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逸話.世界のどこかで5

あー……なんか、美味そうな匂いが上からする。

絶対にたこ焼きだ!

しかも焼いてるのは、俺の(駒の)シン!?

うああああ!

俺もたこ焼き食いたいぃいいい!

祭りにも参加したいぃいいい!!

ボッチはもう嫌だぁあああ!

シ――ン!!

お前の足元で封印されてるから、早く解きにきてぇえええ!!

タイムリミットが来ちゃうぞぉおおお!

魂と肉体を維持できなくて、消滅しちゃうぞぉおおお!!

時間なんて、すぐに過ぎちゃうんだからなぁあああ!!

せっかく送り出した子どもが消滅するのなんて、パパだって嫌なんだからなぁあああ!

勝手に人間の魂を元に肉体を作っただけでも神王様に怒られるし、そんな魂が消滅しちゃったら冥界神にどやされるし!!

うぁああああ!!誰かと話したいおしゃべりしたい遊びたいぃいいい!!

俺封印されてからシンとしか話してないし!

封印扉の向こうの声は聞こえるのに、俺の声は届かないなんて寂しすぎるだろ!

シ―――ン!!

パパはここだぁああああ!!

◇◇◇◇


「戻った」


学園祭の行事から仮の住まいとしている帝国の領事館に戻ってくるなり、執務室に直行した皇帝。


「うぅ……父上、ひどいです!!私も異国の学園祭に行ってみたかったのに!!」


伯父と一緒になって二日続けて執務室で縄で簀巻きにされて、なおかつ不可視遮音の結界内に閉じ込められていた豚王子は、父親である皇帝が帰ってくるなり、涙目で訴えた。

脂肪がぼよんぼよんについた豚王子に違いないから、可愛くとも何ともないのだが。


「それより陛下!!いい加減、私と殿下の縄を解いてください!」

「伯父上の言うとおりです!父上、いい加減解いてください!」

「ああ、今は忙しいから後でな」


豚犬と豚王子の苦言は、右から左へ華麗にスルー。

皇帝は手元の書類を書くのに忙しい様子である。

だが喧しくギャーギャー騒ぐ二人に、皇帝はため息をついた。


「そんなに解いてほしいか?」

「「もちろん!!」」


揃って頷く伯父甥。


「では、全力で這いずり回って今すぐ痩せろ。そうしたら解けるぞ」


顔を向けることすらせずに言い放つ皇帝。

この皇帝、体積のでかい二人を少しでも小さくしたい様子だ。


「「はいぃいいい!!」」


そしてその言葉通り、汗だくになりながら床に這いずり回る二人。

見た目的にも部屋が余計に暑苦しくなっているんだが、そこは気にしないらしい。


「さて……手続きはこれでいいか」


どうやら、何かの手続きをしていた様子だ。

一体何の手続きだったのかは不明だが。


「……ん?そういえば、まだ本人に言っていなかったな。大会の前に参加者を含めたパーティーが城で行われるはずだから、その時に言えばいいか……」


皇帝は小さく呟くと、先ほど書いた書類を手に執務室から出て行った。

……現在進行形で這いずり回っている豚王子と豚犬のことを綺麗さっぱり忘れ去って。

豚一族が痩せる日は近いかもしれない。









◇◇◇◇


一方、魔大陸。


「うんまいのじゃ―――!!」


父親からお土産でもらったプリンを食べた幼女が、目を輝かせていた。

その幼女の目の前では、無表情に、しかしどこか物欲しそうにプリンを見ている母親。


「……」


じぃーっと、効果音が付きそうなほど凝視している。

しかし、幼女は気づかない。


「あむあむ……口の中でとろけるのじゃ~!」


いっそ自分がとろけてしまうんじゃないかという表情でプリンを食べている幼女に、ついに我慢が出来なくなった様子で母親は夕食の準備をしていた夫を恨めし気に睨んだ。


「ダリル……私も食べたいわ」

「キャロル。以前、お前はリディ達の分も食べたんだ。少し反省しろ」


振り返ることすらなく言い放つ父親。

その目は料理に集中している。


「むぅ……」


不満げに唇を尖らせつつも、視線をプリンに戻す母親。

まだ諦めていないらしい。

その視線に、スプーンを咥えたまま幼女が眉間に皺を寄せる。


「ママ殿……そんなに見られたら、食べづらいのじゃ」

「リディ……だめ?」

「駄目なのじゃ!ママ殿は儂のプリンを食べたのじゃ!これはパパ殿がお土産でくれた、儂のプリンなのじゃ!」

「……」


幼女の宣言に、母親は残念そうにため息をつくと立ち上がった。

どうやら諦めたらしい。

これで幼女も安心して食べられるだろう。


「……ちょっと人間の所に行って、プリンが貰えるようにお願いしてくるわ」


……母親が出ていく際、手に鞭を持った状態での捨て台詞さえ聞かなければ。


「「……」」


幼女は父親と顔を見合わせる。

甘いものに関しては強欲な母親がお願い?

母親の得物である鞭を持った状態でお願い?

……絶対に脅しに行こうとしているに違いない。

幼女は食べかけのプリンを、父親は料理中の鍋を放り投げて部屋から、否、城から飛び出した。


「キャロル!待て!せっかく人間と交易をとりつけたのに、無駄にする気か!?」


父親が必死に追いかけながら言葉をかけるが、母親の猛烈なスピードの歩みは止まらない。

歩いているようにしか見えないのに走っている父親が全く追いつけていない姿は、なかなかシュールだ。


「ママ殿!パパ殿が実は作り方を学んできたらしいのじゃ!わざわざ行かなくても問題なしなのじゃ!!材料は今後魔大陸に入ってくるのじゃ!!」


こっそり父親から聞かされていたらしい幼女が、魔族随一の能力を発揮してで母親の前に回り込んだ……のだが。


「ふみゃあっ!?」


母親の鞭であっさり捕獲。

さらには、引き寄せられて、そのまま背中に背負われた。


「ママ一人だと寂しいから、リディも一緒に甘いものをたくさん食べに行きましょう」

「甘いもの……たくさん……行くのじゃ!」


母親の甘い言葉に、口端からよだれを垂らしながらあっさり落ちた幼女。

実に残念な頭をした幼女である。


「ごらぁああああ!!」


もちろん、魔族特有の耳で話が丸聞こえの父親は後ろで大激怒である。


「……ああくそ!!実はお土産のプリンは大量にもらっている!」


頭を掻きむしるようにしながら父親は怒鳴った。

その言葉に、ようやく歩みを止める母親。

この父親、交易が開始するまでプリンを小出しにしていこうと考えていたのだ。

大暴走中の妻のおかげで、全部パーだが。


「……本当に私のプリンもあるの?」

「ある」

「なら帰るわ」


自分の分もあると知って、素直に頷く母親。

無表情の目が、心なしかキラキラ輝いているようにみえる。


「パパ殿、儂ももう一個プリンを食べたいのじゃ」

「分かった。分かったから、あの恐怖の王子たちがいる大陸に行こうとするな!いくらお前達でも自殺行為だ!」


どうやらこの父親は交易の約束を持ちかけられた際、三つ子の丁寧な歓待に恐怖を抱いたらしい。

顔色が青ざめている。

交易について了承した理由の半分以上は、三つ子が理由であろう。

もう三つ子さえ存在していたら、この世界の平和は守られるに違いない。


「あんたら……こんなところで何やってるんですか?」


後ろから聞こえてきた、呆れを多大に含んだ声。

声が聞こえて来た方に視線をやれば、魔物使いの男が頭を押さえながら立っていた。


「ここ、城から結構離れていますけど。海岸付近まで来て、何やってるんですか」


胡乱げな目をしながら大暴走していた家族を見据える男。

そう、男の言う通り、母親の大暴走のおかげで魔大陸の中心部にある城から海岸まで来ていたのだ。


「ダリルが意地悪して、私の分のプリンを出してくれなかったの。だから、自分でプリンを取りに行こうと思ったのよ」


母親は相変わらずの無表情で語るのだが、そのセリフに男は更に頭を抱えた。


「武器装備で!?馬鹿ですか、あんたは!しかも、人間の大陸に渡るのは逆方向の海岸ですけど!?何で力が強い人ほど、頭が残念なんですか!?」


真剣に嘆いている男。

幼女や母親の様子を見ていると、確かにその説は合っているかもしれない。


「力が強いほど頭が残念か……確かに、リディやキャロルを見ていると頷けるものがあるな」


父親も非常に納得した様子である。

だがしかし。


「ダリルさん……あなたも人のこと言えませんからね!?何で料理のこととなると、後さき考えずに一人で人間の国に行ってるんですか!?馬鹿ですか!?馬鹿なんですか!?馬鹿はこの二人だけで十分なんですからね!?」

「……すまん」


魔族のトップたちの頭の出来具合に、男の悩みは尽きない。

おそらくこの男の毛根の寿命は、すぐに尽きてしまうだろう。


「叔父上殿、ひどいのじゃ!」

「弟の分際で、失礼なことを言うもんじゃないわ」

「姉さんが考えなしなのが悪いですからっ!」


そして何気に暴走母親の弟であったりする。

きっと昔から苦労していたに違いない。


「とりあえずは落ち着け。交易の薬草は集まったのか?」

「ええ。ユンジュくんたちや魔物に集めてもらったので、取引するには問題ないだけの量の確保はできました。あとは、交易が続くことも考えて、大規模な薬草園を作ろうかと考えています。それでも問題ないですかね?」

「ああ、いいぞ。リディもそれでいいな?」

「にゅ?プリンの材料のためなら、儂は構わんのじゃ!」

「そうね、プリンの材料は大事よね」

「あ、そーですか……はぁ」


男が城から離れた所にいたのは、交易の準備だったためらしい。

頭が残念なトップを持てば、下は苦労するだろう。

プリンのおかげで人間は危機に陥るところであったが、プリンのおかげで戦争は回避された。

めでたい事である。

……たぶん。









◇◇◇◇


その頃、天界。


「ふ~……ようやく封印できた……」


黒い触手で雁字搦めにされてぐったりと気絶しているヤンヒロの前で、変態神は額の汗をぬぐった。

ヤンデレ封印に、かなりの力を使わされたらしい。

神すら疲れさすヤンデレ、脅威である。


「あー……こうやって封印を繰り返すから、こいつのヤバさに磨きがかかるんだろうなぁ……うぜぇ……」


頭を抱えながら項垂れる三男。


「そのうち、父さんでも封印できなくなったりするかもね。チッ……ほんっとーに忌々しい子だ。小さい頃の可愛げのある龍雅はどこに消え去ったんだろうねぇ」


舌打ちしながら足先で転がっているヤンヒロをつつく次男。


「中よ、龍雅は子どもの頃からそんなに可愛げはなかったではないか。常に愛良に付きまとっていたゆえな」


妹溺愛の発言をしながら、さらに締め上げる長男。


「はぁ……でも、大ちゃんたちは偉いねぇ。魔族の実質的トップと話を付けて、戦争じゃなくて交易にするなんて、偉い偉い。さすがはパパの子たち!」

「「「いや、母さんの子だから」」」


即行で否定する三つ子に、変態神は崩れ落ちた。

それを見下ろしながら、畳み掛けるように三つ子は顔を見合わせる。


「親父の血が強く出てたら、王族の仕事なんてほっぽりだして愛良に付きまとうに決まってんだろ。第一、俺たちが魔族と交易するように最初に提案したのは愛良だし」

「そうそう。それに邪神のおじさんを復活させるために戦争をされると、僕たちの仕事が増えるし面倒なんだよね。愛良だって勉学が疎かにならなくてすむし」

「何より魔族が大人しくしていれば、愛良も危険なことをせんですむ。いくら我らが妹と言っても、愛良はまだまだ半人前。勉強と修行をせねばならぬからな」


そう。

三つ子が魔族と交易をとりつけたのは、全て可愛い妹のためだったりする。

さすがはシスコンである。

妹のためだけに王族に転生しただけはある。


「とりあえずは、これでしばらく邪神のおっさんが出てくることはないから安心だよな?」

「ぶべっ!?」


三男は腕を伸ばして伸びをしながら、ヤンヒロを寮の自室へと繋いだ空間に蹴り落とした。

ついでに、歴史等の大量の参考書を、顔から床に激突したヤンヒロの上に落として空間を閉じる。


「しばらくは大人しくしているんだよ?」

「むしろ愛良に関わるな」

「でも僕の封印がまたすぐに解かれそうで不安だなぁ……」

「親父、言うなよ……」


三つ子と変態神が揃ってため息をつく。

そんな中、三男がポンっと手を叩いた。


「もういっそ邪神のおっさんの封印をさっさと解いて、龍雅向かわせたらいいんじゃね?」


名案とでも言いたげな三男の様子に、次男と長男も顔を見合わせて頷く。


「そうだね。龍雅が邪神のおじさんを消滅させられるとは思えないけど。むしろ龍雅を殺ってくれると万々歳」

「邪神のおじ上の仕事も溜まってきておる。そろそろ天界に戻ってきても構わんだろ。というよりも、封印の期限は1万年。親父の我儘で封印を解くのを先延ばししておるのだ」

「そーそー。そろそろ邪神のおっさんも寂しさと退屈さで発狂しちまうだろうし、もういい加減封印解いちまおうぜ」


すでに邪神の封印を解く気満々の三つ子たち。

今すぐにでも実行しそうな勢いである。


「ちょ、ダメだよ!?半人前の愛良ちゃん達ならともかく、完全な神族の君たちは邪神の封印に干渉したらダメだからね!?」

「「「えー」」」

「こら!そんな息ぴったりに拗ねたってダメなものはダメなんだからね!?パパは許さないよ!?」

「「「ちぇー。パパのケチ」」」

「ガーン!?パパがケチなんじゃないよ!?そういう決まりなんだよ!?ていうか、何気に初めてパパって呼ばれた!?パパ嬉しい!!」

「「「暇だから遊んだだけだ、変態神」」」

「……」


息子たちに散々遊ばれで変態神は床に手をついて項垂れた。

この三つ子、自分たちの案を却下されて微妙に拗ねていたらしい。


「……何をなさっているんですか?」


そんな中、変態神の部屋に入ってきたのは大量の書類を抱えた天使、ミカエルさん。

その視線は絶対零度を湛えているが。

さすがはお仕事大事なミカエルさん。

バリバリのキャリアウーマンです。

キャリアウーマンの『仕事しろよ』視線を気にせずに三男は瞬時に近づき、ミカエルが抱えていた書類を取り上げた。


「ハニー。こんな重たい荷物を持って、手は大丈夫か?」


誰ですか、この人。

そう突っ込まずにはいられないくらい、甘い声でミカエルの耳元でささやく三男。

彼女の代わりに書類を持ってあげてさえいなければ、抱きついていたんじゃないかというレベルである。


「問題ありません。それよりも、あなた。こんなところで何をしているんですか?あなたはあなたの仕事をしてください」


その甘い声に対して、淡々と返すミカエルさん。

そして普通に仕事をしろと返すあたり、彼女が仕事一途なキャリアウーマンであることを裏付ける。


「いやいや、ハニー。俺はちゃんと仕事してるぜ?今はちょっと妹にちょっかいをかける屑を制裁していただけで」

「そうですか。あなた、ひとまずは神様を机に移動させてもらえます?」

「うんうん。愛しのハニーのお願いなら、俺何でも聞くぜ?」

「ちょ、痛い!ちぃちゃん痛いから!ちゃんと自分で行くから!」


ミカエルに言われてニコニコ笑いながら、父親を足蹴にして机に向かわせる三男。


「あなた、ついでにその書類を神様に片付けさせてもらえます?」

「よし、おら親父。俺のハニーのためにさっさと仕事しろや」

「いやいや、ちぃちゃん!?君、本当に奥さんの前だと性格変わるよね!?」


そうなのだ。

このミカエルさん、三男の妻なのだ。

三つ子の中で唯一まともな性格をしている三男だが、妻の前では別である。

妻溺愛の甘々だ。


「いやー。久しぶりにちぃとミカエルのセットで見るけど、相も変わらずちぃの変わり身の早さには感服だよね」


くすくすと笑いながら弟夫婦を眺める次男に、頷く長男。


「全くだ。甘々のちぃに対して、相も変わらず淡々と冷静なキャリアウーマンミカエルもある意味すごいがな。ミカエルよ、たまにはちぃを甘やかしてやれ。最近ちぃはお前がかまってやらないから、八つ当たりで世のカップルを別れさそうとしているゆえな」


腕を組みながら呆れ気味に三男を見やる長男。

その姿はやんちゃな弟を見守る兄である。

可愛い弟を見守る長男次男を冷静に見上げたミカエル。


「……お二人も、あまり奥方様を放っておかない方がよろしいかと思いますが」


その言葉に、ピクリと肩を震わせる長男次男。


「中様」

「……何?」


ミカエルさんの静かな呼びかけに、異常に額に汗を浮かべた次男が視線を彷徨わせる。


「お顔を出す事が減った為、中様に嫌われたと思い込まれた奥方様が、実の子のように可愛がっていらっしゃるクロノス様を引き取れるか、真剣にお悩みになられています」

「はぁ!?いやいや、待って!?なんでそうなるの!?嫌いになんかなるわけないし!帰る!僕、いったん帰るから!!」


ミカエルさんの真面目な顔に、顔色を変えてどこかに転移した次男。

その次男を見送ってすぐに、今度は長男を見上げるミカエルさん。


「大様」

「……なんだ?」

「ご自分の管轄の世界に寒冷期を引き起こす寸前までお怒りの奥方様より、『逃げたりした瞬間、どうなるかは分かっておるな?』とご伝言を預かっております」

「……そうか」


顔を引きつらせて頷く長男。

次男と違って、重い足取りで部屋を出て行った。

二人の姿を見送ったミカエルさんは、姿が見えなくなってからポツリ。


「……というのは、悩み事とご伝言以外は冗談なんですがね」


その台詞に仕事中の変態神と、見張り中の三男が反応した。


「え!?冗談なの!?今の冗談なの!?普通にリアルに想像できたけどっ!?大ちゃん中ちゃんたちのお嫁さん達なら、普通にあり得るでしょ、今のは!?冗談は冗談らしく言おうよ!?」

「珍しいな、ハニーが冗談なんて。どうした?」


全力で突っ込んでいる変態神をスルーした三男は、ミカエルさんの肩を抱き寄せながら顔を覗き込んだ。

無駄に囁く声が甘い。

そんな甘々な三男の雰囲気も、キャリアウーマンの前では無意味だが。


「いえ。お嬢様が危険人物から守れるよう努力をするのはとても素晴らしいことだと思いますが、その努力を499年続けても一向に実る様子がないため、奥様方に活を入れていただこうかと。いい加減、三つ子様には揃って天界にお戻りいただき、どこぞの神様が溜めている仕事を手伝っていただきたいので」


にっこり。

そんな効果音をたてて綺麗に微笑むミカエルさん。

三男は顔を引きつらせ、変態神は石と成り果てた。


「……親父。俺のハニーがキレてるから、溜まってる仕事をしろや。俺はハニーに聞きたいことがあるのを思い出したから」

「はい……」


父親に言いつけるなり、ミカエルさんの肩を抱き寄せたまま部屋を出る三男。


「なんです?私、まだ仕事が残っているんですけど」

「それは後で手伝うから。ハニーが言っていた通り、俺らもこれ以上天界を留守にするのはよくないってのは分かってる。人間に転生するのも、これを最後にするつもりだ。愛良を任してもいいと思える奴もできたし」

「……あなた、お嬢様がお生まれになられた当初は『どこにも嫁に出さねぇ!』って、神様大様中様とご一緒に騒いでいませんでした?」


真面目な顔をして話す三男に、ミカエルさんは呆れ気味だ。

脳裏には生まれたばかりの赤ん坊を代わる代わる抱っこしながら、でれでれの笑顔で熱烈に可愛がっていた三つ子+α(変態神)が思い浮かべられていることだろう。


「それはそれ。愛良は可愛い妹だから絶対に幸せになってもらいたいが、そろそろハニーとイチャつきたい」


いたって大真面目な顔でミカエルさんの髪を梳く三男。

三男がカインを押している根本的な理由である。


「はいはい、そうですか」


そして華麗に受け流すミカエルさん、さすがです。


「それで、何を知りたいんです?」

「愛良のストーカーの経歴……というより、奴の先祖にいる神族が誰なのか調べてもらえないか?親父の世界の人間たちの情報を握ってるのはハニーだから、できるよな?いったいどの神族の血を引いているのか知らねぇけど、何かあいつ化け物じみてきたんだよな。マジでうぜぇ……」


鬱陶しそうに顔を歪める三男に、苦笑気味にその頬を撫でるミカエルさん。


「本来ならそのようなことをしてはなりませんが、あなたは神様のご子息ですし、仕方がありませんね。何より、早く問題を片づけてあなた方には天界に戻って仕事をしてもらわなければなりませんし」

「ハニー……その仕事一途さ、ぶれねぇよなぁ……」


あの父親のもとで真面目に仕事に取り組み続けるそんな姿に惚れたわけなのだが。


「あなた、神様管轄のアスフォードと地球の人間の資料は膨大ですから、調べるまでに時間がかかりますよ。まして、先祖となるとだいぶ遡らないといけないですし」

「ああ、それは大丈夫だ。俺も時間があるときは手伝うし。もちろん、ハニーと二人きりでな」

「そうですか。こちらですよ」


とにもかくにも愛する妻とイチャつきたい三男と、華麗にスルーするミカエルさん。

お似合いである……と思っておこう。

~三つ子の夫婦関係~


長男夫婦:天界随一の恐妻のため長男は尻に敷かれ中


次男夫婦:天界随一のおしどり夫婦でお互いラブラブ(時神はほぼ彼らの子ども状態)


三男夫婦:次男夫婦のように甘々な生活を目指す三男と、仕事に集中したいキャリアウーマン(その意思はセメント並みに固い)

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