147.シリアスはクラッシュされます
い、生きてます……(小声)
大変長らくお待たせしました!
ちょいと私生活が激変することがあったので、パソコン触る暇がなくて更新がストップしてしまいました!
楽しみにしていた方、申し訳ありません!
なかなか更新が難しくなってしまったのですが、精いっぱい頑張るのでよろしくお願いします!!
ちなみに、今日は転生者のシン君視点です。
◇◇◇◇
「……ん?」
クラスの店番で呼び込みをしている時、妙な感じがした。
というより、妙な奴?
ガタイのいいガン黒のおっさんが一人、目つきを鋭くさせながら歩いていたんだ。
文化祭真っ最中で人がたくさんいる校庭の中を一人で。
珍しい黒髪短髪ってことも手伝って、あのおっさんの周辺だけ完全に浮いてる。
「シンー?さっさと売り込みしろよー!」
「あ、わりぃ!」
やべぇやべぇ。
俺、今呼び込みの途中だった。
だけど、気になるんだよなぁ。
……て、え?
チラチラ見てたら、おっさんが俺を見て一直線に来たんですけど!?
うっわー……近くで見るとこっわ!
ガタイのいいおっさんはギルドの先輩たちで見慣れてっけど!
「おい、お前」
「は、はい!」
その怖いおっさんが、俺の前で立ち止まるなり声をかけてきた。
やばい、怖くて声が裏返っちまった……。
だけど、このおっさんはそんなことを気にしている様子なんて全くないまま、口を開いた。
「お前、邪神様の力を持っているな」
「……は?」
おっさんの言葉に、俺は一気に距離を取った。
……このおっさん、何者だ?
何で俺が邪神に関係してるって分かったんだ?
それに、邪神の野郎に『様』なんて付けてるってことは……。
「……おっさん、魔族なわけ?」
「ああ」
こともなげに頷くおっさん。
魔族は耳がとがっているって聞いてるけど、今はそれを隠しているのか普通の耳をしている。
だけどおっさんが纏う魔力や気配が、ただの人間であるはずがないよな。
「魔族が、人間が大勢いる中で何しに来た?」
警戒を解かないまま、いつでも攻撃できるように魔力を練りあげる。
まさか、人間たちを攻めに来たのか?
俺は邪神の手先ではあるけど、人間には手を出す気はないぞ。
このおっさんが、今ここにいる人間たちに手を出すなら、容赦はしない。
カインと受付嬢の愛良に、常日頃から鍛えられてんだからな。
甘くみるなよ。
「そう警戒するな。今人間たちとやり合うつもりはない」
「じゃあ何しに来たんだよ?」
「ふむ……ここで、プリンなる物を食せると聞いたからだ」
「……へ?」
俺が、せっかく練り上げていた魔力が霧散した。
……プリンとな?
……ちょっと冷静になろう。
きっと聞き間違いだったんだ。
とりあえず、念のために俺たちの周辺に不可視遮音の結界を張って……。
「おっさん……今、何て言ったかもう一回言ってくれる?」
「プリンを食べに来た」
うわーい……。
さっきよりも分かりやすく言ってくれたー。
「いやいや、何でプリン!?」
俺も好きなデザートだけどさ!?
だけど、こんなにガタイのいい魔族のおっさんが、わざわざ食べにくるもんですか!?
「いやなに。娘が、プリンを食べたいと騒いでな。人間の国々の料理も学んでいるのだが、そのような名前は初めて聞いたのだ。娘は圧倒的な力を持っているがゆえ、プリンのためだけに人間を攻めようと言い出す始末だから、ならば作り方を学んだ方がいいと思ってな」
「おっさんの娘は馬鹿ですか!?」
プリンのために戦争を起こすとかアホか!?
どんな教育してんの!?
「まぁ、まだ子どもだから仕方がないのだ。母親共々叱りつけたから、しばらくは大人しくしているはずだ」
いや、叱りつけるだけで戦争って止まるもんなの!?
なんかいろいろおかしくない!?
「魔王とかは何してるの!?そんな危険娘放置してちゃダメじゃん!」
「ん?……ああ、お前は知らないのか。娘が真の魔王『真魔』として魔族の頂点に君臨しているぞ」
……はい?
プリン食べたいから人間と戦争をしようとする危険娘が魔王なの?
「……ダメダメじゃん!魔族終わってるよ!!あんたが魔王やりなよ!」
「面倒だから嫌だ」
「おい!?」
めんどくさいって理由で魔王やらないのっ!?
え、そんな理由ってオッケーなのかよっ!?
さっきまでの俺のシリアス返して!!
「じゃあ他の人は!?奥さんとか!」
「妻を魔王としたら魔族は本当の意味で終わりだ。他の奴も、基本は我が娘を可愛がっている者たちばかりだからな。娘の力のこともそうだが、『魔王になるのじゃ!』と騒いだ娘の言葉を真に受けて実際に真魔としてしまう者たちだ」
「もう邪神のこと忘れて平和に暮らせよ!その方がいいよ!」
何だよ、その危険娘を総出で可愛がってる魔族って!
もう一生魔族の大陸で引き籠ってろよ!
「何を言う。人間たちの大陸を手に入れなければ、食材が手に入らんではないか」
大真面目な顔をして言い切っちゃう魔族のおっさん。
…………ん?
「そんな理由!?」
人間の国を攻める理由、他にないの!?
人間に恨みがあるとか!
「そんな理由とは何だ、そんな理由とは。よいか?わざわざ人間世界を旅して各国の料理を学んできたのに、魔大陸には肝心の食材がないのだ。料理人として、こんなに心苦しいことはないぞ」
「おっさん魔王のパパじゃん!主夫ですか!?」
「うむ、妻が掃除ぐらいしかできんからな。我が一族の料理人兼主夫だな」
おーい。
何誇らしげに胸張ってらっしゃるの?
おっさんのその分厚い胸板の中身はなんですか!?
滅茶苦茶戦闘タイプにしか見えないのに、もったいねぇええ!!
あんた絶対に前衛タイプなのに!
むしろ、一番に人間に喧嘩売ってきそうな筋肉馬鹿っぽいのに!!
何でこのおっさんが料理人の主夫!?
しかも料理馬鹿!?
俺の常識が通じない異世界って本当に怖い!!
「お前はプリンを知っているのか?どこに行けばいいのだ」
「……」
うっわ……ガチだ。
ガチでプリンを食べるためだけに来たんだ、このおっさん。
作り方を学ぶ気満々だ……。
どこまで料理馬鹿なんだ……。
もういいや。
いちいち突っ込んでたら、俺の身がもたない。
「……えっとなー、プリンは1年Sクラスの喫茶店で出してるって言ってたぞー」
なんでも1年Sクラスにはプリン信者がいるみたいで、喫茶店のメニューにプリンを出すことを熱望したみたいだな。
プリン中心にデザートを出してるってカイン達から聞いた。
そりゃ、この世界にはプリンとか存在しないもんなー。
愛良はあのヤンヒロに巻き込まれてこの世界に来たって言ってたから、プリンを知ってるんだろうけどさ。
この世界で一般的に出回ってる菓子ってクッキーとかの単純な焼き菓子だし、結構人気っぽいぞ。
俺も店番終わったら食べに行く予定だ。
「ふむ……それはどこでやっているのだ」
「高等部の本校舎の入ってすぐの教室でやってるぞー」
「なるほど、分かった。……ところで、お前は邪神様の封印を解く気はあるのだろうな?」
「へ?……も、もちろん!」
びっくりしたー……。
さっきまでの話題がプリンだったのに、急に話がぶっ飛ぶと混乱すんじゃん!
「まぁ、ここにいるのなら当然か……では、我らは動きにくいため、お前の働きに期待しているぞ。是非とも邪神様を復活させ、人間たちの食材を我が手に!」
「食材にこだわるなぁおい!」
おっさんの目的って、邪神の復活よりも食材手に入れる方が絶対に重要だろ!
「食材にこだわって何が悪い!食材は料理の要だ!」
「おっさんがキレるとこそこっ!?」
さっきまで全然声を荒げなかったのに!
本気で訳分かんないよ、このおっさん!!
「お前はさっさと地下にある邪神様の神殿に行って封印でも解いてこい!!」
「分かったからキレるなよ!地下にある邪神の神殿に行けば……はい?」
……地下にある邪神の神殿とな?
邪神の封印場所、学園の地下にあんの?
え、マジで?
俺、ギルドの依頼でわざわざ遠方の人が居なさそうな所の依頼ばっか受けながら探してたんだけど……。
まさかの、足元にあったのか?
「……おっさん?ちょいとお聞きしたいことがあるのですが。邪神の神殿ってここの地下にあんの?」
「なんだ、知らなかったのか。邪神様にお力を頂いているなら、しっかりせんか。お前がしっかりせんと俺が動かないといけなくなるんだからな」
「すいません……」
……俺、何で料理馬鹿なおっさんに怒られてんだろ。
というか、このおっさんが封印解いた方が早くね?
……あれ、そういえば俺、封印の解き方知らない。
「おっさん……ついでに聞くんだけど、封印ってどうやって解くの?邪神の奴、『場所知らねーから適当に探してー』としか言わずに俺を送り込んだんだけど」
「……邪神様も、よくそれで封印を解かせようとしたな」
おーい、邪神ー。
お前を崇めている魔族も呆れてるぞー。
そのうち『邪神馬鹿だからやっぱ封印解かなくていいわー』とか言われるぞー。
「仕方がないな。娘が封印を見たらしいが、かなりの魔力を必要としそうだ。この国の人間全てを生贄として捧げれば解けるやもしれんが」
「人間を……生贄に?」
なんか、頭が一気に冷えた。
俺がやろうとしていることは、人間に有害でしかない邪神の封印を解くことだ。
その封印が、簡単に解けるわけがない。
俺がこの世界で生きるためには、大勢の人間を犠牲にしないといけないのか……。
……さっきまで、この魔族のおっさんからここの人たちをを守ろうとか考えてたのにな。
俺に……大勢の人を犠牲にしてまで生きる価値はあるのか?
「ところで話は変わるんだが、プリンは持ち帰りは可能か?」
「本当にがらりと変わったなぁ!?」
何でこのおっさんは俺がシリアスになろうとするとクラッシュするんだよ!!
まともに考えるのがアホらしくなってくるじゃんか!!
「ふむ……まだ若いのに落ち込んでばかりいると苦労するぞ」
色々なことが溜まって地面に四つん這いになると、おっさんが無骨な手を俺の頭の上に置いた。
そして何気に優しい言葉までくれるという。
「おっさん……もしかして、俺が落ち込まないように?」
確かに、おっさんが話題を変えてくれたから、俺があれ以上考えなくてすんだんだけど……。
なんていいおっさんなんだ!
魔族だけど!!
「いや、プリンを土産として持ち帰りたいから聞いただけだが」
「もうおっさん黙ってた方がかっこいいよ!あと、持ち帰りできるかは知らないから本人たちに聞いてくれ!!」
口を開いたらすげー残念だよ!!
本気で残念だ!
「そうか。ならば実際に行って確認してみる。ではな」
片手をあげたおっさんは、あっさり俺が張っていた結界を破って出て行った。
……やっぱあのおっさん強いって。
魔族のおっさんがいたこと、カインや愛良に教えるべきか?
だけど……あのおっさんが言っていたことが本当なら、俺はいずれあの二人と敵対することになるよな……。
ヤンヒロは別にどうでもいいから喜んで殺るけど、あの二人とかクラスメイト、ギルドの先輩たちを犠牲にしないといけないのは嫌だな……。
どうしたらいいんだ……。
「シーンーくーん!」
「うわっ!?」
びっくりしたー!
考えてた当の本人が真後にいたよ!?
しかもカインもいるし!
「やっほー。何ぼーっとしてるのー?」
「お前のクラスの奴が怒り心頭で捜していたぞ。何かしたのか?」
「へ?………あああああっ!!?」
俺、客の呼び込み係だった!!
やっべぇ……。
「俺のクラスのたこ焼き、食いに来ないか?」
俺のクラス、たこ焼き屋なんだよな。
もちろん、考えたのは俺だぜ!
たこ焼きぐらいは作れる腕前だからな!
たこ焼き用の鉄板作ってもらってからクラスの奴たちに焼き方教えるのに時間かかったけど、味付け自体は自信作だぞ!
「たこ焼き!?行く行く!」
やっぱり地球出身の愛良は大喜びだな。
「なら行くか。俺たちだけじゃないが、問題ないか?」
「むしろたくさん来てください!」
客の呼び込みで離れてたって言い訳したいですから。
じゃないと怒られるし。
「じゃあ、リーンたち呼んでくるねー」
ニコニコ笑って少し離れた所に走っていく愛良。
……あれ?
愛良の走って行った先に超強力な結界が張ってあるんですけど……。
なんで?
「ああ、大した理由はない」
「そうか……?」
あ、中にリーンとシリウスがいたんだ。
「……リーンを抱っこしているおっさんは誰?」
なんか、リーンが今にも泣き出しそうに愛良に手を伸ばしてるんだけど。
「……シン。あの人は帝国の皇帝だから、粗相のないようにな」
「……へっ!?」
あの人が学園が文化祭を見に来るって言ってた皇帝!?
そんな人に、たこ焼きすすめちゃっていいの!?
めちゃくちゃ庶民の食べ物ですよ!?
「その庶民中心の文化祭を見に来てるから問題ないだろ。4人分用意しといてくれ」
「了解!」
皇帝を待たせるなんてダメだよな?
ダッシュで店に戻って人数分確保してくる!!
「シン君、元気になってよかったー。無駄に考え込んでシリアスしたい子だからねー」
「シンはシンらしく、能天気に笑ってたらいいんだよな」
俺のすんごい耳が後ろからの会話を聞き取ったけど、聞こえなかったことにします……。
~シリアスクラッシャー 別視点~
愛良「カインー。あっちでシン君が知らないおじさんに絡まれてるよー」
鬱帝「あ?……シンの奴、結界の中で何やってんだ?」
愛良「あのね、あのおじさん魔族なんだって。で、ここに来た理由がプリン目的らしくって、シン君脱力しちゃってるの」(神族のなんでも能力で盗み聞き)
鬱帝「……プリン?」
愛良「そう、プリンが食べたいんだってー。あと、こっちを攻めてくる理由って、食材が欲しいんだって」
鬱帝「…………食材?」
愛良「台所を預かるものとしては、食材が大事なのは分かるなぁ」
鬱帝「いや、分かるな」
愛良「あ、今度は邪神さんの封印の解き方、この国全員の人間を生贄にしないといけないって話を聞いて、シン君落ち込んじゃってる。……けど、魔族のおじさんのプリン発言でツッコミ入れてるし大丈夫かなー」
鬱帝「……とりあえず、皇帝とリーンは結界の中にいてもらうか。愛良、シンのところに行くぞ」
愛良「はーい」ニコニコ