188.無邪気なチビーズは冒険と書いて破壊活動を行います
視点は愛良→コス王です
「なぁ……もしかしてこの下って、何かの遺跡とかあったりする?」
あら、ようやく気付いたのかね、シン君。
本当に気づくの遅すぎです。
『何か』って誤魔化しているけど、私たちは邪神の封印神殿があるって知ってるからね?
「あるな、邪神関係の遺跡が」
「あるねー、邪神の封印神殿が」
「お前ら、何でそんなに平然としてんの!?」
あっさり答えると、悲鳴に近い声をあげるシン君。
何で平然としている?
シン君の問いかけに対して、思わず顔を見合わせる私たち。
何で邪神さんの封印があっても、恐怖とか抱かないのか特に考えたことなかったね。
えーと……何でだろ?
「……私が神族で強いから?」
「……俺が愛良の契約主で、魔力能力その他もろもろ全部共有しているから?」
「と・つ・ぜ・ん・の!カミングアウトっ!?突然過ぎて着いていけない!」
いやいや、それにしては鋭いツッコミですよ。
「じゃあ落ち着いたら質問してくれる?」
「そして華麗なるスルー!?」
頭がついていってなくてもツッコミを忘れないその根性、素晴らしいです。
とりあえず、シン君は置いておくとして。
「なんか……特に心配することなさそうだね?」
「ああ……」
邪神さんの悲鳴という名のメッセージをもう一度見てからカインを見上げると、カインもカインで呆れの視線で頭を抱えているし。
あの子たち、本当に中で何してるのかね?
もう中で好き勝手にやってるんだろうなぁって、頭痛がしますけど。
いやぁ……本当に心配する必要なさそうだけど……でも、ねぇ?
『ちょいとぉおっ!?なんなの、その『我が道塞ぐ壁なんてない!』って言わんばかりの破壊行動はぁあっ!?最近のちびっ子って超こわい!!そんなに壁をバンバン壊したら、上の町が沈没するぞぉおお!?この神殿の壁は、柱も兼用している迷路なんだからなぁあ!……ってこらぁあ!!それは壊したらだめっ!!それ神王様お気に入りの侵入者避けゴーレム!!ぎゃああああ!!何で反応しないんだよ、ゴーレムっ!?ちょ、お持ち帰りはもっとだめぇええっ!!!』
また浮かび上がった文字を見ていると、本気で早く迎えに行かないとって思うの。
何してんの、あの子たちは!
「もう見つけ次第お仕置き決定。カイン、止めないでよ」
そりゃもう、リーンだけじゃなくてしぃちゃんもリディアちゃんもクロちゃんも、全員まとめてお尻ぶっ叩くから。
泣いても最低10回は叩きます。
可愛い可愛いちびっ子たち……覚悟していなさい。
◇◇◇◇
うーん……俺様、超不思議。
暴走したルシファーのとばっちりで、時神に邪神の神殿に閉じ込められたんだけどさ。
その閉じ込めたはずの時神が、突然神殿内に現れたんだよな。
しかも、リーンやお犬様だけじゃなくて、ルシファーの獲物である真魔も連れて。
「リディアたーん!」
「うざい。近寄るな。死ね」
……まぁ、暴走する前に時神に沈められたんだけどな。
珍しいとしか言えないくらい、時神の機嫌が悪かった。
お前の間延びした口調が出てないぞー。
リーンとお犬様と真魔は滑り台をもう一回滑りに行ったし、今のうちに聞いておくか。
「時神ー?どうしたんだよ?めっずらしく機嫌が悪いな?」
「……ちびっ子たちが、やらかしてくれたから今ここにいるんだよ?俺、お嬢ちゃん達に怒られるの決定じゃんかー!俺怒られるのやだー!!」
「ちょ、痛てぇよっ!?」
半泣きになって沈めたばかりのルシファーを踏みまくる時神。
完全なる八つ当たりだ。
八つ当たりなんだが、その気持ちは分かる。
だって、楽しそうなことを目の前にしたちびっ子たちを止められるのなんて、お嬢とカインくらいだし。
うっしゃ、後で俺様も一緒に謝っといてやるか。
俺様、この中で一番年上だし!
つーか、時神は次男が召喚した時に初めて生まれたばっかだったから、幼いのもしゃーないんだけどな。
「つーか……いつまで人のこと踏みやがってんだこのガキ!!」
あ、ついにルシファーがキレた。
そういや踏まれたままだったルシファーのこと完全に忘れてたなぁ。
まぁ、別に踏まれたままでいいじゃねぇか。
時神って、お前の義理の孫にあたるんだし、やんちゃも許してやれよ。
「このガキ……じぃちゃん踏みまくるたぁどういうことだ?ああ?」
額に青筋浮かべながら顔を引きつらせるルシファー。
そんなルシファーを目の前に、時神はぷいっと顔を横に背けた。
「うっさいしー。ルシファーはじぃちゃんじゃないしー!お母さんだって、『祖父面してきたら殴ってよし』って言ってた!」
「なんだとっ!?俺、そんな酷い事言っちゃう子に育てた覚えはないんだけどぉおっ!?」
元人間の娘で、現次男の妻である義理の娘の言葉に号泣するルシファー。
いや、まぁお前も親馬鹿なのは知ってたけどさ……。
久々に見ると、うっぜぇわ……。
あーあ……このジジ孫喧嘩、さっさと終わらねぇかなー……。
「……ん?」
そういや、リーン達がいつまでたっても滑ってこないぞ?
確か、『もう一回しゅべるー!』とか言って、大型犬サイズになったお犬様に真魔と乗って行っていたよな?
……え、何でいないんだよ?
「リーンー?お犬様ー?真魔の嬢ちゃーん?」
滑り台の上に向かって呼びかけても、反応なし。
念のため飛んで滑り台の上まで行っても、誰もいないこの状況。
そして下の方から聞こえる、何かの破壊音。
はい、嫌な予感がビンビン来ましたぁあああ!!
音が聞こえたほうに向かって滑り落ちれば、無残に破壊された壁の跡。
微かに邪力が付着しているから、やったのはきっと真魔。
大きな足跡だけしかないから、リーンはきっとお犬様に乗ったまま。
お犬様の足跡は、そのまま破壊された壁の方に向かっている。
……そして奥から再び聞こえる破壊音。
今度は何かがぶつかった音も聞こえたから、きっとお犬様が体当たりでもしたに違いない。
そして奥から聞こえてくる無邪気な声。
「きゃー!しーたん、しゅごいー!」
「がううー!」
「うにゅ!?儂だって、それくらい出来るのじゃ!」
「りーたんもしゅごーい!」
「とーぜんなのじゃ!」
「がうう!」
よっし、ちびっ子ども。
お前ら少し落ち着け。
人が追いつけないのをいいことに、お犬様に乗っかったまま呑気に話してんじゃありません!
「……いいなー、楽しそー」
そして時神!
音に反応して追いついてきたのはいいけど、何羨ましそうにしてんだお前は!
「うー……どうせ怒られるんだし、俺も一緒にするー!!」
「ちょっ!?」
時神の野郎、自分の時間を早めてあっという間に俺らを置いてちびっ子たちに追いつきやがったし!
あいつ、開き直りやがった!!
親に言いつけるからな!
「ぼーけん♪ぼーけん♪」
「儂らの前に立ちふさがる壁など、木端微塵にしてくれるわっ!」
「いっぱい壊しても、後で直せば問題ないよー」
「がううっ!」
「れっちゅ、ごー!」
「「おー!」」
「がーう!」
ぎゃぁあああ!?
無邪気な声と裏腹に、不吉としか言えない破壊音が続くぅうう!?
あのちびっ子たち何してやがんだよ!?
それ以上、やっちゃいけません!
ママとパパに怒られても、知らないぞっ!?