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183.ヤンヒロだろうが、大魔王様にはかなうはずがありません

視点はカイン→愛良です

◇◇◇◇


「はぁ……」


結局、愛良と話す暇なく試合になってしまった……。

愛良、まだ怒っているのか……?


『よーし!ようやく地面が戻ったので、もうすぐ試合を始めるぞ!』


愛良が砕いた床の修理に時間を要するなら、その間に愛良の所に行ってもう一度謝ればよかったな……。

もう戻ったみたいだから、無理だろうが。

はぁ……。


「愛良はどこで見てるんだろ?愛良ー?」


俺の目の前では、今から試合だというのに集中せずに観客席を見渡している屑。

お前、試合前は毎回こんな感じだったのか?

お前の試合なんて、あることすら忘れていたからな……。

こんなのに負けた対戦相手が不憫過ぎる……。

思わず今までの選手に同情していたら、唐突に屑の視線がこちらに向いた。


「……ねえ、愛良をどこに隠したの?」


ジロリ、という様子で俺を睨んでくる屑。


「は?」


何言ってんだ、こいつ。

愛良は普通に帝国の貴賓席でリーン達と楽しそうに話しているだろうが。

もちろん気づいたところで行かせはしないが、この愛良命と言っても過言ではない屑が気づかないことが疑問だ。

お前ならむしろ壁があろうが何だろうが関係なく、愛良を見つけそうなものだが。


「……ん?」


愛良たちがいる方を見上げると、何か違和感を感じる。

一見何もないように見えるが……あれは、不可視の結界が張ってあるな。

帝国貴賓席には、屑限定の不可視の結界が張ってあるようだ。

……特定の人物だけ見えないようにするなんて器用なマネが出来るのは、シスコンな三つ子だけか。

さすがは妹至上主義の三つ子たち。

愛良への守りは完璧だ。

当の愛良は、三つ子に守られていることに気が付いている様子なく楽しそうにリーン達と笑っているが。

……俺もあの中に入りたい。

入りたいんだが、愛良がまだ怒っていたら入れない……。

……試合が終わったら、愛良に何か買っていくとするか。


「ねえ。さっきから人の話、聞いてるの?」


俺が奴を無視していることに対して、若干イラついた声音の屑。

奴を見てみれば、俺を睨みつけていた。

……ああ?


「てめぇごときの話を聞いてやる義理がどこにある」

「なっ……!?」


てめぇみたいな屑の話なんか、俺が聞くわけがないだろうが。

むしろ、俺に話しかけるな。

視界に入るな。

面倒だからさっさと消えてしまえ。

俺は愛良の機嫌を直すためのプレゼントを考えることに忙しいんだ。


『おおっとぉお!?試合前から雰囲気最悪の両者!なかなか楽しめそうで結構結構!』


奴が俺を睨んでくる中、司会が空気を読まず大声で爆笑。

普通にさっさと仕事しろよ。


『最近、幼馴染への愛情が重すぎて引かれている中、一部女子からは何故か人気が急上昇中!膨大な魔力でゴリ押し勝利を続けているリョウガ・キリガヤ選手!』


「リョウガ様ぁあ!」

「私も束縛してぇええ!!」


司会者の説明に、黄色い悲鳴をあげる一部女子たち。

お前たち、愛良へのあの束縛態度を見てもその考えを変えないのか?


『続きまして、ほぼ全校生徒からの同情を一身に集めているカイン・ルディス選手!生徒会長としての支持率は圧倒的!』


「会長ー!鈍感になんか負けるなー!」

「いつでも失恋おめでとう会の準備はできてますよー!」

「「「だから、さっさと玉砕頑張れー!!」」」


学園の制服を着ている一団から、一斉に激励。


「うるさい!!」


なんで玉砕するのが前提なんだ!

ほぼ全校生徒に言われたぞ!?

なんかギルメンも交じっていたような気がするが!

というよりも、撲滅委員会の奴らにまで言われたんだが!

お前らはそんなに俺に玉砕させたいのか!

激励を送るなら、試合に勝てって言ってくれよな!

愛良は愛良で『んー?玉砕?なにそれー?』と言わんばかりの表情で首を傾げているし!

あの様子だと、『屑と戦うのに玉砕する必要あるかなー?』って勘違いしていそうだ……泣くぞ!!


『えー……何やら観客の応援でルディス選手が落ち込んでいるように見えますが、そろそろ試合を始めてもいいですかね?つーか、始めます!もう試合前に自由に話し込む人多すぎて嫌だ!とっとと試合開始ぃいい!!』


自棄になりながら試合開始の合図を出す司会。

まぁ、別にいいか。

奴を倒せばいいだけだ。

俺の魔武器の無限は使用魔力の半減もあるし、この屑相手なら魔力の大幅が封印されていてもなんとかなるだろ。

とりあえずは、奴の実力を測る意味でも無限だけを持って奴に向かって走る。

奴は幼少のころから武芸をやることなく育ったと愛良から聞いているが、この世界に来て一応仮にも帝クラスになってんだから少しはマシな動きをするのか。

サバイバルの時は変な方向に病み過ぎていて、ほとんど実力をみる前に潰したからな。

俺が振るう刀を、唇を噛みしめながら自身の魔武器である剣でなんとか受け止めた屑。


「っ……」


額に汗を浮かべながら、俺の刀を押し返そうと力を込めてはいるが…………おい、お前やる気あんのか?

俺に力で敵わないってことが分かったのなら、別の方法でやれよ。

それすら教えないと理解できない馬鹿なのか。

ちっ……相手にするのすら面倒な奴だな。

屑も押し返してくることで早々に刀で勝負をつけるのは諦めて、俺は奴のがら空きの脇腹に向けて蹴りを放った。


「ぐっ!?」


愛良から共有している馬鹿力な上、今は無限の能力で自動的に身体能力は上がっている。

奴がいくら頑丈な肉体をしていようが、愛良のようにダメージゼロにはできない。

蹴り飛ばしたことで壁まで激突した奴に向けて、とどめでもさすか。


「げほ……くっ!【タイダルウェイブ】!」

「甘い。【ストーンピラー】」

「なっ!?」


俺を近づけまいと放った苦し紛れの大津波は、石柱の上に乗って回避すれば問題ない。

そんな俺を見て、悔しそうに顔を歪める屑。


「く……僕は……僕は、絶対に負けられないんだ!」


そう言うなり、全身を光らせながら石柱に向けて手を向ける屑。

その掌から凝縮された光の筋が放たれ、それに触れた途端にボロボロと崩れていく石柱。

破壊属性か。

そういやこの屑、破壊も持っていたんだったな。

浮遊で浮けばいいから、特に問題はないが。


「で、できた……これが、破壊属性……」

「……は?」


……おい。

まさかとは思うが、今ようやくできるようになったのか?

お前、この世界に来てからどれだけ時間が経ったと思っているんだ?

やっぱり屑は屑か。

そういう意味を込めて舌打ちすると、強気の表情になった屑は俺に向かって声を上げた。


「僕が勝てたら、愛良は返してもらうからね!」

「……あ゛?」


……よし、てめぇは遊んでから潰してやる。













◇◇◇◇


うーん……。

試合会場では、大魔王様なカインが龍雅に対して魔法やら魔武器の刀で攻撃しまくっている。

完全に一方的に。

具体的に言うと龍雅が何かを言った瞬間にキレたカインが、最上級の風魔法で切り刻みながらぶっ飛ばして。

ぶっ飛ばされた周辺を真空状態にして、息が出来なくて身動きがとれない龍雅を二つの土壁で挟んだり。

破壊属性を使ってなんとか土壁から脱出できても、結局息が続かなくて倒れそうになったところを出現した石柱に空までお腹を押しあげられたり。

真空空間から押し出されて呼吸ができるようになっても、息を整える前に闇と光の矢と槍で集中狙い。

なんとか結界を張っても防ぎきれず、力尽きて地面に落ちてきた所をカインが刀で切りかかって。

もう息も絶え絶えのボロボロです。

龍雅、初めて破壊属性を使えることができたみたいで調子に乗って強気になるのはどうかと思ったけど、カインも容赦ないねぇ……。

何を言ったのかは聞こえなかったけど、龍雅が調子に乗るからカインが龍雅限定の大魔王様降臨しちゃってるし。

あらら……龍雅、無駄に魔力があるのに弱っ。

病んでないと弱いって、勇者としてどうなの?

カインが龍雅に対して容赦なくて強いってのが一番なのかもしれないけど。

何気にヤンヒロが絡むとお兄ちゃん達並に龍雅を上回ってるもんね。


『な、なんとぉおお!?希少属性を発揮したキリガヤ選手を、意に介さず圧倒したルディス選手!強すぎるぅうう!かなりの私情も入っていたみたいだが、先ほどの観客たちの応援の意味がよく分かりましたぁあ!頑張れ、ルディス選手!』


いやいや、龍雅はもう意識落ちてんだし止めなよ、司会。

大魔王様、さっきから龍雅をゲシゲシ踏みまくってますよ?

それだけでは飽き足らず、龍雅を宙に蹴り上げては、落ちてきたところをまた蹴り上げるという人間リフティングをし始めています。

カインももう気絶しているって分かっているなら、止めたらいいのに。


『勝者、ルディス選手!……る、ルディス選手ー!もう勝負ついてるから止めてくださーい!』


こらこら、カイン。

もう勝敗ついたんだから、やめなって。


『ルディス選手ー!止めてくださいってばー!』


カインさん、リフティングをやめる気なし。


「……アイラ。どうせ休憩を挟んだらお前たちの試合なんだから、カインを止めに行ってあげなさい」

「はーい」


お義父様に言われたし、カインを止めに行きますか!

転移するには魔力がもったいないし、正規の試合会場までの道を行こうと思ったら時間がかかる。

なので、近道をしたいと思います!

貴賓席の手すりから身を乗り出して飛び越えて、と。


「よいしょっと」


直接試合会場に向けて落ちます!

試合会場には結界が張ってあるけど選手は問題なく通過できるから、こっちの方が早くていいよね!


「リーンもー!」

「わうう!」


……んん?

なんか、落ちている最中にリーンとしぃちゃんの声が聞こえた?

上を見上げたら、私と同じように手すりを飛び越えて落ちているリーンとしぃちゃんの姿が。


「リーンちゃああん!?」


ちょ、浮遊!

リーンを浮遊しなきゃ!

それかしぃちゃん!

しぃちゃん、リーンを背中に乗っけてぇえ!


「うにゅ?」

「わうー?」


大パニックになってる私の目の前で、空中でピタリと落下を止めたリーンとしぃちゃん。

ゆっくり時間を巻き戻すように上に登っていく。

そしてあっさりクロちゃんの腕の中に納まる二人。


「しぃちゃんはともかく、リーンは死んじゃうからママのマネしたらダメー」


ニコニコ笑ったまま、リーンとしぃちゃんのほっぺに頬を摺り寄せるクロちゃん。

クロちゃん、本気でありがとぉおお!


「アイラ!リーンが真似をするから、こんな危ないことはやめなさい!」

「ごめんなさいー!」


上からはお義父様が身を乗り出しながら怒ってる。

本気でごめんなさいぃ……。

そして私もリーンに気をとられ過ぎて自分が地面に近づいているのに気付かなかった……。

自分の受け身が取れなくてまずいと思っていたら、いつの間にかカインの腕の中にいました。

大魔王様のままのカインの。


「愛良?」

「はい、リーンの前で危ないマネしてごめんなさい」


素晴らしいまでの冷やかな笑みのカインに、自分に非があることも認めて即行謝りましたよ。

パパこわ……。

未だに冷やかな表情のままだよ……。


「愛良。今回は見逃すから、お前ももう許せよ?」

「へ?……あ、ああ、うん」


……そういや、私さっきまでカインを怒ってたんだ。

すっかり忘れてたよ……。

うん、許すからカインも大目に見てね!


「あああ!?僕の愛良を、何でお姫様抱っこしてるのぉおお!!?」


……へ?

声がした方向に視線をやると、ぐったりしたままなんとか立ち上がった様子の龍雅の姿。

そういや私、龍雅リフティング辞めないカインを止めに来たんだったね。

リーンちゃんのドッキリですっかり頭から抜けていたよ。

龍雅、気が付いたんだねー。


「僕の愛良から離れてよ!」


いやいや、そんな涙目で睨まれましても。

何で私が君のものなんですか。

冗談じゃないです。


「誰がてめぇのだ、誰が」

「少なくとも、私は龍雅のじゃないからね?」


もういい加減にそのおめでたい発言、やめようか。

カインさんが自己中な発言に大魔王様から元に戻らなくなっちゃうからね?

さっきから君の発言を聞いて、額にどんどん青筋が立って行ってるから。

そしてそろそろ、私を降ろして?

こんだけ大観衆がいる中でのお姫様抱っこはちょっと恥ずかしいです。

羞恥プレイです。


「カイン、降ろして?」

「……」


……ん?

ちらりとだけこっち見て無視しましたね、カインさん。

むしろ手の力が強まりましたよ?


「い・い・か・げ・ん・に……離れろー!!」


あ、龍雅もキレた。

さっきまでカインにやられてボロボロだったのに、復活したし。

脅威の回復力、相変わらずの健在です。


「僕の愛良に付きまとわないでくれる?あんまりそんなことしていたら、君の存在を抹消しないといけなくなるでしょ?もう本当はいつ君を倒して愛良を取り戻そうかと考えているくらいなんだよ?いくら愛良に手を出す人でも人殺しはできなくて我慢しているからって、調子に乗らないでよね。第一、愛良もそんなに簡単に人に抱きつく子じゃなかったじゃん。僕でも抱きついたらすぐに投げられて殴られて蹴られて踏まれていたのに。まぁ愛良の照れ隠しが可愛いから何回もやったけどさ。なのに、なんでそんなに僕じゃない人にお姫様抱っこなんてされているのさ。愛良はそんなに浮気性な子じゃないでしょ?やっぱり早く僕の元に連れ戻さないといけないよね」


無表情になって延々と口を開く龍雅。

キレるというより、ヤンヒロ降臨だったみたい。

勇者なのに、なんであんなに黒いもやもやを纏っているんですか。

邪力とは別の物に見えるけど……やっぱりヤンヒロ怖い。


「はっ……。敗者はとっとと退場しろよ」


そして大魔王様なカインは、何でヤンヒロに対してそんなに強気で行けるんですか。

今鼻で笑いましたよ、この人。

ヤンヒロ怖いからそれ以上挑発するの、やめようよぉ……。


「愛良は絶対に返してもらうからね」


キッと強い目でこっちを睨む龍雅。

そのまま杖代わりにしていた剣を構える。


『ちょ、キリガヤ選手ー!勝負はついたんですから、さっさと退場してくださーい!』


司会が慌てて声をかけるけど、ヤンヒロの耳には届かない。

というか、聞くつもりもなさそうな様子で突っ込んできたよ。

あの黒いもやもや、絶対に触りたくないし嫌な感じする。

あんなの纏って平然としているなんて……ヤンヒロ怖い。


「カイン、逃げようよ」


もうね、ほんとすぐ目の前までヤンヒロが迫ってきてますから。

近づいてくるのを見るたびに、背中がゾゾってなるから。


「愛良……もう試合は終わったんだぞ?」

「え、うん。そうだけど……?」


なんでそんなに呆れたような目で見られてんの、私。

何、その『お前って馬鹿だなぁ……』って言わんばかりの目は。

いや、それよりも!

ヤンヒロが近づいてくるよぉ……。


「愛良、お前はお前が考えているよりずっと守られているんだぞ?」

「へ?」


カインがそう言った瞬間。

ヤンヒロに黒い紐みたいに蠢くモノが絡みついて動きを止めて。

同時に銀色に輝く鎖がヤンヒロをぐるぐる巻きにして捕獲。

そしてトドメに身動きが出来なくて転がったヤンヒロの頭に、どこからともなく現れたちぃ兄ちゃんが踵落としを決めた。

黒い紐みたいなのは大兄ちゃんの影から生えているし、銀色の鎖の先端は中兄ちゃんの手の中。

……はれ?

首を傾げると、カインが安心させるように私の頭をぽんぽんと叩いた。


「あのな、愛良」

「へ?」

「試合中は意地でも手を出さない三つ子だが、今はすでに試合が終わっている。しかも、奴はお前を見てまた病んでいる。そんな状況で、三つ子が手を出さないはずがないだろ?」


カインの目は、一撃で龍雅の意識を落としながらも未だに踏みまくっているお兄ちゃんズへ。


「この屑が。貴様如きが我らの妹に刃を向けるとは、どういう了見だ?まずは精子を選ぶ所からやり直して来るがいい」

「本当にお馬鹿さんだねぇ、君は。愛良と付き合いたいっていうなら、真っ当な職について安定した収入が得られるようになってからにしてくれる?」

「おいこら屑。ヤンヒロ如きが俺らの可愛い妹に手ぇ出してんじゃねぇ。愛良を自分のもんだって言う前に、順番ってもんがあんだろボケ。それすらも分かってねぇてめぇに、愛良を自分のもんだって言う資格なんざねぇ」


怖い目をしたまま、ヤンヒロを蹴りまくっているお兄ちゃんズ。

お兄ちゃんたち、カッコいい……。

だけど意識落ちている龍雅には絶対聞こえていないと思うな。

残念!


「司会、すまなかったなー。こいつ、俺らが責任もって回収すっから、進めていいぞー」


鎖と黒いモノで拘束されたまま気絶している龍雅を引きずって退場する大兄ちゃんと中兄ちゃん。

そんなお兄ちゃん達の後を歩いていたちぃ兄ちゃんが、思い出したように司会席に向かって片手をひらひらさせながらの言葉に、司会者が焦ったように口を開く。


『ええっ!?ちょ、殿下方ぁ!?何勝手に登場して勝手に選手を戦闘不能にしてんですかぁあ!?』


マイク持ったまま叫ぶから、耳痛い……。

キーンってする……。


「ああん?んだよ?勝負ついていたのに、俺らが手出したことに文句があんのか?あ?」


そしてちぃ兄ちゃん、ちょっと不機嫌そう。

ヤンキーが入ってます。

おーい、ちぃ兄ちゃーん。

高校時代に族引きつれてバイクで走り回っていた黒歴史の一部が漏れ出ていますよー。


『で、ですが……』


ちぃ兄ちゃんのヤンキーっぷりに、司会者しどろもどろ。

ビクビクしているのが声だけでも分かります。


「僕たちが手を出したことに問題があるって言いたいんだね?じゃあ、この屑の対戦相手のカイン君がやるなら、問題ないってことだよね?」


にっこり。

そんな効果音を立てて手を叩く中兄ちゃん。

今からカインに龍雅を潰させるって宣言しているようなもんだよねー。

勝負はついてんだから、別にそのまま退場でいいんじゃないの?


「それもそうだな」


にやっと笑って一瞬で私たちの前に転移した大兄ちゃん。


「ではカイン。愛良は預かっておくから、お前は屑を好きなだけ潰して来い」

「ぐっ!?」


そのままカインにお姫様され中の私を抱っこするように抱き上げると、カインにデコピン。

カインは額を押さえて蹲りました、

うわ、アレは痛い……。

一時的に魔力能力封印は解いてもらったみたいだけどさ。


「……封印解くぐらいなら、頭に手を置くだけでも十分いけると思うんだけど」

「ふむ、細かいことは気にするな」

「愛良、そんなこと気にしなくていいよ?」

「そーそー。ちょいと兄ちゃん達の悪あがきだからなー。てなわけで、カイン」

「「「思う存分屑を潰せ」」」


お兄ちゃんズ、揃って命令。

気絶している相手に、カインが本気だせるのかって思うんだよねー。


「魔力を気にしなくていいなら、本気だしてやる!死にさらせ、この屑が!!」


……そういえば、君は気絶中の龍雅でリフティングをできる子だった。

……私たちの試合、いつ開始される?


「あっはっは!てめぇの実力はそんなもんか!魔力が多いだけで真面に練習していないのが丸分かりじゃねぇか!」


高笑いをしながら最上級の魔法をぶつけまくっている大魔王様。

だけどヤンヒロも負けていない。

いや、負けてはいるんだけど打たれ強さが発揮しているから、なかなかくたばらない。


『な、なんとぉお!?さっきまでとは比べ物にならない試合です!この二人、すごすぎる!』


うーん……司会と観客も大盛り上がりなんだけどね?

大盛り上がりなんだけど、これってもう試合終わっているんだよ?


「お兄ちゃん……私、この大盛り上がりの後に魔力再封印されたカインと戦うの嫌過ぎるんだけど」


大兄ちゃんに抱っこされたまま私がぼやくと、お兄ちゃんズは苦笑を浮かべながら頭を撫でてくる。

うん、笑ってごまかさないでよ。

この状況作り出したのお兄ちゃんズなのに。


「いいじゃないか、大盛り上がりなんだし」

「そーそー。観客が喜ぶのが一番だな」

「最近娯楽が少なかったゆえ、これで民も気分が晴れるであろう」


……だからぁ、その観客が楽しめた後で、私とカインでやるのが無理だって言ってのにぃ。

拗ねるよー?


「愛良、そう頬をむくれさせるでない。ハムスターではあるまいし」

「そうだよ、愛良。そんだけずっと頬を膨れさせてたら戻らなくなるよ?」

「そうなったら豚愛良って呼んでやんぞー」

「ぶっ……」


ちぃ兄ちゃん……今、力加減考えずに指で私の両頬を突き刺しましたね?

思わず溜めてた空気が変な音立てて出たじゃん。

恥ずかしいし、ほっぺが痛い……。

頬を押さえながらカイン達の方に視線を戻す。


「……ん?」


お兄ちゃん達と話していて気づかなかったけど、すでに試合会場がボロボロです。

え、結界内がすでに土埃で前見えなくなってきた状況ですよ?

もちろん私たち周辺にはお兄ちゃんズの結界があるから問題ないけど。

そんな中でも響く大魔王様の笑い声と、敗者の屑勇者の断末魔。


「うわー……」


目の前の光景にドン引きした私は悪くない。

いい加減試合をさっさと終えてリーン達の所に帰りたいので、二人には氷水を大量にぶっかけて頭を冷やしてもらって。

こんな状況で試合をしないといけないことに腹もたつから、お兄ちゃんズにお願いして龍雅をお仕置き用激辛スープ(大なべ)に顔から中に突っ込んでもらった。

さっきと比べ物にならない絶叫が上がったけど、ヤンヒロはお兄ちゃんズに任せてたら大丈夫!

さっさと試合を終えて、リーン達の所に帰るんだからね!

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