137.サバイバル開始で頑張ったんです
視点が愛良→カイン→愛良になります。
カイン君、ちょっと頑張りました。報われないけど。
◇◇◇◇
雨天決行だったけど、本日の天気は晴天。
気温も暑すぎず、ちょうど過ごしやすい気候。
夏休みが終わってから1週間。
チーム対抗戦をするのにもってこいな日ですねー。
『今年のチーム対抗戦は使い魔なし、魔武器ありのサバイバルだ。学園所有の孤島にこれより全員を送る』
檀上に立って説明しているのは大兄ちゃん。
大兄ちゃんを前にしたら、話を聞かない生徒なんて皆無だからねー。
本当に他の先生たちが説明している時と比べると、生徒たちの集中具合が全く違うしねー。
ちなみに使い魔なしだからしぃちゃんはリーンやクロちゃんと一緒に幼等部に行って、コス王たちはゲーム部屋に引きこもってます。
『島はこちらの時間より進み方が早くなるように魔法をかけてある。こちらの1時間で、島では12時間となる計算だ。貴様らはこちらの時間で6時間、島では3日間、サバイバルをして過ごすがいい』
大兄ちゃんの説明に生徒たちがざわつく。
そりゃあ時魔法を使える人なんて滅多にいないうえに、3日間島全体にかけれるほどの魔力の持ち主なんて、早々お目にかかれないからねー。
まぁ、そんな生徒たちも不敵に笑うお兄ちゃんズを見ると、すぐに『あ、何でもできるんだー』って感じで納得したんですけどね。
ちなみに、島全体に時魔法をかけたのはクロちゃんです。
一人で3日間リーンを見るのは不安だよー!!って泣きながら自発的に時魔法かけてくれました。
まぁ短い期間で人体に大きな影響があるわけでもないからって理由で許可出したけど。
『自分たちのチーム以外、同じクラスであろうと敵だ。ぞんぶんに潰しあえ。残った者が勝者だ!』
無駄にビシッと生徒たちを指さすポーズをとる大兄ちゃん。
……大兄ちゃん。
そろそろ、お兄ちゃんズの存在に慣れてきた一般生徒たちが白けた目で見ているのに気付いてほしいです。
……王族としてのお兄ちゃんズを知ってる貴族クラスと先生たちはいまだに慣れないみたいだけど。
『大にぃ、それじゃあ説明不足だろー。ほれ、後は俺が説明するから大にぃは下がってろって』
『うむ、ちぃよ。では任せたぞ!』
『へーへー。大にぃは準備しといてくれよー』
超簡単にしか説明しなかった大兄ちゃんを壇上から追いやって、変わりに檀上に上がるちぃ兄ちゃん。
『今回のサバイバルは相手チームを潰すことはもちろんだが、俺が仕込んだトラップをいかにして乗り越えるかも重要視するからな。下手したらトラップだけで全滅もありうるぐらいのレベルで考えているしー。親睦会で生徒会が用意したトラップなんて可愛いもんだぞー』
最後の言葉に、生徒たちの顔色がどんどん青ざめていく。
一年生でもギリギリ乗り越えれるぐらいのレベルだったのに、そんなに真っ青になっちゃうなんて失礼な。
『お前ら、全員朝のホームルームで配った腕時計はつけているなー?それはこっちの時間と島での時間を確認できる上に、魔力を流せば残りの人数と自分が倒した人数が表示される。ついでに緊急時の転移の目印にもなる魔導具だから外すなよー。つーか、サバイバル終わるまで外せねぇけどなー。あ、コレ人数分作るのに時間がかかったから、壊したら弁償なー。ちなみに作ったのは俺たちと生徒会だから』
『絶対に壊しません!!』
ちぃ兄ちゃんの冗談交じりのセリフに、必死になって腕時計を握る生徒たち。
そんなに必死に腕時計を守らなくてもいいと思うけどなぁ……ちゃんと強度は上げているし、自己修復機能もつけているし。
『その意気込みだ。そうそう、島全体には不死と転移結界が張っているから、戦闘不能になったら強制的に学園に強制転移な。転移されてもそれまでの評価は残るから、まぁ頑張れや』
最後にそれだけ言うと、さっさと壇上から降りるちぃ兄ちゃん。
入れ替わりで上がってきたのは、中兄ちゃんだね。
『はい、じゃあチームごとに分かれてね。ある程度離れておかないと、一人だけ別のチームと一緒に転移させちゃうこともあるから、十分離れておくように』
片目をつむりながらニコニコの笑顔で脅しをかける中兄ちゃんの様子に、一斉にチームごとにくっつきだしてます。
私たちのチームは元から集まってるし、周りとの距離も十分あるから大丈夫だねー。
『……あ、そうそう。言い忘れていたけど、転移場所はランダムだから運がいいといいねー』
……ランダム?
あれ、ある程度転移場所を決めてるって、学園長のおじいちゃんが言ってなかったっけ?
『ふふふ。うっかり崖の上でもごめんね』
中兄ちゃんの視線は、主に私たちのチームの隣にいる龍雅に注がれている。
……龍雅を崖の上に送る気満々だね。
中兄ちゃん……あの馬鹿が私を巻き込んだこと、まだ怒ってたんですね。
まぁ、最近龍雅変な方向に走っていて怖いし、別にいっか。
『じゃあ、逝ってらっしゃい』
存分にやっちゃってくださいなー。
◇◇◇◇
俺たちが転移された場所は、大きな滝のすぐそば。
ランダムと聞いた時はどこに転移させられるのかと不安だったが、まぁ愛良がいる時点で大丈夫だったようだな。
……俺たちは。
「「「うわぁああああ!」」」
「「「きゃぁああああ!」」」
絶叫を上げながら滝上から落ちてきたのは、奴と6大貴族の面々。
盛大な水しぶきを上げて川に落ちたな。
そして川に落ちた瞬間、奴らの魔力が川に仕掛けられていたらしいトラップに吸収されていく。
「「「「「「ぎゃぁあああああ!!」」」」」」
恐らくトラップの効果だろうが、奴らは激しく渦巻いた水の中に飲み込まれていった。
水をつかさどるアクア家のルートが俺たちのチームにいるから、奴らだけじゃ出るのに時間がかかるだろうな。
海に流されて退場させられる方が先かもしれないが。
はっ……いいザマだ。特に奴!
「さて、拠点を探すとするか」
「はい、賛成!」
散々奴らが川に呑まれる所を観察した後で俺が提案すると、清々しいまでの笑顔を浮かべた愛良が手を挙げて賛成した。
よっぽどスッキリしたんだな。
「え、今の無視?」
「グレイ?あの人たちのどこに構ってやる要素があるんです?」
「皆無……放置が、一番……」
「ルナがそう言うなら、放置でいいよ!」
ルナたちはともかく、ルート。
お前は少し前まで奴ら側だったことを覚えているのか?
俺たちのチームに来てすぐの時は、『ルナと両想いになりたいから、強力してください!お金は好きなだけあげるから!』と、馬鹿貴族丸出しで言ってきていたのに。
……まぁ、ルナと両想いになりたいということについて、俺と少し話したらガクガク震えていたがな。
その後で愛良にどこかに連れて行かれて、戻ってきたら俺たちに土下座して謝ってきていたが。愛良が何をしたのかは知らん。
きっと聞かなければよかったと後悔するに決まっているんだから、聞く必要はないよな。
「拠点はどこにします?ここからは離れますか?」
周囲を見回しながらラピスがそう提案するが、どうだろうな。
目の前は川、後ろは森、横は崖。
俺たちがいるところは、ちょうど広場のようになっている。
俺的には、ここから動かない方がいいというのが本音だ。
「んー……ある意味、ここってすごく安全だと思うよ?」
俺の隣で同じように周囲を見回していた愛良が、にこにこと笑みを浮かべながら人差し指を立てた。
やっぱり愛良も気づいていたか。
逆に、気づいていないルナたちは不思議そうだな。
「ここ……丸見え、だよ……?」
「ルナの言うとおりだよ。それに、川の近くって水確保をしようとする子たちが結構くるんじゃない?魚だって捕れるでしょ?」
「あ、分かったぞ!近づいてきた奴らを一網打尽にするんだな!」
「馬鹿は黙っていてくれませんか?」
「へぶっ!?」
……ラピス様、見事な踏み付けだ。
バカ丸出しのグレイはすぐさまラピスに沈められたし、教えておくか。
「確かに丸見えだが、ここから少しでも離れた所には、いたるところにトラップが仕掛けられているぞ」
「目に魔力を集中させたら、あっちこっちにあるトラップ魔法陣が見えるから気を付けてね」
愛良が笑いながら教えると、それぞれ目に魔力を込めて唖然とした。
そりゃそうだろうな。
足の踏み場もないくらい、トラップの魔法陣が集中しているから。
「これ……逆に、どうやってここから出るんですか?」
「『浮遊』を使って地面から少し浮いておけば、問題なく移動できる」
「その代わり、浮いていいのは地面から3㎝までね!他の人たちにトラップ回避技を気づかせたくないし。3㎝までだからね!」
俺と愛良の説明にみんな納得した顔をするが……愛良?
他の奴らに気づかれないようにするのは分かるが、お前はなぜ3㎝にこだわってんだ?
別に高さは気にしなくていいだろうが……全く。
そんな俺のジト目を軽く無視して、にっこりと笑って両手をパンっと合わせる愛良。
「拠点はここにするの決定ね!それじゃあラピス達は4人で食糧調達お願いしていい?私とカインは、ここに結界張ったり罠用意したり近づいてきた敵チーム潰したりして待ってるから!じゃ、よろしくー!」
機嫌がいい愛良が、次々と決めていく。
……まぁ、愛良が喜んでいるならいいか。
◇◇◇◇
カインに土で簡単なレンガ造りの家を作ってもらってー、その周りに学生レベルの結界を張ってー、ちぃ兄ちゃん力作のトラップに私のトラップもプラスしてー、結界にもトラップを組み込んだら完璧!
「これで安心して寝れるね!見張りも必要なし!」
「そんなに野宿は嫌なのか?」
「嫌」
魔武器を使うのがありなら、最近忘れちゃいそうになる私の魔武器パールでどうとでもなるもん。
形状変化でお布団に変えて、それを増殖させたら問題ないよね!
ふっかふっかのお布団を人数分並べて……これで完璧!
「なんか……普通の家になってきたよな。すでにサバイバルじゃないだろ、これ」
「サバイバル中でも私はちゃんと10時には寝ます。帝のお仕事手伝ってた時に徹夜しまくったら、お肌が少し荒れたもん。やっぱり夜更かしはお肌の敵!」
顔を引きつらせるカインだけど、そんなの知りませんもん。
まだ若いからそんなに気にならないけど、やっぱり嫌なものは嫌なの。
お肌のゴールデンタイムは絶対寝ますからね。
「肌って……綺麗な方だろ?」
怪訝そうに私の頬に手を当てて首を傾げるカイン。
「そりゃあ、毎日のお手入れは欠かしていませんから」
お母さんが『若いからって油断していたら、大人になってから後悔するのよ?』って言い聞かせられてましたので。
これでも毎日頑張っているんだからね?
化粧水とか洗顔クリームとか無尽蔵に出せる創造属性を持っていて、本当によかったです。
「へぇ……」
ふにふにふにふに。
「……カインさんや。あなた、いつまで私のホッペを触っていらっしゃるんでしょうか?」
もうね?かれこれ3分以上は私のホッペを触っていますよ?
カップめんが出来上がっちゃうくらいですよ?そこんとこ、分かってます?
「え?……ああ、悪い」
うん、悪いって思ったなら手を離そうか。
何で手を添えたまま見下ろすかね、君は。
考え事でもしている?
何か、真顔のままカインが顔を近づけてきて……
『たのも――――!!!』
突然聞こえてきた声に、ガクリと私の肩に顔をうずめた。
……どーしたの?
◇◇少し前のコス王の素朴な疑問◇◇
コス「なぁなぁ、三男ー。俺様、ちょいと聞きたい事があんだけどさー?」
三男「あん?なんだよ?」
コス「お前たちがかけたお嬢の設定って無効化されたじゃんかー」
三男「おう。俺の『なんでも楽しめ』以外はな」
コス「長男の『イケメンは5分以上抱き着いたら投げる』設定はすぐに効果が出たけどさ、くそ神の『絶壁の呪い』とか次男の『恋愛禁止』設定とかって、効果っていつ出るんだよ?」
三男「………」
コス「え、何その沈黙。俺様ビビるじゃん」
三男「……まぁ、絶壁については本格的な二次成長期が来るだろうな」
コス「あ、成長するんだ。一生絶壁かと思ってた」
三男「恋愛感情についてはな……なあ、ハゲ。赤ん坊に、誰かに恋しろとか言えるか?」
コス「……それって、まさかお嬢は赤ん坊の時に恋愛感情の成長が止められてるから、今から成長していくってこと?0歳児から?」顔引きつり
三男「………」目逸らし
コス「……それってさ、お嬢が恋愛の経験値を積み重ねないと、カインがいくら頑張っても無駄ってことじゃ……」
三男「……だから、愛良は諦めた方がカインのためだと思ったんだよなぁ」哀愁漂わせ中
コス「……俺様、今からちょいと地球に行って、少女コミックとかを片っ端から買ってくる。お嬢の恋愛経験値を少しでも積み重ねなければ!!」
三男「あー……俺も手伝うわ。マジでちょいとカインが哀れ過ぎるからなぁ……」
……こうして、哀れなカインに同情した三男は、カインの味方になろうとするのであった。