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197.勇者は利用するだけしてポイ捨てします

視点はカイン→愛良です

「愛良。どうするんだよ、この壊れた門は……」


邪力は出てこないように結界で押さえているが、そろそろ俺も限界だぞ。

俺が邪力を消していっていいのか?

一応神族(仮)だからあんまり関わらない方がいいかと思っているんだが、そろそろ抑えきれないし消すぞ。

愛良との契約で扱えるようになった破壊属性で、消すことは可能なはずだし。

だがそれは当の愛良が俺の背中に隠れるようにして抱きついてきて止めた。


「カインはまだダメー。もしも封印解けた時のためを思って、龍雅連れてきたんだから。シン君。龍雅を元門の前に置いてきてくれる?」

「ええっ!?俺一人で!?せめてカインも一緒に運んでくれよ!」

「ダメ」


シンの言葉に、背中から抱きついている力を強くする愛良。

その目は微かに潤んでいる。


「カインが龍雅の傍に行ったら、私は誰の後ろに隠れたらいいの?」

「あっちの結界張りまくったおかげで安全圏な場所あんじゃん!背高い使い魔たちの後ろに隠れてろよ!?」


そう言ってケツを押さえたまま沈んでいるチビーズ達がいる安全圏を指さすシン。


「……あ」


盲点だったのか、愛良は口をぽかんと開けた。

俺を全力で頼ってくれて嬉しいんだが、ちょっと間抜け面だぞ。


「んー……」


チビーズ兼使い魔達がいる方と俺を交互に見やると、愛良は腕を組んで唸った。


「リーンとしぃちゃんは、お尻ペンペンからまだ復活してないしー……コス王とルシファーはなぁー……うーん……」


俺の後から離れないまま、ぶつぶつと呟く愛良。

何をそんなに難しい顔をして悩んでいるんだ?


「愛良?どうしたんだ?」

「……」


俺が声をかけると、今度はじぃっと俺を見詰めてくる。

なんなんだ、急に。

そう不振がっていると、愛良は急に顔を輝かせて笑顔を浮かべた。


「……うん、やっぱり隠れるならカインの後がいいの!」


にこーっと効果音すら聞こえる笑顔のまま、俺の背中に抱きついてくる愛良。

いや本当に可愛い事言ってくれるな、おい!

もうこの可愛い生き物抱きしめ返していいか!?

というか、もうすでに愛良の笑顔を見た瞬間に抱きしめているがな!


「えへへー。(大魔王様な)カインの方が、安心ー」


にこにこ笑って、頬を俺の胸に摺り寄せる愛良。

もうヤンヒロからでもなんでも全力で守ってやる。

だがそうやって俺の胸に頬を摺り寄せるのは俺の理性の問題もあるから、抱きしめている俺が言うのもなんだが一度離れようか。

次男から『理性の切れ目が縁の切れ目』って言われているから。

俺、これでも毎日必死なんだぞ?

寝起きのぼんやりした無防備な表情とか、風呂上がりで髪をまとめ上げている艶っぽい時とか特に!

さらには笑顔で俺に抱きついてくる愛良とか。

もうお前は俺の理性を試しているのかって問いかけたくなるぞ。


「(ヤンヒロ凌駕する大魔王様な)カインがいてくれてよかった。(ヤンヒロが存在する限り)傍にいてね?」


俺を信頼しきった目で見て言う愛良。

よし、死ぬ気で理性を保ってやる。

言葉の間に色々な意味が含まれている気もしたが、それすら帳消しにできるほど可愛いから目をつむる。

とりあえずは、アレだな。

胸やけしそうな目で俺たちから視線を外しているシンに向けて、片手を上げる。


「ということで、シン。愛良がこう言ってるから、お前一人で奴を捨ててきてくれ」

「結局そういうオチなんかよ!?この馬鹿夫婦!くっそぉお!!」


涙目になって屑勇者の足を掴んだまま邪神の元封印門があった場所に走るシン。


「お前ら何か、暴走したヤンヒロが原因で別れてしまえぇえ!リア充殲滅ぅううう!!」


冗談にならない言葉はやめてくれないか!?

……まだ付き合ってすらいないが。











◇◇◇◇


なぜか泣き叫びながら龍雅の足を捕まえたまま走るシンくん。

どったのー?

シンくん、情緒不安定だよね。

まぁそれはさておき。

龍雅を起こそうと思うから、カインの後ろから離れないようにしなきゃだね。


「全部……ぜっっんぶお前のせいだぁああ!!」

「へぶっ!?」


恨みがこもった台詞とともに、瓦礫の山と化した封印門の残骸に投げ捨てられた龍雅。

顔面からぶつかったから、痛そうにもがいている。

はっ……ざまあ!


「愛良、俺もう邪力を抑えるの限界なんだが、結界解いていいか?」


カインが結界を解くということは、一番近くにいる龍雅が危ないってこと。

あの元王女みたいに、邪力に取り込まれる可能性もある。

だけども、仮にも勇者なんだから問題ないです!


「問題なし!殺っちゃって!」

「よし」


私が頷くと、あっさり結界を解いたカインさん。

シンくんは龍雅を投げ捨てるなり、私たちの傍に戻ってきているから何の心残りもなくできたみたいです。


「えっ、えっ、ええっ!?」


目が覚めたばかりの龍雅は、目の前の残骸と黒い邪力に大慌て。

何が何だか理解できないという様子でパニック中だ。

邪力を消すことすらできていない。

しょうがないなー。


「きゃー。龍雅、邪力が溢れて大変なの。みんなのために、頑張ってー」


カインの後ろから応援です。

棒読みだけど。

滅茶苦茶棒読み過ぎて、カインが『前の演技力はどこに行った……』って顔を引きつらせているけど。

それでもあの子には効果があればいいんです!


「愛良!?……なんでそんなところにいるのさ」


こちらの方を見て、一瞬目を据わらせたのは私の気のせいでしょうか。

その目つきに、思わずビクってなったからね?

カインの背中に抱きつく力を強くしちゃったからね?

お願いだから、今この状況でヤンヒロ発動させないでね?


「龍雅、お願いー」

「……分かった!その状況は後でじっくり聞かせてもらうけど、今は愛良のためだけに頑張るからね!」


誰が私だけのために頑張れと言った。

みんなのためにって言ったでしょうが。

君はとっとと邪力を破壊属性で破壊していきなさいな。

たまには勇者らしいことをしてください、マジで。


「さっさとなくなってよ!僕は愛良を取り戻さないといけないのに!」


魔力最大限で邪力を破壊していく龍雅。

……止めてください。

私を取り戻すって、誰からですか。

まず君のモノでもないんで、その妄想はそろそろ打ち切ってもらえないですかね。


「後から後から湧いて出て、しっつこいなぁ!」


苛立ち交じりに吐き叫ぶ龍雅くんですが。

それ、人のこと言えないからね?

むしろ、私が全力で『龍雅しつこい!!』って叫びたいですから。

叫んだところで、脳内妄想大劇場の効果でいいように解釈されるであろうから言わないけどさ。


「なんか……アレ見てると、本当に愛良が不憫になってくるよなぁ」


シンくん、そんなにしみじみとした表情で言わないでください。

わりと本気で泣けてくるから。


「……なぁ。俺も手伝うふりして奴の肉体ごと破壊してもいいか?」


カインさんや。

そんな真剣な目で訴えてきてもダメですよー。

アレでも一応勇者なんですからね。


「ちっ……とろいな」


素晴らしいまでの剣呑な目つきですね、カインさん。

目つきだけで実は人が殺せるんじゃないですか?

でも最後の言葉には同意。

邪力を抑えるのは大変だけど、消し去るぐらいならもうとっくに終わってもいいと思う。

私とカインなら、たぶん1分かからないだろうし。

うーん……そこが神族と人間(疑)の違いかなぁ。

龍雅の魔力がすっからかんになる方が早いか、邪力が消え去る方が早いか……。

ま、どちらにせよ、終わった瞬間に龍雅は地球に強制送還します。

利用するだけして終わったらポイってのは申し訳ないんだけど、私もわが身が可愛いんだ。

君とはできるだけ早く離れたい。


「よし!愛良、終わったよ!褒めて!」


時間をかけて邪力を消し去った龍雅が、腕を広げて走ってくる。

いやいや、マジで来ないで。

この日のために頑張って覚えた送還術をさっさと発動させちゃいますから。


「龍雅、お疲れ様。ありがとう。お元気で。さようなら」

「え?愛良?……さよならってどういう意……」


目の前まで来ていた龍雅が、私の送還術で消え去った。

ちゃんと私たちがこの世界に来た直後の時間軸まで戻したし、服も自動的に戻るように設定したから問題なし。

悪は消え去ったのだ!!(勇者だけど)


「よし!これで私の自由は完全なものになりました!恐怖の対象がいなくなるって素晴らしい!」


思わず龍雅がいなくなった所を見て、万歳。

いつも突然現れるストーカー勇者の存在にびくびくしなくていいって、なんて素晴らしい事なんだろう。

今日はお祝いに、ごはん奮発しなきゃ!


「ふっふっふーん♪今日はーみんなの大好きな物いーっぱい作ってパーティーだ♪」


嬉しすぎて、思わず言葉が歌になっちゃいます。

ストーカー幼馴染を二度と見ることがないと思うと、嬉しすぎて笑いが止まらないです。


「……カイン。愛良が浮かれ過ぎて、歌いだしたぞ。ちょいと邪神の封印そのままだって現実思い出させてこいよ」

「……別にこのままでいいんじゃないか?」

「それは愛良がお前に抱きついているからだろっ!?時と場所と場合を考えろ!TPOって大事!」


シン君、相変わらず細かいところ気にするなー。

どうせ邪神さんだって、あの瓦礫の下で目を回したままなんだし気にしなくていいじゃん。

中からあふれ出ていた邪力は、あらかた龍雅が消したもん。

何日かしたらまた邪力が溜まり始めるだろうけど、この数時間は心配ないに決まってます。

だからこそ、今はヤンヒロがいなくなったことを全力で浮かれたいんです!!

そうやって浮かれている私の目の前に転移してくる人影が3人分。


「「「待たせた」」」


もちろん、お兄ちゃんズですとも。

……あれ?試合中で来れないんじゃなかったっけ?


「ああ、だってな?チビーズたちが大暴走と聞いたら、早めに行った方がいいと思うだろ?」

「民たちには悪いが個人戦を全員でバトルロワイヤルにして、我が一掃したのだ」

「時間短縮できてよかったよね。それで、うちのクロノスも迷惑をかけたって?悪かったね」


片手を上げながら説明するお兄ちゃんズ。

とりあえずは大兄ちゃん。

全身に浴びている赤い液体は拭いてください。

ちびちゃんたちの教育に悪いから。


「それで、封印は解いちまったんだろ?つーか、封印の門粉々って……愛良だな」


ちぃ兄ちゃん……確かに門を壊したのは私ですけど、封印を解いたのはシン君です。

妹だけのせいにしないでください。


「邪神のおじさんは……あの瓦礫の山に埋もれているんだね。まぁ気が付くまで放置でいっか」

「愛良よ、屑龍雅はどうしたのだ?邪力を消させていただろう?」


お兄ちゃんズの疑問はもっともです。

ふっふっふー……。


「全魔力を使って邪力を消させた龍雅は、地球に送り返しました!これで私もう安全!」

「「「……」」」


褒めてもらいたくて嬉々として報告したのに、お兄ちゃんズは何故か揃って硬直。

……あれ?


「「「ち……地球が災厄で破滅するぅううう!!!」」」


そして硬直から解けるなり、顔色を変えてどこかに消えちゃいました。

……あれれ?

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