2.人生、悔いは残しちゃだめです
思い出した。
せっかく逃げようと思ったのに、私は龍雅に巻き込まれたんだ。
なのに、その龍雅はここにはいない。
嫌になるぐらい抱き着いていたのに、何で私一人森の中?
いや、それよりも。
私は拳を地面に打ち付けた。
「私のプリン――!!せっかく楽しみにしていたのに―――!!」
もう今狼っぽいのに食べられそうなのとかどうでもいいし!
せっかく目の前までプリンがあったのに!
まだ食べたことがないプリンだったのに!
せめて最後に、お兄ちゃんたちにプリン投げてってお願いしたらよかった!!
「がう……?」
私の嘆きっぷりの驚いたのか、ずっと威嚇していた狼っぽいのが若干引いている気がする。
気のせいだと思いたいですけど。
だって、人外な生物に可哀そうな子って思われるのって悲しいですから。
だけど、やっぱり楽しみにしていたプリンは諦めきれない……。
一緒にプリンも巻き込まれていないのかな。
あ、でもそれならお兄ちゃんたちも巻き込まれているはずか。
お兄ちゃんたちがいたら心強いのに。
ああ、だけどやっぱり私のプリン……。
どっからでもいいからプリンよ、現れてください……。
ボトッ
「っ!」
……痛い。
今、頭になんか降ってきた。
なにこれ、地味に痛い。
何が落ちてきたの?
頭をさすりながら地面を見渡すと、狼っぽいものの足元に小さな器が見えた。
「これは……神○プリン!!?」
「がう!?」
なんと、頭に落ちてきたのは○戸プリンだったんです。
食べれないと思っていただけに、すっごく嬉しい。
狼っぽいものの足元だけど、気にせずに拾って確認。
うん、どっからどう見ても○戸プリンです。
なんで?
「はっ!?きっとお兄ちゃんたちが龍雅に投げつけたんだ!」
投げつけるなら箱ごとやるだろうけど、それ以外に可能性がないし。
そうに違いないと自己完結。
よし、食べよう!
「あ、スプーンがない……」
え、大好物のプリンが目の前にあるのに、食べれないの……?
私、たぶんこの狼っぽいのに食べられちゃうのに?
プリンと狼っぽいのと、視線を交互に動かす。
さっきから怪しい動きばっかりしていたためか、狼っぽいのがすぐに私を食べる様子はないみたい。
これなら、プリンを最後に食べる時間くらいはあるよね。
「……うん、人生悔いを残しちゃダメだし、女の子捨てよう。いただきまーす」
「がう?」
周りに人はいないし、気にせずにべりっと蓋を開けて器に噛り付きます。
はぅ……おいしぃ……。
「が~う」
……あれ?
いつの間にか、狼っぽいのが地面に置いていた蓋舐めちゃってる。
しかもかなり美味しかったみたいで、すごい喜んでるし。
尻尾ぶんぶんです。
触ったら気持ちよさそう……。
プリン食べた後で触れたら触ろ。
悔いは残したくないし。
あ、というかプリンって動物食べても大丈夫なのかな?
「がう~」
……うん、大丈夫そう。
気にしなくてもいいや。
私は私でプリンを堪能するから。
「ん~おいしい~」
だけど、ここで問題が発生。
スプーンを使わず、器ごと噛り付くようにして食べているために生じた問題が。
「……底のが食べれない」
「くぅーん…」
なにこのワンコ。
ものすっごく、物欲しげな目で見て来るんですけど。
もう狼っぽいものから格下げして、ワンコって呼んでやる。
「きゅーん……」
あぅ……。
すんごく可愛く鳴かれた。
私、もともと犬って大好きだから、ずきゅーんって来た。
だけどプリンも大好き。
でも、このままじゃ食べれないしなぁ…。
……仕方ないけど。
すっごくしょーがないけど。
ほんとは独り占めして食べたいけど!!!
「……食べる?」
私が渋々器を差し出すと、勢いよく尻尾を振ったワンコ。
といっても、この子は大きいから一舐めで食べ終わっちゃったけどね。
食べたりないみたいで、ずっと器舐めっぱなしです。
まあ可愛いから別にいいんだけどね。
ためしに頭を撫でたら、最初はビクッとしたのに大人しく撫でられてるし。
うん、もふもふワンコは可愛い。
「これからどうしよっかなー」
ひとまず食べられる心配もなさそうだし、そろそろ真剣に今後のことを考えないと。
間違っても、プリンで満足したからその考えに至ったわけじゃないです。
さっきまでは現実逃避をしていただけです。
ワンコに食べられる心配がなくなったから、現実を見ようという気になっただけなんです。
「ここから近い人がたくさんいるところって、どこか分かるわけないよねー」
ワンコを撫でながら、どうやったらこの森を抜けれるのか考えないと。
この森がどれだけ深いのかは知らないけど、今って何気に遭難中ですからね。
今が何時ぐらいなのかは分からないけど、本格的に暗くなる前に森を抜けるなりしないと、確実にまずいし。
とりあえず、そこらへんに落ちてたカバンを回収しますか。
けど今後、この中身って必要になるかなぁ……。
カバンの中身
・筆記用具
・教科書(科目が多かった日だから大量)
・ノート(教科書と同じ数だけ)
・お弁当箱(もちろん完食)
・水筒(半分くらい残っている)
・財布(3千円くらい。けど、たぶん使えない)
・携帯電話(もちろん圏外)
・ポーチ(櫛、鏡、髪ゴム、リップ)
・お菓子
う~ん…使えそうなのって、お菓子と水筒くらい?
何はともあれ、行動しないと何にもならないね。
「とりあえずは歩くけばいいか」
しょうがないから重いカバンを持って歩き出すと、後ろから重い足音が離れることなく聞こえている。
さっきのワンコが、当然のような顔してついてきてました。
「……プリンはもうないよ?」
「がう」
一応声をかけるが、分かっていると言いたげに頷くワンコ。
「じゃあもうお家に帰りなよ。私みたいに帰るところがないわけじゃないんでしょ?」
そう言って、説得したのだけど。
「くぅん……」
いやいやって感じで首を振られました。
つぶらな目で、じぃっと見つめられています。
なにこの子。
思わずもふもふしたくなっちゃうでしょ。
というか、もふもふしてやる。
そう決めた瞬間、ワンコが急に毛を逆立てて唸った。
「え、そんなにもふもふ嫌だったの!?」
そこまで嫌がられると、だいぶショックなんですけど。
しかも可愛いと思い始めてたから、ショックは2倍ですよ。
地味にショックを受けていると、後ろから鋭い声が響いた。
「お前、そいつから今すぐ離れろ!!」
「はい?」
そいつってどいつ?
そんな感じで振り返った私の目の先にいたのは、真っ黒なマントを全身すっぽり被った人っぽいものでした。
いや、たぶん人間だとは思うよ?
だけどここは異世界っぽいし、象さんみたいに大きなワンコいるし、見た目で判断しない方がいいかなぁと思って。
フードも下ろしてて顔も見えないしさ。
声からすると、若い男の人だとは思うんだけど。
「というか、誰?」
それだけすっぽりマントを被っていると、単なる怪しい人にしか見えないです。
間違っても、自分から好き好んで関わり合いたくはないと思う。
「は?……いや、それよりも!!とりあえずそいつからさっさと離れろ!!死にたいのか!!?」
「え、なんか死にそうなものでもあるの?」
怖いのやだなーと思いながら、どさくさにまぎれてワンコの首に抱きつく。
うん、やっぱりもふもふ最高。
疲れた心が癒されます。
マントを被った怪しい人は頭を抱えていましたけどね。
……この人、結局誰ですか?
誤字脱字があれば、お知らせいただけるとありがたいです。