162.パーティーがあるそうです
視点はカインです
◇◇◇◇
文化祭が終わった翌日。
大まかには片づけも終わり、午後からは普段通りの授業が再開されるという中、俺と愛良は学園長室に呼び出されていた。
しかも中に入ると、同じように呼び出されたらしいシンが頭を抱えてうずくまっていたが、もちろん無視だ。
「学園長のおじいちゃん、こんにちはー」
「学園長、何か用ですか?」
「うむうむ。用というより、魔闘大会運営本部よりお知らせがあっての。それを伝えようとと思ったんじゃわい」
長い髭を撫でながら目を細める学園長。
その目に、悪戯好きの雰囲気が漂っている。
……嫌な予感しかしない。
「ほっほっほ……。3日後から世界魔闘大会が始まるじゃろ?その前に各国の王侯貴族と選手たちが顔合わせとしてパーティーが明日開かれるんじゃよ。お主たちは、我が学園の代表だからのぅ。てなわけで、行って来い」
「「……」」
学園長……見事なまでに、爽やかな笑顔だな。
髭に埋もれている口元がにんまりと弧を描いているのがはっきり分かる。
「俺、ただでさえボンビーなのに、礼服なんて持ってねぇよ……」
ぽつりと絶望一色な様子で呟くシン。
ああ、だから頭を抱えていたんだな。
礼服か……俺が持っているのは全帝用ばかりだし、後で買いに行けばいいか。
よし、授業が終わってリーンを迎えに行ったら、その足で買い物に行こう。
そう俺が計画している隣で、愛良は首を傾げながらシンの背中軽く叩いた。
「礼服なくても大丈夫だと思うよ?学園代表として参加しないといけないなら、別に制服でもいいと思うし」
「あ、それもそうだな!サンキュー、愛良!」
「「……は?」」
愛良のあっけらかんとした物言いに、シンは単純に喜び、俺と学園長の声は重なった。
「……礼服、着ないのか?」
「え、だってシン君一人だけ制服だと可哀相じゃん。……何でそんなに残念そうなの?ちょ、何で急に落ち込んでんの!?」
愛良のドレス姿、見たかった……。
俺が突然俯いた為か、愛良が若干焦りながら顔を覗きこんできた。
「カイーン?どうしたのー?」
「……なんでもない」
「なんでもないわりに、鬱帝一歩前だよ?おじいちゃんのお部屋をキノコだらけにするのは止めてあげてね?」
お前も上目遣いは止めようか。
ドレス姿の愛良が上目遣いで顔を覗きこんでくるのを想像してしまうんだよ。
現実に叶わないとなると、空しくなるから。
「うわー……」
俺の内心を正確に察したらしいシン。
そんなになんとも言えない顔をしないでくれないか?
「えーと……愛良、俺の事は気にせずに礼服着たらいいぞ?」
俺を気にしながら遠慮するシン。
うん、お前が友でよかった。
「え、そう?」
そんなシンを、不思議そうに首を傾げる愛良は少し考えるように視線をさまよわせた後、言いにくそうにシンにもう一度視線を投げかけた。
「龍雅の馬鹿はどうせビッチ王女がしゃしゃり出て来て礼服着るだろうし、シン君一人で制服着ることになったら他校の生徒達から集中的に注目浴びちゃうかもだけど……シン君が気にしないなら、別に合わせなくてもいっか」
「前言撤回!一緒に制服を着て下さい!!」
愛良の言葉が終わるか終らないかぐらいの速さで俺たちの目の前で土下座したシン。
変わり身早いな、お前。
「あ、それか礼服代立て替えておこうか?相も変わらず、食費代でばかばかお金がなくなってるみたいだけど」
「無理!」
今度は手でバツを作りながら首を横に振っている。
まぁ、今でも学費を肩代わりしているもんなぁ。
月々の返済もごくわずかだ。
となると、愛良の礼服は諦めるしかないか……。
「ふむ……では、学園側でシンの礼服を用意しようかの。学園祭の売り上げはシンのクラスがアイラ達のクラスと並んで一位であったし、あの珍しいタコヤキという食べ物を考えて学祭を盛り上げたのもシンじゃ。最大の功労者に対してご褒美じゃな」
「学園長のじぃさん……サンキュー!助かった!」
「ほっほっほ。Sクラスにもご褒美と言いたいところじゃが、あの馬鹿王侯貴族共のクレームも同じくらい多かったから、帳消しじゃ。アイラとカインは自分らで用意せい」
好々爺とほほ笑んだ学園長のセリフに、何とも言えない俺と愛良。
確かに、奴らが店当番だった時のクレームは生徒会の方にも上がっていたから仕方がないのは分かってはいるんだが……総合的にシンのクラスに負けたということは、少しばかり悔しい。
……悔しがったところで、同じクラスのあの我儘貴族共がいる時点で客からの好印象は望めないんだが。
「礼装は自分たちで用意できるくらいに稼いではいるから大丈夫ー。次はクレーム対策も考えて頑張ろうね!」
「ああ、そうだな」
負けたこと自体に対しては特に気にしていない様子でニコニコ笑っている愛良を見ていると、もう勝ち負けとかどうでもいいんだがな。
「……あれ?そういや、龍雅は呼ばなかったんだね?」
同じく大会に出場している奴がいないことに今更気づいた愛良。
そんな愛良に、学園長は珍しいくらい顔をしかめながら髭を撫でつけた。
「あ奴は鬱陶しいから王女経由じゃ。関わりたくなんぞないわい」
「「「あ、同感」」」
学園長のその気持ちがすごく理解できてしまって、思わず全力で同意してしまった。
うん、奴との関りは最小限で押さえたい。
学園長、ナイス判断だ。