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逸話.世界のどこかで4

ぐす……。

せっかく、もうちょっとで復活できると思ったのに、まさかの封印がさらに頑丈になっちゃった……。

しかも、色んな人が来てくれるように頑張ってダンジョンに干渉して作った入口も潰されたし……。

何より、どうでもよさそうに『相手する暇ない』って言われた……。

しばらく立ち直れない……。

俺が転生させたシンでも、邪力を勝手に持って行った魔族のロリっ娘でも誰でもいいから、早く封印解いてください……ぐす。

◇◇◇◇


カツカツと音を立てて城内を歩く魔族の男。

この男、三つ子によってサバイバルに紛れ込まされた可哀相な魔物使いの男である。

色々と精神的にダメージを喰らいながらも、ちゃんと帰ってきたようだ。


「リディちゃ……じゃなかった。真魔様ー、帰りましたよー」


玉座の間に入りながら声を掛けるが、返ってくるのは無言のみ。

どうやら、お目当ての幼女は玉座の間にいないようである。


「あら……お帰り」


その代わりに玉座の間にいたのは、お目当ての幼女によく似た妙齢の女性。

黒髪をくるくる巻いた肌黒な美女なのだが、身に着けているには白い割烹着に白い三角巾である。

さらに、割烹着にはでかでかとした字で『汚物は滅菌』と書かれていた。

女性なら誰しもが羨むメリハリのついた肉体をしているにもかかわらず、非常に残念な姿である。


「ただいま。……何してるんです?」

「掃除。あの子にまとわりつく汚物(ロリコン魔王)が来たから、きちんと除菌しとかないと」


そう言って、床にアルコールが入った霧吹きを吹き付けていく美女。

どうやら、一人でこのだだっ広い玉座の間を掃除しているらしい。


「あ、そうですか……。あの、真魔様はどこに行かれました?」

「あの子なら、おやつの時間だからお部屋に行ったわよ」


さすが幼女。

おやつの時間はきちんと決めているようだ。


「あ、じゃあちょうどいいから、手土産を持っていきますねー」

「手土産?いったい何なのかしら?」


美女が興味深げに手を止めたので、男は少女からもらったプリンを取り出した。

お皿の上に、ぷるぷると黄色い物体が乗っている。


「いや、なんか同情してくれた人間の女の子がくれたおやつです。甘くておいしいですよ?」

「人間の作った物なんて、あの子が食べて大丈夫なの?」


溺愛している幼女を思って眉をひそめる美女に、男は頭を掻いてプリンを差し出した。


「気になるなら、一口食べてみます?毒見ついでに俺も食べてみましたけど、美味しかったですよ。でも3つしかもらってなかったんで、残りはあの子たちに上げるんですからダメですよ?」


プルプルとしたプリンを目の前に差し出され、美女は少し考える素振りをしてから、恐る恐るプリンをすくったスプーンを口に入れた。


「……あら、美味しい」

「あ、ちょっと!?」


続けてスプーンでプリンをすくう美女。

一口と言われていたのに、男の静止の言葉などまったく聞くことなくあっという間に一つを平らげてしまった。


「………」


美女の目は、もう一つを持っているであろう男に行く。


「いや、そんな物欲しげに見たってダメですからね!?せっかくあの子たちにあげようと思ったのに、何一つまるまる食べちゃってるんですか!?これはリディちゃん達にあげるんですからね!?」

「……リディは人間が嫌いだから人間の作った物なんて食べないわよ。それにユンジュはダリルと一緒にお出かけ中だもの」

「いやいや、あの子達が甘いもの大好きなのはアナタが一番知ってますよね!?」

「……ダリルが勝手にあの子達の好きなお菓子をたくさん作るからいいじゃない」


無表情なまま男が後ろ手に隠したプリンを取ろうとする美女。


「ちょ、大人げないですよ!?」

「別にいいでしょ。そのプリンをさっさと寄越しなさい」


プリンを気に入った美女は、無表情のまま男に迫る。

もともとが秀麗な容貌のため、割烹着を着てても迫力は満点だ。


「だ、ダメですって!ちょ、リディちゃぁあん!!?早く来ないとリディちゃんのおやつがママに食べられちゃいますよぉおお!?」

「駄目なのじゃぁあああ!」


男の必死な叫び声に、遠くから勢いよく扉が開く音と、子どもの半泣きの声が響いた。

涙目で走ってきた幼女は、勢いよく美女の足に跳びかかる。


「ママ殿!!儂のおやつを食べちゃダメなのだ!!」

「リディ、人間が作った物なんだから、あなたは食べなくてもいいでしょ」

「おやつは別なのじゃ!!」

「何が入っているか分からないんだから、ママが食べるわ。あなたは好きなものをパパにでも作ってもらいなさい」

「パパ殿が作ってくれるおやつも好きじゃが、他のも食べたいのじゃ!儂におやつを寄越すのじゃー!!」


美女を必死に止めながら、男に懇願する幼女。

本人たちにとっては必死な様子も、見た目だけならば愛らしい光景である。


「はいはい。リディちゃん、あーん」

「あーんなのじゃ!」


男は苦笑を浮かべながらスプーンでプリンを掬い、幼女の口元に持って行った。

大きい口を開けてプリンを食べさせてもらった幼女は、その初めて食べるプリンに大きく目を見開いた。


「プルプルして美味いのじゃ!これは何じゃ!?もっと食べさせてなのじゃ!!」


目をキラキラ輝かせて口を開く幼女。

そんな幼女に、男はにこにこと笑み崩れている。


「はいはい、プリンって言うおやつですよー。……って、あれ……?」


もう一度プリンを掬おうとした男は、スプーンとは別の手に持っていたプリンが綺麗になくなっていることに気づいた。

男と幼女の目は、思わず美女の方に向く。


「……私じゃないわ」


顔を逸らしているが、その口元にはさっきまでなかったプリンの欠片が付いている。

口よりも雄弁に語っているぞ。


「ふえぇええん!!ママ殿が儂のプリンを食べたのじゃぁああ!!」

「いやいや、いくら美味しかったからって娘の分まで食べちゃダメじゃないですか……」


大声で泣き叫ぶ幼女と呆れきった男。

さすがにバツが悪いと思ったのか、美女は顔をそらしながら泣き叫ぶ幼女の頭を撫でた。


「……悪かったわ。パパに言って、プリンを作ってもらいなさい」

「さっき言いましたよね?人間が作った物だって。いくらダリルさんでも見たこともない物を作れませんって」

「……」


男のもっともな台詞に黙る美女。


「酷いのじゃぁあああ!!」

「……しょうがないから、人間たちを支配下に置いてしまいましょう。それなら、いつでもプリンが食べれるわよ」


いや、そんな理由で支配下に置かれる人間たちのことも考えてやれ。


「そうなのじゃ!ママ殿、頭がいいのじゃ!」


幼女が残念な頭をしているだけだ。


「今すぐ人間たちに攻め入るのじゃ!そしてプリンをいっぱい作らせるのじゃ!!」

「それなら食べ放題ね。今すぐ準備をさせましょうか」

「えー……せっかくの好意でもらったプリンが戦争のきっかけになっちゃったんですか……?」


あの人間の少女も、まさか自分が手土産に渡したプリンが原因で攻め入られるとは思ってもみなかっただろう。

もうすでに男の心境は、あの少女に謝りたい気持ちでいっぱいである。


「……後でダリルさんに言って、怒ってもらいましょうか……はぁ……」


可哀相な魔物使いの男は、どこまでも可哀相であった。









◇◇◇◇


その頃、天界では……。


「愛良ちゃんに会いたい……けど、覗いたら愛良ちゃんコレクションが消されちゃう……我慢、我慢するんだ僕……でもやっぱり愛良ちゃんに会いたい……」


変態神が目を虚ろにさせて同じことをひたすら呟きながら、書類に印鑑を押していっている姿があった。

はっきり言おう。不気味以外のなんでもない。


「親父ー?」


そこに現れたのは、変態神の愛娘と同等に溺愛している三男。


「ちぃちゃん!パパに会いに来てくれたんだね!?パパ、愛良ちゃんに会えなくて会えなくておかしくなりそうなんだよっ!!ちぃちゃん、助けて!!ぶべっ!!?」


そう叫びながら息子に抱きつこうと跳びかかるが、三男は華麗な足さばきで避ける。


「あー、うん。すでにおかしいから気にすんなや」

「ちぃちゃん、酷い!!パパはおかしくなんかないんだからね!?」


三男は当然のことを言ったまでなのだが、涙目で反論する変態神。

その両肩を、後ろに転移して来た二つの影が掴む。


「ほぉ……?変態な父親を避け、当然のことを言っただけのちぃを、酷いと?」

「ふふふ……本当に、なんでこんなのが僕らの父親なんだろうね?」

「………」


低い声と威圧感で、誰が後ろから肩を掴んでいるのか一瞬で理解した変態神は凍り付いた。

変態な父親の執着心が自分にも向いていることを知った三男が、一人で危険ゾーンに来るはずがない。


「だ、大ちゃん?中ちゃん?そんなに強くパパの肩を掴んじゃったら、骨がボキボキ砕けちゃうでしょ?痛いんだよ?すごく痛いんだよ?だからパパの肩を離して?」

「ちぃに抱きつくなよ?そのような素振りを見せたら……」

「……もちろん、どうなるのかなんて言わなくても分かるよね?」


二人の息子の言葉に、首を縦にコクコクと振る変態神。

どうやら、この二人には今までも散々な目に合わされていたようだ。

変態神が大人しくなったのを見届けると、三男は腕を組んだ状態で口を開いた。


「それで、親父。単刀直入に聞くんだけどさ」

「うん、何だい?」

「龍雅のヤンデレ属性って、愛良にちょっかいかけまくったから封印したじゃん?あれって封印そのまま?」

「え、龍雅くんの?そのままに決まってるじゃないかい。じゃないと愛良ちゃんが、また妊娠させられちゃうもん!本当に何回も何回も時を戻しているのに、何度も何度も色んな手口で愛良ちゃんに手を出して……。そんなこと気にするなんて……


……はっ!?まさかまた龍雅くんは愛良ちゃんに襲い掛かったの!?愛良ちゃんは無事!?妊娠してない!?」


「「「それは今度こそ全力で防いでみせるから安心しろ!!」」」


三人とも、息ピッタリな宣言である。

一体どれだけ防ごうと努力をし続けてきたのであろうか。

むしろ、神族たちがこれほど防いでいるにも関わらず愛良に手を出せてしまっていたヤンヒロの強運が恐ろしい。


「びっくりした……。じゃあ、どうしてそんなこと聞いてきたんだい?」

「ふむ……親父は愛良の様子を覗き見していなかったのだな」


ヤンヒロがどんな様子だったのか全く知らない様子に、長男が感心したように腕を組んだ。


「だって、少しでも覗こうとしたら愛良ちゃんコレクションが消されちゃうんだもん……」

「はいはい、ちゃんと我慢して偉いね」

「感心感心。その心意気をいつまでも持つがいい」


本気で落ち込んでいる変態神の頭を、しょうがないという様子で撫でる次男と長男。

めったにない上二人の優しいしぐさに、落ち込んでいた変態神の目がどんどん輝いていく。


「中ちゃん、大ちゃん……そうなんだよ!パパは一分一秒でも愛良ちゃんから目を離したくないのに、我慢してるんだよ!?もっと褒めて!!?」

「……やっぱり褒めるんじゃなかったね。父さん、ウザイ」

「いちいち抱きついてくるな。キモいぞ」

「ガーン!?」


いい年したおっさんが口で言うところが、さらにキモさ増大していることに気づいた方がいいだろう。

長男と次男の正直な感想に、変態神の心は折られた。

すぐに復活するけど。

なので、三男は気にすることなく話を続ける。


「親父、あのなー?今回学園でイベントがあったんだけどさ。その時に、龍雅がまた愛良に対してヤンデレを発動させちゃったわけなんだ。奴にかけたヤンデレ封印、確認してくんね?」

「ええっ!?まさか、あの封印は邪神の封印よりも力入れてるんだよ?」

「「「いいから確認しろ」」」


三つ子に言われて、目を閉じて自分が昔かけた封印を確認する変態神。


「……うん、封印に使っている神力は、そのままだね。詳しくはステータスブックがないから何とも言えないけど……」

「事情を説明して借りてきたから、確認してくれ」


神王に借りてきたステータスブックを変態神に渡して、後ろから覗き込む三つ子たち。


「えーとね、桐ヶ谷龍雅!」


変態神が名前を言いながらステータスブックを開けば、出てくるヤンヒロの情報。

追加設定には、『ヤンデレ封印!!』とでかでかと書かれている。


「うん、やっぱり封印はそのままだよ?」

「おい、親父……その上……」


何故か、三男が顔を引きつらせながら追加設定の上の項目を指さす。


「上?上に書いてあるのは、その人の特性だけだよ……は?」


その特性には、龍雅の勇者らしい特徴しか書いていなかったはずである。

……いや、そのはずだった。



●特性

・打たれれば打たれるだけ強くなる(肉体・精神共通)

・神すら凌駕するしつこさ(龍雅なだけに色々凌駕する)

・脳内妄想大劇場開演中(すでに愛良は嫁状態)



「「「「……殺すしかないな」」」」


4人の心が(特に三つ目で)完全に一つになった瞬間である。


「親父、やはり龍雅は地獄に落とすべきだ」


真顔でそう提案する長男。

しかし、それを却下したのは次男だ。


「駄目だよ。一度地獄に叩き落としたら、閻魔のおじさんが泣きながら引き取ってくれって言って返しに来たじゃないかい」


滅多なことでは動じない閻魔すら泣かせるヤンヒロ、すでに神族にとって脅威でしかない。


「殺すにしても死神たちも奴の魂の回収を嫌がって、結局殺せないからなぁ……」


三男は一度ヤンヒロを死に追いやったことがあるらしい。

魂を死神が回収してくれなくて、死なないがゆえに肉体が復活した様子だが。


「あ、けど死神王が新しく変わってからは試してないよね?よし!ちょっと試してみよう!」


いい案だ、と言わんばかりに顔を輝かせる変態神。

しかし、そう言葉に出した瞬間に潜在能力の項目に新しく文字が浮き上がった。


・愛良と結ばれるまで不老不死(永久に愛良を追いかけまわします)


「「「「こいつ、すでに人間じゃない……」」」」


神族の背筋すら凍らせる脅威のヤンヒロ。

もう愛良を助ける術はないかもしれない。


「他の世界に飛ばすのはどう?」

「それも俺が一回やった。飛ばされた世界に愛良がいないことに絶望して世界を破壊しまくったぞ」


新しい案を出す次男に、ため息をつきながら答える三男。

もちろん、ヤンヒロはきちんと回収し、世界もヤンヒロが飛ばされるまでの状態に戻してある。

ちゃんとその世界の世界神にも土下座して謝った三男の努力は、いつになったら報われるのか。


「我たちが、これほど努力しているというのに、こやつはどんどん進化していく……。どういうことなのだ!?」


頭痛がするのか、額を抑える長男。

その頭痛、この場にいる全員が感じていることだろう。


「この子、最初はこんな子じゃなかったよね?いったいどこからこんなに歪んで……」


そこまで言って、何か思いついたのか黙り込んでしまう次男。

心なしか、その顔が引きつっているように見える。


「中、どうしたのだ」

「中にぃ?何か思いついたのか?」

「中ちゃん、愛良ちゃんのために教えて!」


兄弟と父親に急かされた次男は、顔を引きつらせたまま口を開いた。

嘘であってほしいという様子を隠すこともなく。


「精神的にも打たれ強さを発揮するならさ……僕たちが愛良への恋情を何回も打ち砕こうとしてきたことが、全部今の龍雅を形成してしまった……なんてこと、ないよね?」

「「「………」」」


恐る恐る…といった様子で聞いてくる次男に、何も返せない三人。

先ほど、変態神が殺すと宣言した瞬間に不老不死になった龍雅。

可能性的には大いにありそうである。


「ちょ、待てって。

俺たち、愛良が16歳になってから龍雅の野郎とデキ婚するまでを、何十年何百年やり直したと思ってんだよ?

え、それが全部裏目に出てたってことか?

確かにどんどん奴はおかしくなって行ったけど!」


「我らの努力がすべて無であったと……?

むしろ、何もしない方がよかったのか?

あのまま一番最初に『愛良を下さい!愛良のお腹には僕の子どもがいるんです!』と言って挨拶にきた瞬間に奴の顔面フルボッコにして時間を巻き戻すことなく、そのまま奴と大人しく結婚させておけばよかったと……?

あんな『……子どもができたから仕方ないよねー……』なんて諦めた愛良を見た我には無理だ!」


「パパにだって無理だよ!

だって愛良ちゃんはまだ神族として自覚もしてなかったし、力も使ったことがないのに人間として妊娠して出産なんかされたら、神族として目覚めさせることができずに一生を終わらせるしかないもん!

ようやく生まれた女の子なのに、そんなことさせられるはずがないよ!!

何より、高校卒業したばっかで就職もしてない親の庇護下にある子が、結婚よりも先に妊娠させちゃうとか色々順番間違ってるのに平然として反省の色もなかった龍雅君になんか、あげられるわけないじゃん!!

そんな甘ちゃんと結婚したって苦労するのは分かりきってるのに、許せるわけないよ!?

だから何度も時間を巻き戻しているんだから!!

それなら一生懸命愛良ちゃんと両想いになろうとしているカイン君の方が何百倍もマシだよ!!!」


次男の推測に、三男長男変態神が大混乱である。

愛良のためを思っての百年単位もかけての行動が、実は全て逆効果であったとかショック以外のなんでもない。

というより、最強の神族が総がかりでそんだけやっても防げないヤンヒロは一体何なのだ。


「うむ、龍雅よりもカインの方がマシだ!龍雅よりは可愛げがある!!」

「だから、俺はカインの応援をしてんだろ。だって、考えてみろよ?もしもあのまま時間を戻さずにヤンヒロが愛良とデキ婚したら、あいつが俺らの義弟や義理の息子になってたんだぜ?」

「「「…………」」」


三男の言葉に、彼らは同時に思った。

ヤンヒロが家族は無理だ、と。


「な?カインの方がマシだろ?

きちんと全帝の仕事はしているし、財力もある。

民営最大ギルドの時期マスターなら将来性も安定している。

性格もうっかり鬱帝だけど一途で真面目。

なにより愛良と普通に両想いになりたいがために、ある意味俺らがかけた愛良の呪いを解くし、全力でヤンヒロから愛良を守るし、根性あるだろ。

つーか、比べるまでもなくカインだろ?」

「「「…………」」」


懇々と三男に諭されるように説明され、頷く面々。

無職で親の庇護下にあるくせに偉そうに結婚がどうたらこうたら言ってきたヤンヒロの生態を思い出してしまったからか、うっかり鬱帝でもすごく立派に見えるから不思議である。

むしろ、比べる方が失礼なレベル。

愛良の相手としてなら好物件である。


「だからさ、愛良はカインに任せようぜ。愛良はもう神族として自覚しているし力も使えている。人間として死ぬことはなくなったんだから、ヤンヒロの動きだけ気を付けていたら大丈夫だしさ」

「「「……分かった」」」


決してカインに愛良を任せるのは本意じゃないんだけど、ヤンヒロよりマシだから仕方がない。

そんな様子で頷く親兄弟。

カインが愛良の親兄弟に認められた瞬間である。

カインを親兄弟に認めさせた瞬間から、三男は速かった。


「親父はあいつの封印から漏れてるヤンデレ属性をもっかいまとめて再封印。あれで大部分がまだ封印中とか、解けた時のことを考えると恐ろしくて仕方ねぇ……」

「任せて!ちゃんと漏れないように頑張って封印するから!」


胸を張って宣言する変態神。


「大にぃはあれ以上打たれ強くなられたら困るから手は出すな。手は出さずに奴を消滅させる方法でも探ってくれ」

「む……分かったぞ」


まさかの自分たちがやってたことが裏目に出るとは思っていなかった長男は反省中。


「中にぃはお得意の饒舌で奴に勇者が何なんなのかを懇々と説得。頼めるか?」

「もちろん。まずは僕たちがやり過ぎちゃったから、一般常識的なものまでもがおかしくなってるしね。人間の道徳概念からやり直すことにするよ」


ヤンヒロの再教育を試みる次男。

でもきっと無駄に終わると思う。


「うし。カインの無事は確保されたし、ヤンヒロは親父の封印でしばらくは大人しくなるはず……。ヤンヒロに設定能力は効かないし、カインの方に『ヤンヒロ凌駕』ってステブに書いておくか。俺は……カインを焚き付けつつ、ヤンヒロが人外になった理由でも調べねーとな。いくら特性でも人間単体で人外になるわきゃねーし。関わるのイヤだけど。だけど、何も知らない愛良のためだ。龍雅が義弟になるのは嫌過ぎる。頑張れ、俺」


自分に言い聞かせながら握り拳を作る三男。

この努力、報われるといいなぁ……。









◇◇◇◇


その頃、父親や兄ズがそんな家族会議をしているなんて全く知らない愛良は―。


『ご馳走様でした!』


ようやくサバイバルが終わってカインやリーンとシリウス+αと、まったりお部屋で過ごしていた。


「マーマ、あい!」

「わーう!」


食べ終わった食器を持ってきてくれたリーンと、器用にお皿を頭の上に乗せて運んできたシリウス。


「リーン、しぃちゃん。ありがとね。カイン、よろしくー」

「ああ」


どちらの頭も撫でながら食器を受け取り、流しの前で洗い物をしているカインに手渡す愛良。

ほぼそれと同時にリビングに飛び込んできたコウモリと猫、キツネリスの姿をした小動物3匹。


「お嬢ー!お風呂沸かしてきた!」

「洗濯物も完了だぜ!」

「きゅきゅきゅい!(テーブル拭いたー!)」

「「「だから、ゲーム部屋に行ってもいいですかっ!?(きゅきゅきゅ!?)」」」


……彼らは、その小動物の姿のまま家事をしたのだろうか。

とても気になるところである。


「別にいいけど、徹夜でゲームしたらダメだよ?ゲームは10時まで。その後はちゃんとお風呂に入って寝ること。分かった?」

「「「アイアイサー!!(きゅきゅきゅー!)」」」


それぞれ敬礼してリビングから出ていく小動物たち。

元魔王な堕天使が引っ越してくる際に持ち込んだゲームやらマンガやらで一つの部屋を占拠してから、そこに入り浸っているようだ。

ゲームをしていい時間が一日一時間じゃなくて10時までとか、羨ましい限りである。


「マーマ、リーンもいっていー?」

「わうわーう?」


絵が動く様子(テレビ画面)が面白くて大好きになったらしいリーンが、シリウスと一緒になってキラキラした目でお願いする……が。


「……………だーめ。リーンとしぃちゃんは、今からお風呂に入って寝んねの準備だからね?」


長い沈黙の中で葛藤しながらも、親として子どもの睡眠を優先した愛良。

サバイバル中会えなくて寂しさ満点だったのに、よくぞこの可愛さに負けなかったと褒めるべきだ。

しかし、子どもはなかなか諦めない。


「むぅ……パーパ、め?」


ママが駄目ならパパ、という様子で、皿洗い中のカインのズボンを握って上目遣いでお願いである。


「……今ママと入らないと、にぃにたちと風呂に入ることになるぞ?」

「マーマ、いっしょおふろ!」

「わうわうわう!」


あえて駄目と言わずに妥協案を出せば、速攻で愛良に飛びつくチビーズ。

今ここにコス王たちがいたら、確実に泣かれるだろう。


「はい、お風呂に行こっか。カイン、先に入るねー」

「ああ、ゆっくりでいいぞ」


親兄弟が必死になっていることも何も知らないがゆえの、実に平和な光景である。










◇◇◇◇


その頃、神族一同を戦慄させたヤンヒロは……。


「あれ?僕、何してたんだっけ?」


何故か自分の部屋で銀色の鎖にグルグル簀巻きに縛り上げられた状態で転がっていた。

さっそく変態神が封印をしたのか、あるいは愛良が傍にいないためか、正気に戻ったようである。


「え、ちょ、コレ何!?何でこんな状態なんだっけ!?」


鎖に巻かれたまま、ゴロゴロと床を転げまわるヤンヒロ……いや、今は単なる屑メン。


「僕、サバイバルをしてたんじゃ……?……そうだ、せっかく久しぶりに愛良と二人で話そうと思ったのに、乱入してきたルディス君に邪魔されたんだ!そんでもって、兄さんたちに何故か苛められたんだ!」


あくまで、脳内妄想大劇場が開演中の屑メン視点である。


「もう、みんなして酷いよ。特に大兄さん!いっつも突然魔法を撃ってきたり罠を張ったり殴ってきたりして酷すぎるよ!」


どうして地球にいたはずのお隣のお兄さんが異世界で王太子をしているのか等、全く気にすることなく一人突っ込む屑メン。

一人だからこそできる芸当であろうか。


「もう。何で愛良の兄さんたちはあんなにスキンシップが激しいのかなー。僕、兄さんたちのスキンシップが激しすぎて死にそうになるんだけど」


あれは妹の幼馴染に対するスキンシップではなく、単なるリンチである。

そして普通の人間ならばとっくの昔に死んでいて当然なレベルだが、屑メンはやはり気づかない。

馬鹿である。


「ていうか、この鎖邪魔!」


上手く動けないことでイライラしてきたのか、屑メンが顔をしかめて鎖をほどこうともがくと……。


「……あれ?」


鎖が黒く変色して崩れた。

まるで、何かに浸食されたかのように。

だが、しかし。


「んー?……ま、いっか。自由になれたもん!」


この屑メンは深くは考えてなかった。

こういうところは、さすが愛良の幼馴染と納得できるものである。


「お腹減ったし、愛良にご飯作ってもらお!こっちの世界に来てから、愛良のご飯食べてないガッ!?」


さっそく行動に移ろうと思った屑メンの頭に、突如出現した分厚い本の束。

同時に部屋に次男が現れる。


「やぁ、龍雅。元、お隣のお兄さんが、お勉強を教えに来たよ。こっちの世界での成績は散々でしょ?勉強が終わるまで、この部屋から出さないからね?」

「え……僕、お腹が減ってるんだけど……」

「……ん?優しい元お隣のお兄さんの言うことが聞けない?」

「はい、勉強します!!」


キラキラとした綺麗な笑みを浮かべる次男の前で、手を挙げて宣言する屑メン。

こうして愛良たちの平和は兄ズによって守られるのである。

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