194.悪いことをしたときは、容赦しません
視点は愛良です
◇◇◇◇
ふっふっふ……。
ようやくチビちゃん達を見つけましたよー?
穴の開いた壁の前で、揃いも揃って硬直しているけどね。
「はあい、チビちゃん達ー。どーしてママから逃げたのか、詳しく教えてもらおうかなー?」
「わうっ!?」
はい、しぃちゃん?
そんなにビクビク尻尾を丸めてどうしたのかなー?
伏せの状態でなおかつ前足で頭を抱える可愛い仕草をしても、今回はちょっと怒るよー。
「べ、別に逃げてないのじゃ!冒険をしておっただけなのじゃ!」
「そ、そうだよ!お弁当のおねーさん、僕達は逃げたわけじゃなくて鬼ごっこしていたんだよ!?」
汗だくになって両手を振り回しながら、一生懸命に言い訳をするリディアちゃんとリディアちゃんのお兄ちゃん。
ユンジュくんだったかな?
そんなに頑張って言い訳しても、お仕置きはお仕置きですからね。
「ふえ……?マーマ、おこってる……?」
あら、リーンちゃん。
そんなにお目めに涙を溜めたって、許しませんよー?
「はい、みんな?こっちに来なさい」
「「「はいぃ……」」」
「わぅ……」
項垂れて、肩を落としたままトボトボと歩いてくるチビちゃん達。
「うわ、お嬢の方が先に追いついてるし!」
チビーズを正規のルートで追いかけて、私よりもちょっと遅れてリーン達の後の壁から顔を覗き込んだコス王率いる使い魔ズ。
その中の一人の顔を見て、大事なことを思い出した。
そうだそうだ。
もう一人叱らないといけない人がいたんだよね。
「クロちゃん?君もおいで?」
「ひっ!?」
びくっと震えて瓦礫の山にしがみ付くクロちゃん。
あらあら、
そんなに震えちゃって失礼だねー。
こっちからお迎えに行ってあげようか?
……そう思ったのとほぼ同時に、両側から腕を掴まれたクロちゃん。
もちろん掴んでいるのは、ルシファーとコス王。
「おらクソガキ。年貢の納め時だ。諦めて嬢ちゃんの説教に行くぞ。ついていってやるから」
「時神、さっさと行って謝ってこい。俺様たちも一緒に行って謝ってやるから。な?」
「うー……」
あらお優しいこと。
ルシファーとコス王も、なんだかんだ言ってクロちゃんに甘いよねー。
ま、容赦はしないんだけど。
「愛良、ほどほどに……な?」
カインさんや、そんなにビクビクしながらの忠告なんて、聞きませんからね?
「さて、と……」
正座をして並んでいるチビちゃん達と、自発的に着いてきた使い魔ズの前で腕組みして仁王立ち、とな。
カインさんは、私の斜め後ろでオロオロしながら立ってます。
こういうことに関しては子どもに甘々なパパは放置です。
正座中のみんなの前で、とりあえずは視線を合わせるためにしゃがみこんで。
「私たちから離れて、すんごい暴れ回ったねぇ?楽しかったかい?」
『……』
あら、みんなして沈黙しちゃって、どうしたんでしょうね?
楽しかったんでしょ?
と―――っても楽しそうな声が神殿中に響いていましたよ?
「ん?どーなのかな?」
『……』
にこにこ笑って問いかけると、なお一層縮こまった正座組。
あらやだ、どうしたのかしらねー?
あーれだけ楽しんでいたのに、どうしてだんまりなのかしら?
「あらあら。だんまりばっかじゃ、分からないでしょ?私たちから離れていっぱい暴れて、楽しかったのかって聞いてるんだよ?どうだった?」
『……ふぇえええええん!!』
おや、ついにチビーズ達とクロちゃんが泣き出したね。
私、別に怒った顔をしているつもりはないんですがねぇ?
お顔はとっても満面の笑みを浮かべているつもりですよー?
「泣いているだけだと分からないでしょう?どうだったの?」
「愛良……あの、すでにリーン達が泣いているんだが……」
「カインは黙っていて」
「はい……」
チビちゃん達をかばおうとしたカインさんは、とりあえず黙らせて。
しゃがみ込んでいたのを止めて、腕組みしたまま立つとしますかね。
「それで、チビちゃん達。泣いているってことは、自分たちが悪い事したって自覚はあるってことでいいのかしらねぇ?」
「マーマぁああ!ごえんなしゃいぃいいい!!」
「勝手に離れてごめんなさいなのじゃぁあああ!!」
「リディ達と一緒になって、いっぱい暴れてごめんなさいぃいいい!!」
泣き叫びながら謝るリーンとリディちゃん、ユンジュ君。
「チビーズ止めるどころか、一緒に参加しちゃってごめんなさいー……」
「くぅん……」
静かにビクビクしながら泣いて謝るクロちゃんとしぃちゃん。
「ほら、お嬢?チビーズもこうやって謝ってるんだしさ、もう許してやって?」
「チビーズたちも反省しているんだしさ?その後ろの般若様を引っ込めてやってくれよ。な?」
そのチビちゃんたちの前に出て頭を下げるコス王とルシファー。
後ろに般若なんて、背負っているつもりはありませんけどねぇ?
「ふぅん……いいよ?その代わり、チビーズ。お尻出しなさい。悪い子はお尻ペンペンだからね?」
『……はいぃい』
その後、お尻に平手を2発ずつお見舞いしました。
神殿内に号泣が響き渡ったのは、言うまでもないですな。
「ふぇええん!マーマぁああ!!ペンペン、もぉおやぁああ!!ごえんなしゃいぃいい!」
「きゅぅん……」
私の足にしがみついて号泣しながら必死に謝るリーンと、お尻が痛いのか伏せのまま私の足元に顔を寄せるしぃちゃん。
「痛いのじゃぁああ!お尻痛いのじゃぁあああ!」
「もうリディと一緒にお家帰るぅううう!うぇえええん!!」
お互い抱きついたまま泣き叫ぶリディアちゃんとユンジュ君。
「お、俺の時だけ魔力込めてたー……い、痛いよぉ……」
お尻押さえながら涙目で倒れているクロちゃん。
「「うわー……容赦ねぇ……」」
泣いているチビちゃんよりも、いい歳したクロちゃんが思いっきりお尻を叩かれて突っ伏している姿にドン引きしている使い魔ズ。
うーん……それぞれが大泣きですなぁ。
一応私って怪力だからクロちゃん以外は手加減したんだけども、それでも相当痛かったみたいだねぇ。
魔族組までお尻押さえて号泣しているし。
ちょっとやり過ぎちゃった?
「マーマぁああ!リーン、嫌いになっちゃやぁあああ!」
「はいはい。反省したならもう怒ってないからねー。それに、リーンのことママが嫌うはずないでしょー?」
「ぐしゅ……ほんちょ?」
小さな手で目をこすりながら、赤くなった鼻をすすりながら私を見上げるリーン。
泣き過ぎたおかげで、せっかく発音が上手になってきたのに舌足らずにリターンしちゃってるし。
「ほんとほんと。……また大暴れしたらお尻ペンペンの刑だけどね」
『!!?』
ぽそりと小さい声で付け足した言葉を、大泣きしていたはずのチビーズはしっかりと聞き取ったみたいで硬直しちゃいました。
あら、さっきまで泣き声が響いてすごかったのに、静かになっちゃいましたね。
「もぉしにゃいのぉ……」
「うん、そうしてねー」
「あい……」
しゃくりながら私の肩に頭を乗せてしがみついたリーンの頭を撫でて、ようやくそれまで存在を放置していた人物に視線を移した。
もちろん、私が壁をぶっ飛ばしたときに巻き添えを喰らった元王女様。
カインが瓦礫から掘り起こして邪神さんの封印門の柱に寄りかからせて放置していたのは知っていたんだけど、それよりもチビちゃん達の方で忙しかったから放っておいたんだよね。
未だに目を覚ましていないし。
……あの子、いったい何しに来たわけ?




