186.お犬様は特定の人にはツンデレ犬です
視点は……誰でしょう?笑
◇◇◇◇
ただいま、大通りから外れた裏路地をトボトボ中。
ボクの前では、リーンがぐしゅぐしゅ泣きながら歩いてるの。
「ぐす……マーマぁ、パーパぁ……ごえんなしゃいー……」
一人で愛良とカインの傍から離れて、絶賛後悔中のリーン。
まさか追いかけてもらえないなんて思ってなかったみたいなの。
ボクが後ろから着いてきていることにも気づいてない様子で、えぐえぐしてるの。
後にボクが着いて行ってるのに、気づいてもらえないのはちょっと寂しい。
大型犬くらいになったら気づいてくれるかな?
愛良に、急に大型犬になったらびっくりしちゃうから人がいるところではなっちゃダメって言われてるの。
だけど、今は周りに人間いないからいい?
「あ、いたのじゃ!」
「みゅ……?」
「わうー?」
大きくなろうと思ったら、後ろから着いてきていた女の子に声かけられたの。
さっきシン君と一緒にいた女の子なの。
ボク、知ってるの!
この子、真魔っていう新しい魔王のリディちゃんなの!
あれ?
真魔って危ない?
でも愛良が気に入ってるなら、きっと大丈夫!
「さっき、コレが欲しくて泣いたのじゃろ?シンが買ってくれたからやることはできんが、貸してやることはできるのじゃ!」
「ふみゅ……」
そう言って、さっきのおもちゃを見せてくれるリディちゃん。
だけど、動かないリーン。
リーンはおもちゃが欲しくて泣いたわけじゃなくて、自己主張がしたかっただけなの。
でも愛良にダメって言われて、意地になっちゃっただけ。
ちょっと前のボクもそうなの!
すぐにカインを噛もうとしてたら、愛良に『めっ』て言われて余計にカインを噛みまくったの!
駄目って言われると、余計にやりたくなっちゃったの。
ちゃんと甘噛みだったのにねー。
カインは血だらけだったけど。
「……マーマは?」
「む?あの娘っ子のことか?……来てはおらんようじゃの」
「……ふぇ……」
「な、泣くのか!?なぜ泣くのじゃ!?」
愛良が迎えに来てくれないと、たぶんリーンは泣き止まないの。
んーと、しっぽでリーンのおててをナデナデ!
愛良、早く来てなのー!
「あら?泣き声が聞こえたかと思えば、リーンくんではありませんか?しぃちゃんも一緒でしたか」
あれー?
後から声が聞こえたの。
ボク、この声知ってる。
愛良のお友達のラピスちゃん!
綺麗だけど怒らしたらいけないおねえさんなの!
「お?シンの使い魔もいねぇか?」
ラピスちゃんのお隣から顔を出したのは、弄られっこのG君なの!
「あら、本当ですね」
「む?シンを知っておるのか?」
「まぁ、友達……てほどでもないな。知り合い?」
「……微妙な関係なのじゃ」
縁遠い関係に、ちょっと警戒中のリディちゃん。
確かに、主の友達じゃないなら微妙なの。
「んじゃ、放っておくか。ラピスー、行こうぐげっ!?」
警戒しているリディちゃんを見るなり、さっさとどこかに行こうとしたG君だけど、一瞬でラピスちゃんに頭を掴まれるなり顔面を壁に押さえつけられたの。
何のためらいもない動きが、とても怖いの……。
「明らかに迷子な子どもを放って行こうとはどういう了見ですか、グレイの分際で。しかも、アイラ達のところのリーンくんとしぃちゃんなんですよ。そこんとこ、分かっているんですか?それとも、その脳みそが詰まっていない頭では理解できませんか。それならそうと言いなさい。いつでも脳みそに似合っただけの大きさに頭を変形させてあげますから」
「ず……ずびばぜん……」
「「「……」」」
ラピスちゃん……ボクたちのことを想ってくれたのは分かるの。
だけどね、とってもとっても怖い。
しかも、リーンとリディちゃんの前ではやっちゃダメ。
「さて……Gは黙ったことですし。リーンくん、ママはどうしたんですか?」
リーンの身長に合わせてしゃがみこんでくれるラピスちゃん。
だけど、さっきの行動でリーンが硬直してるの。
「えと、おにーちゃん……」
「ああ、アレは放っておいていいですよ。買い物に付き合っていてもらっただけなんで。もう買い物も終わりましたし、ママを探すのを手伝いますよ」
優しい笑顔なんだけど、やっぱりさっきの行動で台無しなの、ラピスちゃん……。
それと、二人一緒に買い物ってデート?
ルナちゃんも、シン君とデートしてたの。
今日はみんなデートの日?
でも、愛良とカインは違うの!
ボクとリーンが一緒だから、デートじゃないもん!
単なるお出かけだもん!
……あ、今は二人だからデートになっちゃう!?
早く愛良のとこに帰るの!
愛良取っちゃヤなのー!
早く帰りたいから、リーンの服の袖を軽く噛んでぐいぐい。
「わうわうー!」
愛良とは使い魔で繋がっているから、居場所分かるもん。
ちゃんと連れて帰れるの。
リーンはボクの弟だもん!
「にゅ……あんねー、しーたん、マーマのとこ、わかるってー」
リーンは僕の言葉が分かるから助かるの。
意思疎通もばっちり!
「ふむ……儂も、シンの魔力を辿れば帰れるのじゃ。こやつらも、儂がきちんと連れて帰るのじゃ!」
えっへん!
そんな感じで胸を張るリディちゃん。
頼もしくていい子なの!
「あ、そうなのか?なら放っておいて、もぉっ!?」
「「「……」」」
復活していたG君が離れようとした瞬間、あっさりお壁との熱いキスにリターン。
G君、学習したほうがいいと思うの。
そしてラピスちゃん……それが、とっても怖いの。
リーンとリディちゃんが、ビクビク怖がってるからね?
「二人が大丈夫なのは分かりました。でも、連絡だけさせてくださいね。ママたちも心配しちゃいますから」
にっこりと優しい笑顔を浮かべながらケータイを取り出すラピスちゃん。
もう片方のお手てには、もちろんG君の頭を押さえたままなの。
そろそろ全力で逃げても、許される?
ちょっとだけ大きくなったら、リーンとリディちゃん二人乗っけて逃げることは簡単なの。
そうしよう!
ボクがそう決めて行動に移そうとした瞬間。
「あー。リーンとしぃちゃん、みっけー」
のんびりとした、落ち着く声。
クロノスのお兄ちゃんなの!
お迎えに来てくれたの!
「クロたん!」
「わうー!」
よかったー。
ちょっと固まってたリーンも、クロノスのお兄ちゃんを見るなり嬉しそうにギュー。
ラピスちゃんが優しくていい子なのは知っているんだけど、女王様はちょっと怖いの。
クロノスのお兄ちゃんの方が安心できるの!
「ママに言われて、探しにきたんだよー」
ほのぼのーとした笑顔を浮かべるクロノスのお兄ちゃん。
ふんわりほんわりしてるの!
リーンの次に好き!
もちろん、一番は愛良なの!
カイン?
……別に嫌いじゃないの。(尻尾ぶんぶん)
初のしぃちゃん視点でしたー!
リーン視点では物語が進まなかったので、しぃちゃんに頑張ってもらいました!