155.可愛い妹のためならお兄ちゃんたち頑張ります
視点はカイン→ちぃ兄ちゃんです
シンが出て行ってすぐに入れ替わりで店内に入ってきた人物を見て、俺たちはシンをさっさと帰したのを後悔した。
店内に入ってきたのが、愛良のストーカーの奴だったから。
「まあ!リョウガさん!来てくださったんですの!?」
気分が一気に高揚した王女が、即座に入口まで奴を迎えに行く。
おい……さっきまで仕事をまともにしなかったのは誰だ。
この屑に関しては素晴らしいまでの切り替えの早さだな、お前。
「だって、僕だけ当番の時間、違うから一人だもん」
苦笑を浮かべながら王女に答える奴。
いやいや、お前なら歩いているだけで別クラスの女子が近づくだろ。
今だって店の入り口付近にお前目当てと思われる女子たちが覗いているだろうが。
わざわざ来るなよな!
「すいません、リョウガさん。一人にしてしまって……生徒会長が、理不尽なシフトにするからですわ!」
俺の方を睨みながら話す王女。
その台詞に、俺のこめかみがピクリと動くのが分かった。
……一つ、言わせてくれ。
お前らは俺たちと一緒にしないと昨日みたいに仕事をしないからだろうが!
誰が好き好んでお前らとなんかやるか!!
「まぁまぁ。彼も悪気があるわけじゃないんだから」
そこでなぜか奴がフォローらしきものを入れてくる。
いや、悪気はあったぞ。
お前と一緒に店番なんて、自分からストレスを抱え込むような真似するわけないだろうが。
「リョウガさん、何になさいます?わたくし、リョウガさんの好きな飲み物なら何でも淹れますわ」
「あ、じゃあミルクティーとプリンパフェをお願いしてもいい?」
「任せてください!」
嬉々としてカウンターに戻る王女。
その王女を見送ってから、奴は店内をキョロキョロと見回し、俺の隣を見て目を輝かせた。
もちろん、奴が見ているのはメイド服な愛良の姿だ。
「げ……」
「愛良可愛い!!写真撮らせて!!」
「絶対に嫌」
カメラを構えて近づいてくる奴を見るなり、すぐさま俺の後に隠れる愛良。
奴に対する盾にするために、俺の服を握りしめて半分抱き着いてくるようにして。
そんな愛良の様子に、奴の歩みが止まった。
「……愛良?何で彼の後に隠れるの?」
「龍雅が変態で近づきたくないから」
眉間に皺を寄せて尋ねてくる奴に対して、即答する愛良。
愛良もずいぶんはっきり奴を拒絶するようになったな……。
「愛良……どうしてこの世界に来てから、愛良は僕のことを避けるの?なんで?」
ブツブツと俯きながらつぶやく奴。
……嫌な予感がする。
思わず俺の後に隠れている愛良を抱き寄せると同時に。
バリンッ!!
何かが音を立てて壊れる音が聞こえて、愛良と顔を見合わせた。
……何が壊れたんだ?
俺たちの目線は、自然と俯いたままの奴のもとへ。
「愛良は昔から僕のだよ?僕だけが愛良の傍にいればいいんだよ。愛良だって、僕がいれば他には誰もいらないでしょ?いらないよね?」
「「……」」
……ヤンヒロ再び。
サバイバルの時以上に、病んだ目つきの奴がそこに立っていた。
「ひぅ……」
奴の様子に小さく悲鳴を上げた愛良。
その顔色を青ざめながら、必死に奴を強制転移させようと魔力を練る……が。
「な……なんで魔法が無効化されてんの……?」
放ったはずの魔法が発動されなかった。
発動はされようとしていたのはしていたが、奴に届く前になぜか無効化されている。
……どうなってんだ?
今度は俺が近づいて来ようとする奴の周辺の空間を遮断するように結界を張ってみた……のだが。
メキッビリっ
そんな音を立てて、遮断している空間を奴は掴んで引き裂いた。
「「……はい?」」
こいつ、いったいどうなってんだ?
空間属性を持っていないと、今のはどうにもできないはずだぞ?
何か、色々とレベルアップし過ぎじゃないか?
「愛良が他に目移りしないように、僕頑張らないといけないよね。ああ、それか愛良が他に目を向ける前に僕のことしか考えれないようにしたらいいか。うん、そうだよね。最初からそうしておけばよかったんだ。それを邪魔する奴は許さな……なっ!?えっ!?ぐべっ!?」
「「……」」
今、目の前で起こったことを説明しよう。
サバイバルの時以上に、病んだような目で愛良のみを見ていたヤンヒロが近づこうとした瞬間。
長男が愛良の前では決して出さなかった黒い触手を出して雁字搦めにして拘束。
身動きできなくなった奴を、近づいてきた次男に足払いをかけられ転倒。
止めに、ジャンプした三男がそのまま両膝を奴の鳩尾に埋め込んだ。
さすが三つ子。
素晴らしいまでの連係プレーだ。
いっそそのまま息の根を止めてくれ。
◇◇◇◇
あっっぶねぇええええ!!
こいつ、親父のヤンデレ封印を自力で破りやがったし!!
こいつの進化は止まらないのか!?
危うく愛良が危ない目にあわされるところだっただろうが!!
このヤンヒロが!!
俺らがお前から愛良を守るのに、どんだけ苦労してると思ってやがんだよ!?
思わず意識を落としているヤンヒロの背中をぶみぶみ踏んでいると、慌てた様子の愛良から声をかけられた。
「ちょ、ちぃ兄ちゃん?ヤンヒロ、すでに気絶してるし踏みまくらない方がいいんじゃない?また起きちゃいそうで怖いから、できればそのままにしていてください」
カインに抱きついたまま、恐る恐るヤンヒロを見下ろす愛良。
その目に涙が浮かんでいる。
うんうん、怖かったんだな。
よしよし、兄ちゃんたちが守ってやるから大丈夫だぞ!!
「愛良よ、気にするでない。アレの始末は我らがするからな。お前は今のは忘れて店の手伝いをするがいい。我らはちょっと用事があるのでな」
「そうだよ、愛良。愛良は何にも気にしなくていいんだからね?ちょっと僕たちは席を外すけど、愛良の傍にはカイン君がいるから大丈夫だからね?」
大にぃと中にぃが黒い触手を掴んで奴を引きずって転移した。
行き先はもちろん、親父のいる天界だ。
もう一回頑丈に封印をかけてもらわねぇとな。
ぶっちゃけ、キモすぎて触りたくねぇし。
兄貴たちが触手を掴んだのも、直接ヤンヒロを触りたくないって理由だしな。
よし、愛良たちの当番が終わったら俺も天界に行ってこよ。
打たれれば打たれるだけ強くなる奴だが、とりあえずは殴りたくてしょうがないからな!
俺たちが百年単位で殺りまくってたんだから、もうちょっとボコっても大して変わらないはず!
その後は妻に手伝ってもらって、奴のルーツでも探る!
何も知らねぇ愛良の平穏は崩させねぇからな!
~連行後の天界にて~
駄神「僕のヤンヒロ封印を破って、また愛良ちゃんに手を出そうとした、ねぇ……?」無表情
長男「そうなのだ。親父、こやつの封印を再度頼むぞ」
次男「父さんが封印の準備をしている間、また僕たちでちょーっとこの子にお仕置きしておくからさ」真っ黒笑顔
長男「うむ。我らが何百年といたぶってきたのだ。今更この数時間いたぶったところで、打たれれば打たれるほど強くなる効果に大した違いなどあるまいて」触手を出しながら
駄神「……そうだね。ちぃちゃんもたっぷり参加できるように、僕はゆっっっっっくり封印の準備をしておくよ」次男によく似た笑顔で了承
……龍雅が下界に戻れたのは、文化祭2日目が終了する間際だったらしい。