185.金持ちだからって何でも買えばいいもんでもないです
視点は愛良です
◇◇◇◇
魔闘大会の学生の部が終了した翌日。
お義父様には個人戦と団体戦の二日間は、観戦してもしなくてもいいと言われているので今日は近くの公園までお散歩です!
「こーえん!こーえん!」
「わーうう!わーうう!」
人見知りだけど公園の遊具で遊ぶのは大好きなリーンと、リーンと走り回るのが大好きなしぃちゃんは大喜び。
小さな手足を一生懸命動かして公園に急ごうとしているリーンと、その足元で飛び跳ねるようにしてついて行っているしぃちゃんは、とっても可愛いです。
「マーマ、パーパ!はーやーくー!」
「わーうーうー!」
公園の入り口で中に入らずに振り返って、普通に歩いてついて行っていた私とカインを振り返って大きく手を振るリーン。
「はいはーい、すぐ行くからねー」
「マーマ、ぎゅー!」
思わず顔が緩んじゃうなー……。
だってね、満面の笑顔で戻ってきて私の足に抱きついてくるんだもん。
癒されるー……。
「公園に行くのは久しぶりだから、ずいぶんはしゃいでいるな」
足元に抱きついたリーンをカインが抱き上げながら、頭を撫でた。
それを羨ましそうに見て、前足を上げて後足だけでピョンピョンと私に飛びつくしぃちゃん。
「わうわう!」
「はいはい、しぃちゃんも抱っこしようねー」
「わう!」
しぃちゃんを抱っこして、リーンを抱き上げているカインと並んで目と鼻の先にある公園まで歩いていると、通りの向こうから青い顔をしたシン君が歩いているのが見えた。
「シン君?」
「シン、どうした?」
「……ヘルプ」
なんか、今にも成仏しちゃいそうな顔色ですが。
そんな彼の視線の先には、可愛らしい幼女と小柄な少女が楽しそうに買い物をしている。
「ルナ!あれはなんなのじゃ!?」
「魔道具の、おもちゃ……リディちゃん、初めて?」
リディちゃんに手を引かれながら、楽しそうに話しかけるルナ。
おおう、いつの間にシン君とデートですかい。
シン君に本気だしたルナちゃま、周りから埋めていってるんですね!
頑張れー!
だけど……シン君はなんでそんなに青い顔してるの?
ルナとリディちゃんがお買いものしている姿に、別に変なとこなんてないよね?
何が原因で死にそうな顔してるんですかい。
「おもちゃというのか?それは一体なんじゃ?」
「えっと……遊び、道具。楽しい、よ?」
ルナがそう言って、試しに箱についていたボタンを押すと、箱の中でボールがころころ転がって、いくつもあるうちの穴に転がり落ちて光った。
ピンク色から赤色へと変化する光。
どうやら落ちた穴によって、光の色が数種類あるみたいだね。
「光ったのじゃー!他の穴にも落としたいのじゃ!」
そう言って、手を叩いて喜ぶリディちゃん。
子どもって、光る物が好きな子多いよね。
だけども、露店の商品であるため、そう何度も遊ぶこともできない。
「むー……欲しいのじゃー!シン!買ってなのじゃ!」
「無理!俺超貧乏人!これ以上はダメ!」
涙目で地団駄を踏むリディちゃんと、同じく涙目で首を高速で横に振るシン君。
今気づいたけど、彼、すでに結構荷物を持っている。
すでに散々買わされたんですね、ボンビー君なのに。
「僕、買う……よ?」
そんなシン君を気遣ったのか、にっこりと笑顔を浮かべながら首を傾げるルナちゃま。
リディちゃんは、そんなルナを見上げると、ゆっくりとシン君に視線を移した。
「シンよ……女子に奢ってもらうとは情けないとは思わんのか?パパ殿がにぃに殿に『男ならば、女子を余裕で養えるだけの財力と、女子の言うことを受け入れられるだけの器のデカい男になれ』って言っていたのじゃ」
「……払えばいいんだろ!払えば!!」
「ありがとーなのじゃ!」
うん、シン君が泣きそうな顔している理由がよく分かりました。
そんなやり取りを、カインと一緒になってじっと見ていたリーンちゃん。
「パーパ。リーンも、おもちゃ!」
「よし、買うか!」
「買わんでよろしい」
リーンのお願いに、あっさり買おうとしたカインさんを一刀両断。
なんで君は物を買うことに関しては甘々ないの。
金持ちだから?
だから制限なく買っちゃうわけ?
そんなんだから、君のお部屋は物で溢れる異次元ワールドなんだよ!
「リーン。同じようなのはいっぱい持っているでしょ。買わないからね」
「うー……」
カインが大量に買ったおもちゃを収納している空間にだって、まだ遊んでないおもちゃがいっぱいあるんだからね。
そんな涙目で見たってダメなものはダメです。
「むぅー……マーマ、けちー」
ホッペを膨らませてぷいっと顔を背けるリーンちゃん。
うん、そんな態度とられたらママ泣いちゃうからね?
だけども、すぐに欲しいものが手に入っている状態というのも、教育によくないことだと思うのよね。
プレゼントのありがたみが分からなくなっちゃう子になるのは、困るし。
「けちで結構。リーンちゃんは、今日のおやつはいらないんだね?」
「みゅ……?」
まさかのおやつを引き合いに出されると思わなかったのか、驚いてこっちに顔を私の方に向きなおすリーンちゃん。
すでにおやつがなくなる可能性に、涙目である。
「今日のおやつはホットケーキなんだけどなぁ。リーンちゃんがいい子にしていたら、クリームだけじゃなくてリーンの大好きなアイスとプリンも付けようと思ったんだけどなぁ……。しょうがないから、パパにあげることにしよう」
「は?」
最後の私の言葉に、リーンを抱っこしたまま呆気にとられるカインさん。
だって、私が食べるっていったらリーンに恨まれそうなんだもん。
それに今ダイエット中だし。
「めー!!パーパ、リーンのー!!」
案の定、リーンちゃんの怒りの矛先はカインへ。
小さなお手てで泣きながらカインの頭をペシペシ叩いている。
「ちょ、リーン!やめろ!」
「ふぇええん!リーンのー!パーパ、とっちゃ、めっ!」
大泣きでカインの頭を攻撃するリーンと、痛みはないけども暴れるリーンを落とすまいと頑張るカイン。
よし、そろそろ懲りたでしょ。
呆れ交じりに成り行きを眺めていたしぃちゃんは一回地面に卸して、大泣きしながらカインをぽかぽか叩いているリーンを後ろから抱っこ。
「リーン?」
「ふぇ……」
「おもちゃは我慢できる?できるなら、リーンの分もちゃんと作ってあげる」
「………」
むっすー。
そんな感じで真っ赤な顔で頬を膨らませたまま黙り込むリーンちゃん。
いつもならすぐに謝るのに、今日は『イヤイヤ』オーラ全開です。
強情だなー。
もしかして反抗期とか?
確か、2歳くらいから反抗期がみられるんだっけ?
リーンは閉じ込められていたことで心身ともに成長がちょっと遅れてるから、3歳だけども送れて反抗期に入ってきたのかも。
うーん……喜ばしいのかなぁ?
「やっ!」
あら、今度は怒って私の腕から地面に飛び降りて走って行っちゃった。
しょうがないなぁ。
「しぃちゃん、リーンを追いかけてくれる?」
「わーう」
しぃちゃんにお願いして、走って行っちゃったリーンを追いかけてもらう。
念話でお家でお留守番中のクロちゃんにも連絡入れといたから、これで大丈夫かな。
「お、おい……リーンを追いかけなくていいのか?」
まさかのリーンが怒って走り去るとは思ってもみなかったカインは、顔色を少し青ざめてオロオロ。
リーンに八つ当たりで叩かれたのも、効いている様子。
さすがメンタル弱い。
「しぃちゃんとクロちゃんにお願いしたから大丈夫。ちょっとはリーンも反省しないといけないからね」
まぁ、リーンよりも盛大に反省しないといけない人は、目の前にいるカインなんですけどね。
君が何でもかんでも言われた通りに買っちゃうからでしょうが。
「リーンがいくら可愛くても、おもちゃとか買い過ぎ。何でもお願いされて買い与えていたら、誕生日とかの特別な日のプレゼントとか、頑張ったご褒美をあげても、なんのありがたみもないでしょうが」
「う……まぁ、そうなんだが……別に、貧乏ってわけでもないし……」
「いくらお金があるからって、そこんとこはきっちり区別しておかないとリーンが我慢できない子になっちゃうでしょ」
「……はい」
はい、カインさんは論破しました。
何で君は食事とか人と接するときの対応に関しては煩いのに、物品になると大雑把になるのかが本当に理解できないよ。
君、私のこととやかく言えない立場なんだからね。
「……おーい、そこの子育て会議中の馬鹿夫婦ー。お前ら、今の状況分かってるかー?」
カインに懇々と諭していたら、呆れ交じりのシン君に話しかけられた。
その隣では、苦笑を浮かべながらカインの頭に手を伸ばして撫でているルナ。
今の状況?
……人の目がたくさんある大通りのど真ん中ですね。
なんでご年配の方々は微笑ましげに見守っていらっしゃるんでしょうか。
妙齢のご婦人方は、なんで私に『よく言った!』と言いたげな目で親指を上に指して片目をつぶっているんですか。
その旦那様と思われる方々よ、その『最初は可愛くてやっちゃうよなぁ』と言わんばかりに頷いているのは何故。
……みんなに注目されたら、恥ずかしいんだからね!
もうみんなに注目されて恥ずかしいし、さっさとリーンの回収に行こ。
しぃちゃんが傍にいるから魔力でどこにいるのかは分かるけど、やっぱり長時間離れているのは心配。
まぁ、しぃちゃんが傍にいる時点で無事決定なんだけどね。
後で第1次反抗期の対応方法の本を読んどかなきゃ……。
あ、それかルシファーに聞いたらいっか。
子育ては得意らしいし。
「カイン、リーンとしぃちゃんの所に行くよー」
「あ、ああ……」
カインよ……。
暗い顔のままだけど、まだメンタル回復してないの?
なーに俯いてるのさ。
思わず項垂れてルナに頭を撫でられているカインに近づくと。
「ルナが、シンとデート……だと?邪魔したい……邪魔したいけど、リーンも心配だ……そうだ、ルナも連れて行こう」
「おにー、ちゃん……僕、行かない」
「……」
ルナの言葉に、ずーんと沈むカイン。
この、シスコンが!
そう私が叫びたくなったのは、仕方がないことだと思うの。
シスコンのお兄ちゃん達がいるから、言わないけどさ。
「……なぁ、愛良」
「何?シン君」
「カインって……シスコン?」
「イエス」
「……俺、もうあの腐女子から解放されたい。腐女子でシスコンな兄貴がいるとかもう嫌だ……見た目可愛いのに癖がある女子多すぎだろ、この世界!」
シン君、ついには頭を抱えてしゃがみこんじゃった。
……ん?
君はまだルナのことを腐女子と思っていたのかね?
「シン君……ルナ、別に腐女子とかじゃないよ?」
「は?」
私の言葉に、がばっと顔を上げたシン君。
逆に何でそんなに驚くかなぁ?
「ルナって、君とカインの組み合わせが好きとかじゃなくて、単純に自分が君の傍にいたいから、いるんじゃないの?」
「……へ?俺の傍にいたいから、いる?……へっ!?」
私が言ったことを整理するように、繰り返すシン君。
……おお、シン君の顔が一瞬で真っ赤になった。
ゆでダコだゆでダコ。
そうだ。
久しぶりにタコが食べたくなったから、この間シン君に教えてもらったたこ焼きのレシピがあるし、今晩はたこ焼きにしよう!