15.自己紹介は慎重にしましょう
「……おーい。話、終わったか?いい加減自己紹介をしてくれねぇか?いつまでも終わらねぇだろ」
間に入るのがめんどくさいって理由で、窓辺付近を陣取ってタバコ吸っていたダメ教師代表に言われたくないですけど、いい加減前に出づっぱりってのも嫌だしここは大人しくしておきます。
あの金髪娘もこっち睨みながら席に戻ったことだし。
よし、気を取り直して自己紹介といきますか。
入ったもん順で龍雅から。
「あ、えと……龍雅・桐ヶ谷です。属性は全部です。よろしく」
キラキラ~。
そんな効果音が付くんじゃないかというくらい、龍雅のはにかみ笑顔が眩しい。
「きゃああああああああああ!!」
「リョウガさま―――!!!!」
「全属性……かっこよすぎだわっ!!!」
「将来の全帝候補よね!つまり玉の輿ぃぃいいい!!」
「くそ、このイケメンが!!」
「イケメン?何それうまいの?」
「なんでだ!!何で女はイケメンが好きなんだ!!!?」
「リア充には死をぉおおおおお!!!!」
うん、このクラス好きになれそうで安心しました。
……そ・れ・よ・り・も。
この子、属性の数とか隠す気全然ないよね。
もう面倒事は全部龍雅に集中したらいいと思います。
フラグ建てまくって自滅してください。
この子が建てまくる分、私は平和に過ごせるはずだから。
ドMなんだから、厄介ごとが来るのも喜ぶよ。
とりあえず、この子はひたすら無視ることにします。
2週間とかじゃなくて、一生無視ろう。
これ以上巻き込まれたくないし、できれば二度と私の視界に入らないでほしい。
「愛良ー?どうかした?次は愛良の番だよ?」
「……」
ただいま無視なぅ。
しゃべりかけないでください。
「愛良」
「何、カイン?」
カインに呼ばれたら普通に返事しますよ?
だけど龍雅はそのことが気に食わなかったみたいで、愕然とした表情で私の肩を掴んできた。
「あ、愛良!?今、僕のこと無視……」
「邪魔だ」
おお、カインナイス!
鬱陶しそうなカインが龍雅の手を払いのけてくれました!
危うく馬鹿力を発揮して龍雅の腕をへし折っちゃうところでした……。
「愛良、お前の番だ。さっさとしろ」
「ちょ、何するんの!?」
「はーい」
「みんな無視して……ひどい……」
無視した龍雅が黒板と向き合ってブツブツ言ってますけど、ほっときましょうか。
めんどうだから。
「愛良・紫藤です。この子は使い魔のシリウス。よろしくね~」
「……カイン・ルディス。Aクラスから移動になった。よろしく頼む」
私とカインは、どうせ属性とか魔力量とか嘘だから、簡単にしか自己紹介をしません。
とりあえず自己紹介は終わったし授業に移った方がいいと思うんだけど、担任のソル先生はまだ窓から身を乗り出すようにしてタバコを吸ってる最中です。
自己紹介とかホームルームとか、本気でどうでもよさそう。
「ソルせんせー。自己紹介終わりましたけどー??」
「……」
「おーい?」
「……」
反応、なし。
相変わらず空を見上げながら煙を口から出しています。
「……しぃちゃん、よろしく」
「わうっ!!」
腕の中にいるしぃちゃんにお願いしたら、しぃちゃんは軽い身のこなしで飛び降りて助走をつけるべく後ろに下がった。
そのまま勢いよく走りだしたしぃちゃんは、ソル先生の背中へ。
小さい姿でも、しぃちゃんは結構強い魔物らしいので。
ダダダダダダ、ドン!!!
「がっ!?……ちょ、お、落ちる――――……」
窓から身を乗り出してタバコを吸っていたソル先生は、もちろんそのまま落ちていきました。
ちなみにこのクラスは3階。
……まぁ、帝だし無事でしょ。
てなわけで。
「しぃちゃん、いい子いい子」
尻尾をぶんぶん振ってるしぃちゃんを抱っこして頭を撫でまくりました。
「わ~う~」
ああ、この子ホント可愛い。
毛はもふもふ、肉球はぷにぷにで癒しの塊だわ~。
とりあえず、そのうち先生も戻ってくるだろうし、それまでは時間を潰しますか。
「はい、じゃあ私たちに質問ある人ー」
まぁ、この微妙な空気で質問する人なんていないだろうけどねー。
……と思っていた時期もありました。
『はいはいはいはいはいはい!!!!』
「え、質問する人いるの!?」
なに、このクラス!?
先生突き落したり、イケメン顔つぶしとか色々したのに、ほぼ全員が手を挙げるとかなんなんですか!?
「……ま、いいや。はい、そこの人」
「はい!その使い魔はなんですか!?」
「しぃちゃんはしぃちゃんです。はい、次。君ね」
「リョウガ様!カイン様!今お付き合いしている人はいますか!?」
「二人とも彼女はいません。望みはあるから女子のみんなは頑張れ。はい、廊下側の君」
「イケメンの顔をためらいなく潰せるとか、あなたは神ですか!?」
「普通の女の子です」
「ぜひイケメン撲滅委員会の会長に!」
「面白そうな時はぜひ情報提供させてもらいます。はい、次一番後ろの人」
「あなたの属性は何ですか!?」
「乙女の秘密です。はい、次」
「リョウガ様とカイン様の好きな食べ物を教えてください!!」
「リョウガは洋食ならなんでもあり。ちなみに好物はふわとろオムレツ。カインはあっさり系で意外と煮物好き。甘いものも結構食べる。はい、次で最後」
「はい!!何で二人のことをそんなに知っているんですか!?」
「幼馴染(元凶)と恩人(主?)だからです。はい以上。質問はお終い。先生がもうすぐ戻ってくるから、残りの質問は休み時間に各自でしてくださーい。じゃ、私たちは空いてる席に座ったらいいよね」
いやーテンポいい質問だったから楽しかったー。
自分のことは真面に答えていませんけどね。
「空いてる席はー……」
「……愛良?」
鼻歌交じりに空いている席を探していた私の肩を掴むカイン。
その額には、くっきりと浮かぶ青筋が。
「……愛良。奴はともかく、俺のこともずいぶんとペラペラしゃべったな?」
「……てへ」
「後で覚えていろ」
「あぅ……」
龍雅はどうでもいいけど、カインが微妙に怒ってるのはちょっと怖いです……。
今日の夕飯は和食中心にしてご機嫌を伺うことにします……。
ああ……社会人をリタイアして学生に戻りたい……。