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3.全帝は頭痛が止まらない

◇◇◇◇


今日の依頼は、こんな森では見かけるはずがない凶暴な魔物の討伐。

城では今日、勇者召喚の儀を行うらしい。


魔物の動きが活発化しているため、この世界に現れてからずっと沈黙を保っていた魔王が動きを見せたのではないか。

それならば、魔王に対抗するための人員が必要だ。


……という理由らしい。

正直に言うと、馬鹿じゃないのかと思う。

仮説でしかない不確定な要素のためだけに、異世界人を召喚するという。

召喚された人物を、元の世界に戻すことができるかも分かっていないのに。

勝手すぎるだろ。

この国の帝や各国の強者たちの力を信じていない、ということだな。

そのくせ召喚する勇者が味方かどうか分からないから、召喚の儀に出席しろとは勝手な話だ。

もちろん、どの帝も適当に理由を付けてサボっている。

全帝である俺もだ。

それゆえ、わざわざSSS級の依頼に出向いているのだから。


依頼の内容は、最北の地でみられるというシルバーウルフが変異したと思われる魔物の討伐。

なぜシルバーウルフがこんな所にいるのかは分からい。

だが、放っておくわけにもいかない。

まだ人に被害は出ていないようだが、恐らくこのままでは森の生態系が狂ってしまう可能性がある。

それだけ、変異魔物とは危険な存在なのだ。


森を警戒しながら歩いていると、ふと人の声が聞こえた。

こんな森深くに人がいるのか…?

この森は奥に入るほど、魔物のランクが上がってくる。

恐らくここまで森深いと、ギルドの人間でもSクラス以上ではないと来れないはずだ。

誰だ……?

聞き覚えがない、高い声。

女か?

慎重に気配を消しながら、声がする方向に足を向ける。

木に隠れるようにして声の方に視線をやると、そこには討伐対象であるシルバーウルフがいた。

突然変異と聞いていたが、予想以上にデカい。

これは無傷では終れないな。

覚悟を決めた瞬間、シルバーウルフの目と鼻の先に人影がいるのが見えた。

恐らく、先ほどの声の持ち主。

しかも変わった服を着ているが、武器も何も持っていないように見える。

魔力で身体強化をしている様子もない。

完全な丸腰だ。



「お前、そいつから早く離れろ!!」



シルバーウルフの意識をこっちに向けるために、大声で叫ぶ。

間に合え。

そう願いながら素早く結界を唱え、女に向けて放とうとした。

未然形なのは、女が緊張感もまるでなさそうな表情をしていたから。



「というか、誰?」


「は?」



振り返った女は予想以上に若かった。

俺と同じくらいか?



「……いや、そうじゃなくて!!とりあえず、そいつからさっさと離れろ!!死にたいのか!!?」



何でお前は緊張感のかけらもないって表情をしているんだ!?



「え、なんか死にそうなものでもあるの?」



今お前の目の前にいるそれが、まさにそうだ!!!

そう叫びたかった。

だが、少女はあろうことかシルバーウルフの首に抱きついたのだ。

しかもシルバーウルフも少女のその動きに、たいして警戒をしていない。

やつが警戒しているのは、今この場にいる俺だけ。

いったいどういうことだ?

あの少女、実は魔族の手先なのか?

あの警戒のけの字もなさそうに、首を傾げている少女がか!?



「あの~」



シルバーウルフの首に抱きついたままの少女が、不思議そうな声で話しかけてきた。



「あなたは人ですか?」



……なんだこの質問は。

俺は人間じゃないように見られたのか?

というか、このマントを着ていたら誰か分かるだろ普通。

全帝……というか、帝たちのマントは何百年も変わっていないんだぞ。

確かに全身覆い隠すマントは怪しいだろう。

俺だって、できれば恥ずかしいから身につけたくはないだからな!



「……人間以外の何に見える」


「えーと……マント被ったへんた……変な人?」


「オイお前。今変態って言おうとしたろ。何言いなおしてんだよ、しかもあんまし失礼具合変わってねぇし」


「じゃあ変態さん」


「改まって何変態を定着させてんだテメェ」



普通に名前のように変態って呼ぶな。

思わずキレて口調が変わっただろうが。

なのに、少女は不思議そうに首を傾げた。



「じゃあ、なんて呼べばいいの?マントさん?真っ黒くろすけさん?変態さん?」



だ・か・ら!!



「何で選択肢に変態が含まれてんだよ!?」



こいつは俺のことを変態って呼びたいのか!?

呼びたいからしつこく変態って言うのか!?

いや、ちょっと落ち着け、俺。



「はあ……このマントを見て、分からないのか?」


「マント?真っ黒だね。全身すっぽり被っちゃって、怪しさ百点満点。不審者として通報されない?」



俺もひそかに気にしていることあっさりと言い放った少女。



「おいこのクソアマ」



確かに、この格好で街中を歩いている時に子どもに指さされたりするが!

帝用のマントってのは国民には知られているから通報まではされたことないからな!?



「わ……クソアマなんて言葉、この世界にもあるんだ?というか、言葉通じてるし。よかったぁ」


「は?」



今、なんて言った?

この世界って言ったか?

……勇者召喚の儀は、今城で行われているはず。

俺はサボったが。

こいつが、まさか異世界から来た勇者なのか?



「……お前、どこから来た?」


「えーと、あっちから?」



少女はそういって奥の森のほうを指さす。

そうか。

丸腰で森の奥から歩いてきて、よく無事だったな。


……現実逃避はよくないな。



「そういう意味じゃない。なんでこんなところにいるんだって聞いているんだ」


「えーと……?幼馴染が光った魔法陣みたいなのに吸い込まれる時に巻き込まれた感じ?」


「……」



予想していたことよりも、ややこしいかもしれない。

俺は頭痛を感じざるを終えなかった。

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

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