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200.邪神の封印、完了しました

視点はカインです

◇◇◇◇


ぎぎぎ……そう音が聞こえてくるんじゃないかというくらい、ゆっくりと振り返る愛良と三つ子たち。

その愛良たちの後ろには、鎖でぐるぐる巻きに拘束されてぐったりと項垂れている変態神を掴んだ女の人が立っていた。

愛良があと数年したらああなるのか、というくらいよく似ている女性が。

よく似ているんだが、比べると愛良が可哀相に思えてきてしまう女性が。

ニコニコと無駄に微笑んで、その背後には鬼神を背負っていらっしゃる女性が、愛良達の後に立っていた……。

とりあえずは、その笑みを見た瞬間に条件反射で飛びのいた俺とシンは悪くないと思う。


「か、母さん……も、もう来たんですねー……」

「や、やあ……じゅ、準備万端だね……」

「わ、我らの少し前の会話は、幻聴ということにしてくれれば……」


珍しいというしかないくらい、三つ子が冷や汗を浮かべている。

しかも、あの長男までもが怯えていると判断できるくらいに、震えているんだ。

しどろもどろになりながら、じりじりと後に下がっていってるし。

もうお前ら、顔が真っ青で汗だくだぞ。


「うふふ。それは……無理よ?」

「「「ひっ!!?」」」


さっきまで微笑んでいたのに、『無理よ?』の所だけ無表情になった。

遠目だったから、はっきりと自信を持って言えないけど、無表情になってた……。

そして、三つ子が吹っ飛んだように見えたんだが、俺の気のせいだよな。

三男が愛良から取り上げていたはずの鉄ハリセンが握られていて、飛んで行った三つ子がケツを押さえて呻いているように見えるが、俺の気のせいにちがいない。

だって、あの三つ子たちがあんな一発で再起不能になるとか信じられない……。


「うふふふふ。愛良ー?」

「ひぅっ!?」


鉄ハリセンを持ったまま、笑顔をまた顔に貼り付けて愛良を振り返る女性。

愛良が真っ青になって顔を引きつらせた。


「……あ、あはは……お、お母さーん。とっても会いたかったよー……感動の親子の再会だから、さっきの失言は許して?」

「お母さんも、とっっっっても会いたかったわぁ。それで、愛良?お母さんがいないからって、毎日毎日プリンばっかり食べていたって聞いたんだけど?」

「う……」

「お母さん、プリンの食べ過ぎは駄目よって毎日言っていたわよね?」

「あぅ……」

「愛良、こっちに来なさい」

「はいぃ……」


その後、愛良は母親である女性に、三つ子たちと同じ様にケツ叩きを喰らっていました。

平手で百発。

本当にやることも、よく似ていることで。

……体つきは除くとして。

とりあえず、一つ言っておこう。

愛良、お前は多分絶対に母親ぐらいまでは成長できないと思うぞ。


「あぅー……カインー……抱っこぉ」

「あー……分かった分かった」


母親の仕置きから解放されるなり涙目で足をガクガクさせながら、俺に抱き付くようにして倒れ込んできた愛良。

どうやら叩かれ過ぎて立てないらしい。

抱き上げて頭を撫でてやるが、治癒はかけないからな。

お前の母親の前では。


「……おい、そこの天然馬鹿ップル。何平然と恥ずかしがることなくお姫様抱っこしてんだよ」

「あらあらあらあら」


シンが額に青筋を立てながら壁を殴りつけて、愛良の母親は頬に片手を当てながら微笑ましいと言わんばかりに笑みを浮かべている。

……なぜだ。


「痛いぃ……お兄ちゃんたちみたいに、一発がよかったぁ……」

「……」


鉄ハリセンの一発で再起不能になった三つ子たちと、手加減されてはいるが延々と続くと思われる平手百発打ちの愛良と、どちらがマシだったんだろうなぁ……。

あの三つ子、未だに起き上がっていないんだが。


「あらあら。愛良のほうがマシよー?お兄ちゃんたちは、妹の設定を好き勝手に弄ったお仕置きも兼ねてたもの。お尻の骨は粉砕してやったわー。親子そろって仕方のない子たちよねー?」


いや、そんな愛良そっくりの顔で同意を求められても困る。

そして朗らかに笑いながら、骨を粉砕してやったとか怖いんだが。

愛良の隠し設定のお仕置きというのは分かるが、実の子どもの骨を粉砕ってやり過ぎじゃないだろうか。

神族は頑丈だから、それが普通なのか……?


「ふふふ。私に黙ってそんな設定をしていたから、お母さん久々に怒っちゃった」

「ぐぇっ!?」


にっこり笑いながら、持っていたままの鉄ハリセンを拘束したまま動かない変態神の上に突き刺した。


「……」


よし、決めた。

俺、この人だけは絶対に敵に回さない。


「私の設定……?」

「あら、愛良は気にしないでいいのよ?大人しくカイン君に甘えておきなさいな」

「はぁい……」


素直に頷いて俺の肩に頭を乗せる愛良。

よほど痛みがひどいらしい。

そんな愛良を笑みを浮かべて見守った後、母親は倒れたままの三つ子に向けて声を上げた。


「大吉ー!中吉ー!小吉ー!お父さんを中に運ぶの手伝ってー」

「母さん!?本名を大声で叫ぶの止めてくれないか!?特に俺っ!!」


あ、三男が涙目になって復活した。

この残念なネーミングセンス、さすが愛良の母親だ。


「愛良。お前、まともな名前でよかったな」


本当にしみじみとそう思うぞ、俺は。

だって、その名前だと4番目のお前は『末吉』とかだったかもしれないし。


「私の名前?」


腕の中で大人しくしていた愛良は、俺の呟きを聞き取って首を傾げた。


「私の名前は、お父さんとお兄ちゃん達が付けたんだよ?なんだかお母さんは最初、別の名前で読んでいたみたいだけど、それだけはやめてくれって言ってお願いしたんだって」


変態神、三つ子たち。

よくやった!


「いたた……だって、あの残念なネーミングセンスを可愛い妹にまで発揮されるのは可哀相だったからだよ。産まれた時に顔を真っ赤にして泣いていたからって『赤』はないでしょ。普通に『赤ちゃん』って呼んでたから、しばらく気づかなかったし」


粉砕した骨が治ってきたらしい次男が、腰に手を当てながら戻ってきた。

愛良の最初の名前候補は『赤』だったのか?

『赤』だから『赤ちゃん』だったのか?

愛良……『愛良』という名前を考えてくれた父親と三つ子に、感謝するんだぞ。


「我たちの場合は産まれる少し前に親父が封印されていたゆえ、仕方がなかったらしいがな。……ちぃに比べれば、我らはまだマシなのだ」

「本当にね……」


朗らかな笑みを浮かべたまま両耳を塞いでいる母親と半泣きになって喚いている三男を見て、視線を逸らす長男と次男。

三つ子の良心で、長男次男の喧嘩が勃発しても止められる三男。

三つ子の中で、断トツで貧乏くじを引き続けている三男。


「……名は体を表すって、本当なんだな」

「はい、そこ!しみじみと呟いてんじゃねぇ!」


あ、母親に文句を言うのに忙しいと思っていた三男だが、きっかりこっちの話も聞いていたらしい。

一瞬で俺たちの前に戻ってきた。


「いいか、カイン……。絶対に俺の本名を口にするんじゃねぇぞ……。俺を呼ぶときは今まで通り『三男』か『ちぃ兄さん』だけだ。本名口にした瞬間、てめぇのヘタレっぷりな噂を神界にまで広めて笑い者にしてやるからな……」

「……分かりました」


肩をがっしりと掴まれて鬼気迫る表情で言われれば、頷くしかない。

絶対に本名で呼ばないから、それだけはやめてください。

これ以上みじめになるのは嫌だぞ、俺は!


「……そこで嫌と思うなら、さっさとうっかりヘタレ鬱帝から抜け出せよな。これだから、手を貸さずにはいられないんだろ……」


ため息をつきながらしゃがみ込む三男。

……本気ですみません。


「あの……ちょっと誰か?パパを助けようとする優しい子はいない?」

『いるわけない』


鉄ハリセンを腹に突き刺さった状態のまま気が付いたらしい変態神が口を開くが、誰一人として助けようとしない。

まぁ、変態だから仕方がない。


「あらあら、あなた。自分の行いを反省せずに子どもたちに助けを求めるとはどういうこと?あなたはこれからしばらく次の邪神として封印するから、反省していなさいな」


え、邪神って交代制なんですか。


「ちょ、奥さぁああん!?本気でごめん!愛してるから許してぇえええ!!」


微笑んだまま変態神を踏みつけたままの母親と、そんな母親にすがりつく変態神。

うん、紫藤家の家庭環境が手に取るように分かるな。


「え、あなた?……あなたに愛があるとでも思っていたのかしら?」

「へっ!?」


おい、母親が本心から不思議といった様子で言い切ったぞ。

すがりついていた変態神も、真っ青になってる。

だがしかし、そんな様子を気にすることなく紫藤家の子ども達は動いた。


「はいはい。父さん、今さらそんなこと気にしてもしょうがないでしょ?」

「親父はさっさと封印の中に入るがいい」

「親父、安心しろ。仮に兄弟が増えていても、俺らが名前付けるから」

「ちょ、えぇええ!?」

「お父さん、ばいばーい」


三つ子に引きずられて屑を放り投げた封印門があった場所へと進んでいく驚愕中の変態神に、腕の中で愛良が晴れ晴れとした様子で手を振った。

実の父親が封印されるというのに本気で嬉しそうだな、おい。


「いやだぁああ!!愛良ちゃぁああん!?」

「はいはい、約1万年後に会えると思うから。あなた、たっぷり反省しておいてね」

『じゃ!』


紫藤家全員で片手を上げての挨拶に、新しい邪神となった親馬鹿神はヤンヒロの肉体と共に封印されたのだった。


「あー終わった終わった。母さん、今日のプレイは何だったんだよ?」

「うふふ、今日はちょっと怒りがピークだったから、愛情なんてさらさらない奥さんからの放置プレイよ」

「放置プレイが1万年って長いけど、父さんにはちょうどいいんじゃない?」

「親父が時間を遡って帰ってくることが出来ないようにしておるしな。愛良、寂しくはないか?」

「カインもお母さんもお兄ちゃん達もチビちゃん達もいるし、お父さんは1万年会えなくても別に大丈夫!」

「お前ら実父に対して厳しすぎるだろ」


……何気に俺の名前を一番に出す愛良は可愛いがな!

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