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176.癒されている間に終わってました

視点は愛良→カイン→愛良→カインです

「おー。愛良、おかえりー」


試合会場を出て控室の方に歩いていると、廊下の壁にもたれるようにしてちぃ兄ちゃんが待っていました。

ちゃんとした正装の王子様スタイルでかっこいいです。


「ちぃ兄ちゃん、ただいまにゃん」

「おーおー可愛い可愛い。さすが愛良。猫がぴったりだ」


思わず駆け寄ったら、ニコニコ笑ったまま私の頭を撫でるちぃ兄ちゃん。

すんごい機嫌よさそうです。

そういえば、お兄ちゃんズは犬より猫派だったね。

家族の中では私とお母さんだけが犬派なんだよねー。


「とりあえずは愛良。可愛いんだが服は着替えような。ほれ、服用意しといたから」

「はいにゃ」


ちぃ兄ちゃんに渡された黒一式の服を持って、控室でお着替え。

レースのフリルいっぱいの丈の短い黒いワンピースに、ちょびっと見えている白いかぼちゃパンツ。

ちっちゃく穴が開いていたから、そこから尻尾を出しているんだけど……これ、誰の趣味なのかな。

ゴスロリはお兄ちゃんズの趣味ではないと信じたいんだけど。

そう思いながら控室の扉を開けると、目が痛くなるほどのフラッシュ。


「おおおおお!!やっぱり黒猫お嬢には黒のゴスロリがぴったりぃいいい!!」

「……」


写真を激写していたのは、ちぃ兄ちゃんの元使い魔で現カインの使い魔であるコス王。

てめぇか、こんにゃろ。


「まぁまぁ、愛良。殴るのは勘弁してやってな。こいつに写真撮らせた後で、大にぃと中にぃに見せないといけねぇし」


カメラ没収して潰してやろうと思ったのに、笑ったままのちぃ兄ちゃんに頭撫でられながら止められちゃった。

残念……コス王を潰すのは、お家に帰ったと時にしよう。


「大兄ちゃんと中兄ちゃんはいないにゃん?」

「あー。大にぃたちは、ちょいと暴走するであろう人物を監視付きで監禁しているぞ」

「にゃ?」




―その頃の兄二人は。


「ちょっと兄さん!愛良の応援したいんだからここから出してよ!」


「駄目だ。お前は試合まで、ここで精神統一でもしておけ。そして無様に負けてしまえ」

※可愛い猫愛良の姿は貴様には絶対に見させん。見る前に死ね。


「ん?君は平和すぎる所から召喚されたんだから、試合まで落ち着けるようにとの僕らの気遣いを無駄にする気?」

※ガタガタ言わずに大人しくしとけや、このクソ餓鬼。


「……大人しくしています」


選手控室の一室に、ヤンヒロを監禁していました。





「じゃ、俺も監視に戻るから。ちゃんと試合も見ているから頑張れよー」


一緒にカイン達がいるところまで来るなり、ちぃ兄ちゃんは爽やかに笑ってどこかに行っちゃいました。

爽やかだったけど、背景が黒かった気がするけど気のせい……て、思っとこう。


「カインー、ただいまにゃん」

「おわっ」


試合に集中して見ているカインを驚かせようと思って後から抱きついたら、予想以上に驚いてくれました。

何しろ、振り返るなり顔を赤くして後ろに下がって尻もちついたからね。


「なっ……愛良!?」

「わーい、どっきり大成功だにゃん」

「何で服が変わってんだ!?」

「コス王チョイスの尻尾が出せる服にゃん。渡してきたのはちぃ兄ちゃんだけど、変にゃん?」


やっぱり私にゃ、ゴスロリ似合わないよねー。

どちらかと言うとシンプルなのが好きだし。


「い、いや……似合って、る……////」

「……どうもにゃ」


……なんか、顔赤くされながら言われると照れるなぁ。


「ふふふ、アイラ。可愛いですね」

「ほんと……」


ちょっと恥ずかしくなって顔をそっぽ向けていたら、左右からラピスとルナに挟まれた。

はれ?

なんでそんなに左右の腕を掴まれているんでしょうか。


「「アイラ?」」

「は、はいにゃ!」


な、何かこの二人、目つきが怖いです。

逆らっちゃダメって本能が訴えている。


「アイラ。この尻尾、触っていいですか?」

「僕、耳……」

「みゃ……」


手をワキワキさせていらっしゃる二人。

ちょ、何ですか、そのハンターみたいなギラギラ目つきは!

あれ、ハンターってことは私が獲物!?


「「いい(です)よね?」」

「は、はいにゃ……」


その後、二人にめちゃくちゃ触られまくりました。

私がぐったりするまで、ずぅっと。

もう、お嫁にいけません……。










◇◇◇◇


「ふみゃ……」


俺に抱きついたまま離れない愛良は俺を盾にしながら、反対側に座っているラピスとルナを警戒している。

その目はすっかりラピスとルナを危険人物として見なしている様子だ。

うん、確かに俺も見ていて引くぐらい愛でまくっていた。

俺も愛良の耳とかに触りたいと思っていたが、その考えも引っ込むくらいの愛で方だった。

もうあれは犯罪で捕まってもおかしくない。

というより、他の観客たちが試合を無視して三人を凝視しまくっていた。

二人が満足して気が緩んだ瞬間、その魔の手から愛良が自力で飛び出して俺に抱きついてからは、ずっとこんな調子だ。

耳が頭に着そうなほど垂れて、涙目で俺にしがみ付いている。

可愛いんだが、さっきのを見ていたから可哀相過ぎて笑うこともできない。


「愛良、もう二人も満足して大丈夫だから。な?」

「みゃ……?」


ガクガク震えている愛良の頭を撫でながら言い聞かせた……んだが。


「あら、まだもう少し触りたいんですけど」

「もう、一回……?」


自重しない獣耳に萌えた二人。

頼むから、愛良が落ち着かないからやめてくれ……。


「みゃっ!?ふしゃー!!」


ほら見ろ、愛良が警戒心剥き出しにしているじゃないか。

もうすぐ試合だから離れないといけないのに、こいつらの所に愛良を置いておくのが不安だ。

……保護者(皇帝)の所に預けてくるか。

こんだけ愛良もビビっているなら、癒し(リーン&シリウス)の所に帰りたいだろうし。


「ふしゃー!」

「愛良、リーンとシリウスの所に帰るぞ」

「!?」


リーンとシリウスに反応して、垂れていた耳をピンと立たせた愛良。

ついでに尻尾もゆらゆらと動くだけの元気を取り戻したらしい。


「リーンとしぃちゃんの所に帰るにゃ!今すぐ帰るにゃ!!」

「あら、もう少しここにいればいいのに」

「一緒に、あそぼ……?」

「嫌にゃ!猫化が解けるまで二人には近づかないにゃ!」


手をワキワキさせながら笑みを浮かべる二人に、愛良は泣きながら宣言。

……あれだけやられたら、そうなるな。

分かったから、とりあえずは保護者の所に行くぞ。










◇◇◇◇


「きゃー!マーマ、ぎゅー!」

「わううー!」


帝国の貴賓席に戻ってからずっと、リーンとしぃちゃんを抱きしめなぅ。

ニコニコ笑ってギューって抱きついてきてくれるリーンと、私の頬にすりすり摺り寄るしぃちゃん。

はぅ……癒されます。

可愛いよ……この子たち本当に可愛いよ!

この子たちがいて本当によかった!

ママはもうちょっと頑張れそうです!


「カイン、戻ったか」


……はれ?

お義父様が私たちの後を見ながらおっしゃったんですけども。


「ただ今戻りました」


お義父様に頭を下げるカイン。

……ん?

カインって、いつからいなかった……?


「カイン、お疲れ様です。素晴らしい瞬殺でしたね」


穏やかな笑顔で手を叩くお義兄様。

えっと……何を瞬殺?


「うむ。身体強化をかけずに走った時はどうしたのかと思ったが……すでに身体能力が上がっていたのか」

「はい。俺の魔武器の能力に、自動的に身体能力向上があるので。相手選手は魔力を使っていないことに油断していたので、すぐに終わりました。さすがに同じ手を二度目は使えないでしょうが」

「羨ましい能力じゃないですか」


楽しそうに話しているお義父様とカインにお義兄様。

これはもしかして……。


「……カインの試合、もう終わっちゃったにゃ?」

「……ああ」


うわ、カインに目線逸らされた。

これは絶対に拗ねてる!


「ご、ごめんにゃ?」


急いで謝ったんだけど、私の腕の中にいるリーンとシリウスは不思議そうにカインを見上げて首を傾げた。


「あえー?」

「わうー?」

「……」


……リーンとしぃちゃんも気づいていなかったんだね。

でも今このタイミングでその反応は、カインにとっちゃ逆効果だからね?


「ぐす……どうせ俺のことなんて……」


ほらやっぱりー!

本気でごめんー!

謝るからお義父様たちがいるここで鬱帝になるのは待ってー!


「……」

「ああ、これが三つ子様がおっしゃっていた『鬱帝』ですか」


キノコがにょきにょき、こんにちは。

そんな状態になったカインにお義父様は無言で距離を取り、お義兄様は感心している。

お義兄様、3か月のダイエット生活の間にお兄ちゃん達から聞いてたんですね。

お義父様みたいにドン引きされなくてほっとしました。


「カインもか……カインも独特な癖があるのか……リーンは真面に育つのか……」


……うん。

お義父様が何にショックを受けているのかは分かるけど、私たちに超失礼ですよー?

リーンはすっごくいい子ですからねー?


「いくらリーン達に夢中だったからって、俺が離れたことにも気づかないなんて……」


そしてカインはちょっと落ち着こうよ。

後から抱きついてくるのはいいけど、私までキノコの栽培に巻き込まれていますからねー?

うわぁ……貴賓席が、キノコ席に変わっちゃっていってるよ……。

リーンとしぃちゃんは、お義兄様がちゃっかり抱えて避難させているから大丈夫だけど……。


「カインー、ごめんにゃん……落ち着くにゃん」


……真面目に謝っているのに語尾に『にゃん』って付くから、自分でもふざけているようにしか聞こえない。

ちゃんと謝りたいのに……私まで落ち込んできそう……。

猫化する原因になったあの選手、見かけたら潰してやる……。


「……」

「にゃっ?」


ちょ……頭がくすぐったい。

この人、私の頭に顎乗せてただけなのに、猫耳に頬ずりしましたよ?

たぶん今猫耳垂れていると思うんだけど、そこに頬ずりしましたよ!?

セクハラで訴えますよ!?

さっきルナとラピスから散々弄繰り回された後なのに!!


「パーパ!」


そこに救いの手を差し伸べてくれたのはリーンと、大型犬サイズになってリーンを乗せたしぃちゃん。

しぃちゃんの目が若干キレ気味な気がするけど、それでもリーンを連れてきてくれていい子!


「パーパ、あんねー?」


恥ずかしそうに人差し指と人差し指をつんつんしながらカインを見上げるリーン。

もじもじして可愛いです。


「リーンねー。パーパ、だいすきなのー」

「……」


『きゃ、恥ずかしい!』とでも言いたげに小さな両手をホッペにあてるリーンちゃんの可愛さに、パパはノックアウトですよー。

何気に初めて『大好き』って言ってもらえて感激中のカインから解放されたし、キノコのお掃除始めましょう!











◇◇◇◇


掃除を終えた愛良が試合のために貴賓席を離れた後、俺はリーンとシリウスを膝の上に乗せていた。

控室まで送ろうかと思ったが、愛良に『リーンに大好きって言われた幸せを噛みしめていたらいいにゃん』と言われて、コス王たちに任せたから大丈夫だろ。


「えへへー」


膝の上に乗ったまま、恥ずかしそうに笑みを浮かべて俺に抱きつくリーン。

リーンに初めて『大好き』と言われた俺も、口元が緩んでいるんだろうな……。

さっきからシリウスに腕噛まれていることも、皇帝が羨ましそうにジト目で見ていることも、全く気にならない。

シリウスの結構な本気で腕から血がさっきからダラダラ流れているが。

皇帝が見過ぎてリーンが居心地悪そうにしているが。

本気で全く気にならない。


「パーパ。おてて、まっかっかねー」

「そうだなー。シリウスー、やめようなー?」


あ、つい血だらけの手の方でシリウスの頭を撫でてしまった。

白い毛並みに血が大量についてしまったが、まぁ自分で噛みついてきたんだしいいよな。

こいつもこいつで可愛いところはあるし。


「がうぅ?」


シリウスに気味悪そうに距離を取られたが、リーンは気にせずに抱きついたままだから別にいいか。

そろそろ皇帝がジト目を通り過ぎて睨んでいるように見えてきたが。

元が強面だから、軽く怖いと思う。


「……」

「父上。そんなに物欲しそうに見ていたら、リーンに怖がられますよ」

「む……」


皇太子の言葉に気まずそうに視線を逸らした皇帝。


「し、しかし……私は、一度もリーンに『大好き』と言われていない……」

「いや、皇帝。俺も今初めて言われましたから」

「カインでも一緒に暮らし始めてずいぶん経つのに今日初めて言われたということは、父上が言われるのは何年後になりますかね?まぁ、その頃になるとリーンも大きくなっているでしょうし、『好き』なんて言葉、滅多に言わなくなるかもしれませんが」


あはは……そんな様子で朗らかに笑う皇太子。

……なぁ、お前もリーンと同じように皇帝限定のドSなのか?

豚の時は皇帝にべったりだったが、痩せるとドSに目覚めるのか?

帝国皇族の血筋は実父に厳しすぎないか!?


「………」


皇帝がズトンという感じで落ち込んでしまっている。

俺とは別の意味で、貴賓席が暗すぎる。

リーンと皇太子の周辺だけ明るいがな。


「とと、変ねー?」

「本当だねー?」


いや自覚してなさそうだが、お前らが落ち込ませたんだぞ。

というより、そこの兄弟。

お前らタッグを組むのをやめろ、皇帝が立ち直れなくなるから。


『それではこれより2回戦を開始します!』


響いた司会の声に、リーンがピクリと耳を動かして飛び上がった。


「!?マーマなの!!」

「そうだね、ママの応援しようねー?」

「あい!」


……助かった。

リーンが皇帝から意識を外して俺の膝の上に戻ってきたし。


『まずはどちらも聞き慣れない名前のシン・ヒガシノ選手とアイラ・シドウ選手!んんっ!?シドウ選手の服装が変わってるー!?可愛い!可愛いんだがちょいと楽しみが減ったー!!』


観客席のあちこちから、残念そうなため息が続く。

てめぇらは一回潰すぞ。


「マーマ、かぁいー!」


試合会場に現れた愛良を見つけて、リーンが手を叩いて喜んだ。

いやいや、さっきまであの格好の愛良に抱きついていただろ?

あれか、抱きついていたからこそ見えなかったのか?

パパはちょっとお前たちの目が心配になったぞ。


「パーパ。マーマ、かぁいーねー?」


俺の膝の上に座り、顔だけこちらを振り返って笑顔を浮かべるリーン。


「そうだな」


愛良も可愛いが、お前も可愛いぞ。

思わず頭を撫でようと思って、手が血だらけなのを思い出した。

今は水属性も使えないし、愛良の試合が終わったら手を洗いに行かないといけないな。

身体能力はそのままだから、もう傷もほとんど消えているし。

……そういや、元凶のシリウスはどこ行った?

あいつも撫でた時に俺の血が付いたから、洗わないといけないんだが……あ、皇帝の足元にいた。


「わうー……くしゅっ」


……なんか、すごく嫌そうに前足で一生懸命頭に着いた血をとろうともがいている。

そして血の匂いで鼻がやられたのか、たまにくしゃみをしている。

なあ……俺の血は汚物か?

シリウス、お前は自業自得という言葉を覚えろ。

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