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139.嫌なことを忘れるには生贄が必要です

視点が愛良とカインで交互になります

◇◇◇◇


拝啓、龍雅のお母さん。

龍雅はやっぱり小父さんの息子でした。

何なの、あの子……小母さん大好き過ぎな小父さんにそっくりなんですけど。

小母さんが小父さんみたいにならないように、必死に育ててたのに……マジで怖い。

私も将来的に小父さんのしつこさに諦めて結婚しちゃった小母さんみたいになるんですか!?

絶対にやだ!

大兄ちゃん、苛めすぎだよ!?

あの子の脳内で私が美化され過ぎちゃって、私かなり怖いんですけど!?

執着するなら私じゃなくて王女にしてくださいよ!

あの二人みたいにカインに乗り換えることなく、変になってきた龍雅のことを一途に想ってくれてるんだから!

性格ビッチだけど!

もうやだ怖いこわいこわい!

ちぃ兄ちゃんのトラップがなかったら、確実に私の居場所を突き止めてたよ!?


「愛良、大丈夫か?」

「大丈夫じゃない……あの子、退場させられた?」

「いや、あいつ無駄に頑丈になってきているから、退場にまではいかなかったようだな。どっかに飛んでいったが」


私の頭を撫でながら龍雅が飛んで行ったであろう方向に顔を向けるカイン。

その視線は、とっても遠い。ということは、かなりの爆発の威力だったということ。

なんであの威力で退場してないんですか?

打たれたら強くなるって言うけど、あの子の場合は頑丈になり過ぎでしょ。

もうやだ、私が退場したい……。


「うぅ……リーンとしぃちゃんに会いたい……」


あの怖い子の相手なんて、癒しがいないとやってけないよ。

私、こんなので残り2日半持つかな……。


「愛良、大丈夫だ。なんなら、今から俺が奴を殺りに行ってくるから」


怖くてカインに抱きついていたら、カインが宥めるように私の頭をゆっくり撫でた。


「……どこにも行かないで?ね?」

「……」


もうね、本当に一人になった途端にヤンヒロ(病んじゃったヒーロー)が来るんじゃないかって不安だから。

いつ現れてもおかしくないぐらい、変だったから。

お願いだから、一人にしないで(切実)

そういう意味を込めてカインにお願いすると、何故か無言で私の肩に顔を埋めちゃった。

頭を撫でてくれてた手も、いつのまにか背中に回ってギュってしてる。

けど、さっきのヤンヒロ見ちゃった後だからか、すっごく落ち着きます……。







◇◇◇◇


いや、こいつ可愛すぎだろ。

抱きしめてたら頭を俺の肩にコテンと預けるし。

俺が離れないように俺の制服を握って離さないし……やばい。

今のこいつの顔を見てたら、また手を出しそうになる。

というか、出していいか?

さっきは邪魔が入ったけど、もういいよな!?

……いや、待て。落ち着け、俺。

これは学園行事だ。教師たちが監視している。

つまり、三つ子の兄共も見ているということだ!

だめだ……手を出した瞬間に鬼畜と腹黒に何をされるか。


「カイン……どこにも行かないでね?」


理性と本能の間で戦って愛良を引き離そうとしたら、涙目で俺を見上げながら懇願する愛良。

うん、無理だ。俺に愛良を無理やり離すことなんてできない。

頼むから、俺以外にそんな表情見せるなよ?

そして、そろそろ襲っていいか?

もう色々、我慢の限界なんだが……いや、だめだ。

三つ子が見てる。

そうだ、前に鬼畜にやられそうになったことを思い出せばいい。

あの黒い触手がうねうねと俺に襲い掛かってくるのを思い出せ。


「………ぐす」

「え、カイン?どうしたの!?」


思い出し過ぎた……。

別の意味で愛良から離れられなくなったぞ……。


「カインー?カインも鬱帝になるぐらいヤンヒロが怖かったんだねー?よしよーし」


違うけど……愛良が背伸びして俺に抱きつきながら頭を撫でてくれてるからいいか。

この様子も、三つ子は見ているんだろうなぁ……。

ああ……怒り狂って今にも転移してきそうな鬼畜と、静かに微笑みながら背景を吹雪かせている次男、その二人を笑いながら抑えている三男の姿が目に浮かぶ……。


「…………はぁ」


……考えるんじゃなかった。

ぐす……。









◇◇◇◇


さっきから鬱帝を発揮して私に抱きついているカイン。

カインもやっぱりヤンヒロは怖かったんだね。

私ばっかり怖がっててごめんね?

よし、カインの代わりに頑張って立ち向かいます!

……できれば避けたいけど。

本音で言うと、視界にも入れたくないんですけどね……。

とりあえずはルナたちも戻ってきてるだろうし、そろそろ拠点に戻るべきだよね。


「カインー。転移で拠点に戻るけど、いーい?」

「……ん」


抱き着いたままのカインに確認をすると、小さく頭が動いた。

だいぶ重症だけど、返事したからまだ大丈夫な方ですかね。

よし、じゃあ拠点に転移!


「アイラにカイン。どこに行っていたんです?……あら?」

「おかえ、り……どう、した……の?」


食材探しから戻っていたらしいラピスとルナが、カインが作ったお家の前で私たちの方をみるなり首を傾げた。

まあ、カインは鬱ったまま後ろから抱きついているし、私もまだ顔色戻ってないだろうから仕方ないんでしょうけど。


「……変態の進化を見ちゃって、軽くショックを受けています」

「「……は?」」

「ごめんね、詳しくは説明できない。だって、思い出したくないんだもん!」


本気で思い出したくないんです。

ヤンヒロの対象になっちゃったこととか、匂いで私の居場所を突き止めそうになったこととか、変態行動が止まらなくなっていることとか!

あぅ……思い出したら背中がゾクゾクして泣けてきちゃいました。


「……まぁ、詳しくは聞かないでいますから。とりあえずは落ち着きましょう?カイン、アイラも泣きそうになっているんですから、慰めるなり離れるなりしたらどうですか?二人で暗くなっていたら、立ち直るのに時間がかかるでしょう?」


若干呆れられてるような気もするけど、優しく頭を撫でてくれるラピス。

暖かいぬくもりに、涙が出そうになるくらい安心できます。


「……ああ、分かった。愛……」

「ラピス大好き!!」

「……」


思わずラピスに抱きついちゃいました。

ラピスって、背が高いからちょうどお胸様に顔がダイビング。

普段なら劣等感に苛まれるけど、精神的にダメージ受けてる今は包み込んでくれる柔らかさは癒しです。

本人に口が裂けても言えないけど、お母さんみたいで安心する。


「……」

「おにー、ちゃん……ドンマイ……」


……はえ?

何か後ろでカインが両手を広げて固まってて、そのカインの肩にルナが同情の眼差しで手を置いていた。

カイン……そんな微妙な体制して、どうしたの?

ルナは、何がドンマイ?


「……カイン、すみません。わざとではないので」


思わずラピスにくっつきながら首をかしげると、ラピスが申し訳なさそうな顔になってました。

え、何かラピスがカインに謝るようなことってあったっけ?


「……分かってる」


……何が?

そして何でカインはそんなにブーたれてるの?


「ちょっとぉおおお!?さっきからこっちの様子見てるぅううう!?」

「ぎゃぁあああ!色々もう無理ぃいいい!!」


……ん?

お胸様に精神的ダメージを軽減してもらってたら、ルート君とグレイの叫び声が聞こえてきました。

あ、いたんだ。

しかもどっかのチームと戦闘中だったんですね。

さっきから爆発音とか聞こえていたのに、気づかなくてすいません。

だけど、あの子たちちょっとお馬鹿なのかな?


「……何であの二人はトラップの向こう側で戦ってるの?」


相手に気づかれないように浮遊で浮いて、トラップ側に誘導したらいい話じゃないのかな?

そこらへん、思いつかない?


「馬鹿だからですね。いつか思い出すかと思って、放置しているんですよ」


ラピス様、さすがです。

新手の放置プレイだったんですね。


「がんば、れー……」


ルナが応援しながら私に後ろから抱きついてきた。

前はラピス、後ろはルナから抱きしめてもらって幸せサンドです。

ヤンヒロで受けたダメージが癒されます。

なーんて考えていたら。


「……愛良。のほほんとしている所悪いが、敵チームを蹴散らしに行くぞ」


カインに引き剥がされました。

むぅ……さっきまでブーたれてたのに、何で急にやる気になってるの?


「今はラピスとルナに癒してもらってるのにー」

「さっきの恐怖をあいつらで晴らせるぞ」

「……行ってきます!」


そうだよね!

癒しもいいけど、すっきりもしたい!

愛良、いっきまーす!









◇◇◇◇


嬉々として敵チームに突っ込んでいった愛良。

それを見送っていると、ラピスがこれ見ようがしに溜め息をついた。


「ふぅ……カインは本当に分かりやすいですね。いつの間に自覚したんですか?」


……ラピス。

お前は、俺が自覚する前から気付いていたのか?


「夏休み中……」

「自覚したなら、もっとドンドン押していったらどうです?あの子は、そのぐらいしないと気づかないのではありませんか?」

「……言わないでくれ」


俺だって押したいさ!

時々我慢が出来なくて手を出そうとするさ!

だけど、三つ子の存在があるんだよ!


「おにー、ちゃん……がんばれ……協力、する……ね?」

「ルナ……助かる」


まさかのルナにまで気づかれてたのか俺。

そしてやっぱり協力してくれるというルナは優しい。

だけど、三つ子の前では頑張りも無駄な努力でしかない気がしてしょうがないんだ……。


「まぁ今の様子ですと、あの子が怖がった時に私たちが居ない方が愛良もカインに甘えに行くんじゃないですか?私たちがいると、私たちに来る確立が高いですけど」

「愛良……僕たち、大好き……だもん、ね?」

「ええ」


おい、お前ら。

そんなに誇らしげに俺よりお前らの方が好かれているって言わないでくれないか?

つまり、さっき俺に抱きついて来たのは、ラピス達がいなかったからか?

確かにあの場では俺しかいなかったけど。

……空しくなるから、考えるのは止めよう。

どうせ愛良の存在を嗅ぎ取った奴がそのうちここに来るだろうし、その時に試してやる。

もしも愛良がラピスやルナの方に逃げたら……奴を潰すか。

……いや、出来れば俺の方に来て欲しいけど。

むしろ、俺の方に来てくれたら全力で奴から守るけど。

はぁ……次男の呪いみたいな『恋愛するな』設定が解除されたのに、やっぱり愛良は鈍いままって空しいよな……。

……今度、三男に相談してみるか。

ぼんやりと黄昏ていたら、向こうで大暴れしていた愛良が声を上げた。


「カインー!パースー!」

「「いぎゃああああ!!!」」


愛良が投げてきた何かは絶叫を上げながら、勢い良く俺達のいる方向に飛んできている。

俺の後ろにはルナとラピスがいるし、避けるわけにはいかないな……仕方がない。

風を集めて簡易のクッションを作って飛んできたグレイとルートを受け止める。


「ぶはっ……助かった……」

「あ、ありがと……」


息も絶え絶えと言う様子だが、意外と傷自体はないんだな。

相手チームは一応3年のようだが、3年六人を二人で傷つくことなく相手できるって、相当な実力が付いてるということか。

だが、そんな二人に向かって無常に言い放つラピス様。


「あなたたち、何でわざわざ結界の外に出て相手をしてあげたんです?むしろトラップにはまるように誘いだせばよかったでしょう?」

「「あっ!?」」


忘れてたのか、お前らは。

むしろ、そんな様子でよくトラップにはまらなかったな。


「Gくん、るーくん……馬鹿」

「「ぐはっ……」」


最後のルナの言葉が、二人を一気に仕留めた。

……まぁ、次から気を付けたらいいんじゃないか?

どっちにしろ愛良が落ち着くためには生贄が必要だったし。


「カイン、愛良の手伝いに行かないんですか?」

「いや、必要ない」


さっきから嬉々として相手チームを掴んではトラップに投げて遊んでいるから。

相手チームも愛良を見た瞬間に負けを悟ったみたいに、絶望一色な表情していたし。

そして全員の始末を終えた愛良は、輝かんばかりの笑顔で戻ってきた。


「ただいまー!すっきりしたー!」


そりゃ、あれだけ人を投げまくったらすっきりもするだろ。

まぁ、あのストーカー勇者の事を忘れられてよかったな。




その後も何チームか攻撃してきたけど、ほとんどトラップに引っかかって自滅。

たまにトラップを回避してくるチームもいたが、何の問題もなく退場。

飯もルナたちが見つけてきた果物とか魚、後は俺が倒した魔物の肉でバーベキューにして食った。

飯時が一番トラップに引っかかる奴が多かったな。

結界は張ってても匂いは普通に通るし、腹が減ってたんだろ。

ちなみに、飯時にトラップを乗り越えれた奴には、愛良がご褒美でバーベキューに参加してあとにまとめてハリセンの一撃で退場させてたぞ。

愛良は『優しいでしょ?』と言って笑っていたが、鬼畜な所業にしか見えなかったのは俺だけか?

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