138.ストーカー勇者のレベルは急上昇
今日はカイン君視点です
◇◇◇◇
……危なかった。
危うく愛良に手を出すところだった。
予想以上に愛良の頬の感触が気持ちよくて、つい……。
それにしても、愛良は不思議そうにキョトンとして全く反応なかったな……。
警戒心すらなかったし。
……俺のことは眼中にないってことか?
そういう対象として見られていないから、俺が今キスしようとしたことにも気づいていないのか?
何か、心が折れそうだ……。
「カイン、どうしたのー?」
愛良の肩に顔をうずめたまま動かずにいると、愛良が俺の頭を撫でてきた。
うん……何か反応が欲しかったんだ、俺は。
「こらー!!人を無視してイチャイチャすんな!」
「我らが名誉会長から離れろ!」
……さっき、俺の邪魔をした奴らか。
ちっ……運がいいのか、ギリギリトラップ魔法陣の一歩手前で止まってやがる。
「君たち、誰ー?」
愛良が俺の頭を撫でたまま首を傾げて聞くと、敵チームの6人が一斉に敬礼をした。
……何なんだ、こいつらは。
『はい!我らイケメン撲滅委員会です!試合に乗じて、イケメンを殺りにきました!!』
綺麗にはもって答える6人。
……6人もいるのに全員が全く同じ言葉って、逆にすごくないか?
「あ、そうなんだー」
愛良……お前はずいぶんあっさりした返事だな。
それだけなのか、お前が言うことは。
「つまり、カインを狙ってきたんだねー?」
『そうです!』
「ふーん……」
「おい」
何かたまに『イケメン撲滅!』とか言って奴の顔面を中心に殴りまくっているけど、俺を売らないよな?
いや、売られても問題なく潰せるけど、気分的に泣くぞ!?
「んー……この人、私のチームのリーダーだからダメ。その代わりね、さっき川に流されていくイケメン転入生を見かけたよ。トラップにはまって大ダメージを受けていたし、撲滅するのにちょうどいいんじゃない?」
ニコニコと笑顔を浮かべて俺の代わりに奴を売る愛良。
『はい!名誉会長がそう言うなら分かりました!』
いや、お前らもそれでいいのかよ?
どんだけ愛良の言葉が絶対なんだよ。
まぁ、無駄な戦闘をしなくて済んでよかったと言うべきか?
……俺、売られないでよかった。
「……よし!私たちも追いかけよ!」
「は?」
川沿いに下って行くイケメン撲滅委員会の姿が完全に見えなくなってから、愛良がキラキラした目でそう提案してきた。
……完全に楽しんでるよな、こいつ。
「ほら、カインも一緒に行こ!絶対楽しいよ!ラピス達もまだ戻らないだろうしさ!」
俺の腕を引っ張る愛良。
俺がさっきキスしようとしたの、本気で分かってないんだろうなぁ……。
……置いて行かれなくなっただけ、いいと思っておくか。
「……行くか」
「うん!」
念のため不可視の結界を張って、奴らが流れ着いたと思われるところまで浮かんで移動。
ちょうど奴らが川から脱出できた所らしいな。
俺と愛良はトラップがない木の枝に腰掛け、傍観姿勢をとった。
離れているが、俺たちの身体能力なら問題なく奴らの声を拾うことができるしな。
『みんな、大丈夫?』
どうやら、奴がトラップを破って脱出するきっかけを作ったようだな。
……へたくそが。脱出するまで時間がかかり過ぎだろ。
『ええ……なんとか、大丈夫ですわ』
『ルートがいないのが痛いな。バランスが悪い』
『まぁ、リョウガが属性全部もってるし大丈夫だって!』
『それはそうだろうけど、運がないわ』
『カイン君たちみたいに、安全な所に転移されたかったです』
それぞれが服を絞りながら文句を言っているが……あのアース家の女は、滝から落ちながらも俺の居場所を把握していたのか?
あれだけのスピードで落ちていたのにか?
「……大人しい子こそが、何をするか分からなくて怖いよね」
「俺も同意見だ」
しみじみとした様子でつぶやく愛良の肩を、思わず抱き寄せる。
心の底から得体のしれない恐怖を感じたぞ。
『え、リノ。愛良たちのチームを見たの!?どこで!?』
おい、屑。
お前は何でそこに食いつくんだよ。
『龍雅さん、今は敵チームですわよ。潰しに行くんですの?』
そして王女、お前は返り討ちに合うという考えはないのか?
言っておくが、ルナたちも親父にしごかれまくったおかげで、余裕でお前らを潰せるからな?
『僕が愛良を潰すなんてするわけないでしょ!?どっちかって言うと、僕のチームに入れたいんだから!僕と愛良は今までずっと一緒だったんだから!』
それはこの世界に来る前の話だろ。
寝言は寝て言え。
『それに、考えてもみなよ!サバイバルなんだよ!?サバイバル!料理のできないこのチームだと、戦う前に空腹で倒れちゃうよ!』
『『『『『あっ!?』』』』』
奴の必死なまでの説明に、一同が唖然と口を開けた。
……まぁ、王族や気位の高い六大貴族たちが料理が出来ないのは当然だろう。
だが、奴は飯のために愛良を探しているのか?
「奴も料理が出来ないのか?」
「うーん……龍雅んとこの親がどっかに出かけてる時とか、普通に私ん家に乗り込んできてご飯食べてたしなぁ……。小腹がすいた時も、基本私の所に来て『お腹減ったー!何か作ってー!』って言ってたし。あの子が料理しているところ、そういえば見たことないや」
あははー、と呑気に笑う愛良。
いいのか、お前はそれで。
『……そうですわよね。同じクラスですもの。仕方がないから協力してさしあげますわ』
『気に食わないけど、料理は上手みたいだし……あの女の分まで私たちが敵を倒してあげたら感謝ぐらいするわよね』
王女に雷娘。
なんでお前らはそんなに上から目線なんだ。
『ついでにカインくんの好みの料理も教えてもらいます!』
土娘、もうお前は黙っていてくれないか?
『……女って怖ぇ』
『ルートが羨ましい……』
火馬鹿に風男。
お前らの気持ちはよく分かるが、俺のとこの女子も色んな意味で怖いぞ。
『やっぱりこのサバイバルを乗り切るためには愛良がいなくちゃ!待っててね、愛良!すぐに迎えに行くから!』
「いや、待っていませんから。何で君たちのご飯まで私が作ってあげなきゃいけないのさ」
何か勢いよく走りだした奴らのチーム。
愛良は本気で嫌そうだぞ。
『貴様の好きにはさせんぞ、イケメン!!』
そこに現れたのは、さっきのイケメン撲滅委員会……だったはず。
さっきよりも人数が増えているぞ?
軽く10チームは集まっているんじゃないか?
『……君たち何?』
まさかいきなり大人数に囲まれると思っていなかったのか、奴らも相当焦っている様子だ。
6人対50人以上……普通なら焦るのは当然か。
『我らはイケメン撲滅委員会兼……』
『名誉会長であるアイラちゃんファンクラブだぁああ!!』
『アイラちゃんを狙う危険イケメン!!』
『てめぇは今から血祭じゃぁああああ!!』
『アイラちゃんに撲滅しちゃダメって言われた生徒会長の分まで撲滅してやらぁあああ!!』
発狂したように叫ぶ撲滅委員会の面々。
……え、こいつら大丈夫か?
「……私のファンクラブがあるのって、初めて知った。私、お兄ちゃんたちを足して割ったような性格だから、結構ヒドイ性格していると思うのに物好きな人たちだねぇ」
呆気にとられながらイケメン撲滅委員会を見下ろす愛良。
……酷い性格って自覚していたのか。
だけど、最近はリーンのおかげか、前に比べてだいぶマシになったぞ?
やっぱり子どもがいるのといないのとで大違いだな。
それより、こいつらはどうするべきだろうな。
何か愛良のファンクラブって聞いてから、奴の表情が険しいんだが。
『愛良のファンクラブ?何それ、僕聞いてないけど?何勝手に愛良のファンクラブなんて作ってるの?』
いや、別に個人の自由なんだから、お前の許可は必要ないんじゃないか?
しいていうなら、許可を出すのは愛良だろ。
お前は全く関係ない。
『愛良は僕のなんだから、手を出さないでくれる?』
だから、愛良はお前のじゃないから。
『それだけハーレムを築いていながら、さらにアイラちゃんに手を出そうとする!』
『貴様はやっぱり敵だ、この屑メン(※屑なイケメンの略)!!総員、戦闘準備ぃいいいい!!』
『全力で撲滅だぁあああ!!』
イケメン撲滅委員会が、それぞれ魔武器と思われる武器を構える。
……ほとんどが鈍器だな。
まぁ撲滅だから、あってはいるのか。
一斉に武器を構えられて警戒する6大貴族と王女。
しかし、奴だけは別だったようだ。
『僕とやる気?いいよ、二度と愛良のファンクラブなんて名乗る気がおきないくらい叩きのめす!!愛良は誰にも渡さないんだからね!!』
不敵に笑って魔武器の剣を構える奴。
「……私、最近本気であの子の思考回路が分からなくなってきた」
さすがにあれだけ『愛良は僕の!』と公言しまくる奴に不安になったのか、愛良が隣に座っていた俺の服の袖を握った。
目は奴らの方を向いたままだし、無意識か?
まぁ無意識に頼ってくれるようになったのは嬉しいが。
『さっきから気安く愛良ちゃんって呼ぶとかふざけてるの?愛良の名前を気安く呼ばないでよね!タイダルウェイブ!!』
『うぎゃあああああ!!!』
キレた様子で水属性の上級魔法を放つ奴。
……おい、大津波にお前の仲間も巻き添え喰らってるぞ。
『同士よ!お前たちの犠牲は忘れない!!』
『死にさらせや屑メン!!』
イケメン撲滅委員会。
仲間の背中を踏み台にして津波から逃げるとか、お前らもなかなか酷くないか?
『覚悟ぉおおお!!』
奴の顔面を狙って、複数の仲間を踏み台にした撲滅委員会の鈍器が迫るが……
『アースウォール!』
殴られる前に、奴が土の壁を自分の周りに張った。
だが、奴の甘い魔力コントロールならすぐに破られるだろうな。
……と思っていたら。
ガキンッ
まるで金属と金属がぶつかり合うような音が響いた。
「……ねぇカイン」
「なんだ?」
じっと黙って奴の様子を観察していた愛良が、顔を引きつらせながら俺の方を向いた。
うん、お前が顔を引きつらせたい気持ちは分かるぞ。
「あの子、急に魔力コントロールが上手くなったんだけど、原因なんだと思う?」
そう……。
さっきの攻撃を完全に防いだのといい、現在イケメン撲滅委員会の面々を魔法でぶちのめしまくっている奴のコントロールが、急激に上がったんだ。
「……愛良じゃないか?」
奴は愛良を狙う奴らを全力で叩きのめしているわけだし。
愛良をきっかけに魔力コントロールを極めるとか、奴の愛良への固執はいったいどうなっているんだ?
まぁ、愛良は絶対に渡さないがな!
『僕から愛良を取ろうとするからだよ?』
何故か、ニコニコと効果音が付くんじゃないかというくらいの笑顔を振りまきながら周りのイケメン撲滅委員会+α(主に仲間のはずの赤馬鹿)に向けて魔法をぶっ放し続ける奴。
イケメン撲滅委員会は、無念にも強制転移で学園に飛ばされ続けているぞ……。
『あーもう。愛良に会いたい会いたい!鬼畜な王太子さんの無茶苦茶な修行中(という名のお仕置き)も愛良を思い出して頑張ったんだから!むしろ愛良を毎日思い出さないとやってけなかったんだから!もういい加減愛良をギュってしたい!!』
気絶した仲間のみを残した中で叫ぶ奴。
「……勘弁して……」
奴の最後の台詞に、青ざめて鳥肌をたてる愛良。
関係ないはずの俺も、背中に冷たいものを感じたぞ。
「全然面白くなかった……むしろ、イケメン撲滅委員会の人たちに可哀相なことしちゃった……。もうやだ、龍雅怖い……カイン、拠点に帰ろ。これ以上ここにいたら龍雅に見つかりそう……」
「そうだな……」
『愛良の匂い!?』
「……は?」
今、奴は何て言った?
匂い?愛良の?
「「…………」」
思わず愛良と顔を見合わせてから奴がいた方向へ目を向けると、きょろきょろと周りを見渡しながらも、まっすぐ俺たちの方へとやってきている。
『愛良、この近くにいるのかな?』
「ひっ……」
周囲を見回す奴の姿に、愛良が小さく悲鳴を上げて俺の腕にしがみついた。
うん、さっきの見たばかりだから、確かに怖いな。
不可視の結界を張っててよかった。
『愛良の声が聞こえた!やっぱり愛良、この近くにいるんだ!』
近づいてきたから、声が聞こえてしまったみたいだな。
遮音の結界も張っておくべきだった……。
『愛良ー?どーこー?』
「~~~~~っ!!?」
確実に近づいてきている奴の笑顔に、愛良は涙目で悲鳴を上げないように必死で口を押えているぞ。
……そろそろ、奴を潰すか。
俺がそう考えて腰を上げようとした瞬間。
ドッカ―ンッ!!!
トラップを踏んだらしい奴の姿が消えた。
しかも、奴の魔力は膨大だから被害はでかいな。
……三男、ナイス!!
◇◇愛良ちゃんの地球での生活◇◇
愛良「学校終わったし、さっさと帰ろー……って、龍雅?なんで人の靴箱の前に立ってんの?」
龍雅「愛良の靴箱の中にゴミを入れる人がいたから、お掃除してたんだよ」ラブレター握り潰しながら
愛良「あ、そ。お掃除ありがとー」女子に苛められまくってるため、全く気付かず
龍雅「愛良、今日寄り道して帰ろうよ」キラキラ笑顔
愛良「嫌ー。寄り道するなら一人がいい」真顔
龍雅「駅の近くに新しい喫茶店ができたんだよね。プリンタルトがおいしいみたいだよ」ニコ
愛良「……………行かない。また今度、自分で行く」葛藤
龍雅「僕の奢り」
愛良「………………」ぐらっ
龍雅「ついでにコーヒーも奢ってあげるから、じゃあ行くよー」愛良の腕掴んで半強制連行
愛良「うぅ……今月のお小遣い、破かれてた体操着代になっちゃって残り少ないから、しょうがないんだもん……」自分に言い聞かせ
……金欠病の原因は大元を辿れば、いじめの原因である龍雅だと気づかないおバカな愛良ちゃんでした。