143.サバイバルは終了!
カインと愛良で視点がころころ変わった後に、最後にちぃ兄ちゃんです!
……本当に視点がころころしてて申し訳ない。
◇◇◇◇
「カインー、終わったよー」
血濡れの金属バットを持ったまま、ニコニコ笑って戻ってくる愛良。
うん、確かに助かった。
助かったんだが、その血濡れの金属バットは片づけてくれ。
「愛良、ありがとう。とりあえず、その金属バッドは消そうか?」
「はーい」
にこにこ笑いながら金属バットを一振りして血のりを払い落すと、そのまま元の真珠に戻して首にかける愛良。
……ずいぶん機嫌がよさそうだな?
「何かあったか?」
「あのね?さっきカインが本気で逃げ回ってる時に、他のチームの人たち轢きまくったみたいでね?残りがもう1人しかいないみたいなの!さっさと終わらせたら一日早くリーンとしぃちゃんに会えるの!」
「……は?」
きらきらした目で一気に説明をしてくれる愛良なんだが……俺、逃げている時に人なんか轢いていたか?
……奴らから逃げるのに必死で、覚えていないんだが。
なんか悲鳴は聞こえていたような気もするが、俺が掴んでいた緑髪と火馬鹿のだとばかり思っていた。
「カイン、何人ぐらい轢いた?チェックチェック!」
俺の腕を掴んで目を輝かせている愛良。
言っておくが、そんなに轢いていないからな?
今朝、一応確認した時は確か撃破数が30人くらいだった。
それに残り人数も400近くは残っていたはずだ。
仮に10や20轢いたところで、一気に一人になるはずがない。
そう思いながら、腕時計に魔力を流すと……。
『撃破数:342人 残り:7人』
「……何でだ!?」
必死に逃げるあまり、知らず知らずのうちに300人以上轢いていたのか!?
トラップ踏んで自滅とかじゃないのか!?
そんなこと、あっていいのか!?
「わー!カイン、すごーい!絶対龍雅にも勝ったよ!優勝間違いなしだね!さっさと残り1人も退場させに行こ!リーンとしぃちゃんのお迎えも早く行けるの!」
あまりの衝撃に脳内で突っ込みしまくっているにも関わらず、愛良は自分の欲望に忠実という事実。
……まぁ、俺もリーンに会いたいからいいか。
何より、愛良が喜んでいるからな。
……深く気にするのはやめよう、うん。
◇◇◇◇
「………」
何やら沈鬱な表情で黙り込んじゃったカインさん。
全然覚えてないうちに300人以上退場させちゃったのが、そんなにびっくりしたの?
でもね?君、後ろを見てみたほうがいいよ?
君が走った跡、すんごいことになってるから。
森の木々は吹っ飛んで、カインが走った跡がはっきり分かる状態だし。
その飛んで行った木がトラップに突き刺さって、全力だったがゆえに付着していたカインの魔力に反応して広範囲に被害が及ぶトラップが発動しまくったみたい。
カインは魔力がすごく多いから、被害が大きいんだよ?
所々にある岩は蹴飛ばしたみたいで、島のあちこちに飛んで行っちゃったみたいだし。
その落ちた岩の場所のほとんどが敵チームの拠点みたいで、ちょうどお昼時だったことを考えれば拠点近くにいた可能性も高いわけ。
全員を全員、轢いたわけじゃないから安心してね?
彼らが不運だっただけだし。
さっさと残りの一人も退場させに行きましょう!
ちょうど私たちの拠点の近くにいるし、一瞬で退場させてこのサバイバルを終わらせるんだから。
もうね、リーンとしぃちゃんに会いたくて会いたくてしょうがないの。
ヤンヒロとかストーカー勇者とか第2の小父さんとかで精神的に疲れまくったの。
やっぱり癒しが欠かせない。
ルナやラピスと話すのも癒しだけど、やっぱりリーンとしぃちゃんのじゃれあってる姿とかには敵わないし……。
さあ!さっさと癒しへの道へと続く生贄を探しに行きましょう!
別に捜さなくても、魔力を感知したら場所分かるけど!
「どうせ残り一人ってシンだろ?」
沈黙から復活したカインさんが、唯一の生き残りの魔力がある方に顔を向けて口を開きました。
そうです。
たった一人になっちゃったシン君は、何故か私たちの拠点の近くをウロウロしているんです。
「きっと私たちのチームに喧嘩売りに来たんだね!」
「いや、たぶん急に誰もいなくなったから、驚いて様子を見に行ってるんじゃないか?どうしようもなくなった時は来てもいいって言ったし」
「あら優しい」
シン君は邪神側が転生させた子なのに、カインって同じギルメンには基本優しいよねー。
まぁ、うちのギルドは民営最大ギルドだから、カインが轢いたりカインの二次災害で退場して行った生徒達の半数ぐらいも、確実に同じギルメンだっただろうけどね。
カインが同じギルメンと認識してるかしてないかで、差があるみたいです。
何が何だかわからない状態で退場させられた子たち……可哀想に。
だけど早くリーンとしぃちゃんに会いたいという私の欲望の前には些細な問題。
さて、シン君を狩りに行きましょうか!
◇◇◇◇
とりあえずは、拠点まで転移で戻ったのだが。
『…………』
トラップ越しにグレイとルートがこっちに来ようとするシンを警戒している真っ最中だった。
そんな光景を、拠点としている家の近くの岩でラピスとルナはのんびりと座って見ている。
「ただいま!では、シン君を狩りたいと思います!」
そんなの愛良は無視して宣言してるけどな。
ついでに言うと、すでにシンはボロボロだからな?
世界で一番頑丈な体でも、ヤンヒロから逃げるときに引っかかった三男のトラップのダメージはかなりあったみたいだ。
「なに突然帰ってきて突然怖いこと言ってんの!?カイン!?受付嬢が怖いんですけど!?さっきまで泣きながらビクビクしていたか弱そうな受付嬢はどこに行ったんですか!?」
「ここにいるだろ。か弱くはないが。何を寝ぼけたことを言っているんだ、こいつは」
「うん、アイラはか弱くはないよなー。むしろドラゴン級の何か?」
「か弱いアイラちゃんって別の人のことじゃないかな?この人、夢でも見たんじゃないの?」
思わず言ってしまった俺に便乗するように頷くグレイとルート。
愛良がか弱いとか、もう寝言を言っているようにしか思えないな。
ヤンヒロ相手にビビってはいるが、か弱いとは言えないんだぞ?
そう考えていると、後ろから肩にポンっと音を立てるように手が置かれた。
「……君たちまとめて退場する?さっさとリーンとしぃちゃんに会えるなら、敵を倒すのに乗じて仲間の一人や二人や三人……別に平気で殺っちゃうよ?」
目を半眼にさせてニッコリ口元だけ笑みを作る愛良。
……しまった。つい、本音が出てしまった。
「ふふふ……アイラ。笑顔が真っ黒ですよ。でも同じ女で怒りたい理由は分かりますから、お手伝いしますね」
やめてくれ、ラピス様。
便乗して殺る気満々だろ。
「……女の子は……みんな、か弱い……の!女心、分からない……サイテー……!」
グサッ×4
る……ルナに最低と言われた……。
駄目だ、立ち直れない……。
「女の子に対して失礼なことばっかり言ってると、寿命を縮めることになるんだからね?」
「少し反省しましょうか?」
「……殺る……」
鉄ハリセンを手で打ち鳴らす愛良、水の鞭を握って笑みを浮かべるラピス様、ダークランス(×100)を背景に睨みつけるルナ。
それから女子たちに何をされたかは、誰も聞かないでくれ……。
あんなことをされるくらいなら、いっそ瞬殺して欲しかった……。
◇◇◇◇
『おー、お前ら生きてるかー?』
続々と転移されて戻ってくる生徒達。
予想以上にサバイバルが早く終わりそうだなぁ。
『ま、不死結界は張ってんだから無事に決まってるな。残りが帰ってくるまで勝手に帰んじゃねーぞー』
一部、ヤンヒロに遭遇してしまった不運な生徒たちは精神的に無事じゃねぇけど、しゃーねーわ。
お前らを恐怖のどん底に突き落としたヤンヒロはお仕置きしといたから、各自で勝手に立ち直れよ?
大にぃと中にぃは、まだお仕置き続行中だがな。
色々迷惑になるから別空間でやってるから、気にしなくていいぞ。
『……ん?』
戻ってきた生徒たちの点呼をしていると、また運動場の中央当たりに生徒が転移されてきた……って、あれってカインじゃね?
何かカインチームの男子と、邪神のおっさんとこの転生者が地面に手を着いて項垂れてんだけど。
やべ、こっちが忙しくて様子を見てなかった。
一体何があって、あいつらはあんなに項垂れてんだ?
「おい、ちぃ。カインチームの女子を残して全員戻ってきたから、サバイバルは終了だ」
大にぃと中にぃが近くにいなかったら普通に話せるソル先輩が、頭をガシガシ掻きながら教えてくれた。
愛良があんだけ落ち込んだ状態のカイン達に何をしたのかが非常に気になんだけど、しゃーねーなぁ。
残っている愛良たちのチームも転移させて……と。
『おら、全員整列しろー。無傷なんだから、とっととしろよー。さっさとしないと鬼畜太子と腹黒皇子が戻ってくんだろうが』
今大にぃと中にぃが戻ってくると、確実にカインに喧嘩を売るから面倒なんだよ。
あいつらが帰ってくる前に生徒達、つーよりも愛良とカインは解散させたい。
まぁ好いてる奴にあんだけ甘えられたら、手を出したくなる気持ちも分からないでもないからな。
むしろ赤ん坊の時から自分の恋心を封印させられてた愛良にとって、封印が解けたと言っても自分の恋愛については乳幼児並だ。
そんな愛良に惚れているカインには同情するぞ。
いっそ愛良を諦めて、別の奴を見つけたほうがカインのためなんだがなぁ……。
こればっかは、カイン次第か。
まぁ今回の様子からすると愛良も無意識にはカインに頼ってるから、全くの望みがないわけでもないみたいだけどな。
頼むから、龍雅だけはやめてくれ……。
愛良があのまま地球で暮らしていた場合、龍雅のしつこさに諦めて結婚する運命だったんだよな……。
しかも18歳で高校卒業と同時に出来ちゃった婚。
本来なら神族として自覚させて力も解放させるのは20歳過ぎてからだから、馬鹿力も何もなかった愛良も逃げ道がなかったみたいだった。
俺らや親父で何回も変えようとしたのに、ヤンヒロのしつこさは半端なかったし。
神すら凌駕するしつこさだった……。
兄ちゃんは、あんなの絶対に許さないからな?
親父もそれが嫌で、愛良をこの世界に来るように仕向けたみたいだし。
とりあえずは、こいつらをさっさと帰すか。
その方が愛良とカインの為だ。
愛良はヤンヒロにビビって泣きまくってたし、カインは阿部モドキに絶叫上げてたからな。
……あの阿部モドキ達が着ていた青ツナギ、実は昔、俺が面白半分で作った魔道具ってことは黙っておこう。
適当に片付けていたはずなんだけどなぁ……多分大にぃが持ち出したんだろうけど……。
マジで悪い、カイン。
寮に帰って、愛良と子どもに存分に癒してもらえ。
大にぃや中にぃには邪魔させねぇようにお前らの部屋には俺特性の結界が張りまくってるから、安心してまったりしてこい。
俺はもう一回ヤンヒロ討伐に行ってくるから。
積年の恨みも、ついでだから晴らしまくってやる。
『よし、(ヤンヒロ除いて)全員揃ったな。じゃあ結果発表なー。撃破数、トラップ回避力ともにトップは一年Sクラスのカインチームだ。その他については、まぁまぁだな。詳しくはまた後日発表するから、今日は解散だ。いつもより少し早めだが、それぞれサバイバルで疲れてるだろうし、ゆっくり休めよー』
色々ある挨拶をすっ飛ばしての行動に学年主任や理事長やらがごちゃごちゃ抜かしているが、俺らの事を知ってる学園長や他の教師たちに全力で止められているから問題ないだろ。
第一、慣れないサバイバルをさせたんだから、さらにクソ長いおっさんの話しなんて聞いたところで、誰も喜ばねぇよ。
よし……生徒たちも続々と帰りだしたし、俺はもう一回龍雅をぼこりに行くか。
龍雅……てめぇだけは愛良と結婚させねぇからな?
覚悟しとけよ……?
~カイン達へのお仕置き~
愛良「ふふふ……全員意識はあるかなー?」
ルナ「ある……動けないけど……問題、なし」
ラピ「うふふ……しゃべれないように氷の塊も口の中に突っ込んだことですし……始めましょうか?」
愛良「では、カインは背が高いけどグレイほど体格がいいわけでもないし、清楚系のワンピースと銀色の長髪かつら、麦わら帽子だね!」
カイ「………ッ!!!!」必死に首振り
ラピ「グレイはあえてゴスロリを着せて体系をごまかしましょうか。やっぱり赤のドレスに縦ロールですよね」
グレ「ふごっ!!?」動かない手足で必死にラピス様から離れようとするけど無駄。
ルナ「るーくんは……葉っぱで、原始人……?」どうでもよさげ
ルト「---っ!!!」ルナの様子にショックなのか言動にショックなのか不明
シン「…………」三人が獲物に食いついている間に、ゆっくりゆっくり後退
愛良「あ、そうだ。シン君もいるんだった」
シン「っ!!?」
ラピ「というか、どちら様です?この人」
愛良「同じギルメンで、私とカインのお友達ー」
ルナ「……おにー、ちゃん……の?……おにー、ちゃん……他に友達いたんだ」最後だけはっきり
カイ「ぐっ!!?」愛する妹の言葉に半泣き
ルナ「おにー、ちゃんの……友達、なら……色違いの、ワンピース?」黒色ワンピースを取り出し
ラピ「なら、黒色の長髪カツラが必要ですね」カツラ取り出し
愛良「麦わらは似合わないなー……よし、白色のシュシュで髪の毛まとめちゃお」シュシュ取り出し
シン「ぐ~~~~っ!!?」号泣
愛良「写真撮影も必須だよね!」
ルナ「準備……バッチ、ぐー」
ラピ「うふふ……女子を怒らせるとどうなるか、骨の髄まで分からせましょう」
愛良&ルナ「はーい!」
……こうして、カイン達は女子を怒らせたときの恐ろしさを身をもって味わうのであった。笑