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149.営業スマイルは基本です

大変長らくお待たせていたしました!


今日の視点はカイン→愛良→カインです!

よろしくお願いします!

◇◇◇◇


俺たちの喫茶はなかなかに盛況らしく、入口から長蛇の列ができていた。

その列の横を歩いている間に聞こえてきた会話からすると、ほとんどがプリン目当てと王侯貴族たちが接客する様子を見物、という様子らしい。

ついでに言っておくと、さっきシンと話していた魔族の男も並んでいた。

……魔族って、ちゃんと順番を守って並ぶんだな。

歴史の中でしか知らないが、目的のためなら手段を選ばないという印象が強い魔族が……長蛇の列を通り過ぎた時、待ちきれずに泣き出した子どもにクッキーを渡して慰めていた。

……俺の魔族の知識って、偏っているのか?

サバイバルの時に紛れ込まされていた男も、どちらかと言えば苦労人っぽかったよな?

そんな様子ばかり見ていると、俺の認識がおかしいと思ってくるんだが。


「カインー?悩むだけ無駄だと思うよ?」


隣を歩いていた愛良が笑いながら、俺の肩をポンポンと叩く。

……どうせ俺の知り合いに真面な奴なんていないんだ。


「早く行こ?午前中って、あの6大貴族(+α)が当番だから色々心配だし」

「ああ……だから女子が多いんだな」


最近、あいつの愛良への束縛態度って周囲を憚ることないのに、何故あいつはモテるんだ?

単なる危険なストーカー野郎だろ。


「女子って。あいつのどこがいいんだ?」

「私に聞かれても知らない。やっぱり顔しか見てないから?性格はもう破綻してるもんねー……。私もこの世界に来てから、あの子の思考回路が分かんなくなってきたし」

「それは永遠に分からなくてもいい。というか、理解しようとなんてするな」


アレを理解しようとするだけ時間と労力の無駄だ。

というよりも、理解なんてしてほしくないからな?

アレの行動の原点とか特に。


「はーい」


俺が顔をしかめていると、愛良は何が楽しいのか笑いながら俺たちのクラスが店を出している教室に入ろうと中を覗いた。


「愛良!おかえり~!」

「うぇっ!?」


……愛良が覗いた瞬間に、執事服に身を包んだ満面の笑顔を浮かべた奴が同時に顔を出した。

お前、さっきまで窓側にいたはずだよな?

顔を合わせたくないからわざわざ気配と魔力で位置を確認していたんだぞ!?

何で一瞬で移動してんだよっ!?

きもい奴だなっ!

……愛良が驚いて俺に抱きついてきたのは役得だが!


「近寄んな」


愛良の肩を抱き寄せて奴を睨むと、奴も睨み返してきた。


「そっちこそ、愛良から離れてよ。なんで気安く僕の愛良を抱き寄せてるの?」

「そういうお前は愛良が嫌がっているのが分からないのか?」


何普通に『僕の愛良』って言ってやがんだ?

殺すぞ?


「愛良は小さい頃から一緒に育った大事な幼馴染なんだよ?その愛良が僕を嫌がるはずないじゃないか。それに、僕が今まで愛良を狙う男たちから守ってきたんだ。君こそ、途中でいきなり出てきて何で当然のようにして愛良の隣にいるのさ」


……腹が立ってきたな。

お前が守ったのは男からだけだろ?

こいつはお前目当ての女子からの苛めがひどかったと言っていたぞ。

それにも気づかずに愛良に付きまとっていたのは誰だ。


「お前が無理やり愛良を巻き込んだからだろうが。しかも、お前が優雅に城に呼ばれている間、戦う術も持たないまま魔物しかいない森に放り出されて。そんな危険な場所に突然連れてきたのに責任も取らずに周りを見ることをしない奴が偉そうに言うな」

「……」


俺の言葉に、何も言い返せないのか黙り込む奴。

はっ……。

日頃から愛良や三つ子といった癖のある人物に囲まれている俺に、口で勝てると思うなよ?


「あー……」


俺と奴が睨み合っている横で、めんどくさそうにため息をつく愛良。

というより、俺たちのことなんか眼中にない様子で唖然としている。

……何だ?


「……とりあえずは君たち。お客さんの前だという自覚を持とうか。私とカインは着替えてくるから、龍雅はさっさとお客さんのオーダーを取りに行って」


愛良の言葉で、今は客やクラスメイト達の前であることを思い出した。

周りを見れば、廊下で並んでいた人や喫茶の中にいた客やクラスメイトが、こちらを凝視していた。

……やってしまった。

いや、忘れていたわけではないんだが。

愛良たちが異世界から来たとかは言ってなかったよな?

その場合は、愛良が確実に止めるか。

うん、大丈夫だな。

……たぶん。










◇◇◇◇


お店に戻ってきたらカインと龍雅が言い合いをしていたけど、私はどちらかというと龍雅の肩越しに見える風景に愕然としたよ?

ちぃ兄ちゃんが監督としているはずの場所には、座ったまま爆睡している担任のソル先生。

王女や六大貴族の面々はメイド服や執事服を着て椅子に座ってくつろいでいる。

外は長蛇の行列を作ってるのに、我関せずって感じで。

そして一部のお客さんは、あの馬鹿共にオーダーを言ったら自分で飲み物やデザートを取りに行かされている状態。

辛うじて下級貴族の子達が一生懸命に回していることで、お店としてギリギリ成り立っている?

だけど、お客さん達の視線はかなり冷たい。

特に一般人の。

この子たちは、私が頑張って大量に料理を作ったのに無駄にさせる気?

龍雅は一応オーダーを取ったりしていたみたいだけど、こいつらのことは放置していたの?

そういえば、うちの喫茶店の評価って『珍しい食べ物が美味しい』とかいう料理の評判しか聞かなかったね。

……こいつら、お兄ちゃんたちがいないと真面に動けないわけ?

とりあえず無駄にイケメンな龍雅をお客さんの方に行かせて、私とカインは速攻で着替える。

メイド服を着るのを嫌がっていた?

そんなことより、この状況をどうにかしないとダメでしょ。


「カイン、自分で飲み物取りに行かされてるお客さんを席に戻してくれる?んでもって、笑顔で接客よろしく」

「ああ」


取りに行かされていた人は女の人達のグループだったので、カインに任せていれば大丈夫だと思う。

銀髪執事って、かっこいいですよ?

私はとりあえず、このお馬鹿さん達を追い出すことにします。

おっとり優雅にお茶を飲んでいらっしゃるお馬鹿さん達のテーブルの前に立って、少し汚れているテーブルクロスの端を握る。

んでもって……


「えいっ」

『っ!?』


勢いよくテーブルクロスを引っ張った。

もちろん、慣性の法則で上に乗っていた食器は無事ですよ?

いきなりテーブルクロスが消えたから、驚いて固まったお馬鹿さん達。

自分たちの世界に入っていたのが一気に現実に戻ってきたみたいで何よりです。

……小さい頃、テレビに触発されてテーブルクロス引きをお兄ちゃん達と一緒に練習しててよかった!

何回も失敗してテーブルも床もビショビショにしまくったおかげで、兄弟全員、お母さんの手で庭の木に吊し上げられたのも、今ではいい思い出です!

……とまぁ、思い出話は置いといて。


「あなたたちは、お客様を放っておいて何をしていらっしゃるんでしょうねー?」


お客さんの前だから笑顔は崩せないし、ニコニコ笑ったまま聞きました。

ちぃ兄ちゃんがいるからちゃんとやると思ってたのに、まさかのちぃ兄ちゃんがいないという。

そりゃ、この子たちも好き勝手にしますよね。


「……急に何するんですの?乱暴な……」


不愉快そうに顔をしかめる王女。

はい、私はこのくそ忙しいのが目に見えて分かるはずなのにくつろいでいらっしゃるあんたらに殺意がわきますよ。

……赤髪くんはなぜか目をキラキラさせていましたけど。


「すっげー!副会長、今のどうやったんだ!?」

「「いや、馬鹿は黙ってろよ」」


あら不思議ー。

緑髪くんと言葉が重なってしまいましたー。

だって、赤髪くんがちょっとウザかったんです。

二人同時に言われたからか、赤髪くんも少しテンションが下がったみたいですね。

とりあえずは一番話が通じそうな緑髪くんでいいか。

名前忘れたけど。

大人しそうなリノちゃん?

この子はカインラブの猪突猛進っ娘なんで逆に危険です。

今もこっちのお話は完全無視して、執事なカインにお目めをハートにしてロックオンしてるしね。


「交代するから、この人たち退けてくれます?邪魔なんで」

「あ、ああ」

「あんた、私たちが誰だか分かって言ってんの?恥知らずね」


はい、緑髪くんに言ってるのにツンデレちゃんが首を突っ込んできましたー。

うざいですねー。


「権力に物を言わせてお客様に物を取りに行かせるような奴に言われたくないですねー。大した学力と実力も持ってないのに、親の肩書きだけで偉そうにして恥ずかしくないの?」


そういう恥じらいがないから出来る行動なんだろうけどさ。

一歩離れて見ると、君たちは単純に痛い子達だよ?


「なっ!?」

「無礼ですわ!」

「お前ら、こいつに言い返すなよ……」

「どうせ勝てないってそろそろ理解しろよなー」

「「どっちの味方なのっ!?」」


私の言葉にいきり立つ王女とツンデレちゃん、そんな二人に諦めの視線を投げる緑神くんと赤髪くん。

はぁ……この子たちの言いあい、終わらない。


「君たちねぇ……いい加減にしないと鬼畜太子さんに言いつけるよ?」

『………』


その後は、お見事としか言いようのない速さで出て行きました。

ちゃっかり王女は龍雅を連れて行ったんで、助かりはしたけどね。

本当に王女とは一度、あの子のどこがいいのかじっくり聞いてみたいです。












◇◇◇◇


愛良が奴らを追い出してからは、比較的スムーズに店も回っている。

奴らがいた時にいた客には詫びとして手土産のプリンを渡すと、笑って許してくれたし。

一緒に写真を撮ってくれというのには困ったがな。

ちなみにメイド服を着た愛良を隠れて盗撮しようとしている奴らが何人かいたが、俺が手を出す前に三男が戻ってきてカメラを回収していた。

まぁ口さえ開かなければメイド服を着こなしている愛良は可愛いから、写真を撮りたい気持ちは分からないでもないが、次にそんなそぶりを見せた奴は俺が潰すからな。


「ちぃ兄ちゃん、このクラスの監督してくれるって言ってたのに、どこ行ってたの?」

「わりぃわりぃ。どっかの変態使い魔ズが大騒ぎしていやがったから、後始末に行ってたんだよ。誰の使い魔のせいとは言わねぇけど、悪かったな」


頬を膨らませながら文句を言う愛良の頭を、笑いながら軽く叩く三男。

……その三男の目が笑っていない。


「「すいませんでした」」


三男が微妙にキレていることを察した俺と愛良は、一瞬で三男の前に並ぶと頭を下げた。

確実に俺の使い魔たちだ……。

あいつらは、三男を怒らせるようなことをしたのか?

あの三男をだぞ?

後であいつらはシめる……。


「ほれ、いいからお前らは接客しろよー」


三男はそういうなり、部屋の隅で椅子に座って頭を揺らしながら寝ているソル先生の所へ向かった。

……詳しくはあえて言わないが、とりあえずは何かをぼそりと呟いた三男の言葉に飛び起きたソル先生を学年主任の所に強制転移していた。

うん、怠慢教師の行く末なんて別にどうでもいいな。

俺たちは普通に店を回せばいいし。

俺たちの喫茶店は、教室を幻術魔法で見た目は普通の木造喫茶店のようにしている。

テーブルや椅子は前年度から文化祭用で用意していた物を使用。

料理は愛良が1カ月かけて用意したものを、俺が作った中に入っている物の時間を止める箱型魔導具に入れているため、注文を受けたら生徒たちはここから出せばいいだけにしている。

熱い料理も冷たいデザートも時間を止めているから全部まとめて居れていられるし、数が少なくなれば自動的に愛良のボックスから移動するように造った。

飲み物は基本的に貴族女子たちが交代で紅茶や珈琲を淹れて、男子やお茶当番ではない女子で店を回しているので、それほど各自の負担は大きくはない。

……午前中は、あの6大貴族がサボっていたおかげで、だいぶ負担が大きかったようだが。

明日はメンバー交代をしておこう。

あいつらは全員ばらした方がいい。


「あ、来た」


明日のシフトをどう変えるか考えていると、客に飲み物を運んでいた愛良が小さく呟いた。

見れば、順番待ちをしていた魔族の男がようやく入ってきたようだ。

……男一人で女性客が多い喫茶店に入るとか、なかなか勇気あるよな。

まぁ、他の魔族を引きつられても困るから別にいいんだが。


「いらっしゃいませ」


ニコニコと営業スマイルを浮かべて窓側の席に案内する愛良。

……念のために、空間遮断の結界を張っておくか。

空間属性を持っていない限り、気づかないだろうし。

俺は他の客を相手しながら話が聞こえるように空間を弄ればいい。


「プリンを頼む」


男は俺が空間を隔離したことに気づくことなく、注文をしてきた。

さっそく目的を言うか。

本気でプリン食べたいという目的でわざわざ来たのか……。

……正直、人間に宣戦布告をしに来たとか言ってくれた方が、精神的にまだよかったんだが。

なぜプリン。

なんでプリン目当てでわざわざ来るんだ……。


「はい、プリンですねー」


愛良は嬉しそうだよなぁ……。

どんだけプリンを広めんのが好きなんだ……。

あいつ、尻尾が生えてたら今絶対にブンブン振ってるぞ。


「お待たせしました」

「おお!これがプリンか!」


出されたプリンを、感激したように見る魔族。

一口食べて目を大きく見開いた。


「……うまいっ!このような食感のものは初めて食べたぞっ!?」


そりゃ、異世界の食い物だからな。

俺は愛良が作る料理が異世界の物ばかりで慣れたが。

というか、いちいち声がでかいぞ。

別の意味で空間を遮断していてよかった。

他の客に迷惑になるところだった。


「他にもマンゴープリンやかぼちゃプリン、チョコプリンにミルクプリン等、色々ありますよー」

「全部頼むっ!全て食べて見せよう!!」

「はーい」


プリンの全種類制覇を宣言する魔族。

ああ……俺の魔族のイメージがガラガラと崩れていく。

こいつら、本当に人間の脅威になるのか?

~愛良ちゃん8歳な紫藤家~


愛良「……」テレビの前で目を輝かせ中

三男「ん?愛良ー?そんなにテレビに近づいていたら、目が悪くなるぞー?」

愛良「ちぃ兄ちゃん!あんね!愛良もね!バッてしたいの!」おめめキラキラ

三男「は?バッ?……ああ、テーブルクロス引きか」

長男「はっはっは!愛良がやりたいと言うのであれば、やろうではないか!!」テーブルクロス付きのテーブルを持って登場

三男「大にぃ……どっからそれを出したとか聞かねぇが、テーブルの上に置いているのは今日の晩飯だろ?せめて、空の皿でやろうぜ?」

長男「問題ないのだ!!(このまま綺麗にテーブルクロス引きをして、愛良にカッコいいと言ってもらうのだ!ちぃよ、邪魔するでない!)」

次男「……問題ないわけないよね?」長男の後ろからお玉を持って登場

長男「ひっ!?」

次男「母さんの料理手伝い係、今日は僕なんだけど?盛り付けの途中でテーブルごと持って行って、何しているのさ」半ギレ

三男「愛良がテーブルクロス引きをしたいって言うから、大にぃが張り切った」

愛良「あのね、あのね!愛良ね、目の前でバッてするの、見てみたいの!」キラキラ光線

次男「………はぁ。一回だけだからね」妹のお願いに負けた

愛良「わーい!愛良、大にぃちゃんと一緒にするー!!」

長男「任せるがいい!!はっ!!……はぁっ!?」テーブルクロスを引っ張ったらテーブルごと飛んで直撃、妹は死守

愛良「あれー?」きょとん

三男「うそぉ!?今日の晩飯が!?」絶望

次男「あー……そういや、愛良が椅子に上る時によく引っ張るから、画鋲でテーブルクロスとテーブル、止めていたっけ」遠い目


……その日、紫藤兄妹は母親にこっぴどく叱られて縛り上げられたらしい。

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