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169.外面と中身が一緒だと、いつから錯覚していた?

視点は愛良→カインです

「……カイン、歩きにくいから離れて」


後にくっついているカインをズルズル引きずりながら歩くのって、超めんどくさいんですけど。

キノコまで生やさなかったのは褒めてあげるけど、歩きにくいことこの上ない。

お兄ちゃんたちがせっかく綺麗に帯を作ってくれたのに、形が崩れちゃうでしょ。

帯がボリュームあるから、君だって抱きつきにくいだろうに。


「……ん」


歩きにくい旨を伝えたら、確かにカインは後から離れた。

離れたんだけども、今度は隣で肩を抱き寄せてきていますけどね。

手繋ぐだけでよくない?

……まぁ、カインがまだ鬱帝だから大人しくしてるけどさ。

カインが鬱帝から復活させるには、リーンの呼びかけ以外だと、時間をかけるか危険人物が来た時だけだからね。


「愛良ぁあああああ!!」


こんな感じでヤンヒロが来た時とか。


「失せろっ!!この屑がっ!!」


ヤンヒロの登場で、カインさんは鬱帝から速攻で復活しました。

号泣しながら一直線に向かってくるヤンヒロの足元の床を土属性の魔法で弄って凹凸を作り、それに足を盗られたヤンヒロが見事に顔面から勢い良く転倒。

床の凸凹はすでに元通りの状態。

その素早い切り替え、素晴らしいと思います。


「うぅ……愛良ぁ」


顔面からこけてうつ伏せに横たわったまま、泣きながら私を見上げる龍雅。

せっかくの礼服がボロボロなのは、ギルドのみんなの努力の結果なんだろうけど。

何故そんなに号泣しているんだね、君は。


「愛良ぁあ……愛良が僕を庇って死んじゃう悪夢を見たんだ!愛良、無事!?確かめさせて!!」


がばっと手を広げて迫ってくる龍雅、とりあえず来ないで。

いや、来る前にカインが殴りとばしたから助かったんだけどね。


「どさくさに紛れて抱きつこうとするな。そのまま悪夢の中を永遠とさまよい続けろよ」

「私が龍雅を庇う辺りでフィクションでしかないことに気付きなよ」


無駄に頑丈な君を私が庇うとか、どこのファンタジー世界ですかってレベルの話だからね?


「それにね、遠くにいる愛良の傍に行こうとしても、愛良に全然追いつけなかったんだ!!」

「うん、それきっと全力で逃げてるんだよ」

「聞け。お前はとにかく人の話を聞くスキルを身につけろ」


……なんか、色々グダグダです。

とりあえず、龍雅は滅べばいいと思う。











◇◇◇◇


「まぁ!リョウガさん!こちらにいらしたの!?なぜボロボロなんです!?」


愛良に抱きつこうとする屑をいなしていると、さらにめんどくさい声が響いた。

目が痛くなるほど煌びやかなドレスを身にまとった王女だ。

無駄にでかい宝石をこれでもか、というぐらい身につけている。

でかいのばかりで、趣味が悪くなっているとしか言えない。

はっきり言おう。

王女、お前のセンスを俺は疑う。


「口に出せばいいのに」


俺の背中に隠れるようにしてくっ付いていた愛良が、俺の内心を読んで不満げに口を尖らせた。

あのな、余計にめんどくさくなるから口には出さないんだ。


「リョウガさんったら、突然転移でどこかに行ってしまうんですから」


俺たちのことなんて、眼中にない様子の王女。

今のうちに離れればいいから、それはそれでいいんだけどな。


「だって、愛良の姿が見たんだ。しかも、すごく綺麗だし!」


奴さえ余計なひと言を言わなければ、俺たちはそのまま離れられただろう。


「……そうですか、シドウさんの所に行っていらっしゃったんですか」


大勢の他の貴族たちがいるからか、いつものように怒鳴らずに淡々と話す王女。

ほら見ろ、お前の一言で王女が射殺さんばかりに愛良を睨んでいるだろうが。

当の本人はどうでもよさそうに欠伸をしているがな。

せっかく綺麗に着飾っているんだから、残念な行動はするな。

せめてこっそりやれ。


「珍しい格好をされているんですのね。宝石類を一切身に着けず、髪も生花だけなんてみすぼら……」

「愛良、綺麗でしょ?僕の世界の服なんだよー」


愛良の格好に小言を言おうとした王女を遮るようにして、無駄に笑顔の屑が愛良の頭に手を伸ばす。

しかし、それより早く愛良が俺の後ろに隠れたまま口を開いた。


「龍雅、乱れるから触らないで」

「う……はい……」


強めの口調で言い切られ、ものすごく残念そうに肩を落とした屑。

……さっきまで普通に触らせてもらえた俺としては、優越感が半端ないな。


「あなた、龍雅さんに対して失礼ではありませんこと?」


持っていた扇で戦慄く口元を隠しながら愛良を睨む王女の扇を持っている手が、怒りから小刻みに震えている。

王女、それは愛良の頭を奴が撫でることにつながるんだが、それはいいのか。

しかし、なぜかさっきから後の愛良の目がキラキラ輝いているのが気になる。

何を見つけたんだ、お前は。


「扇で口元隠して話すとか、お姫様みたいー」


うん、屑でも王女だからな?

急になんなんだ。


「あなた、馬鹿にしているんですの?」


愛良の意味不明な突然の言葉に、王女の眉間に青筋が立った。

肌が白いからこそ、よく分かってしまうぞ。

突然何なんだ。


「お姫さまが扇で口元隠して笑うのってさまになるよね!ねぇ王女。ちょっと『おーほっほっほ!』って馬鹿笑いしてみてよ」

「は?馬鹿笑いですって?」


今度は持っている扇がミシリと音を立てる王女。

そのうち折れるんじゃないだろうか。


「愛良、それは馬鹿笑いじゃなくて高笑いな」

「愛良ったら、間違えちゃって可愛いー」


何で高笑いが馬鹿笑いになるんだ。

やっぱりお前、最近少し馬鹿なってきてるだろ。

そして屑。

お前はデレデレ笑うな、気色悪い。


「失礼な。お馬鹿な王女には高笑いよりも馬鹿笑いの方がぴったりだと思ったからなのに」


ああ、わざとなのか。

それはそれで喧嘩売ってるけどな。


「あ、あなた!わたくしを馬鹿にするのもいい加減に……!」

「それで、急にどうしたんだ?」


ついに叫んだ王女を無視して愛良に聞くと、当の本人はにっこりと王女に笑いかけた。


「お姫様ってどんなのか、お手本にしようかと思って」

「……はあ?」

「へ?サフィをお手本?何で?」


怪訝そうに間抜け面をさらす二人。

まぁ、確かに愛良は皇帝の養女になったわけだから、帝国の姫になるんだが。


「愛良。こいつは手本にならない」


頼むから、この王女を手本になんかしないでくれ。

全帝として何度か王族に謁見したが、こいつは阿呆なことを連発で言いまくり、鬼畜太子こと長男に何度も強制退場させられていたから。

本気で一つも見習うところがない珍しい馬鹿姫だから。


「でも私、お姫様がどんなことするのか知らないし」

「気にしなくていい。むしろこんなのを手本にしてたら、皇帝に嫌われるぞ」


この馬鹿姫、帝国の豚皇子と中身が似たところがあるからな。

話しているだけで分かるんだが、皇帝は絶対にこういう人格は嫌いなはずだ。


「……それはやだ。お手本にするのはやめとく」


皇帝に嫌われるという言葉に、嫌そうに顔をしかめた愛良。

どんだけ皇帝の義娘になれてうれしいんだ、お前は。

上でお前の実父が絶対に泣いているぞ。


「ねえねえ、愛良。さっきからどういうことなの?……というより、これ何?」


首を傾げながらさっきから近づこうとしていた屑は、しかし、愛良が先端が半円を描いた棒を手に取り、腹辺りを壁に抑えつけたことで、それは叶わなかった。

それは一体なんなんだ。


「え?U型さすまたって言ってね、不審者を取り押さえるための道具なの」


何無駄にいい笑顔で言ってんだ、お前は。


「ええ!?僕、不審者じゃないよ!?」


不審者呼ばわりに涙目になって愛良にすがるように訴える屑。


「あ、ごめん……龍雅は変質者だったね!」

「いや、むしろ変態な危険人物だろ」

「違うよ!愛良は僕のだから、一緒にいて当然なんだよ!」

「「キモい」」


何当然のこと言ってんだ、お前は。

思わず愛良からU型さすまたを奪って、強化をかけたまま壁に縫い付けてしまっただろうが。

壁に穴を開けてしまったが、後で長男に事情を説明したら分かってくれるだろ。


「僕の愛良と被らないでよ!愛良と被っていいのは僕だけなんだから!!そしてこれ抜いてよ!?」


ついでに同じ物を創造して首、両手、両足も同じようにして縫い付けてやった。

いかに恐怖のヤンヒロでも、しばらくは動けないだろ。


「龍雅はそこにいたほうが世界は平和」

「むしろ、お前がいると今の均衡が崩れそうだ」


三つ子が戦争が起こらないように働きかけているのに、お前が存在していると戦争が起きそうで不安だ。

世界を平和にするために召喚されたはずの勇者のはずなのに。


「リョウガさん、大丈夫ですの!?あなた方、たかが平民の分際でこの国の勇し……」


他国の要人達がいるなかで平然と召喚した勇者がいることをばらそうとした王女の口を、冷ややかな表情を浮かべたまま一瞬で現れた長男が片手で塞いだ。

うん、相当キレている。


「……この考えなしの小娘が。王族として生まれたのなら、貴様一人の何気ない言葉に、どれだけの人間が振り回されるか考えろ。それができぬなら、こちらとしても考えがあるのだぞ」


……果てしなく怖い。

最近怖さがマシになっていたのに、恐怖がぶり返す。

俺、今すぐに帰りたい……。


「お、お兄様……」


長男の突然の登場に、顔面真っ青な王女。

忘れそうになるが、こいつにとっても長男は兄にあたるのか。


「はぅ……大兄ちゃんがキレた……中兄ちゃんはいずこ……」


長男が本気でキレているのが分かったからか、愛良が半泣きで俺の背中にしがみついてきた。

うん、俺も怖い。

怖いから、落ち着くまでずっとそれでいてくれ。


「ひっ……」


屑は屑で、壁に張り付いたまま硬直。

そんな俺達の前で長男は苛立たしげに前髪をかきあげると、俺たちの周囲に遮音の結界を張ってから小さく震えている王女を見下ろした。


「貴様、この屑のことを好いておったな。その望み、叶えてやる。この世界魔闘大会が終われば、この屑をお前の婚約者として発表してやる」

「えっ!?ほ、本当ですの、お兄様!?」

「ちょ、大兄さん!?僕には愛良が!!」


顔面喜色の王女と顔面蒼白の屑。

そんな二人を見下ろしながら、目を細めた長男は次男のようにうっすら笑みを浮かべながら腕を組んだ。


「ああ、本当だ。ただし……この屑と結婚するにあたり、貴様を王族の籍から抹消する」

「は……?」


何を言われたのか分からない。

そんな様子で長男を見上げたまま立ち尽くす王女。


「貴様の性格に我が関係していることもあって大目に見てきたが、貴様の考えなしの思考は危険だ。考えを改めるかと思い、民を大事にするよう何度も注意を促してきたがこのありさま。お前のこれまでの行いに関する臣下からの訴状も、そろそろ我でも抑えきれないからな。屑と婚約しようがしまいが、どちらにせよお前を王女として扱うのはこの大会までだ。……貴様が下等と考えている平民となれ」


ゆっくり言い聞かせるように王女の目を見て伝える長男。

……なぁ。

殺伐とした修羅場っぽい場面で悪いんだが。


(さすがにちょっと反省しようと思って時間巻き戻して我がいない状態の小娘を見てきたのに、一般的にはお淑やかな優しい王女が陰では非常に陰湿なイジメっ子だったのはどういうことなのだ。どちらにせよ馬鹿ではないか。反省しようとした我の気持ちを返せ)


……って内心だだ漏れの念話を送ってくるの、止めてくれないか?

表面的には冷徹なのに、内心ではいじけてんのかよ、お前は。


「なっ……」


事実上の王家追放宣言に、言葉をなくした王女の顔色が、青を通り越して土色に変わった。

まだ王太子ではあるが、王よりこの国中枢に深く関わっているといっても過言ではない長男が決定したのなら、王も頷かずにはいられないはず。

というより娘を可愛がるあまりその我儘で、王女が邪魔と判断した家を取り潰してきたんだから、王もすぐに退位しそうだな。

……不本意ながら、長男がかっこいいと思ってしまった。

普段は愛良至上主義の鬼畜シスコンだけど。

冷徹に王家追放を宣言しながら、内心はいじけまくってる奴だけど。

可愛い妹にはカッコいいお兄ちゃんと思われたい長男。

次男と三男からは残念な兄貴としか思われていない(笑)

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