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172.ダーク家長男って、誰のことですか

視点はカインです

◇◇◇◇


愛良がダーク家長男と婚約……婚約?


「……は?」

「……へ?」


思わず俺と愛良の呆けた声がその場に響いた。

今、この元豚皇子は何と言った?

俺は捨てられたし、弟のことか?

だが、さっきの言い方だと俺のことだよな?

……何を考えているんだ?


「……などなど。思考はかっこつけていても、お嬢が別の奴と婚約する可能性が出てきたことに焦って無意識に抱きしめているとか……本能に忠実になれ!」

「いやいや、忠実になったらカインも同類に見なされるって。カイン、今は耐えろ!だけど今すぐお前らの子ども(特に幼女様)が見てぇえええ!やっぱ押し倒せ!!」


リーン達の後ろから現れたコス王とルシファーの言葉を聞いて、ようやく無意識のうちに愛良を後ろから抱きしめていたことに気が付いた。

だけど、お前らも落ち着いた方がいいと思うぞ。


「がうっ!!」

「「ぎゃあああああ!!」

「お前ら、マジで死ねばいいと思うよー。とりあえず、お嬢ちゃんは聞いちゃダメだからねー?」


……キレたシリウスに噛まれたのは、自業自得だな。

コス王に言われるまで愛良を抱きしめていることにさえ気づかなかった俺にシリウスが来なくてよかった……。

とりあえずはコス王、ルシファー。

俺が言えたもんじゃないが、お前らは一回出て頭冷やして来い。

そしてクロノスは、この馬鹿共の会話が聞こえる前に、よくぞ愛良の耳を塞いだ。

俺はどうすればいい?

とりあえず、馬鹿使い魔二人をぶちのめせばいいのか?


「……結局カインも、お嬢ちゃん同様にテンパってんだねー。いまだにお嬢ちゃん抱きしめたままだし、お嬢ちゃんはお嬢ちゃんで思考止まってるしー。元豚皇子ー。俺、とりあえずこの馬鹿二人ゴミ捨て場に捨ててくるから、リーンのことお願いねー。ちょっとでも傷つけたら、肉体だけもう一回豚に戻してやるからー。しぃちゃん、行こー」

「わう!」

「絶対に傷つけないから、豚には戻さないでくださいね」


シリウスに噛みつかれたままの馬鹿二人の首根っこを掴んだままズルズルと笑顔で引きずるクロノスの脅しに、顔を引きつらせて懇願する元豚皇子。

ああ、豚には戻りたくないんだな。


「……君たちは、どうして固まっているんだい?愛良は君が傍にいる時が一番いい笑顔だと客観的に見てそう思ったから、父上がダーク家の当主夫人に話を通していたんだけど……ねー?」

「ねー?」


不思議そうに首を傾げたままリーンと顔を見合わせる元豚皇子。

そうか、皇帝と母上が話を通したんだな……って、はーはーうーえーっ!?

俺、捨てられてから母上に一度も話していないのに、何してんですかっ!!?


「ちょ、はぁ!?」


思わずでかい声で叫んでしまった俺は悪くないと思いたい。

何で母上が動いてんだ。

訳が分からん。


「カインはダーク家の長男で間違いないんですよね?父上が愛良を養女にする発言を聞いたらしい君の弟が、当主夫人を連れて父上の所に話を持ってきたみたいですよ」


あいっかわらず丁寧な口調で穏やかに説明する元豚王子。

違和感しか感じない。

いや、それよりも皇帝だ。


「皇帝!どういうことですか!?答えて下さい!」

「ちょ、父上!?カイン君!父上から手を離してください!」

「カイン、皇帝さんの意識飛んじゃってる上、首絞まってるからねー?落ち着こ?ね?」


思わず色々ショックを受けて意識がない皇帝の襟首を掴んでしまった。

元豚皇子と衝撃から立ち直ったらしい愛良が、俺の後ろから抱きついてきたから止めるけど。


「ごほ……危うく死ぬところだったではないか」


俺が襟首を掴んだことで皇帝も意識が戻ってきたのか、軽く咳き込みながら俺たちを見下ろした。

微妙に元から怖い顔が、何とも言えない威厳を放っているため、思わず身を竦めた俺と愛良。

絶対に怒っている。

というより不敬罪だよな、俺。

まずいな……。


「アイラ……せっかく娘となったんだから、お義父様と呼びなさい」

「あ、はーい。お義父様」


……は?

今、この威厳に満ちた表情のまま、皇帝は何と言ったんだ?

俺に対するお叱りの言葉とかじゃないのか!?

なんで重要視するのがそこなんだ!?

……いや、考えるのはよそう。

きっと幻聴に違いないから。


「それで、皇帝。どういうことなんですか?」

「……何がだ?」

「父上、ダーク家当主夫人と話し合いになられた内容についてです」

「…………そうか」


元豚皇子に教えられた瞬間、何とも言えない微妙な表情になって目を逸らした皇帝。

やっぱり変わり過ぎて着いていけてないよな?


「ゴホン……ダーク家当主夫人と次期当主が、アイラを養女にするならダーク家の長男を婚約者にしないかと言ってきたのだ。聞けば、カインがそのダーク家長男にあたるようだしな」


……おいダーク家!!

仕方がないとはいえ人のこと捨てておいて、何さらっとバラしてんだ!?


「今後、私の養女としたことでアイラに貴族の子弟共が押しかけるであろうし、それならば先に婚約者はいると発表していたほうが、煩わしくなくてすむ」

「そうですね。相手もフィレンチェ王国のダーク家長男なら、貴族たちも文句は言わないでしょう」

「……」


もう完全にダーク家長男として扱ってくる皇帝と元豚皇子に言葉が出ない。

俺は、前にも言ったがダーク家に戻るつもりはないんだが。

あ、でも愛良が皇族となったのなら、ダーク家長男の肩書きがあった方がいいのか。

俺がダーク家に戻りたくなかった最たる要因だし。

いや、親父やギルドのこともあるけどな。


「………」

「……とりあえず、カインはダーク家の人たちと話してきたら?ちょうどいい機会だとは思うし」


呆気にとられていると、苦笑を浮かべながら愛良が俺の背中を軽く押した。

愛良が押した先にいるのは、遠巻きにしながらこちらを見ている俺の弟。

そういえば、弟のルーシェは学園祭のイベントに出ていたから、俺が愛良のことを好きだと言うのを知っていたな。

そして愛良が帝国の皇女となった話を聞いてすぐに俺がダーク家長男であることと婚約の話を持ってきたルーシェ。

……なぜだろう。

ルナによく似た表情に笑みを浮かべているはずなのに、『すべてが計算通り』と言わんばかりの笑みに見えるのは、俺の気のせいだろうか。

なんだか泣きそうだ……。


「そんな表情しなくても……急に婚約者とか言われて戸惑うのも分かるしさ。嫌なら受けなきゃいいだけの話だし」


苦笑を浮かべながら俺の肩を叩く愛良。

婚約が嫌……?


「い、いや!愛良の婚約者になるのが嫌なわけじゃないから!……あ」

「……へ?」


思わず言ってしまった言葉に、目を丸くする愛良。

あ……つ、つい本音が出た……。


「お……俺、弟と話してくる!」

「い、いってらっしゃーい?」


呆気にとられながら手を振る愛良を背に、俺は逃げた。

だって、愛良がどんな反応をするかなんて見たくなかったんだ!


「カインはヘタレか」

「ヘタレですね」

「パーパ、ヘタレー」


皇帝、元豚皇子、リーンからのヘタレの三拍子は聞こえなかったふりをしよう。


「兄さん、ヘタレ過ぎだからやり直し」


弟にまで言われたがな!

泣くぞ!?


「はい、じゃあ『婚約者になるのが嫌なわけじゃないから!』からいくよー」


手をパンパン叩きながら朗らかに笑う実弟、ルーシェ。

え……本気でやり直しなのか?


「る、ルーシェ?ほら、久しぶりに話すんだし、別のことを話さないか?」


10年弱ぶりの最初の会話が『ヘタレ過ぎ』だったけどな。

こんなことなら、学園祭のイベントの時に普通に話していればよかった。


「兄さんが脱ヘタレしたらね」

「ぐ……」


当然のように言いきって笑みを浮かべる弟。

……る、ルーシェってこんな性格だったか?

昔は泣きながら俺を閉じ込めた祖父に牢屋から出してくれって懇願してくれる、優しい弟だったのに。

思わず遠い過去の想いを馳せていたら、目の前でニコニコと笑っていた弟の後頭部に向かって、シンプルな扇が振り下ろされた。


「いっ……つぅ?」

「……ルーシェ。兄をからかうのはやめなさい」


そう言って弟を諌めたのは、ルナやルーシェによく似た、しかし表情は薄い金髪の女性。

俺たちの母だ。

その無表情に近いその目は、俺の姿を見るなり柔らかく緩められた。


「久しぶりね、カイルディーン。元気そうで安心したわ」


カイルディーンか……懐かしい。

久しぶりに本名を呼ばれても、あんまり感慨が湧かないんだがな。


「……お久しぶりです、母上」

「そうね……ルディは、大きな病気にかかることもなく?」

「ええ、まぁ……」

「「……」」


か……会話が続かない……。

久しぶり過ぎて何を話したらいいのかも分からない。


「うっわー……ないわー。兄さんも大概ヘタレだけど、会うまで張り切っていた母様も兄さんに会った途端に言葉が出ないとか本当にない」


……ルーシェ。

何でお前はそんなに冷たい子になったんだ……。


「ほら、母様。兄さんに教えてあげなよ。兄さんを追い出したクソジジイは、僕と母様と姉さんで精神的に追い詰めて離れに引き籠らせたって」


母上に叩かれた頭を押さえたまま、口を尖らすルーシェ。

祖父は引き籠ったのか……ということは、俺の鬱とか引きこもりは父経由の祖父の影響か?

いや、それよりもルーシェ……せめて母上に言わせてやれ。


「だからね、兄さん。ダーク家に戻ってきても問題なしだよ?クソジジイは当分引き籠って出てこないだろうし、父様に関しては兄さんが戻ってきてくれたら大喜びだし」

「……」


清々しいまでの笑顔のルーシェの言葉に、俺は何とも言えない気持ちになった。

仕方がなかったというのは分かるが今さらだ、という気持ちが離れないんだ。


「俺は……」


俺は、今のままでいい。

親父の息子のままギルド『清龍』の次期ギルドマスターとして生きていきたい。

あのギルドやギルドメンバーたちは、捨てられた俺を受け入れてくれた場所だ。


「俺は、このままで……」

「というか、あの副会長さんと婚約したければ、ダーク家に帰ってくるしかないよ?」

「……は?」


俺の決意を伝えようと思ったのに、にっこりと笑顔を浮かべたルーシェに阻まれた。

その後ろでは、母上も似たような笑みを浮かべて腕を組んでいる。


「……ルーシェ?母上?」


……すでに俺の逃げ道はない気がしてきたんだが。


「だって、兄さんがダーク家に帰ってこないと、彼女と婚約するのは僕になっちゃうし」

「……は?」


ルーシェと愛良が婚約?

……確かに俺がダーク家に戻らない場合は、ルーシェがダーク家長男になるわけだが。


「そうね、貴族にとって一度交わした約束を取り消すことは不名誉だもの。それが婚約となると、なおさら。ルディがダーク家に帰ってこないなら、ルーシェと帝国皇女様が婚約することに……」

「ダーク家に戻ります」


母上が言い切る前に宣言。

それを聞くなり、母上とルーシェは似たような笑みを浮かべて手を叩いた。


「あら、それはよかった。主人が喜ぶわ」

「よし、これで兄さんが戻ってくるね!姉さんにも教えてあげなきゃ!」

「……戻るにしても、俺は今まで通りの生活をするからな。ダーク家もルーシェが継げ」


この二人に乗せられたのは自覚しているが、これだけは譲れない。

今さらダーク家当主になんかなれるか。


「それは別にいいよー?兄さんは頑張って副会長と両想いになってね。あの空振りは痛々しくて見てらんないし。知ってる?あのイベントでの兄さんの空振りをみた学園の人たちのほとんどが、兄さんを生暖かく見守ることにしたんだって。よかったね、学園公認の一方通行、片思いだよ」


な……何も、嬉しくない。

俺、泣いてもいいんだろうか。

カインの弟、ルーシェ君の小話


中等部で生徒会長。

中等部の生徒会顧問になった中兄ちゃんにとっても憧れていて、多大な影響を与えられ中(笑)

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