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24.女王様に逆らってはいけません

途中からカイン視点になりまーす

私が見ている先で、少し硬い表情をした様子のラピスが相手選手に静かに視線を投げている。

さっきまで穏やかな様子はないラピス、やっぱり緊張しているみたい。

頑張れ、ラピス。

心中で応援しながら、試合開始の合図を待っている……その時に。



「あーいーらー!」



なんとも気の抜ける声でヘタレが私の名前を大声で呼んだ。

イラってしたのは、きっと私だけじゃないはず。



「愛良!僕の試合、見ててくれた!?勝てたよ!!」



龍雅がハーレム予備軍の女子達を周囲にはべらせながら、満面の笑みで駆け寄ってきた。

相変わらず女子の眼力やばいね。

絶対性格悪いよ。

性格悪いの丸出しなのに、なぜこのヘタレは気づかないんですか?

周りを見ているようで、見ていないからですね。

分かりきったことを考えるだけ時間の無駄だった。



「あーそいつはよかったねーすごいねー」


「ありがとう!愛良も頑張ってね!応援しているから!!」



……棒読みも鈍感には通じないのを忘れていた。

相手にするのもめんどくさいし、やっぱりシカトが一番いい方法だったね。

構ってやるんじゃなかった。



「それでね!愛良、学校が終わったらね……」


「愛良ぁあ!!」


「……」



龍雅が言いかけた言葉を遮るようにして響く、カインの怒声。

げっ……カインが鬱帝からもう復活したし。

しばらく鬱帝のままジメジメしてると思ってたのに。



「愛良!!このクソ犬のしつけ、ちゃんとしろって言っただろうが!!!」


「きゃんきゃん!!」



しぃちゃんの首根っこ掴んでぶら下げながら、怒涛の勢いでこっちまで走ってくるカイン。

あ、ちゃんとオシッコかけられたブレザーは脱いでるし。

偉い偉い。

後で洗うから、振り回さずにボックスに入れておいて。



「カインがすぐにキノコ発生させるからでしょー。しぃちゃんも木と間違えちゃうんだって」


「間違えるか!!このクソ犬の場合は確実にわざとだろうが!!いい加減捨てるぞっ!!?」


「ひっどー。そんなことしたらカーズさんのお部屋に放り込んでやるんだから」


「……」



あ、黙った。

よっぽどさっきの試合でびびったんだねぇ。



「そうなったら、まぁ確実に掘られるよね。下手したら新世界の扉まで開いちゃうんじゃない?あ~せっかくのイケメンが新世界の住人になっちゃうとか……ぷっ」


「……」


「さぁ、カイン。選択肢を上げよう。今日の晩御飯はカインの大好きなメニューで、デザートはカーズさんのお部屋で食べるのと(きっと確実に喰われる)、ぜーんぶ水に流してカインの大っっっ嫌いな激辛フルコースを食べるのと、どっちがいーい?」


「激辛フルコースでお願いします」


「はい、よろしい」



綺麗な土下座を披露するイケメン、カイン。

君、何のためらいもなく激辛フルコースを選んだね。

そんなにカーズさんにトラウマを植え付けられたんですか。

まぁ何はともあれ、今日はカインだけ激辛フルコース!

私としぃちゃんは、もちろん普通の味付けのご飯だけどね。











◇◇◇◇

ダメだ。

俺は一生愛良に口で勝てない気がする。

諦めてクソ犬を放すと、奴は尻尾を振って愛良に飛びつこうとした。

……が。



「キャン!?」



何かに気づくと、小さく鳴いて愛良の足元にうずくまった。

あのシリウスが。



「しぃちゃん?」



アイラが不思議そうに首を傾げてシリウスを抱き上げ、奴が見ていた方に視線を向ると……。



「ひゃっ!!」



同じように小さく悲鳴を上げて固まった。

あの、愛良が。

こんなこともあるんだなぁ。

そんなことを思いながら愛良の視線の先に目を向ける。



「ひっ!!」



不覚にも同じように固まってしまった。

いや、だってな?

視線の先に、ひたすらニコニコと殺気をまき散らしながら笑っているラピス様の姿があったんだ。

にこにこ笑ったまま、ひたすら冷やかな空気を発生していらっしゃったんだぞ。

ビビってもしょうがないだろ。

俺や愛良は一応Zランクとはいえ、とんでもない恐怖を感じるんだが。



「アイラ、カイン?そしてその他のみなさん?」


『ひぃいいい!!?』



俺らと、その場にいた勇者(仮)と取り巻きが一斉に悲鳴を上げた。

ラピスは、いっそのこと優しいとさえ思える笑みしか浮かべていないのに。



「さっきからごちゃごちゃ煩いんでやがりますよ?人がせっかく試合をしようと集中しているところにグダグダグダグダと……強制的に黙らせてほしいんですか?それならそうとさっさと言いなさい。黙らせてあげますから」


『すいませんでした―――――!!!』



その場にいた全員が一斉に土下座。

いや、だってこれは仕方がないだろ。

なんなんだよ、あのラピスの殺気は。



「うぅ……思わず女王様って言いそうになった……ドSな女王様、恐怖……」



あの愛良が、半泣きで俺の腕にしがみついている。

……こうやっていれば、こいつは結構可愛いのに。

普段のこいつの性格のせいで台無しになっているよな。

人のことを絶対言えないと思う。

しがみ付いてくる愛良を見下ろしながら、そんなことを考えていたら。



「カイン?アイラに抱きつかれて鼻の下伸ばしているところ悪いですが、人の話を聞いていますか?」



……ラピスの殺気がピンポイントで俺に絞られた。

不覚にも、ラピスを怒らせていたことを忘れていた。



「……ちゃんと聞いている。悪かったから、試合を始めてくれ」



そしてそのイライラを相手にぶつけてスッキリしてくれ。

そうしたら俺たちは助かるから。



「それもそうですね。お待たせして申し訳ありませんでした。それでは殺りましょうか」



ラピス、何かが間違っていると思うぞ。

もちろん自分の命が惜しいので、思うだけで口にはしない。



「ひぃっ!!」



相手の生徒がラピスの顔を見て思いっきり悲鳴を上げて体を震わせた。

その気持ちは分かる。

分かるんだが、俺たちのために犠牲になってくれ。



「あら、こないんですか?それでしたら、こちらから行かせていただきますね。ウォーターボール、アイスニードル、ウォーターランス(×10)」


「「……鬼畜」」



俺と愛良の声が被った。

だって、アレは鬼畜と言っても問題ないだろ。

まず相手を水浸しにし、そこから凍らせて動けないようにしたところで留めのウォーターランス10本で串刺しだ。

ラピスは初級と中級なら詠唱破棄が出来る様子で、相手が反撃することも許さずに圧勝した。



「さて……」



負かした相手を見向きもせずに、先ほどと同じ笑顔で振り返るラピス。

背景は真っ黒なのに、ニコニコと笑みを浮かべている効果音が聞こえてきそうだ。



「さっき鬼畜と言ったのは、どこのどいつでしょう?さっさと名乗り出なさい」


「「……」」



背中に嫌な汗が流れる。

なんなんだ、この威圧感は。

今までいろいろな難易度の依頼を受けて来たが、ここまで緊迫したことなんてないぞ!?


……ん?

愛良が切羽詰まった表情で俺の袖を引っ張ってきた。

その目が、何を言わんとしたのかを俺は瞬時に理解すると、愛良と同時にある方向を指差した。



「「犯人はあいつです」」


「へ?」



俺たちに指差された勇者(仮)が間抜けな声を出して首を傾げる。

そう、俺たちは自分たちの身の安全のために、勇者(仮)を差し出したんだ。



「あら、あなたでしたか」



間抜け面をさらしている奴の様子を気にすることなく、結界から出て来たラピスがあの笑顔のまま奴に近付く。



「か弱い女性に対して言うべき言葉ではありませんでしたね。それだけ女をはべらしていながら気づかないとは、あなたの頭は空っぽですか?」


「ちょ、僕じゃなげぼっ!?」



否定しようとした勇者(仮)の口の中に、黄色い物が勢いよく飛び込んだ。

黄色くて柔らかく、すぐに崩れるもの。

まず間違いなく愛良の手作りプリンだ。

俺もかなり好きなデザートだが、なぜ愛良は今それを持っている?

というよりも、いくら柔らかいとはいえ、愛良の馬鹿力で口中に投げられた奴は生きているのか?



「大丈夫。主人公ならあれくらいじゃ死なない!個人的にはプリンを喉に詰まらせて窒息死って笑えるからやってほしいけど!」


「……愛良」



俺もあの勇者(仮)はそんなに好きなほうじゃない。

だが、お前は一応仮にもあいつの幼馴染じゃないのか?

……いや、考えるのはよそう。

考えれば考えるほど奴に同情してしまうから。



「げほっげほっ……し、死ぬかと思った……何で急にプリンが……」



なんとか喉に詰まらせなかったらしい勇者(仮)が、涙目で咳込みながら顔を上げた。

……あのまま気絶していた方がよかったと思うぞ。

責任なすりつけた俺が言うのもどうかと思うが。



「あら、あのまま死んでしまえばよかったのに」



にっこりと爽やかな笑顔だ。



「じゃあ、今度こそくたばって下さいね?周りのいるかいないか判断つかないその他大勢さんは、巻きこまれたくなくなければ、離れることをお勧めします」



ふー……さっき、王家や6大貴族には逆らえないと言っていたのは誰だったかな。



「な、なんて無礼な方ですn「めんどくさいのでタイダルウェイブ」いやああああああああああああ!!!!」


「僕じゃないのに――――!!!」



王女がなんか言っているのを遮って水属性の上級を詠唱破棄したラピス。

勇者(仮)だけでなく、王女や6大貴族たち、その他もろもろを巻きこんでおこる渦潮。

それを笑顔で見つめるラピスと、顔を引きつらせながら俺にしがみ付く力を強くする愛良。

……もう考えるのはよそう。

疲れた。


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