かい同情の眼差しを感じます。
カインのせいですね。
「……もう一人いるが、まだ来ていないようだな」
「なんと……」
「我らを待たせるとは、いい度胸だな」
しょっぱなから遅刻って、ただでさえ第一印象悪いのにダメダメな龍雅くん。
どうせ出発しようとした時にあの王女とかが来て、来るに来れない状況なのだろうけど。
帝たちがグダグダ文句を言いだした時になってようやく、廊下から焦ったような足跡が聞こえてきた。
そしてすぐに開かれる扉。
「すいません!遅れました!!」
うわー……まさかの金ピカマントっすか。
目が痛いし別の意味でもイタイよ。
「……次回からは時間厳守だ。そこの席に座れ」
「はい、すいませんでした。……あれ?」
冷やかに言い放ったカインに頭を下げた龍雅が、席に着きながら首を傾げた。
……なんか、すごく龍雅から視線を感じるのですけども。
……すごく居心地が悪いです。
私、絶対にしゃべらない。
「改めて紹介する。そいつが新しくZランクになった『白銀の勇者』だ」
「よろしくお願いします」
『………』
う~ん……私の時と違ってみんな冷やかだねー。
遅刻してきたことも含めて、急にZランクになったのが気に入らないんだねー。
急に出てきた奴がZランクになったら、頑張ってここまで来た帝たちにとったら気に入らないことだもんねー。
マスターが私のことを説明してなかったら、私も同じ扱いだったんだろうなー。
うん、マスターって結構思慮深いよね。
オカマだけど。
「……俺は納得できない。操者はある意味被害者だから仕方がないとしても、そいつは本当に強い奴かは分からん。全帝、試させてくれ」
はい、誰かが言うと思いましたー。
噛ませ犬は緑マントだから風帝ですね。
他の人も何人か頷いているけど。
「構わない。好きにしろ」
あっさり許可を出したカイン。
そういえば、自分でも会議の時にボコるって言ってたね。
つまり、今日は新人のフルボッコ大会なんですね。
てなわけで、みんなで地下にある訓練場にやってきました。
龍雅をボコりたい立候補者は風帝、水帝、ついでにソル先生こと雷帝。
ソル先生は減給のイラつきを解消したいから立候補した様子。
カインもやりたそうだったけど、全帝だしクールぶった仮面被ってるから我慢してる。
我慢せずにやればいいのに。
「では、一応俺と操者でこの場に不死結界を張っておく。好きなようにやれ」
つまり、死んでもいいから全員でフルボッコにしろってことですね、分かります。
まぁ、魔力コントロールが甘い龍雅がどれだけ戦えるのかは見ておきたいよね。
力を隠しておかないといけないわけじゃない、この状況で。
「……結界を張った。一人ずつでいくか?」
「あ、みんな一緒にでたぶん大丈夫です」
「……そうか」
あれー?
何対戦相手達を挑発しているのー?
他の人たちから殺気が半端なく出ているでしょうが。
この子、お城でどう扱われていたんだろ?
特別扱いされすぎて、無自覚な傲慢っ子になってる気がする。
う~ん……龍雅、謙虚さはそれなりに美徳と思っていたんだけど、残念だねぇ。
●桐ヶ谷龍雅
愛良の幼馴染。茶髪のヒーローヘアしたイケメン少年。
幼少の時から隣に家に住んでいたため、よく愛良宅へ押しかけていた。
愛良に煙たがられているのに全く気付かない、脳内おめでたい人物。
一応愛良も煙たがってはいるが、幼馴染として面倒は見ているために調子に乗る。
今後も愛良と鬱帝に殴られたらいいと思う。




