17.勘違いもほとほどにしましょう
先生が逃亡したことにより、教室内が一気に騒がしくなった。
主に龍雅の周りが、ですけどね。
カインの周りにも群がると思っていたんだけど、さっきの脅しでちょっと引かれたみたいで、遠巻きに見ている人が多い。
女の子達の視線は熱いですけどね。
ついでにお隣にいる私には『お前、何で普通にそこいるの?』的な死線を送っていますが。
別に嫉妬の視線なんて龍雅のおかげで慣れているからいいよ。
むしろ龍雅の時みたいに群がって迫ることがない分、楽ですから。
群がってくるとねー、本当に大変だから。
隣にいる私を思いっきし押しのけたり。
隣にいるからこそ龍雅からは見えない私の足を、踏んだり蹴ったり。
カバンに辞書とか重たいものをわざわざ詰め込んでぶつけてきたこともあったね。
嫌がらせにそれだけの労力を使えるなら、もう少し真っ当に迫れよって何度思ったことか……。
同じ女の子としてあの行動原理はよく分からないし、理解しようとも思わない。
勝手に群れてろってな感じですな。
「おい、愛良。何黄昏ているんだ?」
「なんでもない。カイン、訓練場ってどこ?早く行こ」
ちょっと前を思い出すと気分が憂鬱になるから、もう忘れよう。
それに嫌な予感がするし。
このままこの教室にいたらめんどくさいことが起こるって、私の感が訴えているもん。
「ああ、分かった。……が、ちょっと待ってろ」
カインは頷いたけど、なんか机に座ったまま『ボックス』を漁りだした。
『ボックス』っていうのは魔力がある人なら誰でも使える無属性の魔法で、何でも入る四次元ポケットみたいなものです。
しかも中は時間が止まっている状態だから食べ物の長期保存場所に最適、消費期限なんて気にしなくてもいい素晴らしい魔法です。
私、一番にこの魔法を覚えましたよ。
私のボックスの中身8割は食材って言いきってもいいと思う。
残り2割は作成中の魔導具とその材料、後は服と教科書関係の本ぐらいかな。
……カインのボックスの中に何が入っているのは知りませんけどね。
一度この人がボックスを開いたら、しばらくは目的のものが見つからなくて漁っていますから。
早くしてほしいなー。
そう思いながらガサゴソ漁っているカインを待つこと数分。
「愛良ー!サフィが案内してくれるって言うから、訓練場まで一緒に行こうよ!」
き・た・よ、めんどくさい子が!
しかもさらにビッチな金髪娘と、いかにも金持ちってな感じのカラフル頭な連中を伴ってるし。
はい、全力で関わりたくないです。
「ねーカインー。まだー?」
「……愛良、聞いてる?」
聞いてません、話しかけないでください。
そしてカインは早く目的の物を見つけて。
そんな私の願いが通じたのか、ようやく目的の物を見つけて顔を上げたカイン。
彼の手の中には、上質そうな紙に描かれた地図が握られている。
「愛良、これをボックスに入れておけ」
「校内地図?」
「ああ。もしも俺と離れる時はこれを見て移動しろ。迷ったら念話してこい」
「はーい」
なるほど、これを探すためにボックスを漁っていたんですね。
学校の中で迷子になるのはさすがに嫌だから、ちゃんとなくさないようにボックスにしまっとこう。
カインと離れることはそうないだろうから、あんまり出番はないだろうけどね。
「愛良ー……無視しないでよー……」
「よし、ならさっさと行くか」
そして龍雅はまだ諦めていなかったんだ……もういい加減、諦めてどっかに行きなよ。
カインに軽く流されてはいるんだけど。
「そうだね。遅刻は嫌だし、行こ行こ」
「あいらぁ……」
私も見習って龍雅を無視してカインの背中を押して教室を出て行こうとしたんですが。
「ちょっとお待ちなさい」
龍雅にくっついていた金髪娘とカラフル頭な子達が道を遮ってきました。
……君たち、次授業があるって分かってる?
「せっかくリョウガさんが話しかけているのに何ですの?あなたたちのその態度は」
いやいや、君の超上から目線な言動と自己中な態度、そして龍雅が正義みたいなことこそ何なんですかね。
あれですか、龍雅に話し掛けられたら喜び勇んで会話をしないといけない決まりでもあるんですか。
私には無理です。
「あんたたち、さっきからリョウガを無視してばっかで、いったい何様のつもりなの!?」
そう言って猫みたいに吊り上った目でこっちを睨む黄色頭。
うん、そういう君は何様なのかなー?
「えと……幼馴染なら、もうちょっと仲良くしてあげてもいいんじゃないかなーって思うんだけど……」
上の馬鹿丸出しの二人の後ろから、茶髪の女の子が控えめに言ってきているんだけどね?
幼馴染だからという理由で無条件に巻き込んだことを許してやるという義理もないんだよね。
何かこの子らの後ろで緑髪青髪赤髪男子もなんか言ってるけど、めんどくさいから聞かない。
「しぃちゃん、暴れる?」
「わーう?」
私の腕の中で『いいの?』的な顔で首を傾げるしぃちゃんが、すごく可愛いです。
荒んだ心が癒されます。
「シリウス、ここは教室だからやめろ」
「ぐるるる…」
カインに注意されて、尻尾をピンと立てて唸るしぃちゃん。
しぃちゃんはカインに指図されるのが嫌いみたいです。
カインが嫌いなわけじゃないとは思うんだけど……。
というか、カインさん。
あなたの言い方は、ここが教室じゃなかったら別に暴れてもいいと言っているのと同じですよ。
「みんな、愛良をいじめないで。仕方ないんだ、愛良がここまで怒るのも……僕が、悪いから……」
「リョウガさん……」
え、龍雅君。
私が無視をしている理由、分かっていたの?
鈍感だから絶対に気づいていないんだと思ってた。
「僕が……僕が愛良を独りぼっちにしちゃったから!愛良も寂しかったんだよね?ごめんね、気づけなくて」
「はい、黙ろうか」
勘違いだろうとは思っていたけど、やっぱり勘違いなのはどう訂正したらいいのか分からない。
というか、この子の脳内がどれだけおめでたいのか覗いてみたい気がする。
覗いたら後悔しそうだから永遠に分からなくていいんだけど。
「……カイン。いつまでたっても行けないから、転移で行こう。しぃちゃん、ぎゅってしとくよー」
「わうっ!」
「……仕方ないか」
しぃちゃんを落とさないように抱っこしなおして、カインの袖を握ると同時に、転移。
勘違い君の相手はしてられませんから。
こっちは久しぶりの投稿ですねー。
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ありがとうございます!
こっちは亀足で進めていきますが、よろしくお願いします!