23.イケメンには5分しか優しくできません
阿部さんを強制退場させてから訓練場の隅に移動したんだけども。
「カイン……いい加減離れなよ」
「……」
カインが無言のまま後ろから抱きついて離れません。
背後霊です、完全に。
「どんだけビビってんの?相手は男だったんだから、遠慮なく殴ればよかったじゃん」
「……男だからこそだ。近寄ったら掘られる気がした」
「あ~……」
あれだけ立派な体格をしてたら、捕まった瞬間に掘られたかもね。
なんであそこまでカインに執着していたんだろ……?
後で龍雅を差し出してあげよう。
「そこで納得しないでくれ……」
「ごめんごめん。んで?あの人、一応同じクラスだから必然的にまた会うよ?まぁしばらく視界に入らないように骨何本か折ったから入院しているだろうけどさ」
「いっそ息の根を止めてほしかった……」
「それは自分で殺ってください」
私に殺人者になれってか?
なんてことを言うんだね、君は。
「もういやだ……帰りたい……」
「鬱で引き籠りが全帝って真面目に嫌だわ」
「もう鬱でも引きこもりでもいい。あいつが視界に入ってこさえしなければ、なんでもいい」
「……重症だねー」
うん、ちょっとやり過ぎたかな?
反省反省。
そしてそろそろ鬱陶しいよ?
「あー!お前ら、何こんなところでイチャついてんだよ!?」
「あら……二人はそういう関係だったんですか?」
ああ、ラピスはともかくグレイも鬱陶しい。
「アベータ・カーズって人に掘られそうになってから、ずっとこのビビり状態。ラピス、いる?」
「いりませんね」
わぁお。
一応イケメンなのに即答されたよカイン。
鬱ってるからダメなんだよ。
そのジメジメキノコを発生させてる鬱うつ君がイケメンを台無しにしてるんだよ、鬱帝くん。
「それにしても、よりにもよって相手がカーズですか。ご愁傷様です」
「掘られなかったか?クラスで何人かあいつの被害にあってんだよな。んで、あまりのショックに登校拒否ってるやつもいるし」
ああ……。
やっぱり掘られた人は二度と阿部さんの姿を見たくなくて引きこもりになるんですね、分かります。
「……掘るってしばらく言わないでくれ。奴を思い出す……」
「「「……」」」
がくがくぶるぶる。
そんな効果音を立ててさらに私を巻き込んで暗くなるカイン。
私の責任もあるからちょっと我慢したけど、そろそろいいよね?
カインが私に回している右腕を掴む。
そして…
「はいタイムリミットー!!イケメンには5分しか優しくしてあげられないのー!!てなわけで逝け!!!」
「ぐはっ!!?」
そのまま投げ飛ばしちゃいました。
えへ☆
「えー……」
「綺麗に決まりましたね、アイラ」
グレイはどーでもいいけど、ラピスに褒められた。
女子の友達って何気に初めてだから嬉しい。
もっと褒めて褒めて。
「な、なぁ……カインのやつ、生きているのか?もうなんか全身で立ち直れないって雰囲気醸し出してんぞ?」
ラピスに頭を撫でてもらっていたら、グレイがピクリとも動かないカインを指さして間に入ってきた。
ん?
なんか私の地獄耳が、カインがぶつぶつ呟いている内容を拾っています。
「もういやだもういやだもういやだもういやだ……なんで男に掘られそうにならなきゃいけないんだ、おかしいだろ。そしてなんで愛良は俺を投げ飛ばす?男に掘られそうになって愛良に投げられてまで俺ってなんでこんなところにいるんだ?もうここ出て行ってもいいよな?問題ないよな?全帝権限で一人くらい義務教育なんて免除なるよな?免除ならなくてもいい。そうだ、いっそ登校拒否しよう。もう俺は家から一歩も出ない。依頼は全部愛良に押し付けて俺は部屋で事務作業だけしてたらいい。そうだ、それがいい。そうしよう。そしたら奴の顔も見なくてすむよな。親父に全帝も返したら、なんの問題もないよな」
かなり重症でした。
学園内で頑張って被ってたクールの仮面が見事にはがれているよ、鬱帝くん。
キノコ発生させちゃってさぁ。
というか、オカマスターが前の全帝だったのか。
オカマ全帝。
うはっ、ツボった(笑)
「あら?アイラ、あなたに教室で付きまとっていた編入生が戦っていますよ?見なくていいんですか?」
鬱ってるカインを放置して爆笑していたら、ラピスが反対側の結界内で戦っている龍雅を指さした。
うっわぁ……女子が大量。
そして龍雅は、魔力コントロールが下手。
「要練習」
はい、龍雅くんの試合の感想以上。
「見に行かないんですか?」
「見に行く価値なし。面白くともなんともないし。カイン弄る(慰める)のに忙しいから」
「アイラ。建て前と本音が逆になっていますよ。カインがさらにいじけていますから」
あらいやだ。
キノコ(発生源:カイン)が広がっている。
あ、またしぃちゃんがオシッコかけに行ったし。
「あ、アイラ!そろそろ本気でカインどうにかした方がいいって!なんか見ていて切ない!!」
「しょーがないなー。グレイ、そのキノコ全部抜いたらカイン、元に戻るからね」
「本当か!よし!やってやるぜ!!」
ボックスからカゴを取り出してキノコを採取していくグレイ君。
そんなんで立ち直るわけないです。
馬鹿だから気づかないんだろうけど。
というか、グレイ君。
君はなぜボックスにカゴを入れているんだ。
「アイラ。馬鹿どもはいつまで放置しておくんです?」
「え、馬鹿が馬鹿って気づくまで?」
「じゃあ、しばらくはこのままですね」
ラピス、君、なかなかいい性格しているよね。
うん、そーいう性格好きだよ。
「おーい!次、9番から12番の奴!試合しろ試合!」
あ、試合終わったんだ?
全っっ然、見る気がなかったから気が付かなかったや。
「あ、私ですね。では行ってきます」
「行ってらっしゃーい!」
さて!
馬鹿どもは放置してラピスの応援をしますか!




