190.ヤンヒロは子どもにすら嫌われています
視点は時神のクロちゃんです
◇◇◇◇
……あれー?
なんか、嫌な予感がするなー。
んんー……気のせいかなー?
とりあえず、今こっち忙しいからあとにしよー。
だってねだってね?
神殿最奥の近くの広間に、ゴーレムがあったんだもん。
しかもね、お嬢ちゃんそっくりのゴーレム!
ゴーレムだけども完成度のクオリティを高めまくったからなのか、髪の毛さらさらの肌の質感も再現完璧!
たぶん侵入者避けのゴーレムなんだろうけど、動き出す前にゴーレムの時間を止めたから問題なし!
「きゃー!マーマの、おにんぎょーさーん!おっもちかえりー!」
「わうー!」
お嬢ちゃんのゴーレムを見るなり、大喜びでゴーレムに飛びつくリーンとしぃちゃん。
動きを止めているから、一生懸命よじ登ってるし。
超可愛い。
「んにゅ?こっちにもあるのじゃー!この間来たときは別の道じゃったから、気づかなかったのじゃ!」
んー?
真魔が指さした方向にも、ゴーレム発見。
とりあえず時間を止めて、近くで観察……したら、思わず抱きついちゃった。
だってねだってね!?
次男のゴーレムなんだもん!
「……次男のゴーレムー!持って帰るー!お母さんのお土産にするー!!」
次男そっくりの長男三男のゴーレムもあったけど、俺が一番に目に入ったのはやっぱり次男!
うわーい!
次男そっくりのゴーレム嬉しいー!
なんでこんなところにあるのー?
なんでもいいや!
最近、『お父さんが帰ってくる日が減りましたねぇ……』ってお母さん寂しそうにしていたから、お土産にしたら喜んでくれるよねー!
「……クロのお兄ちゃん、性格変わったのじゃ。しかもその三体、顔も髪型も同じで見分けがつかんのじゃ……」
ちょっと引いた様子の真魔がぼやいている。
なんで分からないの?
長男は眉間に皺がある無表情なやつだし、三男は悪戯っ子みたいに片頬だけニヤッってあげてるやつでしょ?
そんでもって、次男は優しい笑顔を浮かべているやつだもーん!
まぁ、次男が優しいのは俺たちとお嬢ちゃん限定だけどね!
このゴーレムを作ったのは、きっと三つ子の特徴を分かってる人だね!
でもお嬢ちゃんのゴーレムは絶壁のままだから、作ったのって結構前?
あれ、そういえばこのゴーレムって誰が作ったの?
んーと……世界神様じゃないよねー?
世界神様なら、侵入者対策に溺愛している子ども達ののゴーレム作るはずないしー。
だって万が一でも壊される可能性があるかもしれないことは、するはずないもん。
まぁ、三つ子とお嬢ちゃんたちのゴーレムなら、確実に壊されることはないだろうけどね。
このゴーレムたち、本人たちの力も何分の一かは分からないけど一応持ってるし、性格もたぶんそのまま再現されてると思う。
うーん……誰だろうなぁ?
まぁ、侵入者避けにはぴったりなんだけどね!
三つ子やお嬢ちゃんたちのことをよく知っていて、性格その他もろもろを遠慮なく利用しようと考える人……。
あ、そういや一人いたし。
「……む?クロのお兄ちゃん、誰か来たのじゃ?」
ゴーレムからちょっと離れた所で大人しく待っていた真魔が、尖っている耳をピクピクと動かしながら俺達が開けた壁とは別の、正規の道に顔を向けた。
……俺、次男のゴーレムが嬉しくって注意を怠ってたや。
「リーン、しぃちゃん。俺の傍においでー」
「あーい!」
「わーう!」
やっぱり動かないお嬢ちゃんのゴーレムは物足りなかったみたい。
リーンとしぃちゃん、呼んだらあっさり帰ってきたよ。
やっぱりママはニコニコ笑って元気な方がいいよねぇ?
……俺も、やっぱり本物の次男の方がいいから置いておこー。
「……ぐるぅ」
あ、ゴーレムを元の位置に戻している間にお客さんが来たー。
もとい、本当の意味での侵入者。
まぁ誰かは分かってるんだけどねー。
「……何でこんなところに子どもがいるんですの」
はい、やってきました。
超不機嫌な元王女ー。
うっわー、長男がメイドとか全部王城に引き下げさせたって言っていたけど、本当なんだねー。
髪の毛ぼさぼさで、唯一自分で着れるであろう制服は汚れてるー。
もしかして、一人で顔も洗えないのかなー?
お肌ボロボロだー。
お手入れの仕方、お嬢ちゃんに教えてもらった方がいいよー?
「あー!やっぱりリディだ!僕も一緒に遊びたいー!」
「にぃに殿なのじゃ!一緒遊ぶのじゃ!」
王女の隣にいたのは、真魔の兄みたいだね。
顔とかよく似てる。
そ、し、て!
「うわあ!愛良ぁ!……あ、なんだ人形かぁ。でも持って帰ろー」
いつでもどこからでもこんにちは。
今日も気持ち悪さ満点のストーカー勇者!
く・た・ば・れー!
「リョウガさん!そんな人形、捨て置いてください!」
ストーカー勇者の行動に、目くじらを立てて怒る王女。
だけども、ストーカー勇者はめげない。
「捨て置く?そんなの無理だよ!?愛良そっくりの人形を、こんな暗いところに置いておくなんて、僕にはできない!」
信じられない。
そう言いたげな目。
うん、当然のごとくな様子で言い切っちゃう所がやっぱりキモいー……。
「でしたら、後で回収したらよろしいではありませんか!今日は私のお手伝いをしてくださる約束です!」
「う……まぁ、そうなんだけど……」
あ、王女はともかくストーカー勇者がいるのって、王女に頼まれたからなんだー。
無駄な足掻きをせずにいればいいのに。
そうしたら三つ子も見逃してくれていたのに、自分の愚かさに気づけずに自らの首を絞めにいく姿って、憐れだよねー……。
「ほら、リョウガさん!行きますわよ!」
「で、でも!愛良の人形は後で回収するから諦めるにしても、あの子たちを放っておくわけにはいかない!」
俺たちの方を指さしながら反論するストーカー勇者。
あ、ちょっとは真面な思考が残ってたんだ。
「だって!あの子はリーン君だよ!?愛良が引き取った!ここで放っておいたら、愛良に嫌われちゃうよ!?」
そっちか。
ストーカー勇者の心配事はそっちなのか。
やっぱりこいつに真面な思考は残っていないや。
ついでに言っておくけど、すでに取り返しがつかないくらい嫌われてるから、そんな心配しなくていいのに。
「……リーン、あのおにーたんたち、きらいー」
「わううー」
「儂も気に食わんのじゃー」
「僕もあのおねーさんの我儘には、我慢の限界だったんだー」
……あれ?
何かチビーズの目が据わってない?
俺の気のせい?
まぁ、お嬢ちゃんのゴーレムにべたべた触るストーカー勇者は、確かにうざいんだけど。
「クロたん!」
「へ?」
「おにんぎょーさんたち、ゴー!」
俺が時間を止めているから動かない三つ子やお嬢ちゃんのゴーレムたちを指さすリーン。
あ、チビーズはストーカー勇者達を今すぐ処刑したいんだね!
オッケー!
タイムストップ解除ー!
三つ子とお嬢ちゃんたちの性格そのままのゴーレムたち、殺っちゃえー!