41.しぃちゃんはフェンリルでした
お家に帰れるって知ったなら、とりあえず許可証はもらっておきたい。
一旦帰りたいし。
「許可証はいつもらえる?」
「異世界旅行許可証は手続きに少し時間がかかるから、1年くらいあった発行できるからね!
「1年!?」
あっさり言い放ったお父さんの台詞に、思わず大きな声が出た。
だって、1年って……私、まだまだ帰れないじゃん。
「大丈夫だよ、愛良ちゃん。神族って果てしなく寿命が長いから、1年が1日くらいの間隔だし。愛良ちゃんもすぐに慣れるよ」
「あっそ……」
そんなにすぐに慣れると思わないけど。
だって、私まだ正真正銘16歳だもん。
「愛良ちゃん、他に質問は?」
「うん、特にない。まともな返答帰ってこないし諦めた」
「そうかいそうかい!パパの丁寧な答えに分かってくれたんだね!」
全然違うけど、もう突っ込むのも疲れた。
なんで自分の父親と話すだけで、こんだけ体力が削られるんだろう?
「よい子の愛良ちゃんにはプレゼントがあるよ!はい!」
なんかちゃぶ台の上にいきなり現れた数十冊の本と紐。
何これ?
「これはね!人間がまだ見つけていない神級魔法と、禁忌魔法、さらには膨大な魔力を持つ愛良ちゃん+α(カイン君)しか使えない神魔法の魔術書だよ!」
そんなの簡単にくれていいのか神よ。
そして娘へのプレゼントが、なかなか物騒なものだってことに気づいている?
日本で言うなら、父親から笑顔で銃機器プレゼントされたもんだよ。
これって喜んでいいの?
「あと、この紐はね!グレイプニールっていう神器なの!能力は絶対捕縛だよ!この赤ちゃんフェンリル君のお散歩のときに使うといいよ!そうだ!フェンリルの赤ちゃんの育て方の本もつけてあげる!」
あ、しぃちゃんはシルバーウルフじゃなくてフェンリルだったんだ。
道理で大きすぎると思った。
まぁ赤ちゃんで本来のフェンリルよりも一回りも二回りも小さいから勘違いしたんだろうけどね。
でも、グレイプニールって神話に出てくる神器じゃなかったっけ?
お散歩に神器使うってありなの?
お父さん、どーゆー思考をしているんだか……。
「お散歩のついでにパパも縛ってくれていいんだよ?」
変態思考だった。
ついていけないし、ついていこうとも思わない。
とりあえず、パパは一回死んでやり直した方がいいと思う。
「それでね!カインくんにもプレゼントがあるんだよ!」
「俺に……?」
次にちゃぶ台の上に現れたのは腕輪と杖。
……めっちゃくちゃ禍々しいオーラを放っていらっしゃるんですけど。
「これはね、代償の腕輪。放つ魔法が強力になる代わりに、寿命がどんどん削られるの。で、こっちが時早の杖。神魔法すら詠唱破棄できる優れものだよ。代わりに自分の時間をどんどん削られるけど。ちなみに、一度装備したら死ぬまで外れません」
つまり、これで戦いまくってさっさと死ねってことですね、分かります。
ちらりとカインを見ると、同じように私と目を合わせている。
この時の私たちのシンクロ率は100%だった。
お互い頷くと、ちゃぶ台の端っこを掴んだ。
「「調子に乗るな、クソ神が!!」」
「あぶううううっ!!!?」
これぞ、秘技ちゃぶ台返し。
人生で一度はやってみたい技ですね。
うし、お父さんは完全にちゃぶ台の下敷きになって目を回しているね。
「じゃあお父さんウザいし、もう帰ろう。結構時間食ったから、時間巻き戻さないとねー」
「そうだな。俺も使い魔が手に入ったし……そういえば、コス王はどうした?」
「現在進行形でしぃちゃんに踏みつけられているよ」
しかもなんかぐりぐりと踏みつけられています。
うん、おもちゃと勘違いしているね。
けど可愛いから許す。相手コス王だし。
「あ~……まぁいいか。おい、コス王。俺たちは戻るがお前はどうするんだ?」
「えーと、その前にこのワンコをどけてあげようという優しい気持ちは……」
「俺には無理だ」
踏みつけられたまま見上げるコス王に即答するカイン。
むしろ、口出した瞬間に同じ運命を辿るだろうね。
「でっすよねー。お嬢、ヘルプ」
「しょーがないなー。しぃちゃん、おいで」
「がう」
いつもの子犬姿に戻ったしぃちゃんを抱っこ。
うん、抱きつくモフモフもすきだけど、抱っこするモフモフも好きだわ。
「で、どうするんだ?」
「とりあえず、仕事残ってるから冥界に帰るけどさ。その前にお嬢、魂ちびっとだけ頂戴」
ああ、そういえば禁忌召喚したとかで今ここにいるんでした。
完璧忘れてたけどさ。
「どうぞー」
「ほい、終了ー」
「え、もう終わり?鎌は!?」
おでこに人差し指当てて終わりましたけど!?
死神って何のために鎌持ってるの!?
「鎌はなー、ほぼ抗ったときのための武器兼脅し用なんだよなー。まぁ、細かいことは気にするなって。じゃ、俺様仕事戻るわ。ついでに俺見捨てて逃げた奴を殺らねぇといけねーし」
最後のセリフの時の殺気やばい。
きっと死神くんのことだよね。
死神くん、成仏できたらいいね。
魂狩る方の死神くんが、死ぬのかは疑問だけど。
「とりあえず、私たちも時間巻き戻しながら転移して帰ろうか」
「だな。先生と念話した後ぐらいでいいぞ」
「りょうかーい」
「愛良ちゃぁぁぁああああん!!?行かないでぇぇぇぇええええ!!」
幻聴なんか聞こえない聞かない聞くつもりもない♪
◇◇◇◇
「くそ!どうなってんだ!?」
シドウからの念話が切れてから十数分。
結界は一向に解ける気配なく、中の様子も分からない。
生徒を非難し終えた教師たちが数名、俺と同じように中の様子を伺っている。
あの二人は無事なのか?
そう考えていた時に、不意に結界が解かれた。
結界があった方から、ゆっくり歩いてくる二つの人影。
「シドウ!ルディス!!無事か!!?」
「無事無事ー。私たち囮にしたくせに、心配してたんだねー先生?」
飄々とした様子で掌をひらひらさせるシドウ。
……普通に無事でした。
根に持っているよな、絶対。
「……それで、死神たちはどこに行ったんだ?」
「禁忌召喚された理由を聞くなり、呆れて帰った」
簡単に説明したルディス。
死神でもやっぱり呆れるんだな。
だけど、理由が理由だし無理もないか。
「せんせー。今日の授業はどうせ全部休講でしょ?帰っていい?」
俺の顔の前で手を上下に動かしたシドウ。
……ゆっくり考えたいのに、なんでこいつはすぐに中断させるんだ?
「……ああ。怪我してないならもう帰れ。今日召喚できなかった奴は、明日の放課後にやる予定だ」
「俺はもう契約したからいいです」
「私はしぃちゃんがいるからいいです」
……シドウはともかく、ルディスはいつ召喚したんだ?
いや、こいつらのことは考えるだけ時間の無駄だな。
「……あ、そ。もういいよ、お前らとっとと帰りな」
「はい」
「さよーならー」
……なんで優等生が問題児なんだろうな(泣)
●シリウス
愛良の使い魔の白くて赤い目をした巨大な狼。
普段は子犬サイズで愛良に抱っこされていることが多い。
正体はフェンリルの赤ちゃん。
愛良が異世界に召喚されたのと同時に、実は親馬鹿神が送り込んでいた。
ちなみにフェンリルを選んだのは、愛良が犬好きだからなだけ。
愛良が大好きなワンコ。




