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171.豚皇子の調教の結果がおかしいです

視点は中兄ちゃん→愛良です

◇◇◇◇


「愛良よ!お兄ちゃんはいつまでもお前のお兄ちゃんだぞ!!」


おやまぁ……。

愛良がややこしいこと言っちゃったから、大が狂喜乱舞しているよ。

さっき見た時は珍しく冷やかな笑顔を浮かべていたのに、今じゃ顔の筋肉緩み過ぎでしょ。

まぁ、溺愛している妹から『お兄ちゃんとられてやだ!』的なことを言われたから仕方がないんだろうけど。

だからってね?


「大、そのままのテンションで愛良に抱きついて僕にお仕置きされるのと、大人しく静かに感動を噛みしめて安全をとるのと、どっちがいい?」

「……大人しくしている」

「うん、賢明な判断だね」


まったく、僕に抱きついている愛良に抱きついて来ようとしないでよ。

僕まで抱き合うことになるじゃないか。

僕に抱きついてもいいのは奥さんとクロノス、それに母さんと愛良だけだし。

あ、今は可愛い甥っ子と愛良の使い魔もオッケーだね。

それにしても。


「むぅ……」

「あ、愛良?悪かったから。な?」


僕に抱きついたまま顔を膨らませてそっぽを向いている愛良と、必死に宥めようとしているカイン君。

うーん……さっきのは、たぶんカイン君が構ってくれなかったから、愛良は拗ねているんだと思うんだよね、僕は。

恋愛感情が育ってきたとはいえまだまだ子どもだから、カイン君が相手してくれない寂しさを、大がカイン君にとられたと勘違いしたんだろうけど。

……僕が昔愛良の恋愛感情を封印したから自業自得なんだけど、ちょっとカイン君には悪いことしたなぁ。

いや、でもね?

産まれたばっかでまだ目も開いてないのに、小さな手で僕の指を掴んで離さなかったんだよ?

もう可愛すぎたから、思わず父さんに悪ノリして書いちゃったんだよね。

あの頃は僕らもまだ若かったしなー。

……まぁ、それで今、愛良の恋愛感情は小学生レベルなんだけどね。

それでもカイン君が傍にいて成長は早いからあともう少しで愛良も自覚しそうだし、別に気にしなくてもいっか。

可愛い妹をそのうちあげるんだから、カイン君はもう少し頑張って耐えたらいいよ。

帝国の皇帝も、二人をくっつけるために何か考えているみたいだし。

あ、周りがくっつけようとしているからって調子に乗って、結婚前に手を出したら呪ってやる。

特に、頭部だけ老けるのを早めてやるから。

顔がよくても髪の毛が寂しかった時の残念さは半端ないしね。

うん、カイン君を呪う時は頭部に集中しよう。


「で、君たちは何を騒いでいたんだい?」


わざわざ遮音の結界まで張ってご丁寧というか何というか……。

結界の外にいる野次馬達が、興味津々さを隠さずにこっちを見ているよ。

どうせ龍雅とか大の馬鹿妹のことだろうけどさ。

……うん、どうでもいいね。


「やっぱりどうでもいいや。それよりさ、愛良。僕たちが調教した結果の元豚皇子を見に行こうよ。今はちぃが先に皇帝の所に連れて行ってるからさ」

「豚皇子?……あ、そういやお仕置きしてたんだったね。忘れてた」


どうでもいいことは記憶の片隅にも留めない愛良。

この子のこういう性格は、カイン君がフォローするだろうから直さなくてもいいや。


「……あの状況を忘れられるお前がすごいと思うぞ」

「すぐに切り替えられるところが、愛良のよいところだと我は思う」


そこ、こそこそ煩いよ。

君たち、実は中身とかよく似ているよね。


「中兄ちゃん、お兄ちゃんズがどんな調教したのか興味あるかな?」


ふふふ……この子たちがどんな反応をするのか、楽しみだなぁ。

愛良の義理兄になるって思ったから、僕らにしては珍しく頑張ったよ。

うん、100年に一回くらいの頑張りだったと思うね。

途中で父さんまでしゃしゃり出て来たのは面倒だったけど、『僕の愛良ちゃんの義兄になりたいんだったら、これくらい耐えてもらわないと!』って泣きながら積極的に調教したから多目に見てあげる。

とりあえず、父さんの所にそろそろ一回愛良を連れていっておこうかな。

愛良を覗くばっかで全然会えてないから、そろそろ発狂しそうなんだよね。

そうなったら、わざとでないにいろ天災が起こってしまう。

民に被害が出ることは勿論だけど、せっかく愛良が出る魔闘大会が中止になっちゃうのはつまらないよね。

カイン君だって、公衆の面前で龍雅をボコれるチャンスを潰されたくないだろうし。

うん、パーティーの後にでもそのまま愛良を連れていこう。

何はともあれ、さっさと元豚皇子のところに行こうかな。

僕らの力作の所にね。

ふふふ……この子達の反応が楽しみでしかたがないよ。


「うん、じゃあ戻ろうか」

「はーい。カイン、大兄ちゃーん。置いてくよー?」


目先の楽しみに機嫌が直ったらしい愛良は、こそこそと話していた二人に声を掛けてから、カイン君の手を握って歩き出した。

……カイン君も恥ずかしがる様子もないぐらい自然に。

やっぱりさっきのはカイン君が構ってくれなくて寂しいってことだよね。

うーん……お兄ちゃん的には複雑なんだけど、そろそろ妹離れしないと奥さんに怒られちゃいそうだしなぁ。

愛良が成長してきていることは喜ばしい事ではあるから、僕らも我慢しないといけないか。

だけどね、カイン君……間違ってうっかり君の黒歴史の数々を世間にばらしたらごめんね。










◇◇◇◇


「……さっきから嫌な予感がしまくる」


一瞬体を震わせるなり血の気の引いたカインが、繋いだ手の握る力を強めた。


「へ?どったの?」

「……なんとなく原因は分かるんだけどな」


カインの視線の先には、大兄ちゃんと並んで歩く中兄ちゃんの姿。

その視線に気付くなり、中兄ちゃんはニコっと笑みを浮かべた。

ああ、うん……きっと中兄ちゃんから不穏な考えを感じ取っちゃったんだね。

お疲れ様です。

繋いでいるのとは逆の手でカインの腕を軽く叩くと、うっすら笑みを浮かべて強張っていた肩の力を抜いた。

よし!

カインの力も抜けたことだし、リーン達の所に戻って見物です!

そう思ってリーン達と分かれたところまで戻ってきたのですが。


「……人がいっぱいだねー」


なんだか愕然とした表情の人たちでいっぱいでした。


「何なんだ……先に進めないな」


あまりの人の多さに、カインも辟易している。

だけど、秘密兵器がいるので問題なしです。

さっさとリーンとしぃちゃんに会って癒されたい。


「というわけで、大兄ちゃん!よろしくお願いします!」

「うむ、任せるがいい」


私の一言で片頬を上げた大兄ちゃんは、すぐに無表情になると口を開いた。


「退け」

『……』


大兄ちゃんのたった一言で静まり返って道を開ける野次馬さん達。

大きな声で怒鳴ったわけでもないのに、大兄ちゃんの声はよく通るんだねぇ。


「……!?マーマ、パーパ!おかーりー!!」

「わうわーう!!」


はうっ……野次馬さんたちの通り道の向こうから、天使たちが走ってくる……。


「あっ?」

「わふぅ……?」


……まぁ、袴では走りにくいよね。

リーンちゃん、転びました。

もちろん隣にいたしぃちゃんが痛くないように間に入ってくれてるけど。

あんまりにも転がりまわるから、ママ心配です。

しぃちゃんも『またぁ……?』って呆れてますよ。


「あう……しーたん、あーとねー」

「わう」


きょとんとしたまま、しぃちゃんのおなかをポンポン叩くリーン。

うん、謝る前に上から退いてあげようね?

とりあえずはリーンをしぃちゃんの上から退かそうと近づいたら、それよりも早く金髪のイケメンがリーンに近づいた。


「リーン、痛いところはないかい?」


優しい手つきでリーンを立たせた、少しぽっちゃり系なイケメン。

……誰ですか、アレ。


「愛良、カイン君。アレが僕たちの調教の結果だよ」

「我も、もっと参加したかったのだ」


ニコニコと笑みを浮かべたまま満足げに頷いている中兄ちゃんと、ちょっと不満そうな大兄ちゃん。

えーと……お兄ちゃん達って、誰を調教していたんだっけ?

豚皇子だったよね?

え、豚が人間にクラスチェンジしているんですけど!?

しかも少しぽっちゃりしているけど、十分イケメンって呼べるくらいに!

そんでもって、さっきまでリーンと私を見てギャーギャー騒いでいたのに、何であんなに慈愛に満ちた優しい目でリーンを抱っこしているんですか!?


「いや、この短時間で、変わり過ぎでしょ……」


確かに、目元とか皇帝さんに似ているかなって思うけど。

皇帝さんが無表情でも怖いお顔をしているけど、元豚の皇太子さんはちょっとぽっちゃりしているからか、普通にしていても優しそうなんですけど。


「現実的に無理があり過ぎる……別人じゃないのか?」


思わずカインと小声になっちゃいますよ。

マジで信じられない……。

ほら、リーン達の傍にいた皇帝さんも、無表情で立ったまま意識が飛んでるって。


「んあ?俺らがいるんだから、不可能も可能になるに決まってんだろー?」

「あ、ちぃ兄ちゃん……」


……そういや、調教したのはお兄ちゃんズでしたね。

具体的に、何をしたんですか……。


「具体的に?単純に1分を1日になるように時間をゆっくりしただけさ」

「その中で、ひたすら走らせまくったな。後からアロー系の魔法が追いかけさせたが」

「もちろん食事、睡眠管理も俺たちがやったぞ」

「「うわー……」」


お兄ちゃんズがそこまでしたなら、そりゃ痩せるよね……。

しかも栄養管理まできっちりされたなら、そう簡単にリバウンドもしないだろうし。


「でもあんなに性格変わる?」


あんだけギャーギャー騒いでいた性格が、あんなに穏やかになるもんですか?


「いや、ならんだろ」


すぐさま突っ込むカイン。

だけどお兄ちゃんズはニヤッと笑って親指を立てた。


「「「ところがどっこい、なるもんだ」」」

「具体的にどうやって?」

「ふむ。ひたすら走らせた後の休憩中にリーンと愛良の写真や動画を見せたのだ」

「二人が笑顔のを中心にねー。ほら、癒しって必要でしょ?」

「それを3か月繰り返してたら、いつの間にかあんな感じになったってわけだ」


なるほど、死にそうなくらい辛くてどうしようもない状態で、可愛い子どもの笑顔に癒されていったってわけね。

……それ、何て洗脳?


「ふむ……それにしても、久々に達成感を味わったな」

「本当に。ここ何百年か、頑張っても頑張っても報われない行動ばっかりとってたからね」

「いやいや、今度こそやり遂げるに決まってんだろ」


お兄ちゃんズは何故か揃って遠い目をしていらっしゃいます。

うん、ああいう時は詳しく聞かずに放置が一番。

それより私はあっちが気になるし。


「えーと……皇子様?」


豚をつけようかと思ったけど、もう豚とは言えないだろうから何て呼べばいいのか悩む……。

そう思って無難に皇子様って呼んだら、リーンを抱っこしたまま輝かんばかりの笑顔で振り向かれました。


「皇子様なんて他人行儀な。君は父上の養女になったんですから、もう僕の立派な妹です。お義兄様って呼んでください」


爽やかな笑顔を浮かべていう皇子。


「「いや、誰だアンタは」」


あ、カインと被った。

いやだって、別人としか言いようがないんです。

絶対に別の人じゃないんですか、これ。


「僕は間違いなく帝国の皇太子ですよ。三つ子様方にダイエットを協力してもらい、ここまで痩せることが出来ました。時間切れだったので戻ってきましたが、後は自分で努力して父上のようになりたいと思います」


リーンを抱っこしたまま、片手を胸にあてて穏やかに微笑えむ皇子……お義兄様。

そうか、少しぽっちゃり系だけど、ダイエットの途中だったんですね。

まだまだ向上心があるのはいいことだと思います。

……私たちの精神力が、さっきからダダ削りされていますがね。


「にーたま、えらーねー」


こんだけ見た目が変わったのに気にすることなくお義兄様の頭を撫でるリーン。

この子は将来、変なことにも動じない大物になるに違いない。


「ありがとう、リーン。今まで酷い事をしてごめんね?これからはリーンが立派に父上の跡を継げるように、頑張って勉強するね」


あんた、皇太子の座にこだわっていたんじゃないんですか。


「えー……リーン、パーパみたい、ちゅよーくなりゅの!」

「ぐはっ……」


リーンちゃん、実のお父さん目の前にしてカインみたいになりたいなんて言っちゃだめ。

ようやく衝撃から戻ってきた皇帝さんの意識が、もう一回飛んで行っちゃったから。

そしてカインが嬉しそうに表情を緩めているから。


「そっか……じゃあ、アイラ。ダーク家の長男と婚約して、彼を一時的でもいいので皇帝の座に就けてください。そうしたら、リーンも次期皇帝になることを納得するはずです」


爽やかな笑顔のお義兄様。

えーと……頭がパニックで話についていけない。

ダーク家長男って、誰だっけ?

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