表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/208

158.皇帝さんは顔で損するそうです

視点はルシファー→愛良→カインです

◇◇◇◇


文化祭真っ最中の校庭の隅。

その場所で、さっきからずっと泣き叫んでいるリーン。


「マーマぁああ!パーパぁあああ!!」


眠たくなったリーンは超絶ご機嫌ななめ。

昨日は見えるところに嬢ちゃんもカインもいたから安心していたみたいだが、今は二人の姿は全く見えないから安心して寝れない、という様子だな。

幼等部でも昼寝するまでに結構泣いて、ほんの十数分しか寝ないって聞いてるし。

さっきから人型のクロノスに抱きついて離れる様子もなし。


「リーン、大丈夫だよー。にぃにが、ママとパパ呼びに行ってくれてるからねー」

「わうわーう」


必死にリーンをあやすクロノスとワンコ。

よし、ガンバレ。

俺はリーンの動画を撮るのに忙しいから。

泣いてるリーンもかわゆす!

もうマジで可愛いよ!

リディたんの次に可愛いよ!

何で俺はショタの良さに気付かなかったんだ!!


「ロリコンくそじじぃ。お前いい加減ウザイ。死ね」

「……」


ちーん……クロノスに間延びせずに言われた。

ロリコンもウザイも死ねも言われ慣れてるけど、普段のんびりした奴に絶対零度の目線で言われると、迫力が段違いだ。

こんなひどい子に育って、俺泣いちゃいそう。


「てめぇ、マジで死ね」

「ぐへっ」


……今度は踏まれました。

幼気な子猫を踏むとか、何て残虐な性格に育ってしまったんだ!

次男が聞いたら泣くぞ!

いや、むしろ笑いながら便乗してくるだろうけど!!


「黙れ」


はい、黙ります。

だからそのおみ足を退けてください。

ちなみに、俺たちがそんな馬鹿やってる間、リーンの実父の皇帝はというと。


「いったいどんな職業を?この学園には何をしに?」

「う、うむ……知り合いが、この学園の関係者でな……職業は秘密だ」

「人に言えない職なんですね?」

「そういうわけではないのだが……」


警備の兵士に職質されてました。

今日も護衛を撒いてお忍びで来ているのに、皇帝なんてバレたら大問題だから、答えるに答えれない状況だ。

しどろもどろになる皇帝の様子が、さらに怪しさに拍車をかけている。

皇帝……嬢ちゃんに気に入られるぐらいダンディなのに、まさかの職質なんて体験したこともない状況にテンパってるぞ。

ダンディさが半減だ。

そして兵士!

お前たちは何のために警備をしていると思っている!?

お忍び皇帝のためだろ!

いくら自国の王じゃないからって、顔ぐらい覚えておけよな!

警備する意味ねぇじゃん!!

この国で王太子やってる長男に言いつけてやるんだからな!

絶対にお前らの給料、半年間減給で間違いないからな!!


……と思いつつも、今猫の姿でクロノスに踏まれているから、皇帝のフォローなんて出来ません。

クロノスは泣き叫んでいるリーンで手一杯。

そんな俺たちの前で、さらに進んでいく職質。


「あの泣いている子とは、どんな関係で?」

「息子だ!」

「……さっき、『ママ、パパどこ?』って泣き叫んでいましたよね?」

「……本当に息子なんだ」


確かに息子なんだけど、リーンは皇帝ガン無視して泣き叫んでました。

むしろ、抱っこしていた皇帝をめちゃくちゃ拒否してました。

眠たくなった時に親(嬢ちゃん、カイン)がいないと、やっぱ駄目だなぁ。

子どもにとって、親の存在って大事!

義理だけど!


「詳しくは詰所で聞きますね」

「……」


やべーよ。

まさかの実子なのに誘拐疑われてるよ、皇帝!

皇帝もまさかの展開に、呆気にとられてる。

むしろ、リーンに無視されて落ち込んでる?

あの皇帝らしい威圧感が全くねぇよ。

他国の皇帝を誘拐犯と勘違いして詰所なんか連れて行ったら、大問題だよな。

カイン、嬢ちゃん!

マジで早く来て!








◇◇◇◇


リーンが大泣きして大変だってコス王が言っていたから急いできてみたんだけど。


「……これは何事?」


何故に皇帝さんは兵士の人たちに囲まれちゃってんの?

そしてクロちゃんは、何でそんなに冷やかな目で黒猫踏みつけてんの?

いや、とりあえずは現在進行形で大泣き中のリーンだね。


「リーン、どうしたのー?」

「マーマぁあ!」


クロちゃんの腕から飛び降りたリーンが、目を真っ赤にさせて飛びついてきた。

というか、泣き過ぎて声が擦れてるみたい。

もっと早くに来てあげたらよかったねぇ……。


「よしよし。いっぱい泣いて疲れたね。もうねんねのお時間だからねー?」

「ぐしゅ……あい」


抱き上げて背中をぽんぽん叩くと、すぐに頭を私の肩に乗せて寝息をたてるリーン。

すごく泣き叫んでたみたいだし、よっぽど疲れたみたい。

しぃちゃんも安心したみたいに私の足元に戻ってきた。


「しぃちゃんもお疲れ」

「わふぅ……」


疲れた様子でリーンが頭を乗せているのは反対の肩に飛び乗るしぃちゃん。

そのままぐったり、という様子で前足を肩に引っ掛けるようにしてぶら下がった。

さてと。

クロちゃんとルシファーはどうでもいいけど、皇帝さんの方はどうなってんのかな?

一応、カインが対応しているんだけど。


「……あらまぁ」


そのカインさんは皇帝さんと兵士たちの間に入って、頭を押さえていました。

うん、頭痛がするんだね。

私もその状況には頭痛を感じますよ、本当に。


「一応聞きますけど……あなた達はこの方が誰か分かっているんですか?」

『誘拐犯』


あらまー、そんな綺麗に揃って言わなくても。

実の息子と一緒にいただけなのに誘拐犯って言われて、皇帝さんが哀愁漂わせちゃってますから。

これっていっそ、帝国の皇帝ってばらした方がよくない?

そう思って皇帝さんをチラッと見たんですが、静かに首を横に振られました。

まぁ、ばらしたらばらしたで大問題になることには違いないですからねー。

しょーがない。


(皇帝さん、適当に話作るんで、合わせてくださいねー)

(……分かった)


よし、皇帝さんには念話で了承を得たし!

では厳つい鎧をきた兵士さん達と頑張って向き合います!








◇◇◇◇


一国の皇帝を捕まえて誘拐犯と決めつける兵士たち。

お前たちのせいで戦争になったらどうする気だ……。

頭痛を感じる頭を押さえていると、寝ているリーンを抱えた愛良が俺の横に並んだ。


「あの……父がご迷惑をおかけしてすみません」


遠慮がちに恐る恐る……そんな様子で兵士たちに話しかける愛良。

おい、どんな設定の演技だ、それは。

お前が兵士相手に悄悄とした態度をとるとか、演技意外ありえないだろ。

それに父って誰だ、父って。

お前の父は上(天界)で覗き見でもしているだろ。

他の奴を父なんて呼んだら、発狂するぞ。


「この子は、本当に父の息子です。母が亡くなってから、父は仕事にのめり込んでしまって……」


悲しそうに俯きながら寝ているリーンの頭を撫でる愛良。

その姿に、皇帝を厳しい目で見ていた兵士たちの目つきが弱まる。

……だから、どんな設定なんだ。


「この子はほとんど私たちが育てたので、父に慣れていないだけなんです。今は、少しでも親子の絆を深めてもらおうと思って、文化祭に呼んだんです。……ね?お父様」

「う、うむ」


声が裏返りながらも頷く皇帝。

目線が右上をさまよっている。

皇帝!

愛良がどんな設定で演技しているのかは分からないが、皇帝が挙動不審だと疑われるだろ!

人間、嘘をつくときは自然と視線が右上に向くんだからな!?

頼むから、もうちょっと自然にしてくれないか!?


「それは……申し訳ないことをしました。すみません」


本気ですまさそうにしながら、皇帝に頭を下げる兵士たち。

マジか。

皇帝のあの挙動不審な様子を信じたのか。

この国の兵士、初めから訓練しなおした方がよくないか?

ちょっと長男にそれとなく言っておこう。


「うむ。次からは気を付けてくれたらいい」


先ほどまでの哀愁はどこに吹き飛んだのか、ずいぶんすっきりした様子の皇帝。

兵士たちの勘違いは特に気にしていないみたいだ。

何度も頭を下げながら離れていく兵士たち。

それを変わらずの悄悄とした態度で見送っていた愛良が、突然口を開いた。


「……ふ。ちょろ甘だね」


……そうですか。

顔を覚えられないように、認識をずらす幻術魔法を使っていたのは分かっているんだが。

せめて兵士たちが全員見えなくなるまで、ニヤッと笑うのは我慢してくれ。


「それで、皇帝さんはどうします?私たち、今から生徒会主催のイベントがあるんですけど。あ、ちなみに私はそんなに動く予定がないんで、リーンはこのまま抱っこしておこうかと思ってます」


兵士たちが完全に見えなくなったところで、愛良がニコニコといつもの笑顔を浮かべて皇帝に話しかけた。

動く予定がないってな……副会長なんだから、仕事は山積みなんだぞ?

お前、全部押し付ける気じゃないだろうな?

俺がそういう意味を込めて愛良を見れば、にっこり笑って返された。

……こいつ、俺に押し付ける気満々だ。

俺たちのそんなやり取りに気づかなかったらしい皇帝は、何かを考えるようにリーンを抱き上げている愛良を眺めた後、静かに首を振った。


「お前たちの活動に興味がないわけではないんだがな。少しやることができたから、今日はここまでにしよう」


やること?

……さっきの兵士たちに対する抗議文か?

頭痛の原因となった兵士たちのことは、後で長男に伝えておこうとは思ったんだが、直接抗議するのか?

……さっきまでの様子を見ていれば、皇帝はそんなことしないか。

仕事でも溜まっているのか?


「そうなんですか?残念だなぁ……皇帝さんとリーンのために考えたイベントだったけど」

「……いったい何をするつもりなのだ?」


愛良の物言いに、興味がひかれた様子の皇帝。

そうか、皇帝には言っていなかったな。


「『親子で協力!敵親子を蹴散らして、親子の絆を深めよう!』だよ~。幼児にはハンデとして生徒会が手助けをする予定だったので、私が一緒に出ようと思ってました」


まぁ参加申し込みの時点で、幼児はリーンだけだったけどな。

ちなみに、6大貴族やその他大勢が参加するぞ。

申し込んできたのは、ほとんどが親側から。

コス王ではないが、親馬鹿の収める世界だから親馬鹿が多いようだな。


「よし、参加しよう」


案の定、素早く返してきた皇帝。

言うと思っていた。

だけどな?


「皇帝。リーンは昼寝中なので諦めてください」

「む……うむ」


いや、そんな見るからに落ち込まれると罪悪感が湧くんだが。

だが、さっきまで泣き疲れてようやく寝つけたのに、リーンを起こすわけにはいかないからな。

皇帝に諦めてもらうしかない。


「皇帝さん、ごめんなさい。参加枠が一つ空いてしまいますけど、代わりにカインが父親と出るので、大丈夫ですからね?」

「……は?」


今、愛良は何と言った?


「カインがマスターと出るって言ったよ?マスターにはさっき念話伝えたし!仕事を即刻終わらせて来るって」


いや、待て。

ちょっと待て。


「お前、うちのギルドで受付嬢やってんだから知ってるだろ?ギルドマスターの仕事量の半端ない多さは」


ギルドマスターの部屋は年がら年中、書類で埋もれるくらいの多さなんだぞ。

俺たちだって親父一人で捌ききれない量の手伝いを、よくさせられていただろうが。


「もちろん知ってるよ?でも、私の両親は(この世界には)いないから、ダメ元でマスターに言ったら、即オーケーでびっくりした。お仕事終わらせるのは絶対無理だから、イベントが終わったらお手伝いしに行こうね」


あ、やっぱりそうなるのか……。

まぁ、いいか。


「……アイラは、親がいないのか?以前、部屋に来た時、父親と電話をしていなかったか?」


皇帝はそこが気になったのか?

というか、何でそこに食いつくんだ?


「いないことはないけど、簡単には会いにいけない所にいるんです。だからカインの父親に保護者になってもらってるんですよー」


いや、行けないことはないだろ。

特に父親は。

単純にお前が会いに行かないだけだからな?


「ふむ、なるほどな……よく分かった。では、帰るとしよう。二人とも、頑張るのだぞ」

「はーい。皇帝さん、キャロルお姉さまと自称勇者さんによろしく伝えてくださいねー」

「ああ」


愛良の言葉に大様に頷いて立ち去る皇帝。


「……お父様か……養女という手もあるか……」


……去っていく皇帝が、不吉な言葉を呟いていたんだが!?

俺の幻聴か!?

~皇帝さんの思惑~


実の息子と一緒にいるだけなのに誘拐犯と疑われた……。

アイラが誤魔化してくれなければ、あのまま詰所に連れていかれていたことは間違いなさそうだった……。

お父様と呼ばれたのは、少しこそばゆい感じであったが。

うむ、アイラに保護者がいないのであれば、保護者を名乗り出るのも良い案かもしれんな。

そうすればリーンを預けている口実にもなる。

いざリーンを引き取った時に無理にアイラから引き離す必要もない。

養娘と公式に発表してしまえば、大っぴらげにリーンの様子を見に行くこともできる。

よし、では準備しておくか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ