18.基礎は大事です
◇◇◇◇
カインの転移で連れてきてもらった訓練場には、まだ誰も来ている様子はない。
他の子たちが歩いて移動している中、わざわざ転移で来たから当然なんだろうけど。
龍雅たちにさえ絡まれていなかったら、私たちも歩く予定だったし。
「あ?お前ら早いな?」
そう声をかけてきたのは、広い部屋の中央付近でしゃがみこんでいた担任のソル先生。
そういえば先生も転移してたんだったね。
「めんどくさい子たちに絡まれたから、カインに転移してもらったの」
「は?」
ん?
正直に説明したのに、なんか先生が固まりました。
目の前で手をパタパタさせてみても、反応なし。
「おーい、ソルせんせー?」
「……え?転移って、3年生で習うんだぞ?しかも、シドウを連れて転移するって、お前そんなに魔法上手かったのか?」
ようやく動いた先生、目を見開いたままカインを凝視しています。
あれ、転移ってそんなに難しいっけ?
私最初の5日間はカインとマスターに魔力コントロールしかさせてもらえなかったけど、その後に合格点がもらえてからは普通に使っているよ?
お店からギルドまでが主だけど。
ボックスっていう素晴らしい保管魔法があるにしても、その日使う分まで入れようとは思わないから手に持つと、結構な量になるんだよね。
いくら馬鹿力があっても、大量過ぎる荷物を平然と抱えると周りの人に変な目でみられそうだし。
さすがにご近所さん達にそう思われるのは嫌だから、買い物の帰りは転移を使ってます。
「私もできるけど転移ってそんなに難しいの?」
「え?お前も出来るの?」
「できるよ?」
「いや、無属性でも最高位レベルだぞ?魔力コントロールがうまくできなかったら、下手したら体の一部を置き忘れることすらあるんだぞ?」
「ふーん?」
転移って、何気に難しいものだったんだ……。
だから最初にカインもマスターも、魔力コントロールを徹底的に練習しろって言ったんだねー。
毎朝基礎練習をちゃんとやってるから、大丈夫かな。
ついでに現在進行形で自分に複雑な結界を張って、それを動き回りながらでも均等さを維持するっていう魔力コントロールの練習中だし。
ちなみに最初のころは結界の均等さを維持できなくて、カインに容赦なく不安定な所を魔法で打ち抜かれまくりました。
そして筋肉マッチョなオカマスターには、拳で結界を打ち破られるという恐怖を味わいました。
体が頑丈になっているから、大した怪我はしなかったけど心臓に悪すぎる。
特に、間近でオカマスターのにっこり笑顔とか。
二度と見たくなくて必死に魔力コントロールを頑張ったなぁ……。
……うん、思い出すと泣きたくなるから忘れよう。
「せんせーは何やってるんですかー?」
魔法陣用のステッキで地面に何か書きつけているけど、何の魔法陣かは分からない。
普通の魔法を覚えるのを優先したから、魔法陣とかまだ全然覚えていないんだよね。
「あ?次の授業の準備だ。お前ら、早く来たなら手伝え」
「……魔力相殺の結界ですか」
「おーそうだ。見ただけで分かるって、お前やっぱかなり優秀だよな。さすが学力学年主席」
出来上がった魔法陣に魔力を込めながら、口端をあげて頷くソル先生。
カインがすごいのは分かってたけど、学力もトップだったんですか。
「へ~。カインって意外とすごいんだね」
「意外は余計だ。で、先生。結界はいくつ作るんですか?」
「4つだ。何人かに分かれて、結界内で戦ってもらう。まぁ、新入生の実力調べだな」
「実力みるだけなら、一組ずつやった方がいいんじゃないの?この部屋にだって、ちゃんと魔力相殺になってるんでしょ?わざわざ4つに分けなくてもよくない?」
訓練場って言うからして、この部屋全体に魔力相殺がかかっているはず。
実力見るなら一組ずつのほうがいいと思うんだけど。
「まぁ実際そうなんだが、時間の問題だな。実力が近かったら、その分時間がかかる」
「あ、そっか」
一クラス30人いるのに二人ずつ順番にやってたら、そりゃ時間もなくなりますね。
なんか授業を効率よくしようとか何も考えてなさそうに見えるんだけど、ちゃんと考えているんだね、ソル先生も。
では、お手伝いするためにも頑張りますか。
「愛良、魔力相殺の魔法陣は覚えれたか?」
「うー……よし、覚えられた」
この世界に来てから身体的にもそうなんだけど、記憶力も半端なく向上したと思う。
だいたいのことは、一回見たら覚えられるし。
テストとかは……ずるしているようにしか見えないだろうけど。
うん、勝手についてきた能力だからってことで割り切っておこう。
「じゃあ私、あっちで結界張ってくるね。しぃちゃん、行くよ~」
「わんっ!」
とりあえずは、さっさと結界を張っちゃいましょう。