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170.誰に妬いているんでしょうかね?

視点はカインです

「ちょ、兄さん!サフィが何をしたって言うのさ!?いくらなんでも、それは酷いよ!!」


長男の決定に、異を唱えるのは屑。

壁に貼り付けられたままの無様な格好だがな。


「王家から追放されるなんて、間違ってる!サフィは優しい子だよ!!」


うん、それはお前限定だ。


「それに、この間は困っている人を見かけて声をかけていたよ!」


もともと王女に王宮からの言伝を持ってきた王女使いのメイドだったがな。

それも王女に何度か呼びかけたが無視られて途方に暮れていた所を、お前に見られたから仕方なしに声かけたんだ。

ついでに言うと、あのメイドはその日以降、学園内では見かけていない。


(ふむ。そのメイドなら我がすでに王宮に戻してあるから問題ない。こやつと王が無意味に取り潰した家の者たちで不正など行っていない者たちに関しては、子どもの留学を名目に家族総出で国外に避難させている)


あ、そこらへんもちゃんと動いていたんだな。

どちらにせよ、奴がおめでたい頭をしているのは理解できたんだが。


「……脳内妄想大劇場、見事に開幕中だね」


俺の背中に抱きついたまま、呆れ交じりに呟く愛良。

愛良のことを嫁と叫ぶのと同じくらい分かりやすい妄想だ。

……愛良を嫁と叫ぶのを思い出してイラってした。

壁に貼り付けたままのU型さすまたを、もう少し突き刺してもいいか?

屑の首が締まるぐらいまで。


(うむ、よいぞ。その代わり、壁の修繕費は全帝用の口座から引き落としておく)

(ちょっと待て。何で俺の全帝用の口座を把握しているんだ)

(我らに分からぬことなどほとんどない。もちろん、本人でなくとも問題なく引き落とせるから安心しろ)


何にも安心できない……むしろ不安しかない。

今度、口座を変えておこう。


「それに!サフィが僕の婚約者にするなんて、勝手に決めないで!僕には愛良がいるんだから!」


あ、お前まだしゃべっていたのか。

聞く気がなかったから完全に無視していたな。

もうお前が口を開くと、こっちの気分が萎えるから黙っておけよ。


「龍雅よ、我はお前と会話を成立させる気はさらさらない。お前の婚約者となるこの愚かな娘をもうじき空き部屋となるこやつの部屋へと送り届けるがいい」


あ、長男も同じこと思ってたんだな。


「ちょ……話を聞いてよ!」

「愛良のことだろう?愛良は帝国の皇帝の養子となった。つまり皇女だ。この国で召喚されただけのお前とは身分が釣り合わないから諦めろ。なぁ、愛良」


淡々と屑の顔すら見ずに、俺の背中に抱きついたまま様子を伺っている愛良の頭を撫でた長男。

すでに興味すらなくなってるだろ。


「えーと……?カイン、ちょっと屈んで」

「ん?」


不思議そうに長男に撫でられていた愛良は愛良で、片腕を引っ張って俺に身を屈ませると、耳元に口を寄せた。


「皇帝さん……じゃなかった。お義父様はそのままでいいって言ってたし、大兄ちゃんは身分なんか気にしなくていいって言ってたよね……?」

「今は話を合わせておけ。な?」

「はーい……」


余りにも長男の表情が淡々としていたためか、少し自信がなさそうな愛良。

いや、これは完全にお前から屑を離すためだろ。

というか、さっきからの長男の念話で分かるだろ、そんなの。


(ふっふっふ……我は愛良の前ではかっこよくて頼れるお兄ちゃんでいたいのだ!ちょっと落ち込んだりした姿でも、可愛い妹には見せんぞ!念話もお前の思考も愛良には聞こえないようにしているに決まっているではないか!)


今のが、見た目は相も変わらず冷やかな雰囲気を漂わせている長男からの念話の内容だ。

おい、シスコン。

だからさっきから外面と中身が一致していなかったのか。

全部が全部、愛良にかっこよく思われたいからか。

俺、もう結構お前が残念な奴だって知っているんだけど、そこはいいのかよ。


(……お前に関しては諦めた。……が)


見た目冷やかな目つきのまま、俺と愛良に手を伸ばす長男。

同時に、愛良を後ろに優しく押して、俺の額にデコピンを食らわせた。


「ぐっ!?」


ひ、額が割れる……。

俺の脳みそ、ぐちゃぐちゃになってないだろうな……。


「うあ……痛そ……」

「全く、無自覚に顔を近づけてイチャつきおって……。あんまり屑の目の前でイチャつくと、親父の封印がまた破かれるところだったではないか……」


長男がぶつぶつ小声で言っている、痛みでうまく聞き取れない。

そういえば、屑と王女がいないが……。


「奴らなら、お前たちが内緒話する前に学園の寮に転移させた。あれ以上いたら、ヤンヒロが大爆発してパーティーどころではなくなるからな」


俺の脳みそも、今それどころじゃなくなってきたんだが……言っても無駄か。

諦めよう……。


「大兄ちゃん。龍雅たちいなくなったんだし、その冷やかな笑顔やめてよ。大兄ちゃんにその表情は似合わなくて怖い」


念話を聞かされていなかった愛良にとって、今の長男は冷やかな表情を浮かべて怒っているようにしか見えないだろうから、たしかに怖いだろうな。

中身は拗ねてるだけなんだがな。


「ふむ……それもそうだな」


愛良の言葉に一理あると思ったのか、頷いた長男。

……が。


「……む?」


相も変わらず冷やかな笑みを浮かべたままだ。


(カインよ……。表情が元に戻せんぞ)


は?

普通に表情筋を緩めたらいいんじゃないのか?

というか、表情を自分で戻せないってどうなんだよ。


(ふむ。冷やかな笑みは中の専売特許で、我がする必要 はないからな。中の真似をしておるのだが、長時間真似をしていて筋肉がつったようだ)


お・ま・え・は!!

やっぱり馬鹿だろ!!

長時間って、たったの5分かそこらだろ!!

アホか!?アホなのか!?

アホしかありえないだろ!?


(アホアホ連発するでない。貴様のその中途半端な長さの銀髪を根本から根こそぎ抜いて、貴様を好いている6大貴族の土娘にくれてやるぞ。あの小娘なら、怪しげな薬を作るのに使うかもしれないが。ああ、それかカーズ家(※カインを狙いホモ男)にでもやるか)


やめろ!

色々泣けてくるから止めてくれ!!

立ち直れなくなるから!!


(うむ、貴様が立ち直れない方が、愛良はまだまだ我らで独占できるから、別によいぞ)


俺は何も問題ない!

だから、さっさと妹離れしろ!


「……大兄ちゃんとカイン、二人で見つめ合って仲良しだねー。前はあんなに怖がってたのに」


むっすー。

そんな効果音さえ聞こえてきそうな愛良。

……別に、愛良のことを放っていたわけじゃないからな?

愛良は俺に抱きついたままだし。


「愛良?」

「愛良よ、拗ねるでない。お兄ちゃんは愛良が大好きだぞ?」

「お前は自重しろ」

「やっぱり仲良し……」


あ、ついに愛良が俺から離れた。

……これって、焼きもちか?

あ、でも長男だしありえないな。


「ただーいまー」


そんななか、帰ってきたのは次男。

長男の隣に現れるなり、愛良は次男に抱きついた。


「中兄ちゃん!大兄ちゃんとカインが私のこと忘れて仲良くしてるの!大兄ちゃんは私のお兄ちゃんなのにー!」

「「カインに妬いていたのか!!?」」


お、俺が長男と仲良くしていたからじゃなくて、逆だったのか……。

は、恥ずかしい……というか、泣きたい。

愛良が顔を赤くしたりしていたから期待していたのに、自意識過剰だったのか……?

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