166.契約するときはちゃんと確認しましょう
視点は愛良→カインです
◇◇◇◇
お兄ちゃんズに連れて行かれた豚皇子。
きっと色々絞られることでしょう。
精神的にも肉体的にも。
まぁ、それは別にいいんです。
だって、今目の前の光景の方が素敵だもん。
「ほーら、リーン。長男特製、柔らかチキン(と野菜たっぷり)のドリアだぞー。長男はめんどくさがって滅多に作ってくれない逸品だぞー」
「おいしーねー!」
「ねーねーリーン。次男が作ったカラフル(野菜)サラダも食べてー。お花とかしぃちゃんの形してるんだよー?」
「はわー!かーいーねー!」
「リーン、三男の(野菜を)じっくり煮込んだ栄養満点ミネストローネだ!寒い時期にはぴったりだな!」
「ほくほくねー!」
お兄ちゃんズの元使い魔ズが、それぞれの料理を持って甲斐甲斐しくリーンに食べさせています。
おいしそうに口を開けて待ってるリーンが可愛すぎです。
そして何気にお兄ちゃんズの料理にそれぞれお野菜たっぷりなのに、リーンが文句を言わずに食べているという貴重な光景。
やっぱり野菜を可愛く彫刻するか、野菜と分からないようにするのが一番適しているんだろうね。
嫌いなお野菜でも、目で見て楽しめば食べれるんだ。
うん、勉強になった。
私も今度からマネしよう。
「お嬢ー」
「んー?」
リーンが食べさせてもらってるのを、コス王に機嫌のいい笑顔で呼ばれました。
何?
中兄ちゃんの作ったしぃちゃんにそっくりのサラダを『共食いなの!食べるのヤなのー!』ってな感じで泣いちゃったから、しぃちゃん用に置いていたドラゴンのお肉をあげているのにー。
「リーンとお犬様の面倒は俺たちが見てるからさ……お嬢はカインと二人で会場でも見て回ってきてあげて!お願いします!」
そう言いきるなり土下座スタイルになったコス王。
なぜ土下座。
こらこら、人の目が痛いから止めなさい。
主はどこよ、主は?
……ああ、ちょっと離れたところで皇帝さんとお話しているのね。
「ほら、お嬢!ちゃんとリーンの護衛も俺らがしとくから!だから、カインと二人で(デートに)行ってきてくれ!!」
コス王よ、なぜ君はそこまで必死なんですか。
まぁ、リーンとしぃちゃんを見てくれているなら別にいっか。
カインと皇帝さんの所に行こーと。
んー……なんか皇帝さんと二人で和やかに談笑している中に入るのって、申し訳ないなー。
例え会話の内容がリーンの成長談でも。
うーん……話かけにくいし、ちょっとだけ一人で見て回ろうかなぁ。
「愛良?どうした?」
あら?声かけるべきか考えてたら、先にカインが気付いてくれました。
助かったー。
「コス王がね、リーンとしぃちゃん見とくからカインと一緒に会場を見てきて下さいって土下座したの」
「……そうか」
ちらっとだけ、リーンとしぃちゃんを構い倒している使い魔ズの方を見て頷くカイン。
なんか少しだけ口元が笑ってる。
カインも機嫌いいねぇ。
「皇帝。すいませんが、俺と愛良は少し離れます」
「ああ。……アイラ。サインをもらいたい書類があるから、先にサインしてから行ってくれるか?」
ボックスから何かの書類とペンを取り出した皇帝さん。
ほへ?サインとな?
一体何の書類?
そう疑問に思ったのは私だけじゃなく。
「皇帝、何の書類ですか?」
カインが胡乱げな表情で皇帝さんを見ている。
そんなカインに対して、苦笑を浮かべた皇帝さんはカインの肩を軽く叩いた。
「そう警戒するな。リーンを預ける口実作りだからな」
「あ、なるほどー。うん、サインするー」
皇帝さんが指差した所にちゃちゃっとサイン。
「愛良!せめて内容を読んでからにしろ!」
サインしたら、カインに怒られちゃった……。
でも、もうサインしちゃったよ?
「サインするように促しておいてなんだが……。カイン、アイラが騙されないように気をつけるんだぞ」
「分かっています……はぁ」
知っている人だから疑わなかったのに、失礼な。
知らない人だったら、完全スルーだもん。
「皇帝さん、結局何の書類なんですか?」
サインするなり皇帝さんが書類をボックスに片付けちゃったから、見てないんだよねー。
「なに、単なる養子手続きの書類だ」
片頬を上げて目を細めるライオン皇帝さん。
……はい?養子とな?
「皇帝さん?誰を養子にするんですか?」
「皇帝、どういうことですか」
呆気にとられて皇帝さんを見上げたんですけども、皇帝さんは不敵に笑っていらっしゃいます。
「なに、アイラに保護者がいないのならと名乗り出ただけだ。アイラは私の娘とするならば、正妃の子であるリーンを預けていても、それほど不自然ではないだろう。今後、リーンのことを公表することを考えればな」
「うーん……それは分かったんだけど……」
「ですが、帝国の重鎮が黙っていますか?」
カインがもっともな事を質問したんですが。
「カイン。私が養子にしたと言えば、奴らは黙る」
「「……」」
黙るんじゃなくて、黙らせるんですね。
獰猛な笑顔を浮かべる皇帝さん、怖いけど素敵です。
「いや、待て。一番重要な問題が残っているだろ。お前の実父が」
「あー……そういえば」
大きな問題がありましたね。
あのお父さんが他の人の娘になるっていうことに、大人しくしていると思わないんだけど。
むしろ、帝国全土を呪いそうだよ。
「ふはははは!それは問題ない!」
私たちが不安に思っていると、豚皇子を連れてどこかに消えていたはずの大兄ちゃんが転移して現れた。
お早いおかえりですね。
大兄ちゃんは帰ってくるなり周囲に遮音の結界を張って、養子発言に聞き耳を立てていた野次馬から隔離。
「皇帝に愛良を養子にするように勧めたのは我らだ」
「お兄ちゃん達が?何で?」
お兄ちゃん達が私を皇帝さんの養子にするように働きかける理由は何?
このままじゃ問題でもありなの?
「問題大有りだ。4大国のうち、帝国だけが戦力不足が著しい。現在一番戦力になる者は、皇帝以外にあの自称勇者の思い込み馬鹿だ。我らが他の3国にいるから仕方がないとはいえ、このままではバランスがあまりにも悪い。このバランスの悪さは、どこかしらで必ず歪が生まれる。帝国を滅ぼして我が国に統合してしまおう等と考える馬鹿がな。そのような者が出ては、相手にするのが面倒だ」
しかめっ面をして腕を組む大兄ちゃん。
兄ちゃんズよ、私は生贄ですかい。
◇◇◇◇
長男の言葉に、絶句する愛良。
確かに、各国の王族としてその判断は間違っていないんだろうが……。
そんな愛良の目の前で、長男は微かに顔を背けた。。
「そもそも、愛良も親父ではなく皇帝が父ならいいなぁとか考えていたではないか。何故微妙な表情をしておるのだ」
ぼそりと呟きながら首を傾げる長男。
おい、それが本音だろ。
絶対に愛良の心の底の願いのためだろ。
お前らはどこまで妹至上主義なんだ!?
「アイラ。私の子になれば、リーンとずっと一緒にいれるぞ」
「皇帝さんの養子になります!」
皇帝の言葉に即決した愛良。
おい、待て。
頼むから待ってくれ。
「よろしくお願いしますね、お義父様」
「ああ」
嬉しそうに頬を染めて皇帝を見上げる愛良と、口元を緩めて頷く皇帝。
そんな表情、俺は見たことないんだが。
思わず眉間に皺が寄ったのが、自分でも分かったぞ。
「愛良よ。皇帝の養子になっても、たまには親父に顔を見せてやるのだぞ。でないと、大泣きしてこの世界に大洪水を起こす可能性が高いからな」
「お父さんならやりかねないね……。はい、ちゃんと顔を出します」
顔を近づけて小声で話す二人。
もう完全に養子になる気満々だな。
愛良が皇帝の養子になるってことは、愛良は帝国の皇女になるということ。
……身分が、釣り合わなくなるじゃないか。
それに、学園を卒業後もこの国にいる可能性がなくなったに等しい。
学園を卒業した後も、愛良はずっと俺んとこのギルドで受付嬢をしていると思っていたんだが……。
「ああ、別にアイラは今まで通りの生活をしていたらいいからな。たまにリーンを連れて帝国に戻ってくれたらいいぞ。お前たちがこの国にいる名目は、リーンの留学にしようと考えているからな」
「はーい」
……ん?
「ついでに愛良よ。使える時に使っても構わないが、身分などあまり考えなくてもよいぞ。皇帝にお前の養父を引き受けてもらった名目は、お前の戸籍を作ることであるからな。戸籍がなければ、お前は結婚もできないんだからな」
「あ、確かに。それは困るね!事実婚だけだと、お母さんに怒られるもん!」
……んん?
俺、あまり深く考えなくてもいいのか?
「愛良、理解できたな?それでは、お兄ちゃんたちはお前の義理兄としてマシになるように豚の調教に戻る。くれぐれも、一人になるんじゃないぞ?」
あ、やっぱり三つ子たちは愛良が豚の妹になるの嫌だったんだな。
ということは、豚皇子の調教を名乗り出たのも妹のためか。
こいつらの妹至上主義さ、ぶれないよなぁ。
「はーい。カインがいるから大丈夫ー」
「……本当に気を付けるのだぞ」
懇々と言い聞かせる長男と、呑気に手をあげる愛良。
……あの愛良の隠し設定を消してから、愛良が微妙に馬鹿になったような気がする。
本人前にして間違っても口には出さないが。
そこがまた可愛いところでもあるし……。
心配さを隠しきれない長男の気持ち、分からないでもない。
「カイン、絶対に愛良の傍から離れるでないぞ。不本意ながらも、お前ぐらいしか頼めないのだがからな」
「分かった」
分かったから俺の両肩を力いっぱい握りしめないでくれ。
愛良と契約していなかったら、絶対に両肩の骨が粉砕しているぞ。
マジで痛いから。
「ふぅ……それでは、愛良よ。カインの小僧から離れるんじゃないぞ」
「大丈夫!こうやってれば、離れられないから!」
ニコニコと笑って俺の手を握る愛良。
しかも、指を絡めるようにして。
……嬉しいやら、恥ずかしがる様子もない愛良に悲しんでいいのか……はぁ。
「……愛良が野郎と恋人繋ぎ……やっぱり愛良の設定はあのままの方がよかったのだ……」
「ほへ?設定?」
「お前は気にしなくていいから」
長男、頼むからお前はいい加減妹離れしてくれ。
絶対に愛良の設定を好き勝手に変えさせないからな。
というより、何落ち込んでんだよ。
もうさっさと豚皇子の調教に戻れよ。
「はぁ……お兄ちゃんは妹の甘々なんて見たくないから、戻るのだ」
「甘々?大兄ちゃん、甘いもの嫌いだっけ?」
「愛良、お前はちょっと黙っておけ。な?」
恋愛経験値7歳児(推定)は頼むから静かにしていてくれ。
シスコンが離れないから。
「はーい?」
よく分からないけど返事しとこう、という様子が丸分かりの愛良。
うん……素直で可愛いよ、本当に。
「んー?」
思わず髪型を崩さないように頭を撫でると不思議そうに首を傾げたが、すぐに笑顔で擦り寄ってきた。
あ、長男が背中を震わせながら消えた。
三つ子はさっさとシスコンを卒業しろよ。
愛良ちゃんの破棄された追加設定を忘れている人のために
●追加設定
・やっぱり絶壁は外せないよね☆
・イケメンに5分以上優しくしてやる必要は断じてない!投げてしまうがいい!
・鈍感でいてね。相手の想いになんて気付く必要は全くないよ。むしろ恋愛なんてしなくてよろしい。
・とりあえずは、何でも楽しくしちまえや~♪
上の4つが綺麗さっぱりなくなっちゃったので、愛良ちゃんの性格にも多大な影響を与え中。
要は、形作っていた大本がなくなったので、ちょいと天然でおバカな愛良ちゃんになってます(笑)