4.馬鹿力に目覚めました
なんなんでしょうか、この人は。
ちゃんと正直に答えたのに、頭を抱えて落ち込むなんて失礼じゃないですか?
「がう?」
ワンコも不思議そうに首を傾げているし。
「別に君のことを忘れてたわけじゃないよー?よしよし」
「あ」
私がワンコの頭を撫でると、目の前の変態さんがいかにも『忘れていました』的な表情で顔を上げた。
もしもーし、変態さーん。
頭抱えていたせいで、フードが取れてますよー。
とりあえずは変態さんって言ってごめんなさい。
すんごいイケメンでびっくりしました。
はい、普通に龍雅と同じくらいかっこいいお兄さんでした。
肩までの銀髪に、金眼という、ド派手な色彩の持ち主ですがね。
異世界っぽい所だから?
他の人もド派手な色彩なのかな。
目がチカチカしそう……。
どうしよう。
人が多いところに行くのが不安になってきました。
このままワンコと一緒に森の中に引きこもってた方が、お目めには優しいかもしれない。
「……ちょっといいか?」
「はい?」
「そいつ、なんでお前に懐いているんだ?」
イケメンの目は、私が撫でているワンコにいってる。
なんで……?
目が覚めたら目の前で威嚇。
↓
プリンがないことに嘆いていたらドン引き。
↓
プリン登場。プリンの味に癖になっちゃった?
↓
プリンなくなった。けどついてくる。
あれ、ほぼプリンのおかげ?
知ってた?
プリンで命って救われるんだよ。
「……餌付け?」
「SSSランクのシルバーウルフが餌付け……」
何か知らないけどイケメンが絶句している。
ランクSSSって何?
強さのランク?
「君、結構強いの?」
「がーう♪」
「へ~そうなんだ~」
「意味分かるのか?」
「ノリ」
ノリって大事だよね。
うん、ノリに乗ってないとやってけないもん。
「しかし、どうしたもんか……こいつ、俺の討伐依頼なんだよ」
「がうっ!?」
討伐……ってことは、この子を殺しちゃうの!?
「うわ~モフモフって大事なのに、それを殺しちゃうなんてヒドイ!この子のモフモフはもう国宝級なのに!」
「いや、訳が分からん」
冷静に返された……。
イケメンに、『お前、何言ってんの?』的な冷静な目で見られました。
穴があったら入りたい……。
「あー……そんなに殺してほしくないなら、契約したらいいだろ」
ワンコに抱きついて拗ねていたら、眉間に皺を寄せたイケメンが言ってきました。
……のですが。
「契約って?」
詐欺には引っ掛かりませんよ?
「ああ、そういう知識もないのか。契約ってのは、魔力をこいつに流して、お前の使い魔にするんだ。そうすれば、こいつはお前以外の命令も聞かないから、大人しくしていろと言えば済む」
「ふ~ん?けど、私魔力ないとこから来たから、流し方分かんないや。どうやるの?」
「一度俺がお前に魔力を流す。それを感じろ」
「うわ、なんかエロい言い方」
「……」
私、思ったことそのまま言っただけなのに。
目の前のイケメンがデコピン食らわせてきました。
あ、けど別に痛くないや。
「~っ!?」
目の前のイケメンがはじいた指抑えていますけどね。
なんなわけ?
「お前、どんな石頭してんだ!?」
「へ?私、そんなに石頭じゃないけど……?」
はっ!?
もしやこれって、アレ!?
身体能力がすっごく上がっているとか!?
ためしに落ちていた石を拾って軽く投げてみる。
ビュン!!どこぉっ!!!!
「「「………」」」
えーっと。
まず簡潔に言おう。
投げた石が大木の真ん中に風穴開けました。
軽く投げただけなのに。
風穴から奥が綺麗に見えています。
軽く投げただけなのに!!
もう一回言いますよ!?
軽く投げただけなのに!!!
大事なので3回言いました!!
「女の子にこんな馬鹿力いらない――!!!!何これ――!!!!?」
「お前、このまま町に行ったら歩くだけでそこら中の建物破壊しそうだな……」
「うわぁああん!!!もとに戻してぇえええ!!!」
「くぅーん……」
二人(というか一人と一匹?)が茫然としている。
やめて!
そんな人外見る目で見ないで!!
なんか悲しくなってくるから!!
悲しくなりすぎて何か変なものに目覚めちゃいそうですから!!
「ま、まあ落ち着け。確かアレが……」
私が号泣したからか、イケメンが焦りながら急に何もない空間に手を突っ込んだ。
手首の先が消えてる。
なんで?
「どこにやったっけ……あ、あった」
腕をひいたイケメンの手には、何かが握られている。
「……腕輪?」
なんか錆びついてる汚い腕輪。
「犯罪者逃亡防止用の腕輪だ。一応身体能力がかなり抑えられるから、試しに着けてみろ」
身体能力が抑えられる……。
つまり、さっきの馬鹿力がマシになるってこと……。
背に腹は代えられない。
汚すぎて、だいぶ嫌だけど……左手に装着。
あぅ……触った手が、錆でざらざらする……。
手、洗いたい……。
真面目に手を洗いたいと思っているのに、このイケメンはさっきと同じくらいの石を渡してきましたけどね。
「よし、もう一度投げてみろ」
乙女心を読め!!
イケメンには乙女心を読めないって決まり事でもあるんですか!?
もういいよ。
気にせずに投げるよ。
軽く深呼吸してからえいっと投げる。
「「「……」」」
石は木に食い込んだけど、貫通まではしなかった。
「よかった!穴開けなかった!!」
「おーよかったなー」
なんでイケメン棒読み?
というかあれだけ力があったなら、よくワンコに抱きついた時にひねり潰さなかったなぁ。
ワンコが強かったから?
あれ、なら潰れなかったプリンはなんなの!?。
あれか、実はプリンの器がかなり強化されていたとか!?
……うん、そう思っとこ。
考えるだけ無駄無駄。
非現実的なところにいるんだから、私の常識で考えるだけで時間の無駄。