134.三つ子の兄さんズ登場
最初は愛良視点、途中からカイン視点です
◇◇◇◇
長い休み明けの、最初の日っていつも思う。
なんでこんなに先生方の話って長いんだろうって。
かれこれ30分話しているのは、初めて存在を知った理事長。
特徴は頭が寂しいおじいさんってことぐらい。
学園長のおじいちゃんの挨拶は、『久しぶりじゃの。まぁ2学期から頑張るのじゃぞ』ていう2文だけだったから、余計に長く感じるし。
生徒たちはだらけきってるし、ソル先生とか立ったまま寝てる。
しかも微妙に目と口が半開きで怖い。
「愛良、終わったぞ」
ん?
ソル先生を観察すんのに忙しくしてたら、理事長の話が終わってたや。
始業式の司会、なぜか私がやってんだよねー。
マイク持ったルーザー先輩はテンションが上がり過ぎちゃうから、先生たちから却下が出たの。
カインは生徒会長の挨拶があるから、私と同じく舞台袖にいます。
「よし、次に移る前に。しぃちゃん、ソルせんせーにお仕置きしようねー」
「わーう!」
「……何をするつもりだ、お前らは」
うきうきしながらしぃちゃんに提案すると、とっても嬉しそうに尻尾を振って頷いてくれる姿が可愛いです。
その横で微妙な表情をするカイン。
カインさんったら、何でそんなに疑っている目をしているのかしら?
「いやいや、真面目にお仕事をしようと考えていますよ?あ、コス王とルシファーもお手伝いする?」
「え、お嬢何する気!?」
「俺は楽しそうだから手伝う!」
びびっているコス王はカインの肩にしがみついてるし、置いといたらいっか。
やる気満々のしぃちゃんとルシファーを連れてステージに出ると同時に、水風船を寝ているソル先生の頭の上に落ちるように投げた。
それをソル先生の頭の上に落ちる前に走って追いついたしぃちゃんが、爪で軽く引っ掻いてすぐに離れる。
いっきに割れた中身をもろに被ったソル先生は……
「あぎゃああああああ!!!!!水!!水ぅううううううう!!!!」
顔を押さえて床をのた打ち回りました。
わ~い、大成功ー!
「……愛良、何を入れてたんだ」
「水風船の中身は愛良ちゃん特製、激辛スープ(豆板醤、七味等の香辛料が大量)でした☆本当はカインがまた何かしでかした時のお仕置き用に作ってたのー」
「……ソル先生、俺のために犠牲になってくれてありがとう」
犠牲って、失礼だなー。
ちゃんと周りに被害が及ばないように、周囲には結界を張ってるから安心安全ですもん。
ソル先生の目にも入らないようにちゃんと結界張ってるし。
「目がしみるぅうううう!!!口が熱いぃいいいいい!!」
結界を張ったのは、眼球だけですけどね☆
『はい、それじゃあみなさん。ソルせんせーの二の舞になりたくなかったら、ちゃんと背筋を伸ばして話を聞きましょうねー?ちなみに、ソルせんせーの叫び声を聞いても爆睡しているおバカさん達の周りの生徒は避難することを進めまーす』
私がマイクを持って宣言すると同時に、並んでいる生徒たちが一斉に寝ている勇者君たちから距離をとった。
えーと……生徒たちが離れている場所が4か所あるね。
しかも、一人はグレイ。
グレイだから当然と言えば当然なんだけど。
(アイラ。グレイは私が起こすので、先ほど投げた物を送ってください)
やっぱりグレイをお仕置きするのはラピス様ですよね!
突然念話されても驚きません!
むしろ当然です!
ラピス様には、もちろん激辛スープ入り水風船を送りましたよ?
グレイの悲鳴が聞こえてきたけど、見るつもりありません!
「さて、じゃあ他の3人にはしぃちゃんとルシファー、ついでにコス王でお仕置きだね!」
「わうわーう!」
「よっしゃぁあ!やってやるぜ!」
「俺様に被害がなければ問題なし!むしろ殺る気満々でっす!」
楽しくって仕方がない様子で尻尾をぶんぶん振るしぃちゃんと、猫特有の鋭い爪を見せつけるように爪を出し入れするルシファー、自分に被害がないことを認識してテンション上がったコス王。
水風船を爆睡中の生徒に向かって投げると、嬉々として割りに行きました。
んー?コス王が向かったところで寝てるのって、龍雅の取り巻きの一人だー。
周りに龍雅も煩い王女様たちもいるし。
あそこだけ周りに結界張らなくてもいいやー。
むしろ被っちゃえー!
『ぎゃぁあああああああああああ!!!!』
各々寝ていたおバカさんたち(+α)からの大絶叫。
居眠りせずに頑張って起きてたらよかったんですよー?
「おじょぉおおおおお!?俺様も被ったぁああああ!!」
あれー……コス王が号泣してるー……。
あー、結界張らなかったからコス王にも被害がいっちゃったのね。
「お前、こんなにドジなキャラだっけ?」
「ドジじゃなぁああい!不幸なんだぁあああ!!」
ルシファーが呆れながら背中に乗っけてコス王を拾ってきてくれた。
あららー……コス王、大号泣だわー……。
拾ってきてくれたルシファーの背中の上でカインにわめくコス王。
「カインんんんん!!みじゅ!みじゅだしてくりぇえええええええ!!」
「悪いな。俺、(学園では)水属性は持ってない(ことにしているんだ)」
「おじょおおおおおお!!!」
「……ごめんね?」
……可哀相だったので、コス王は被らなかった設定にしました。
私が完全に悪かったので、ちゃんと謝ります。
リーンのお手本にならなきゃいけないしねー……。
『みなさん、人が話している最中に寝ちゃダメだってことがよく分かりましたねー?』
いまだに悲鳴を上げているけど、あの人たちは放置の方向で。
寝ている方が悪いので、あっちには謝りませんから。
『じゃあ、次は学園長先生からのお知らせです』
そう言って、また舞台袖に引っ込もうかと思ったんだけど、なぜか学園長のおじいちゃんが出てこない。
あれー?
さっきまで爆笑しながら、ソル先生がのた打ち回ってる姿を写真で撮ってたよね?
『学園長のおじいちゃーん?どこに消えましたかー?』
マイクで呼びかけるけど、応答なし。
おっかしいなー。
おじいちゃんが、理事長の話の後に伝えたいことがあるって言ってたのに。
無駄にステージの上に立ってるのって嫌なんですけどー?
本気でどうしようかと思ったぐらいで、目の前に手紙が転移されてきた。
あ、おじいちゃんからだ。
ふむふむ……。
『はい、お待たせしましたー。学園長先生は急激にお腹が痛くなったみたいなので、私から代わりに言いますねー』
急激にお腹が痛くなったわりには、丁寧に書かれた手紙だけど。
事前に書かれていた感が半端ないお手紙だけど。
『えっとですねー。前期で臨時職員をされていた先生が寿退社やおめでたで3名ほど自主退職をされたみたいですねー』
辞めた先生の名前を発表すれば、驚きはあれど納得した様子の生徒たち。
というか、この3人って親睦会でトラップに引っかかった先生たちじゃない?
まぁ、おめでたいことで辞めたみたいだし、学園から辞めるようにしむけたわけじゃないみたいだから気にしないでいいかとは思うけど。
『そのため、新しく臨時職員が3名来られます。えーと……名前は、フレイル・フィレンチェ先生と、リュシオン・ツヴァイス先生、ハルウェル・フィルス先生ですね。……ん?』
……あれ?
この三人の先生方の苗字って、各国の名前と同じ?
……つ ま り。
転移でステージ上に登場した3人。
『フレイル・フィレンチェだ!我らが貴様らをビシバシ指導してやろう!』
『リュシオン・ツヴァイスだよ。僕の受け持つ教科で赤点なんて取らないようにね』
『ハルウェル・フィルスだぞ。あー……まぁ、楽しくやろうや』
お兄ちゃんズの登場ですね。
学園長のおじいちゃんが逃亡した理由が分かりました。
「「「「「ぎゃぁあああああああ」」」」」
絶叫を上げる使い魔ズ+一部教師(ソル先生含む)+ビッチ王女。
「ぐはっ……」
お兄ちゃんズ(大兄ちゃん)の顔を見て吐血するカイン。
同じように大兄ちゃんの存在に気付いた龍雅は吐血した状態で立ったまま失神。
無言のまま、静かに何も見なかったことにして逃亡しようとする、貴族であるがゆえに王族を知っているSクラスの生徒たち。
普通科の生徒たちは、まさか各国の王族が臨時教師をやるなんて思わなかったのか、フリーズしてる。
だけど、マイクを持ったお兄ちゃんズはそんなの気にしない。
『はっはっは!懐かしき母校よ!我らは帰ってきたぞ!』
『ふふふ……そんなにかつての生徒の顔が見れて嬉しいかい?これから好きなだけ拝めるよ』
『あ?ソル先輩じゃん。教師とか似合わねぇ職種についたなー』
お兄ちゃんたちの母校だったんですか、この学園。
しかも三人揃って在学していたんですか。
だからご年配の先生方が絶叫上げてんですね。
ソル先生も後輩にお兄ちゃんたちがいたんじゃ、苦労したんだろうねー。
なんか、ほんとごめんなさい。
『なんだ?帰ってきてやったというのに、もっと嬉しそうな顔はできんのか?』
大兄ちゃん、それは演技でも無理だと思います。
『せっかく学園長に口止めしておいたんだから、もっと僕らを楽しませるような反応をすべきじゃないかい?叫ぶだけだと煩いよ?』
中兄ちゃん、驚き過ぎてそんな余裕を誰一人持っていないと思うよ?
『大にぃー。帰ってきたんじゃなくて、仕事しに来たっての忘れんなよ?中にぃは、笑顔で脅すの、今は止めてやろうぜ。話が進まねぇ。あと、そこの逃げ出そうとしている奴ら。出ていくのは人の話を聞いてからにしろ』
ちぃ兄ちゃんがいてくれて、本当によかった!
私も思考が若干フリーズしてたから、何か色々追っ付けなかったの!
『はい!みんな困惑するのは分かるけど、とりあえずは黙って整列!その方が確実にみんなのため!生きたい人はすぐさま整列!逝きたい人はそのまま逃亡!二つに一つ!さあ選べ!!』
うん、私もまだ混乱から抜け出せてないみたいです。
色々変なの分かってるけど、誰も突っ込む余裕ないみたいだから問題なしだね!
そして誰一人逃亡することなく綺麗に整列してたし!
はい、登場して3分でお兄ちゃんズがこの学園を掌握しました。
◇◇◇◇
嘘だろ……。
何でこいつらが学園にいるんだよ……。
いや、三男はいいんだけど!
いいんだけど、三つ子が揃ってとか嫌なんだが!
『さて、貴様ら!一つ重大なことを教えておいてやろう!』
片手にマイクを持って、もう片手の手でビシッと生徒たちを指さす長男。
なんで鬼畜太子はいちいちマイクを持ってポーズを付けて話すんだよ。
訳分からん。
そして何故次男はステージに立ったままの愛良の頭を撫でているんだ。
『この子、血の絆を超えた僕らの妹だから。手を出そうものなら、それなりの地獄を味わってもらうよ』
「「「「「「はあっ!!?」」」」」」
『大丈夫、死にはしないから』
いやいや。
死ぬより辛い目に合わせる気だろ。
何、僕って優しいよねーみたいな顔してんだよ。
ある意味お前が一番怖いんだぞ!
『あー……まぁ、あれだ。うちの妹にちょっかいを出さない限りは平和に過ごせるはずだ。……多分』
三男!
最後の言葉を付け足すなよ!
というか、お前らがいるんだから平和に過ごせるわけないだろうが!
返せ、俺の平和な日常!!
「いやいや、カイン……お嬢を使い魔にした時点で平和な日常は崩れ去っているから。単純に落とし穴に落とされたりグレイプニールで縛り上げられたり色々されるのに慣れたから、平和な日常って勘違いしているだけだから」
「……そういえばそうだった」
コス王に諭されるまで、全く気付かなかったぞ、俺。
「慣れって怖わいなー。だけど、俺は何百年経っても三つ子にはいつまでたっても慣れないぞ。ははは……はあ」
乾いた笑い声をあげながら俺の肩にしがみつくルシファー。
……お前らも、三つ子の被害にあったことがあるんだな。
「なぁなぁ、カイン。三つ子がステージにいるうちに逃げようぜ。今ならお嬢に構うのに忙しいから逃げられるぞ!」
……そうだな。
愛良がまだステージ上で三つ子に捕まっているが、あれは妹を可愛がっているんだし問題ないよな?
俺は幸い、他の生徒たちと違って舞台袖だし、こっそり転移で逃げられるよな?
「そうそう。嬢ちゃんなら大丈夫だし、今すぐ逃げ…『まさか生徒会長が生徒を見捨てて逃げるなんて言わないよね?』……」
わざわざマイクで言いながらこっちを見る次男。
俺の逃げ道が絶たれた……もう腹くくるしかない。
「……逃げない。で、お前らは何しに来たんだよ」
いまだにステージ上に立ったまま退く気もなさそうな三つ子。
紹介も終わったんだから、さっさと退けよ。
お前ら(特に長男)見てると、また吐血しそうなんだよ。
『何しに?貴様は我らの話を聞いておらんかったのか?それでも生徒会長か!?』
「聞いていたに決まっているだろ……。俺が言いたいのは、紹介が終わったのにいつまでそこに立ってるつもりだってことだ」
こいつら、一応仮にも臨時職員のくせに授業を潰す気か?
あと、いちいちマイク持ったまま大声出すなよ、煩いし。
『もっともだけど、君に言われると少しだけイラってするよね。君のおかげで、僕たちたくさん怒られたんだから。ちぃ、この子のどこが気に入ったのさ?』
怒られたって、どうせ愛良の設定のことだろ?
……自業自得だろうが。
『いや、全部?面白いぞ、こいつの執念』
執念って言うな。
しかも面白い執念って何だよ。
『ちぃが気に入ったとしても、我らが気に入らんことには変わらん。貴様、もう一度我のお仕置きを……は?ぐふっ!!?』
……あの嫌な笑みを浮かべながら近づいてきた鬼畜太子が、突然目の前から消えた。
助かった……原因は、シリウスと愛良だな。
シリウスが歩いていた足を引っ掛け、上体を崩した鬼畜太子の顔面を愛良が殴ったようだ。
しかも、全校生徒の目の前で。
……微妙に不機嫌そうな顔だな。
「……愛良が大を殴るなんて、どうしたのさ?」
「愛良、どうしたー?ちょっと遅めの反抗期かー?」
「ぐ……可愛い妹よ。いきなり殴ってくるなんて、お兄ちゃん驚いたぞ。何が気に食わなかったのだ。お兄ちゃんに言ってみなさい」
あ、ついにマイクを手放したんだな。
殴られた頬を押さえながら戻ってきた鬼畜太子。
それにしても、愛良のあの殴りでも少し赤くなったぐらいしかダメージがないのか……。
こいつら、どうやったら倒せるんだ?
「別に?みんなにお話に入れてもらえなかったからって、拗ねてなんかないよ?」
いや、それって完全に拗ねていたんだよな?
「拗ねてないもん」
若干頬を膨らませてそっぽを向く愛良。
……そんな愛良を見て可愛いとしか思わなかった俺は、末期か?
「あのー、お嬢?カイン?ついでに三つ子?」
俺の肩にしがみついていたコス王が、恐る恐るといった様子で声をかけてきた。
「お前ら、今、全校生徒が見てい状況って分かってる?」
「「あ。」」
完全に忘れていたな……。
ステージから生徒たちを見下ろせば、呆気を通り越して目が虚ろになっている。
愛良も忘れていたみたいだし。
しかし、目の前の三つ子は違ったらしい。
「おいおい。この俺らが、んなこと忘れるわけねぇだろ?」
「愛良に殴られても全く気にせぬほど可愛がっておるのだから、我らが溺愛しているというのを知らしめるには、ちょうどよいであろう」
「言葉だけでなく、態度で示すことも信憑性を高めるのにいいんだよ。僕たちの単なる気の迷いとか勘違いする者がいても困るでしょ?」
……全部計算づくか。
いや、このぐらいで驚いていたら、この先絶対身が持たない。
とにかく、今は授業が優先だな。
『えーと、始業式終わり。強制終了ね』
『各自さっさと教室に戻って授業の準備をしろ。一部倒れている奴は引きずってでも構わないから、忘れずに連れて戻れ』
俺たちの言葉に、まだ茫然としていた生徒たちがノロノロと動き出したが、教師はまだ目が虚ろだ。
特にソル先生は俺と同じで吐血していたらしい。
愛良に激辛スープを顔面にかけられて微かに顔は腫れているし、目は充血、唇はたらこのようになっている状態での吐血した様子は痛々しいな。
一体学生時代に何があったんだ。
『先生たちも、今すぐ正気に戻ってくださーい。ある程度の時間が経つと、ちぃ兄ちゃんの悪戯の対象になると思ってくださいねー』
「「「「すぐに戻ります!」」」」
すごいな……。
茫然自失だった教師たちが、一斉に駆け足で出て行ったぞ。
ソル先生は、絶対に雷帝であることを隠す気ないだろとしか思えない速さで消えたし。
三男も三男で、在学中に何かしでかしていたんだろうな……。
……俺の日常を返せ(泣)
~使い魔ズと三つ子の因縁~
うーん……。
嬢ちゃんが三つ子の妹なのは知っていたけど、三男以外の性格変わり過ぎてないか?
特に長男!
殴られたのに全然怒らないってどういうことだよ!?
逆に怖いわ!
「ルシファー、さっきから黙ってどうしたのー?」
教室に戻ってきた嬢ちゃんが、首を傾げながら俺の頭を撫でた。
うん、まぁ子猫の姿になっているわけですし、撫でられるのは別にいいや。
抱っこはしてくれないけど。
つーか俺の本体知ってるカインが絶対に阻止するし、嬢ちゃんのワンコが睨んでくるし。
何より、嬢ちゃんに抱っこされても柔らかくなさそうだ!
幼女様みたいにツルッペタなのに、幼女様特有の柔らかさもない嬢ちゃんは、むしろ憐れみを誘うな!
「つまり、死にたいってことなんだね?」
ガシッ
何のためらいもなく俺のキュートな顔を鷲掴みしましたよ!?
しかも、周りの生徒の迷惑にならないように遮音の結界張ってやがりますよ!?
「あぎゃあ!?嬢ちゃん、小動物虐待反対!」
「大丈夫。その格好は可愛いけど中身はただの変態だから」
「ぎゃぁああああ!!」
頭蓋骨がミリミリ音してるって!
やばいって、これ!!
「お前、本気で馬鹿だなぁ……。お嬢、新入りってことで許してやってくれよ。まだ言っちゃいけないことの区別がつかないんだけなんぎゃあああああ!お犬様ぁあああ!食べちゃいやぁああああ!!」
いや、お前も馬鹿だろ。
自業自得で墓穴掘ってワンコに制裁されているお前こそ馬鹿だよ!
お前にだけは馬鹿って言われたくねぇよ!!
「カインんんん!!お犬様が苛めるぅうううう!」
「頭が握りつぶされるぅうううう!」
「いや、知らん。お前ら、そろそろ授業が始まるから黙れ」
「俺様の主って薄情!」
「前のに比べたら遥かにマシだけど!」
「……ん?前にも契約してた人がいたの?」
あれ、ずいぶんあっさり放してびっくりなんですけど!
「あー、うん。2千年ぐらい前に、契約してたぞ。鬼畜長男と」
「「……は?」」
へ?
何でそんなに驚くんだ?
「ルシファー、大兄ちゃんと契約してたの?」
「マジか?」
「わう?」
「うぎゃ!」
んー?
何か嬢ちゃんとカインが唖然としているな。
ワンコもびっくりしたって感じで咥えていた冥界神を落としたぞ。
「俺だけじゃないぞ?時神は次男と契約してたし、冥界神は三男と契約してたぞ?」
「「は?」」
あれ?
冥界神のやつ、もしかして言ってなかったのか?
「コス王、それ初耳なんだが?」
「え、いやだって、聞かなかったじゃん!俺様悪くない!」
コウモリ姿で威張る冥界神。
ちょっとイラってするよな!
「だからコス王はちぃ兄ちゃんと仲良しだったんだねー」
「お嬢!仲良しは仲良しだけど、主に三男の弄りの対象としての仲良しだからな!?」
嬢ちゃんの納得顔に、冥界神が必死に念押しする。
うん、あれは弄りの対象でしかなかったよなぁ……。
冥界神の行くとこ行くとこ、常にトラップが張られていた気がする。
そしてそれに見ごとに毎回引っかかる冥界神を、三男が爆笑していたよなぁ……。
「そもそも、冥界神のコスプレ好きも、三男が原因だからな?暇だから面白い事しろって三男が言いだして、泣く泣くコスプレをしだしたんだよなー」
「そーそー!とりあえずはそれで三男も爆笑してたんだよ!そして繰り返すうちにコスプレの魅力に取りつかれてしまった俺様!三男、ありがとう!ぐべっ!?」
おわ……嬢ちゃんが作った結界があっさり破られて、冥界神が平手で潰された。
「へーへー。そりゃどうも。どうでもいいから、俺の授業の妨害すんなや。潰すぞ」
爽やかそうな笑みを浮かべながらコウモリを潰したのは、噂の三男。
「しゅ、しゅでにちゅぶしゃれてましゅ……」
うん、見たらわかるから、いちいち報告しなくてもいいと思うぞ。
いつの間にか嬢ちゃんもカインも、知らんぷりで教科書開けて授業受けてるフリしてるし。
「よーし。雑音も無くなったことだし、授業すんぞー。俺の授業でふざけたり寝る奴は、その瞬間に大にぃと中にぃ……鬼畜太子と腹黒皇子のとこに強制転移だからなー」
『真面目に受けます!』
さすが王族を知ってる貴族クラス。
お前らの判断は正しいと、元長男の使い魔として断言しといてやるぞ!
触らぬ神(嬢ちゃん・三男)に祟り(長男・次男)なし!!
これ鉄則だ!