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153.思い込み馬鹿は自滅します

視点はカイン→愛良→カインです

「カイン?難しそうな顔してどうしたの?」

「いや。とりあえずは、俺たちは仕事に戻るぞ」


不思議そうに見上げてくる愛良の頭を撫でてカウンターに戻るよう促す。

あの護衛二人、皇帝に説教されながらも愛良に警戒心を剥き出しにしているからな。

店内の雰囲気まで悪くなる。

元はと言えば愛良が原因だから、あの二人は悪くないんだけどな。


「仕事といっても、もう今日の分はほとんど売り切れちゃってるよー?」


俺が作った箱型魔導具の前に座り込むようにして中を見ていた愛良。

確かに確認してみると、今日の分の在庫はもうないな。

午前中はともかく、俺たちと変わってからは客の周りもよかったし。


「……今日はもう閉めるか」


まだルナたちが俺たちの後に残っていたんだが、在庫がないなら仕方がない。

明日の分まで出すわけにはいかないしな。

ルナたちは明日に回したら、別に問題ないだろう。

ついでだから、あの6大貴族と王女は明日の店番に入れずにいるか。

邪魔だし。

あー……でもそうすると、余計に助長するか。


「あの子たちは私たちと同じ時間に店番に入れたらいいよ。きっと明日もお兄ちゃんたちが来るだろうし」


ニコニコ笑って提案する愛良。

確かにそれなら確実に働くだろうな。

俺たちの心身が疲弊するだけで。


「他の子達が疲弊するよりマシでしょ?今日あの子たちと一緒の当番だった子達は、明日のシフトから外して休んでもらえばいいよ」

「……そうするか」


あいつらと一緒の当番でかなり苦労したみたいだから、明日は俺たちが我慢すればいいな。

……ただし、ヤンヒロとアベータ・カーズは別の時間帯に回すからな。


「じゃあ、今並んでるお客さんたちに売り切れとお詫びのプリンを渡してくるね」

「ああ、頼んだぞ」

「はーい」


鼻歌交じりに店の外に出る愛良。

プリンが売れまくったのが相当嬉しいみたいだな。


「カイン、喫茶店はもう終わりか?」


客がいなくなったテーブルの上の物とかを片づけ始めたからか、皇帝が気づいて声をかけてきた。


「はい。今日出す予定の物はなくなったので、少し早めですが終わります。皇帝たちは別にそのまま残っていてもらっていいです。あいつらも気にせずに残っていますし」


本当に俺たちが片づけ始めたのなんか気にせずに話し込んでいるからな、あそこの三つ子は。

退く気配がまったくないし。


「そうか?では俺はもう一度、あ奴らの話し合いに参加してこよう。上手くいけば、魔族との共存も夢ではないからな。お前たちは片づけを手伝っていてくれ」

「え?……ちょ、陛下!?」

「今の、どういう意味です!?」


さりげなく『魔族との共存』に反応する護衛二人だが、皇帝は返事をすることなく再度空間結界の中に入った。

……こいつらが煩くして長男が出てきたら嫌だし、もう一回結界を塞いでおくか。


「ち、近づけない!?これも結界なのか!?」

「私たちでも結界を破ることができないなんて……陛下は一体何をされているの……?」


3大国の王子たちと魔族で、交易の話をしているぞ。

……とは、俺の口からは言わないがな。

とりあえずは、他の残っているクラスメイトには帰ってもらうか。


「後は俺たちとそこの二人が片づけるから、もう文化祭に戻っていいぞ」

「えと……では、お言葉に甘えて失礼します……」


頭を下げながら次々と出ていくクラスメイト。

……身分的にはあいつらの方が上なのに、何故俺に対してあんなにびびってんだ?


「サバイバルでみんな一緒に吹き飛ばしまくったからだよ?」

「うわっ!?」


クラスメイト達の様子に首をかしげていたら、愛良が突然窓から入ってきたんだが!?

なんでお前はドアから廊下に出たのに、窓から戻ってきたんだよ!?


「窓から出入りするな!」

「だって並んでいる人たちにプリンを配っていたら、いつの間にか外に出てたんだもん。しかも遠目に龍雅が見えたから、見つかる前に避難してきたの」

「あ、それなら仕方がないな」


むしろよく見つからずに逃げた!

護衛二人は俺たちを呆気にとられた様子で見たまま固まっているし、もう放置していたらいいな。

さっさと後片付けをしよう。

昼寝中のリーンとシリウスも、人型のコス王がずっと抱き上げている状態だし。

いい加減ベッドで寝かせてやりたい。


「……ちょっといいかな?」

「先に片づけるから後にしてくれ」

「あ、はい……」


男の方が話しかけてきたが、俺たちが片づけで忙しくしていると素直に引き下がった。

というか、お前らの存在のおかげでクラスメイトを先に帰したんだから手伝えよ。


「ふぅ……仕方がないわね、手伝うわ」


あ、皇帝に言われたこともあって、女の方が手伝いを申し出たな。

こういうのは、やっぱり女の方が気が効くものか?


「あ、じゃあ私がテーブルクロスを引くので、グラマーおばさんはテーブルを拭いていってもらえます?」


愛良、お前はまだおばさん呼ばわりをやめないのか。

28ならまだ若いだろ。

俺たちから見ればかなり年上だが。

やっぱり実は『まな板娘』発言を根に持っているんだろ。


「誰がおばさんよ!?誰が!?私の名前はキャシーよ!」

「じゃあキャシーおb……美人で羨ましいグラマーなキャシーお姉さま、よろしくお願いしまーす」


おい。

今確実に『キャシーおばさん』って言いかけただろ。

何煽てて誤魔化そうとしてんだよ。

そんなんに引っかかる奴なんているはずないだろうが。


「ま、まぁ分かればいいのよ!さっさと拭いていくわよ!」

「はーい。綺麗なキャシーお姉さま、よろしくお願いします」

「任せなさい!」


いた。

普通に引っかかっている奴がいた。

しかも煽てられて気をよくしたのか、愛良と談笑しながら片づけを手伝っているぞ。

さすがは自称勇者に群がる女。

扱いが簡単だ。









◇◇◇◇


「で、そこのイケメンおにーさんはお手伝いしてくれないの?」


キャシーさんは私と話しながらも手伝ってくれているのに、イケメンおにーさんの方は動く気ゼロなのか茫然と突っ立っている。


「あ、いや。手伝うけどね?手伝うんだけど、君って魔王代理を名乗っていたくらいなんだから、魔族なんだよね?」

「えー?私のどこをどう見れば魔族に見えるんですかー?耳は尖ってませんからねー?」


魔族って基本は耳が尖っているんだよね。

あのおじさんみたいに人化の魔法で耳を丸くすることはできるけど。

だけど人間嫌いの魔族は、基本的に人化せずに来るみたいだから一般的には知られてないのかな。


「シェーン。こんなに可愛い子が魔族なはずないじゃない。だからあなたは思い込み馬鹿って陛下から言われるのよ」


まさかの煽てまくったらキャシーさんが味方してくれた。

このイケメンおにーさんのハーレムメンバーかと思ったけど、実はそうでもないの?

可愛いって言ってくれたから、キャシーお姉さまが一気に好きになりました。

『まな板娘』って言ったの忘れます、たぶん。


「……じゃあなんであの時、魔王の城にいたんだい?」


シェーンっていうらしいおにーさん、思い込み馬鹿って所スルーした。

自覚がきっとあるんだろうね。


「何でって、言われてもなー。……なんとなく?」


確かコス王が魔王城に引きこもっていたから迎えに行ったんだったっけ?

それでたまたまこいつらが自称勇者を名乗って魔王ルシファーを倒しに来ていたのを使い魔ズが楽しんでいたから、私も出しゃばったんだったっけ?

うん、本気で大した理由がないです。

大した理由がないのに潰してごめんなさい。

あの時は『まな板娘』発言にかなり腹立ったんです。

だって事実だったから!

……今も大した大きさはないけどさ。

後でキャシーお姉さまにどうやったら大きくなるのか聞いておこう。


「………」


ありゃ、私の『なんとなく?』発言にイケメンおにーさんが固まっちゃった。

そりゃ勢い込んで魔王討伐を掲げてわざわざ魔王の城にまでたどり着いたのに、私みたいな子どもに『なんとなく』って理由で志を潰されたら、たまったもんじゃないだろうね。


「アイラ、ちゃん……って言ったかな?君、魔闘大会に出る?」


しばらく下を向いて俯いていたおにーさんが、急に真顔になって聞いてきた。


「出ますけど……?」


それがどったの?

おにーさんの方からシリアスな雰囲気がプンプン漂ってきているんですけど。


「なら……僕は君に魔闘大会であたった時、決闘を挑むよ」


私の目をまっすぐ見て宣言するおにーさん。

……決闘とな?

おにーさんと私が?


「君は若いのに力が強すぎて危険だ。考え方も幼くて、放っておけない」


あー……うん、まぁ私も自分の思考に幼い部分があるってことは自覚していますけど。

なぜそれをおにーさんが言ってくるの?

やっぱり自称勇者を名乗るだけあって、正義感にかられてとか?


「僕が勝てたら、君は僕の監視下にいてもらう。僕とあたるまで、負けることは許さないよ。前は唐突なことで驚いたけど、今度は全力でいかせてもらうから」

「えーと……おにーさんと決闘するのは別にいいんだけどね?」


いいんだけど、それよりも突っ込みたいことがあるんだけど、いいかな?

おにーさんがすごく真面目な顔して『言ってやったぜ!』ていう感じの満足げな顔してんだけど、いいよね?



「おにーさん……私が出るの、学生の部なんですけど……?」


『………』



その場に、何とも言えない沈黙が降り立った。

言っちゃった張本人のおにーさん。

黙って事の成り行きを眺めていたカインとキャシーお姉さま。

爆睡中のリーンとしぃちゃんを抱っこしたまま話を静かに聞いていたコス王。

話し合いが終わって結界から出てきたお兄ちゃんズに使い魔ズ。

さらには皇帝さんと魔族のおじさんまで。

みーんな、おにーさんの『魔闘大会に出る?』辺りから聞いていました。


「……だから、お前は思い込み馬鹿なのだ」


グシャ。

皇帝さんのその一言で、おにーさんの心が折れる音が響きました。

うん、学園の文化祭で出し物している時点で私が学生だってことに気づこうね。










◇◇◇◇


あの後、心が折れた自称勇者は皇帝とキャシーさんが回収して帰って行った。

皇帝は昼寝中のリーンが起きるまで居たそうだったが、自称勇者があまりにも邪魔過ぎたので仕方がなし、という様子だった。

恐らく、宿泊先で自称勇者の心をさらに折っていることだろう。

リーンに会うために来たも同然だったからな。

それなのに今日は午後から魔族の男を中心に交易の話で潰してしまったから、午前中しかリーンと一緒にいれなかったわけだし。

心を折られ過ぎて魔闘大会に支障が出ても、こちらとしては痛くも痒くもないからどうでもいいがな。

むしろ俺たちの国が勝てる可能性が高くなるから、もっとやれ。

魔族の方は、問題なく交易を取りつけたらしい。

最初渋っていたようだが、娘の真魔がロリコンルシファーの餌食になるぞ、という脅しが効いたようだ。

あまりにも沈んでいたから憐れに思った愛良がプリンのレシピをやれば、さっきまでの沈みはどこに消えたんだ、というくらい目を輝かせていた。

ついでに愛良とどこの卵やミルクが新鮮で味がいいのか等、話が盛り上がっていた。

何で魔族のくせして人間世界の食文化に詳しいんだよ。

訳が分からん。

三つ子は三つ子で寝ているリーンとシリウスの写真を、使い魔ズと一緒になって撮りまくってたし。

こっそり愛良のメイド姿を撮っているのも見ていたんだからな。

三男が後で現像したらくれるって言われたから見て見ぬ振りをするが。

文化祭、明日もあるのか……。

何て濃厚な一日だったんだ……。

たった一日……いや、半日だけで色々なことが起こり過ぎだろう。

もう一日だけで疲れ果てたんだが。

あ、明日のシフトが変わったのをクラスメイトに連絡しておくのを忘れていた。

そういえば、帰る間際に皇帝が明日も来るとか言っていたか?

リーンと全然関われなかったからと言って。

案内はいいと言っていたが、リーンといるなら結局俺たちと一緒だよな。

明日は生徒会のイベントもあるのに……。

はぁ……やることが多すぎる。

愛良が夕食に俺の好きなうどんを作ってくれたから、それ食って明日のためにもさっさと寝よう。

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