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157. 実は二人きりなことって、そんなにないんです

視点はカインです

◇◇◇◇


不覚だ……。

たかが生徒に転移させられるとは……。


「カインー?そんなに悩んでてもしょうがないよ。ヤンヒロ出現情報に動揺しない方がおかしいもん」


確かにそうかもしれないが。

だがな、愛良。

お前のその言い方は、魔物が出たと言っているようなものだぞ。


「ヤンヒロはそろそろ討伐依頼に挙がってきてもいいと思うの。受付嬢特権で、こっそり依頼板に張っていたら、誰か受けてくれるかな?」

「いや、うちの受付嬢にそんな特権ないから」


真面目な顔して何を考え込んでんだ。

仮に依頼に挙げたとしても誰も受けないぞ。

あんなのに関わりたい奴がいるはずがないから。

俺も嫌だからな?

主に、俺が離れている間にお前に何かありそうで心配だし。


「はぁ……どうやったら、あの子は元に戻るのかな?」

「戻らないんじゃないか?前がどんなだったのかは知らないが」


知りたいとも思わないし、別にどうでもいいよな。

それよりも腹が減った。

俺たちの自由時間はそんなにないんだから、さっさと飯を食ったら準備に行かないとな。

そう思ってはいるんだが。


「うわぁ……人がいっぱいだねー」

「まずは空いている席を探すか……」


昼時もあって、食堂は満員だ。

立って食べている奴らもいるぐらいだから、開いている席を探すのに苦労しそうだな。


「んー……」


開いている席を探してキョロキョロと食堂を見渡す愛良。


「……あ!カイン、あそこ空いてる!」


愛良が指さした方を見れば、確かに席が空いている。

だがな、愛良。


「あそこは駄目だ」


よく見てくれ。

その空いている席の回りを陣取っているのが誰なのかを。


「へ?」


俺の真剣な表情を見て、もう一度席の周辺を確認した愛良は苦笑を浮かべた。


「……ああ、アベータさん率いるホモ団だったんだね」

「よし、食堂で食べるのは諦めるぞ。寮に帰って食べよう」


奴らに見つかる前に転移で寮に戻った。

逃げたとでもなんとでも言え!






結局、愛良にすぐ出来るチャーハンを作ってもらって昼食を終えた。

うん、やっぱり店で食べるより愛良の飯を食べるほうが好きだ。

そして何気に初めて愛良と二人だけで食事したぞ。

いつもならリーンやシリウスがいるからな。

まぁ愛良はよく話すから静か、というわけでもないんだが。


「うーん……リーンとしぃちゃんがいないから、なんだかちょっと寂しいねぇ」


食後の紅茶を飲みながら、愛良がしみじみという様子で呟いた。


「そうだな……」


あれだよな。

リーンは帝国での問題が解決したら、皇帝が連れて帰ると言っていた。

リーンがいなくなった時の予行演習というわけではないが、寂しいものがあるな。


「カイン、生徒会のイベントの前にリーン達の所に寄ってもいーい?」


愛良も同じことを感じたのか、首をかしげて聞いてきた。

リーンと実父の仲を深めようと文化祭中は距離を置いていたが、やっぱり寂しいよな。


「ああ。俺もリーンの顔が見たいし、行くか」

「うん!じゃあすぐに片づけて来るから、ちょっと待っててね!」


俺が頭を撫でて言うと、嬉しそうに笑顔を浮かべて後片付けをする愛良。

……俺も手伝うか。

そう思って立ち上がった瞬間。

バタンと激しくドアが開き、コウモリが勢いよく俺に飛んできた。


「カインんんん!!?」


何故か号泣しているコス王だ。

あまりにも泣いている為、仕方がないから避けずに受け止めると、俺の肩にしがみついた。


「何でさっきからリーンとお犬様ばっかで、俺様たちの名前が一回も出て来ないんだよぉおおお!!?俺様たちだって、毎日一緒にいるんだぞぉおおおお!?むしろリーンより俺様の方が、カインやお嬢といる時間が長いんだからなぁああああっ!?」


「……あ。」


素で忘れていた。

いや、シリウスは別としてもリーンに比べれば確かにお前の方が付き合いは長いんだけどな。

長いんだけど、あれだ。

お前たちは最近ゲーム部屋に引きこもっていることが多いんだ。

引き籠りを改善したらいいんじゃないか?

ついでにコウモリ姿で扉をどうやって激しく開けたのか、詳しく教えてくれ。


「……ん?というより、何でお前がここにいるんだ?」


一応使い魔たちにはリーンの子守りと皇帝の護衛を頼んでいたんだが。

何でこいつは独りなんだ?


「俺様の嘆き聞いてたっ!?」

「悪かった」


悪かったと思っているから、何でお前がここに一人でいるのか今すぐ説明してくれ。

リーンに何かあったのか?


「ぐすぐす……お昼寝タイムに入りそうなリーンがぐずって泣き出したから、お嬢たち呼びにきたんだよ」


鼻をすすりながら説明するコス王。

言っておくが、鼻水を俺の制服に擦り付けたら握りつぶすからな?

俺がそう思ったのと同時に、パタパタと軽い足音が台所から聞こえた。

片づけを終えた愛良だ。


「コス王、リーンが泣いてるの?」


リビングに戻ってくるなり、エプロンを外しながらコス王に尋ねる愛良。

だがコス王はその質問には答えずに、愛良に体当たりするんじゃないかというくらい勢いよく飛んで行った。


「おじょぉおおお!」

「へ?わっ!?」


飛んで行ったのは飛んで行ったんだが、突然の動きに驚いた愛良が反射的に手に持っていたエプロンをピンと伸びるように広げた。

勢いよく突っ込んだ小動物なコウモリに避けられるはずがなく。


「ぶへっ!?ふぉおおお!?」


エプロンに勢いを吸収され、さらにしっかりと張るようにして広げられていたため、こっちに向けて跳ね返ってきた。


「……お前はいったい何がしたいんだ」


馬鹿か?

馬鹿なのか?

そして何気に愛良に抱きつきに行ったな?

跳ね返ってきたコス王を掴んで力を込める。


「ぎゃあああ!?潰れる潰れるぅう!!」

「ちょ、カインカイン。コス王がミンチになっちゃうから」

「おじょぉおおお!お嬢は理不尽だけどいい子!!」

「どうぞ、潰してください」

「あれぇえええ!?」


やっぱりコス王は馬鹿だった。

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