表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/208

180.そういえば使い魔だった

視点は愛良→カインです

◇◇◇◇


シン君とリディアちゃんと別れた後、貴賓席に戻ってきてリーンとしぃちゃんを抱っこしながら試合会場を見下ろしているんだけど、不安だからこの子たちにはお昼寝してもらいました。

子どもに見せたくない試合にならないことを全力で祈ってますが。


「みゃー……」


試合開始の合図とともに、いい笑顔を浮かべて堂々とカインに歩み寄るカーズさん。

そのカーズさんから必死の形相で逃げ回るカイン。

うわー……カインの心の叫びが聞こえるようだわ。

棄権はできない。

青ツナギ効果で魔法は通じない。

近づけば捕まる。

捕まっても負けても掘られる。

……さすがにカインがちょっと可哀相かもしんない。


「か、カイン……頼むから、俺らを召喚すんじゃねぇぞ」

「カインなら勝てる。信じてるから、俺様たちを巻き込むな……」

「あっはっは。滅茶苦茶必死だねー」


隣では人型のままのクロちゃんの両肩にしがみ付いているルシファーとコス王が、試合を見ながら必死にお祈り中。

うん、カインは今誰かを巻き込むって考えに至るまでになってないから、大丈夫だと思うよ?


「それにしても、カイン苦戦中だねー。封印されていても、カインの魔武器ならあっさり倒せそうなのにー」


けらけら笑いながら見下ろしているクロちゃん。

確かにクロちゃんの言うとおりなんだよねー。

カインの魔武器の無限には、確か『斬る対象の選択』『絶対斬撃』『身体能力向上』『魔力消費量半減』だったはずだし。

でも試合が始まっている時点で助言するのはさすがにアウトです。

カイン、頑張って自分の魔武器の能力思い出して。

というか、お願いだから一回落ち着いて。

普段の冷静なカインなら普通に魔武器なくても勝てる相手だから。

私がそう祈りながら試合を見ていると、隣でクロちゃんがコテンと首を傾げた。


「ねーねー。あの人、何でカインにゾッコンなのー?あの屑の方に行けばいいのにー」

「……」


……『屑』でも誰のことか分かるからいいんだけど、ニコニコ笑いながら他の人が不幸になればいいのにと平然と口にするクロちゃんに、背筋が冷えました。

まぁ、相手が屑だからいいんだけどね。

一番最初にカインを襲おうとして病院送りにした時のお見舞いで、私もそう提案したし。

カインは諦めて、龍雅で我慢してって。

そうしたらね、白い歯を見せていい笑顔で言ったの。


「『アレにはヤル価値がない。俺を夢中にさせられるのは、カイン・ルディスだけだ』って言ってたにゃん……」

「「「……」」」


使い魔ズは一同に押し黙り、無言のまま試合会場に向けて手を合わせた。

はい、みんなで合掌ー。


『おおっとぉおお!?逃げるルディス選手と追うカーズ選手!戦うことすら放棄しているルディス選手、逃げおおせるのか!?』


いやいや、鬼ごっこじゃないんだから、頑張って立ち向かおうよ。

……なーんて考えているうちに、カインの逃げている方面に土の壁が出現したし。

かなり分厚い壁が。

あれだけの分厚さだと、さすがの馬鹿力保有のカインも壊すことはできないなぁ……。


『な、なんと!ルディス選手の前に分厚き壁が出現、ついにルディス選手の足が止まったぁああ!!そして後ろから迫るカーズ選手!!』


ああ……カインの顔色が青を通り越して土色に……。


「さぁ、カイン・ルディス。俺とともに、新しい扉を開こうではないか」

「ひっ!?」


ああ、やばい。

イケメンというよりはいい男と称したいカーズさんが、とっても爽やかな笑顔を浮かべて青つなぎのホックを外した。

……え、こっから先はやばくない?

一回戦は見ていなかったから知らないけど、ガチでやっちゃう気?

大勢の観客や王侯貴族もいらっしゃいますよー?

さすがに私の顔も引きつっちゃいますよー?

もうカインが全力で『助けてくれ』ってオーラを体中から発していますから。

というか、さっきからすんごく見られている気が……。

……嫌な予感がしてきた。

同時に何かを悟ったらしい使い魔ズは早かった。


「はい、お嬢ちゃん。リーンとしぃちゃん預かるからねー。あとはお嬢ちゃんってバレないようにしといてあげるー」

「お嬢!俺様の魔力を預けとくから、好きに魔法使って大丈夫だ!」

「嬢ちゃん、俺と一時的に魔力経路繋げたから、自然と特殊属性は使えるぞ!」


あれよこれよという間に腕の中からお昼寝中のリーンとしぃちゃんを取り上げられて、それぞれに頭に手を置かれた。

そしてとても真剣な目で、懇願するように両手を握られ……。


「「「だから頑張って!」」」


謎の激励を受けました。


「にゃ?」


何を頑張るの?

そう問う前に絶体絶命のカインが大きく息を吸って叫んだ。

……私の名前を。


「あぁあああいらぁああああ!!」


同時に、私の足元が光りだす。

……よりにもよって、使い魔の中で私を呼び出したんかい、こんにゃろ。

光が収まって目を開ければ、素晴らしくいい男が笑顔を浮かべながら迫ってくるところでした。

うん、これを間近で見ていたらそりゃ泣くわ。

思わず思いっきり回し蹴りを決めちゃったじゃないですか。


『絶体絶命のルディス選手、ついに使い魔を召喚したぁあ!可愛らしい少年だ!!可愛いながらも蹴りは強烈!何の種族なのかが気になるぞ!』


少年ちゃうし。

女の子だし。

いつもより視界が低くて頭は軽いし、たぶんクロちゃんに若返らされたね。

髪を短くボブカットにしていたのは龍雅の取り巻きにペンキぶっかけられてしょうがなく切った時だけだから、11歳ぐらいか。

服はギリギリ着れているけど、やっぱりぶかぶか。

まぁ召喚させられる前にクロちゃんに黒のパーカー着せられたから、かぼちゃパンツの先っちょぐらいしか見えてないだろうけどさ。

ついでにキャップもかぶされてるから、顔もそんなに見られないからバレないはず。

さっきカインが思いっきり名前を呼んでいたけど、ずいぶん『あ』が多かったから、聞かれたら別の名前で誤魔化せばいい。


「あ、愛良?」


恐る恐る、という様子で震えながら名前を呼ぶカイン。

私はキャップを深くかぶりなおしながら、にっこりと笑ってカインの顔面すれすれを蹴りつけた。


「ひっ!?」


ガラガラと無残にも崩れ去る分厚い土壁と、顔を引きつらせながらそれを振り返るカイン。


「カイン?」

「は、はい!」


元気でよいお返事です。

顔色死人みたいでガクガク震えているけどね。


「……このうっかり鬱帝」

「うっ……」

「私、自分が君の使い魔の一人であることを、すっっっかり忘れていましたよ?もう本当に綺麗さっぱりと。そんな中で突然召喚されたら、びっくりするでしょうが。本当に使い魔ズがあれこれ世話してくれてなかったら、私人外ですって大勢の前で宣言するようなもんだったんだからね?」


あ、私も一応使い魔だから使い魔ズの一括りに入っちゃう?

いや、私の場合はカインのうっかりミスだから使い魔ズとしてはカウントしないようにしておこう。

とりあえず、何が言いたいかというと。


「今からアベータ・カーズさんをぶちのめすので、後でお話しをしましょうね?」

「……はい」


カインも了承したことだし、さっさと終わらせますか。

さっさとね。










◇◇◇◇


「……」


ああ……俺の苦労って何だったんだろうか。

思わずそう黄昏たくなるほど、目の前で一方的な惨劇。


『強い強い強い!!ルディス選手の使い魔、強すぎるぅうう!!あの少年、いくつ属性を持っているのか!?さっきからさまざまな属性の最上級の連発、見えない打撃、ルディス選手から取り上げた魔武器での剣技の連続!!カーズ選手、すでに意識を失って勝負がついている気がするが、それすら確認できないぐらいのスピードです!!』


いやいや、そんなの確認するまでもなくあいつの意識はなくなっている。

それでも愛良が止まらないのは、単純に八つ当たりだからだ。

生きているのが奇跡、というよりも愛良が攻撃と回復を繰り返している。

……今の完全に目が据わっている愛良を話をしたら、確実に言い訳する前に殺されるからもう少し止めずにおこう。

いやだって、俺も愛良が使い魔だってこと忘れてたし。

いつも一緒にいることが当たり前すぎて、完全に忘れてたんだ。

俺が愛良の名前を呼んだのだって、奴に勝てるのは愛良ぐらいしか思い浮かばなくて叫んだだけだし。

そりゃあ奴に捕まりたくない一心で無我夢中で叫んだから、魔力も籠っていたかもしれないが。

それで愛良が召喚されるなんて、考えてもいなかったんだ。

……そんな言い訳が、愛良に通じるか?


「こんのぉおおお!!」


ブチギレながら、攻撃と回復を繰り返す愛良。

……無理だ。

……愛良に殺される。

すでに『うっかり鬱帝』って冷やかに言われたばかりだし。

ああ、できればもう少し愛良が落ち着くまで生贄を痛めつけてくれ。

俺も気分的にカーズを滅して欲しい。

そんな俺の願い空しく、司会の声が響いた。


『は、判定が出ました!!文句なしのルディス選手の勝利!!ルディス選手ー!!使い魔を止めてくださーい!!』


司会、お前は俺に死ねと言うのか?

あの状態の愛良を止めることは、俺には無理だ。

いくら愛良が幼い姿でも俺には無理なんだ!


『ほらほらルディス選手!』


くっ……わざわざ煽りやがって……。

仕方がない……。


「……もういいから止めろ。な?」

「……それもそうだね。じゃ、今から楽しい楽しいお話会を開きましょうか?」

「……はい」


ああ、やっぱり止めるんじゃなかった……。

輝かんばかりの笑顔を浮かべた愛良に引きずられるようにして、俺は明るい試合会場から暗い廊下にむけて退場させられた。

……死にませんように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ