151.カインとお嬢をくっつけ隊を立ち上げようぜ!
視点はカイン→コス王です
◇◇◇◇
シリウスが妙に落ち込んでしまったんだが、これは俺のせいなのか?
愛良はよくシリウスは本当は俺の事が好きだと言うが、本当だったのか?
「あー……シリウス、悪かっ「しーたん!リーン、しーたんギューする!」……」
シリウスに謝ろうと思ったら、リーンに遮られた。
リーン……パパは少し悲しいぞ。
そんな俺の思いとは裏腹に、シリウスは機嫌を取り戻したのかリーンに頭を擦り寄せた。
「わ~う~」
「えへへ~」
「あら可愛い光景。リーンに慰めてもらってよかったね、しぃちゃん」
「おい」
いやまぁ確かにリーンとシリウスがお互いすり寄っている光景は癒されるんだが。
「……お前、さっき俺が謝ろうとしていたことに気付いていただろ?」
「もちろん。あ、別にしぃちゃんを落ち込ませた事なんて気にしてないよ?」
笑顔で頷く愛良。
気にしているんだな?
シリウスを落ち込ませたから怒っているんだな?
お前の笑顔の背景が真黒だぞ。
「……シリウス、悪かった」
「……わう」
俺が話しかけると、また尻尾と耳を垂れさせて顔を背けられた。
……良心と胃が痛む。
後で愛良に、今日の晩飯は胃に優しい物で作って欲しいと言っておこう。
「しーたん、いいよって!なかなおりー!」
一人、リーンだけが無邪気に万歳をしている。
頼むから、お前の横でママが冷ややかな笑みを浮かべている事に気付いてくれ。
ついでに助けてくれ。
「カイン?リーンに助けを求めないでね?」
「……はい」
愛良にぴしゃりと言われた。
鬱だ……。
でも今鬱帝になってキノコ生やしたら、愛良に『食品を扱う場所でキノコなんて生やしたら不衛生だ!』って怒られるんだろうな……。
小動物な使い魔ズも、毛が飛ばないように結界を張っているもんな……。
……泣きたい。
だが俺のことなんて気にしてない様子の愛良は、少し距離を取っていた使い魔ズの方に歩み寄り、コウモリと黒猫の頭を鷲掴みにした。
「人の写真を何撮りまくってんのかな、この小動物共は」
「「ぎゃあっ!?」」
使い魔ズの手には、確かにカメラやビデオが握られている。
……動物の手で持つとか、お前ら器用だな。
「だって、貴重過ぎるお嬢とカインのメイド&執事のコスプレっ!永久保存しないと俺様死んでも死にきれない!!」
「リーンとワンコが可愛いんだぞ!?ショタに主旨変えしようかと思うぐらい可愛いんだぞ!?幼女様は捨てられないけどっ!!」
「写真をいっぱい撮って、三つ子にあげるんだー。写真1枚につき、アメちゃん一つくれるのー。ちなみにお嬢ちゃんのパパの世界神様には板チョコ1枚で交換しようと思うんだけど、どうー?」
コスプレイヤーとロリコンはマジ黙れ。
そしてクロノスは、写真で取引をするな。
しかも菓子で。
間違ってもヤンヒロに売るなよ?
「ふふふ……君たち、カメラ没収でお仕置きされたいんだね?」
あー……あいつら死んだな。
だが愛良が手に力を込めた瞬間、意外な人物が間に入った。
「まぁ愛良よ。こやつらも悪気があったわけではない。許してやれ」
「大兄ちゃん?」
そう、止めに入ったのは鬼畜な長男だ。
愛良に握りつぶされそうになっていた使い魔ズを、いつの間にか回収している。
むしろ笑って愛良を煽りそうな奴なのに、意外だ。
「長男――!!やっぱりお前は俺のこと大好きだったんだなっ!!」
「ふむ、そう思いたいなら思っておくがいい」
「思い込みって大事だよなっ!」
あ、黒猫ルシファーが号泣しながら長男の肩にしがみ付いた。
ルシファー……思い込みでお前はいいのか。
そして何気に長男がルシファーのカメラを自分のボックスに入れているのを俺は見たぞ。
……見ただけで、何も言わないが。
「カイン――!お前、見てないで助けてくれよなっ!へぶっ!?」
「あ、悪い」
ルシファーに対抗するようにコス王が俺の所に来たんだが、思わず避けてしまった。
結構な音を立てて壁に激突したんだが、コス王だから問題ないよな?
ついでに写真をこれ以上撮られないように、こいつのカメラ没収しとこう。
……別に、メイド服な愛良の写真が欲しいとか思ってないからな。
「大兄ちゃん、お話し終わったの?」
俺と長男がカメラを没収したことに気づかなかったらしく、首を傾げて質問する愛良。
その問いに、長男は肩にルシファーを乗せたまま首を横に振った。
「いや。意外にも『娘が人間を嫌っているから無理』と魔族も粘るからな。こやつを見せて、考え直させるつもりだ」
「ルシファーを?」
何故ルシファーを見せて考え直させるんだ?
別にこいつは単なる俺の使い魔……じゃないな。
元魔王だった、こいつは。
そしてロリコンだ。
確か、今の真魔を名乗っている新しい魔王は幼女でルシファーが溺愛している獲物だよな。
……そりゃ、父親としてルシファーは危険物でしかないな。
「分かった。ルシファー、長男に着いて行って話を丸く収めてこい」
「イエッサー!長男、早く行こうぜっ!さっきは話しかけるの遠慮したから、リディたんの話したいし!」
ニヤ……。
そんな笑みを浮かべるルシファー。
魔族の男、すまないが人類のために犠牲になってくれ。
「俺も次男のとこに行くー。写真をあげて、アメちゃんもらうんだー。リーン、しぃちゃん。またアメちゃんいっぱいもらってくるから、待っててねー」
「あいっ!」
「わーう!」
クロノスはクロノスで長男の反対側の肩に上るマイペースさ。
お前はリーンの使い魔(候補)なんだから、リーンの傍にいてもらわないと困るんだが?
というより、最近リーンとシリウスがよくアメを食べているのはお前が原因か。
こんなに小さいうちから常に口の中に甘いものを入れていて、それが原因で虫歯になったらどうするんだ!?
後で叱るから覚悟しとけよ?
「てことは、俺様がリーンの傍に残ってなきゃダメってことだな。リーン!お犬様!一緒に執事パパとメイドママを観賞しような!」
コス王、リーンの傍に残ってくれるのはありがたいが、お前は黙っておけ。
俺たちがこの格好をするようになってからの、お前の目つきが嫌過ぎる。
「ふむ。では行くとするか。我はまた戻るゆえ、サボっておらずにキリキリ働くがいい」
お前たちがこの場で重要な話をしさえしなければ、俺たちもしっかり働く予定だったさ!
何で愛良も『カインのせいで怒られちゃったじゃん』みたいな顔をしてんだよ。
真面目に働けばいいんだろ、働けば!!
◇◇◇◇
いやー、やっぱりカインって乗せられやすいよなぁ。
長男に言われて腹立ったのか、めちゃくちゃ真面目に働いてるわ。
愛想の『あ』の字もないけどな。
ちょっとはお嬢を見習って、営業スマイルを浮かべればいいのに。
だけど、女の客にとってはそれがいいんだろうなぁ。
カインを見てキャーキャー言ってるし。
「銀髪金眼の執事君、超カッコいい!」
「ちょ……あのクールさ、マジでタイプなんですけど!」
「生徒会長、素敵……副会長、本気で立場変わって」
よし、女ども!
お前らの目が節穴だ!
カインは確かに見た目は素晴らしいだろう。
銀髪金眼ってのも、リーン以外にはこの世界に存在しないから珍しいだろう。
だが、クールではない。
クールな奴はお嬢に弄られたぐらいじゃ、キノコをニョキニョキ生やす鬱帝になんかならない。
親馬鹿だし、大事な所でうっかりミスしてお嬢によく怒られてるし。
中身を知ってると、カインをクールだとは思わないよなー。
うん、残念だ!
だけど、お嬢への一途さは評価できるよな。
今も無駄にお嬢に話しかける男の客の所にさりげなく自分が行って、お嬢は別の客の所に行かせてる。
俺たちと分かれて喫茶店に入る前には、ヤンヒロとお嬢を取り合ったって噂が広まってたぞ。
客たちの様子を見る限り、たぶん本当のことだろうな。
その積極的さ、普段からもっと出せよ。
サバイバルではヤンヒロのおかげで珍しく積極的だったって三男から聞いているんだからな!
なのにお嬢が恋愛経験値0なのと、お前が勝手にシスコンを思い出して落ち込んだりして結局進まなかったってのも知ってるんだぞ!
三男が『本気で愛良が産まれた時に中にぃが書いた恋愛禁止設定を取り消してきたい……』ってヤケ酒呑みまくって反省してたし!
その反省会に俺様も付き合わされてたんだからな!
つっても、夜通し呑むのに付き合ったくらいだけど。
もうどんだけヤンヒロをじゃなくてカインを義弟にしたいんだって突っ込みたくなるくらい、反省していたからな。
カイン。
俺様の主なら、元主の三男の希望も叶えてやってくれよ。
……問題は、恋愛に関しては乳幼児並の思考しか持たないお嬢だけど。
お嬢は本気でカインの好意に気づいてないからなぁ。
いや、お嬢はお嬢なりにカインに好意はあるんだ。
あるんだが、お嬢のは家族的な愛情っぽいんだよな。
そりゃ、いきなり赤ん坊に恋愛感情を持てって言っても無理だろうけど。
だけど、三男が手を打ったおかげでシスコンと親馬鹿がカインに好意的になっている今がチャンスなんだ!
俺様も頑張ってお嬢とカインをくっつける!
目指せ、ヤンヒロが付け入る隙間のないラブラブカップル!
後でオカマスターに『カインとお嬢をくっつけ隊』発足の許可をとりに行かねば!
カイン、俺様たちも頑張るからお前も頑張れ!
そしてお嬢!!
……お嬢が、一番頑張って。
三男がお嬢に恋愛の勉強として少女漫画とか渡していたけど、お嬢は『暇な時に見るねー』って言ってボックスに片づけたきり、読んでる姿はてんで見ないぞ。
それとなく俺様やルシファーで読むように促しても、子守りと授業、家事と勉強、修行と生徒会、さらにはギルドの仕事で忙しいお嬢は読む暇がないってのもあるけど。
つーか、お嬢もカインもまだ若いのに、何であんなに忙しく暮らしているんだよ。
俺たちが三つ子の使い魔になった当初なんて、あいつらは遊びまくってたぞ。
家事は料理以外は俺たち使い魔で分担してたし。
成績なんて赤点取らなきゃいいんだよ思考な三つ子は勉強なんてしなかったし。
それでも成績はよかったから生徒会に誘われてたけど他の生徒に押し付けてたし。
それ以外は修行という名の遊びばっかだったぞ。
十日間恐怖の全力鬼ごっこ(鬼:長男)とか。
引っかかったら魔力枯渇に繋がる詐欺ごっこ(詐欺師役:次男)とか。
トラップだらけの森でかくれんぼ(発案者:三男)とか……。
………………。
やっぱりカインとお嬢は、そのまま真面目っ子でいて下さい。
あの頃みたいに戻るのは嫌だ。
地道に頑張ってくっついて。
『カインとお嬢をくっつけ隊』として応援はしとくから。