35.可哀相な死神くんです
「なんであんな奴の声を録音しているんだ、訳が分からん。なんでお前は……」
ずっと耳元でぐちぐち言っているカイン。
あーもー鬱陶しいなぁ。
あれからずっとカインが後から抱きついてきてる。
そろそろまた投げるよ?
「……カイン、いつも……アイラ……抱きつく?」
「パニックった時だけなー」
ルナが不思議そうに首を傾げると、復活したグレイが簡単に教えた。
私は君の復活の速さの方が気になるよ。
最上級くらったのに、復活早すぎだし。
「以前途中で投げられたのですが、またやっていますね。カイン、そろそろ5分経ちますよ」
ラピス、きっかり5分を数えていたのね。
私は投げたくなるのが我慢できなくなる時間がだいたい5分だから分かるけどさ。
「……分かった」
ラピスに教えられるなり、すぐに離れるカイン。
ちっ……あともう少しで投げてやろうと思ったのに。
「それにしても暇だな。俺たちの番はまだなのか?」
「ぼちぼちじゃない?暇だねー」
「暇だ……何か起きないのか?」
カインがため息交じりにぼやいたのとほぼ同時に、グランド中に響き渡る轟音。
そして殺気。
ありゃりゃ……妙な感じですなぁ。
周りの反応から察するに、誰かが禁忌召喚をしちゃったみたい。
「どこの馬鹿?禁忌召喚したのは」
「……あれだけやるなと言っていたのにな」
「お馬鹿さんだねー」
周りがわーきゃー騒いでいるのを見ながら、騒ぎの中心地に視線を投げる。
うん、位置的に言ってSクラスの馬鹿がやらかしたんですね。
頭いいクラスのはずなのに……。
「……二人とも、逃げ……ないの……?」
カインと二人で騒ぎの中心部分を眺めていたら、ルナが不安そうに袖を握ってきた。
ラピスとグレイもまだ逃げてなかったのね。
「危ないから先に逃げなよ。私たちはまだ召喚終わってないし」
私は召喚するつもりないけど、カインの召喚は見たい。
早く騒ぎ収まらないかなー。
「え、そっち!?そっちなのか!?」
「何を言っているんですか!?早く逃げますよ!!」
「一緒……いこ?」
「問題ないだろ。出てきたのは死神らしいし、禁忌召喚を犯した奴を殺ったらすぐに戻るだろう」
禁忌召喚は自業自得で助ける気さらさらなかったけど、カインもないんですね。
絶対主人公の位置にいるくせに。
とりあえず、3人には念のため安全なところに行っておいてもらおうかな。
一応、他の生徒も。
でも一斉に転移させるには、さすがに人数が多いし私にはまだ難しい。
てなわけで、感覚を覚えるためにもカインの手を握って全員を強制転移。
他人と協力して魔力を練るのは相当難しいとマスターが言っていたけど、もともと私たちの魔力の質が似ているのか、造作もないことだった。
だからこうやってカインと魔力を合わせて一緒に魔法を使うことで、魔力の扱い方の勉強にもなるの。
カインと魔力の質が似ていてよかったー。
とりあえず、逃げる気いっぱいだった生徒たちはほぼ全員校舎内に送ったしー。
ここにいるのは死神を抑えている教師たちと、禁忌召喚をした生徒、そして正義感あふれる馬鹿だけだね。
「………」
なんか、死神っていかにもって感じかも。
黒いローブに大鎌だし、顔は髑髏みたいなお面だし。
「ねーねーカインせんせー。死神ってランク的には何になるのー?」
「シリウスと同じSSSランクだな。その強さゆえに、禁忌召喚をした奴らは基本的に首を狩られてお終いだ」
淡々と先生たち+αが戦っているのを観戦しながら説明するカイン。
しぃちゃんと同じ、ねぇ……。
なんか、しぃちゃんの方がずっと強そうに見えるんだけどなぁ。
でもしぃちゃんと同じくらいってことは、帝レベルじゃないと苦しいんだよね?
「じゃあ先生たちじゃ抑えられないんじゃない?ソル先生も正体明かす気、さらさらなさそうだし」
「……帝って気づいていたのか?その魔力感知は羨ましい限りだな」
魔力で属性を感じるのは、カインもすごいってマスターが言ってたから人のこと言えないと思うけどねー。
「んで、禁忌召喚したのはどこのお馬鹿さん?」
「あそこで寝転がっている奴じゃないか?」
「んー?」
カインが顎で示した方向で寝転がっているのは、顔は見たことあるだけの男子生徒。
名前は……知らないや。
「それで、あいつはいったい何がしたいんだ?」
カインが呆れ交じりに、作ったばかりの魔武器の剣を振り回しているヘタレ馬鹿を眺めている。
……さあ?
助けようとした結果、首を突っ込んだんじゃない?
なんか魔法は練習不足でイマイチだし、前の世界で剣道を習っているわけでもなかったから、本当にただ剣を振り回しているだけだよね。
魔力が多いだけで何とかもってるって感じ?
「……あれで勇者なのか。あれで俺たちと同じZランクになるなのか。……次の帝会議の時にボコっていいか?」
「どーぞどーぞ」
目を半眼にさせながら呟くカイン。
むしろ楽しそうなので参加させてくださいな。
「お前ら、何やっている!?早く避難しろ!!」
あ。二人で傍観していたら、ソル先生に見つかっちゃった。
別に隠れていたわけでもなんでもないですけどね。
「あー……お構いなく?単に傍観しているだけなんで」
「……正直に言い過ぎだな」
「だって、自業自得のお馬鹿さんを助ける気なんてさらさらないもん」
「はぁっ!?何考えてんだお前ら!!?」
ソル先生が呆れた表情で突っ込んでくる。
突っ込める余裕があるだけ先生はすごいよね。
「せんせー、前見とかないと危ないよー?」
他の先生たちはふらふらだし、龍雅はこっちに気づく余裕もないぐらい必死だし。
死神が禁忌召喚した奴以外は殺さないって約定があってよかったねー。
でないと今頃全員殺されてるところだよ。
「……さっさと終わらないかなぁ」
死神と先生たち+αの戦闘を傍観していたからかな?
「……お前たちは何者だ?」
めっちゃくちゃ死神にこっちガン見されていました。
ありゃ、気づかるとは全く思いませんでしたよ。
何者だって聞かれてもなぁ。
「単なる生徒だ」
「単なる観客です」
「わう!」
「……そうか」
あれー?
今ので納得しちゃうわけ、死神くん。
てかソル先生以外、龍雅含めてみんな倒れちゃってたのね。
「じゃあ邪魔しないでくれると助かる。そろそろ死神王陛下が様子を見に来てしまうからな」
「え、禁忌犯したお馬鹿さんを狩るのに時間制限あるの?」
「ある。陛下が来られたら、陛下の出張費として我輩の給料が減給になる」
出張費?
減給?
……なんか、すごく現実的なお話しですね。
「死神って給与制なの?」
「タダで働くわけないであろう?」
「「確かに」」
無償労働なんてする人、滅多にいないよね。
そっかー。
死神って給与制の職だったんだねー。
「てか、さっさと殺らなくていいのー?減給になっちゃうよ?」
「はっ!我輩の給料!!」
死神が焦って禁忌召喚をした生徒を振り返るけども、あら不思議。
モブの姿が消えていました。
「……我輩の給料が……」
「どーんまい♪」
「わーうう♪」
減給決定だね!




