196.そもそもレベル差がありすぎました
視点は愛良→カインです
「ねーねー。邪神さんはどうしたらいいと思う?」
最初は急に開いたからびっくりしたけど、すぐに中から溢れそうになった邪力は門を蹴りつけるのと同時に広がらないように抑えてるんです。
だけども、完全に抑えきるには私だけじゃ力不足。
私まだまだ半人前だし、こんなにいっぱいの邪力を押さえつけるのなんて、お父さんかお兄ちゃんズぐらいにしかできないと思うの。
邪力を消し去ることはできるけど、勝手にしていいのか分からないから手出しできないし。
私ができるのは、せいぜい封印を強化することぐらいだもん。
邪神さんを封印するやり方なんて知らないし、仮に知っていたとしても私と力の差が歴然過ぎて、絶対に封印しきれないの確実。
むしろそこで仲良くダベっている男二人。
手伝ってくれてもいいんじゃないんでしょうか?
せめて門を抑えるの手伝ってくれるとかさ。
全く……気が利かない。
もういっそ、足離して邪神さん出してあげようかな。
さっきから、必死で『シンー!シーンー!出ぁあしぃいてぇええ!!もうボッチは嫌なんだってばぁああっ!!』って叫んでいる声が聞こえるし。
……邪神さんって、実は無害なんじゃないかなって思ってきたよ?
「いや、邪神なんだから無害ではないだろ」
「どうだろ……?なんか、封印から出たら世界神に嫌がらせするって言ってたけど」
嫌がらせねぇ……。
神様が神様にする嫌がらせって何。
全く想像が出来ないんですけど。
「ふふふ……」
あら?
皆で悩んでいたら、門の傍で気絶していた元王女様が目を覚ましたみたいですね。
目が覚めるなり笑い出すとか……。
「ついに発狂しちゃった?」
「なんですって!?あなた、わたくしに向かって何て暴言を吐きますの!?」
いやだって、急に笑い始めたら誰だって気が触れちゃったかなって思いますよー。
むしろ不審者でしょ。
「も……もう許しませんわ!この手に入れた力で、あなたなんて消してやります!」
そう叫びながら王女が手にまとわせたのは、魔力と邪力。
はへ?
何であの子が邪力扱ってんの?
「あ……」
はいカインさん。
何ですか、その『やってしまった』って顔は。
「……俺が王女を門のすぐ側に置いていたから、一瞬でも出てきた邪力に触れてしまったようだな」
……君のせいですかい。
このうっかりさんめっ!
「おーっほほほ!!力を手に入れたわたくしを前に、恐れでもしたのかしら!?」
勝ち誇ったように高笑いをする元王女。
いやいや、私が絶句していたのはカインさんのうっかり具合にですから。
間違っても君じゃないんで。
「ふふふ……そんなにだんまりだなんて、よっぽどわたくしを恐れているのね。安心なさい。あなたはわたくしがこの手で消してさしあげますわ!」
「はいはい。力が手に入ったなら、ちゃんと対価をあの子に渡してあげなよ?」
ユンジュ君は私がお尻を2度ぶっ叩いたおかげで、あちらの超強力な結界の中で沈んでいらっしゃいますがね。
そんなユンジュ君をちらりと見たあと、鼻を鳴らした元王女。
「ふん……なぜわたくしが穢らわしい魔族との約束など守らねばなりませんの?力が手に入りさえすれば、こっちのものですもの」
腕を組み、偉そうに胸を反らしながらの答え。
……君、どこまでも腐ってんだねぇ。
ちょっと君のその最低根性に、私驚いたよ。
ユンジュ君には、後でお手伝いをしてもらって、それでおつかいの物を渡してあげることにしよう。
この我儘姫に付き合ってたのに、何にももらえないなんて可哀相過ぎる。
「あの魔族もお兄様も、そしてもちろん目障りなあなたも全てわたくしが一掃して差し上げますわ!」
「あー……できるならどうぞ」
お得意の高笑いをする元王女に、適当に返事をして足に力を入れ直す。
もうこのちょっと力を手に入れてテンション上がっちゃってる子の相手するの疲れるわ。
思わず封印の門を押さえつけている足の力が抜けそうになったし。
それを察した邪神さんが力任せに出てこようとしたところ、また思いっきり門を蹴りつけて閉め直したけど。
もう一回ガツンって音がしたような気もするけど、気にしないでいましょう。
「喰らいなさい!」
「はえ?」
甲高い声が聞こえたと同時に、肩に軽い衝撃。
王女、まだ何か言ってたんだね。
ちらっと後ろを振り返ると、黒いものをまとわりつかせた魔力の塊を私にめがけて投げ続けている元王女の姿。
肩に当たってはいるんだけど、軽く背中叩かれたかなーってくらいにしか感じません。
……力手に入れたにしても、よっわ。
「え?な……なんで当たったのにピンピンしていますの!?」
「いやだって。根本的に弱いんだって、君」
蟻さんがカマキリさんくらいにレベルアップしたぐらいじゃ、簡単に踏みつぶせちゃいます。
身の程をわきまえることが、長生きする秘訣だと思うよ?
◇◇◇◇
愛良に攻撃した元王女だが、その攻撃が全く効いている様子がないと分かると、今度は顔色を青ざめさせた。
「なっ……なっ……あなた、化け物なんですのっ!?」
おいこら。
愛良を化け物呼ばわりするとは、どういうことだ。
そういうお前は、中身ただの屑だろ。
屑の分際で神の娘を罵倒するな。
呪われるぞ、世界神に。
「化け物の分際でリョウガさんを惑わすなんて……化け物らしいですわね!汚らわしい!」
忌々しげに吐き出す元王女。
確かに愛良は人間ではないが、それを化け物としつこく何度も言いやがって……。
あの屑王女の攻撃くらい、何の問題もないから愛良に攻撃をしても放置していたが……やっぱりこいつ、消すか。
「お前、さっきからいい加減に……」
「誰が……」
俺が屑王女を絞めようと動こうとした瞬間、低い声がその場に響いた。
「「……」」
思わず足を止めて、傍で硬直していたシンと顔を見合わせる。
そして、ゆっくりと視線を足で門を押さえたままの愛良に向けた。
後姿だけしか分からないが、肩が微かに揺れている。
足に力が入り過ぎて、門にヒビが入っているように見える気が……。
なぁ。
邪神を封印するための門って、頑丈どころのレベルじゃないと思うんだが。
それを足で押さえているだけなのにヒビいれるとか、おかしくないか?
「誰が……だーれーが、化け物ですかっ!?こんなにか弱い女の子を捕まえて言うことが化け物っ!?それに誰が誰を惑わしたって言うのさっ!?惑わしたって何っ!?ネチネチ龍雅のことは、あの子が勝手に行動しているだけでしょ!?むしろ私、アレの被害者でしょ!?いっくら幼馴染だからといって、いつまでも許容しているわけないじゃない!というよりも、最近は私アレから全力で逃げ回ってるのは、見ているだけでも分かるでしょっ!?その私を捕まえて汚らわしいとか、酷過ぎじゃないっ!?ふっざけないでよっ!!?」
「うぎゃぁああああっ!?」
最後の台詞とともに、愛良は涙目で門を再度蹴りつけ、その衝撃で轟音を立てて崩れ落ちた門。
瓦礫と化した向こうで、聞こえる男の悲鳴。
その姿を見る前に、瓦礫に埋もれた邪神と思われる男。
……なんか、本当に愛良がすみません。
破壊した門など見向きもせずに、視線を王女にゆっくりと移す愛良。
「ひっ……!?ば、化け物の分際で、わたくしに近づかないでっ!」
愛良を怒らせる原因となった屑王女は、愛良の行動に体を盛大に震わせた。
それでも無視して崩れた門をそのままに、屑王女の元へ歩み寄る愛良。
カツカツ……と、やけに静かになった神殿内に響く顔を俯かせたままの愛良の足音。
恐怖も倍増だ。
「い、いや……こ、来ないで……」
腰を抜かした様子でへたり込んだまま壁まで後ずさる王女。
そんな様子を気にすることなく目の前に立った愛良は、そのまま右腕を振り上げると躊躇いもなく振り下ろした。
屑王女の顔面真横に。
「ひっ!?」
相手が一応女だから殴ることはしないとは思っていたが、本当に顔面すれすれだ。
しかも、馬鹿力の効果で壁が崩壊しているし。
その威力と、怒りが頂点に達して無表情になった愛良の顔を見て、再度へたり込んで意識を飛ばした元王女。
……ああやって無表情にキレていると、長男に似ているなぁ。
「うわー……こえー……」
シン、その意見に全力で同意するぞ。
愛良に聞こえたら怖いから、口には出さないが。
それより愛良、お前が封印の門を壊してどうするんだ。
いくら怒ったからにせよ、封印の門を壊したらダメだろ。
三つ子になんて言い訳するんだ?




