133.2学期が始まる前に準備しておきましょう
最初は転生者君、途中から愛良視点に変わりまーす。
「ふむふむ……住所もお仕事もないのね。住所不定無職なシンくん、記入ありがとー」
「何かその言い方嫌なんですけど!?いいじゃん!働くためにここに来たんだから!!」
「うん、そうだねー。はい、頑張りましょうねー」
というか、わざとだよな!?
何なんだよ、この子!
女神みたいに優しくしてくれる人はこの世界にいないのか!?
「はいはい。寝言はお布団の中で誰にも分からないように、こっそり考えればいいからねー」
決定!
やっぱりこの子も女神とかコスプレ好きの変態男みたいに心読めてるよ!!
こわっ!異世界ってホント怖い!
「さっさと属性を調べるぞ」
「う……はい」
どうでもよさそうに横に立っていたイケメンに見下ろされる。
くそ、イケメンに無表情で見下ろされると無駄に威圧感があるんだよなぁ……。
「……ん?調べるのって属性だけ?魔力は?」
普通、こういうのって魔力量も量るんじゃないの?
ほら、ギルドに入るための紙にも魔力のこと書かれていたぞ?
そんな俺のもっともだと思う疑問に、二人はお互い顔を見合わせてからこちらを見た。
「君の魔力量が多いのはそこにいるだけで分かってんだから、量るだけ無駄だよ?」
「量りたいなら量ってもいいが、確実に水晶が割れる。その場合お前に弁償してもらうが、それでもいいんだな?一応言っておくが、高いぞ?」
「属性だけでいいです!」
ただでさえ俺の食費ってヤバいのに、これ以上出費が増えるとマズイ!
絶対に弁償なんてできない!
「分かればよろしい」
「これに魔力を少しだけ流せ」
イケメンに渡されたのは、掌サイズの水晶。
え、意外と小さい……。
「あれ、ここで調べるの?」
普通、こういう場合って地下とか別の部屋とかに行くんじゃないの?
俺の当然だと思う質問に対して、二人は同時に口を開く。
「いちいち地下に行くのがめんどくさいし、他に受付の人が今日はいないもん」
「まぁ、別にいいだろ」
あ、そうですか……。
うん、アンタたちの性格がこの短時間で把握できたよ。
優しい女神が恋しい!!
どこにいったの、俺の女神!!
「ご飯を奢ってあげたぐらいしか、優しくした覚えがないんだけど。この子の妄想力たくましいなぁ」
「お前、こいつの前で絶対に髪の色を変えるなよ」
「りょうかーい」
嘆いている俺の目の前で顔を近づけてこそこそと話す二人。
くっそー!!
目の前でいちゃつきやがってー!!
やけくそで水晶に魔力を大量に…………いや、弁償はできないから、ちょっとにしよう。
少しだけ魔力を水晶に流すと、水晶は赤、緑、黒、紫に変わった。
火と風、闇は分かったけど、最後は分からなかった。
女神がくれた情報の中になかったし、きっと希少属性だよな!
やっば!
俺ってば、すげぇええ!!!
「火、風、闇、重力ね。はい、書けた。じゃ、そこそこ魔法も使えるみたいだし、ランクはCからね」
「あっれぇえええ!?それだけぇえええ!!?」
ここは希少属性に驚くところじゃないの!?
周りで飯食ってたおっさんたちみたいに驚いて固まる場面だよな!?
ギルドマスターといきなり勝負とかするんじゃないの!?
なんかこの受付嬢にさらっと流されたんだけど!
「あー……すごいな?」
そしてイケメン!
別にすごいと思ってないくせに、とりあえず言っといてやろうみたいな中途半端な優しさ見せないで!
俺、逆に虚しくなっちゃうから!!
「ランクはAぐらいからでいいんじゃないか?こいつ、それなりに魔法は使えるんだろ?」
「それなりにはねー。だけど、白銀みたいにまともに修行しないような奴だったら困るんだってー。その前に能力だけで帝になった全帝と操者はランクに見合うだけの修行をしてたのに、その後で帝になった白銀は全然じゃん?そこを反省して、急に高ランクにするのは辞めようってギルド会議で決まったんだってさ」
「ああ、そういえばこの間のギルド会議で決まっていたな」
俺のランクについて、受付嬢とイケメンが話し合ってる。
それはいい。
だけど、一つ言わせてくれ。
それなりで悪かったな!
女神に魔法の使い方を頭に直接叩き込んでもらったけど、自分の属性を知らなかったからまともに練習できていないんだよ!
いいよ、これから強くなってお前らをギャフンと言わせてやるからな!
……なーんてことを考えていたら。
「「ぎゃふん」」
さっきまで目の前で話し合っていた二人が同時にこっちを向いて言った。
「……」
「満足した?」
「……はい」
もういいよ、この世界の住人はナチュラルに人の心を読んじゃうんだよ。
そうに決まってる!
普通に心読まれても気にしないからな!!
「じゃあとりあえず、これも書いといてね」
いじけている俺のことなんて全く気にも留めない受付嬢は、あっさりと別の用紙を俺の前に置いた。
え、まだ書くの?
「これ何?」
「入学申請書。この国、18歳までは義務教育だから学園には通わないとねー」
うそーん……。
勉強からようやく解放されると思ったのに……。
いや、待って!?
「俺、金ないって!」
これは真面目にヤバいです!
な の に!!
目の前の二人はあっさりと口を開いた。
「「見りゃ分かる」」
……でっすよねー。
俺ってば、あの変態イケメンにもらったザッ○スの衣装のままだし?
それもずっと着っぱなしだし、この国に来るまで魔物とかとも戦ったからボロボロだし?
ぶっちゃけ不審者なのは自覚してんだよ!
……洗濯はしてるからな?
というか、俺の魔武器の風呂敷(ハンカチなのに!)で包んだら一気に清潔にできるから。
修復機能もついてくれたらよかったのに……。
「お金が欲しいなら、たくさん依頼をこなしてランクを上げればいいよ?依頼金も増えるし」
思わず頭を抱えて悩んでいると、明るい声で教えてくれる受付嬢。
やっぱり地道に頑張るしかないのか……。
よし、依頼を受けまくって高ランクな依頼を受けれるようにしてやる!
「まぁ、その代わり高ランクに上がるにつれて依頼数も減っていくんだけどね。ちなみに、今一番ランクの高い依頼でもSSランクぐらいです。仕事内容は、危険な高山での採取」
「それ、頑張ってランク上げる意味なくね!?」
だって、必死にランクを上げても受ける依頼がないってことだろ!?
しかも採取って!
普通は討伐じゃねぇの!?
「あのね、高ランクな討伐依頼がゴロゴロ転がってる方が異常だから。この国の上級ギルドメンバーは何やってんだよってレベルな異常だから。むしろ、そんだけ高ランクな討伐依頼がゴロゴロ転がってたら、この国の町や村の一つ二つ、とっくに滅びてるから」
なんか、すっごく呆れたって表情で受付嬢にため息つかれた。
……言われてみれば、そーですね。
討伐系の依頼なんて、そんなにない方がいいんですよねー……。
「まぁ、最近は魔物の動きも活発になってはきているんだけどねー」
「じゃあ、依頼は増える!?」
「いや。依頼に上がってくる前に帝クラスが対処しているから、あまり増えないだろうな」
受付嬢の言葉に一瞬期待したのに、あっさりその希望がイケメンによって潰された……。
やっぱり意味ねぇええええ!!!
帝クラス!!
俺のために見て見ぬふりをしてくれ!!
「あ、特待生になれば授業料は免除、学食はタダだぞ」
俺のあまりの嘆きっぷりに、若干引きながらイケメンが教えてくれた。
タダ!?マジで!?
「え、何その情報。私知らない」
あれ、受付嬢も知らなかったんだ?
何か素で驚いてる。
「俺たちに対してはあまり意味がないだろうが。免除とかは全部断っているからな」
「……まぁ、それもそうだね。料理好きだから学食も使わないし」
……いーよなー。
このイケメンだって、どうせこの受付嬢に作ってもらってたりするんだろ。
リア充滅びろ!!
「で、この子は特待生になれるほどの実力がありそう?」
「実技の方はな。お前、座学の方はどうなんだ?」
「座学……勉強……。ふふふ……全然全くダメです!」
俺は胸を張って言える。
元の世界の学校では常に下から十位以内には入ってた!
下から1位になった時なんて、担任が号泣してたくらいだ!
「「だろうと思った」」
驚くことなく、冷静に頷く二人。
いちいちハモるなよ!
「じゃあ残念だけど、頑張って授業料払うんだね。教科書とかは、先輩たちに声かけてもらっといてあげるからさ」
「普通科の制服なら、俺が前に着ていたやつをやる。少し大きいかもしれないが、新しく買うよりマシだろ」
「まぁ、それまでの間の授業料は私たちが貸しといてあげるよ。利子はつけないであげるし」
「地道に返してもらえたらいいぞ」
……この二人、協力しようとしてくれているのか?
助かる!
怖い奴らだと思ったけど、面倒見はいいんだな!
「よかったー。この子がSクラスに編入してくることになったら、さらに面倒事が増えそうだしー」
「ただでさえ喧しい馬鹿共が、何をしでかすか分かったのものじゃないからな。あ、お前は入学と同時に生徒会の雑用係として強制的に任命するからな」
「普通科からようやく生徒会が出せるね。同じギルメンだし、遠慮なく使えるよ~」
「魔力も無駄に多いし、存分に使わせてもらうからな」
……前言撤回。
こいつら、やっぱり悪魔だ!
◇◇◇◇
「……ということなので。おじいちゃん、普通科のクラスに編入お願いねー」
「うむ、分かったわい」
リーンを抱っこしたまま好々爺と聞いていた学園長のおじいちゃん。
ずいぶんあっさり頷いてくれたね。
「じーじ、ひげー!」
「わーうー」
「ほっほっほ。わしの髭が気にいったかのぅ」
「あい!」
じゃれついているしぃちゃんと、おじいちゃんのモフモフしてそうなお髭を触っているリーンを、おじいちゃんは孫を見るような目で頭を撫でている。
リーンとしぃちゃんばっかり可愛がっていたけど、本当に話聞いててくれた?
「ようは、そのヒガシノとかいう小僧をSクラス以外に編入させておいたらよいのじゃろ?安心せい。ちゃんと手続きしておくわい」
「あ、ちゃんと聞いてたんだ」
「聞くにきまっておるじゃろ。まだ夏休みなのに、急にお主がリーンを連れて学園長室に転移してきたんじゃからのぅ。一瞬、いろいろすっ飛ばして子供を作ったのかと思ったわい」
なんか、おじいちゃんにすっごく呆れた目で見られた。
微妙にショックだ。
「それで、そのヒガシノとかいう小僧はどうしたんじゃ?」
「泊まる場所がないから、カインがギルドの寮に案内してるよ。ギルドの寮で暮らすのは、学園が始まるまでの間だけど。案内が終わったら、すぐに依頼を受けてお金を貯めるみたい」
「授業料に関しては、あんまり心配せんでもよいんじゃがのぅ。この学園は、平民も多く入学しておるからな。授業料を払えない生徒のための制度もいくつかあるぞ」
「それは大丈夫だよ。私たちが肩代わりするし、あの子に請求する額も実際の1/3ぐらいにしようと思ってるから」
授業料の制度については私も調べなおしたけど、人数制限があるみたいだし。
コネでその枠に無理やり入れて、王都で勉強出来るかもしれない人たちの可能性を潰すのも嫌だしねー。
「……アイラや。ずいぶん、その小僧に肩入れしておるようじゃのぅ?」
「そう見える?」
「うむ」
へー……意外だなぁ。
まぁ、いいか。
あの子に関しては、深く考えていないし。
「ふむ……見守ろう会の副会長としては、何か考えておくべきかの」
「へ?」
「いやいや、何でもないぞ」
いったい何を見守る会なんですかね?
そんな必死に首を振っちゃうのも怪しいんですよー?
「それで、アイラや。今日来た目的はそれかのう?」
「いえいえ。今のはついでです。本題はこれからです」
「ん?なんじゃ?」
「にゅ?」
リーンにお髭をぐしゃぐしゃにされているのに、笑顔を崩さないおじいちゃんが首を傾げた。
おじいちゃんのお膝の上で、リーンとしぃちゃんも首を傾げてる。
なんかこの光景、可愛いかもしんない。
「あのね、リーンをちょっと訳あって引き取ったんだけど、私たち学園があるでしょ?寮で一緒に住んでも大丈夫かなーと思って。あと、この学園の幼等部に入れたいなーとか考えてたりするんです」
夏休みが終わるまでは一緒にいられるけど、さすがに学園が始まってからは難しいしね。
あともうちょっとで子守りをマスターできそうって言ってたクロちゃんに見ててもらうのも良いかもだけど、お友達が出来そうな環境の方がリーンにとってもいいだろうし。
クロちゃんには護衛の目的で、絶対に側についててもらうけどね。
「幼等部かの?うむ、まぁ3歳から入れるがのぅ……さすがにその歳からこの学園に入学しておる者は少ないぞ?金に余裕のある商家の子弟ぐらいじゃの」
「うん、大丈夫だと思う」
「それじゃあ、わしの方で手続きは済ませておくの。リーンや。もしも行くのが嫌になったら、いつでもわしの所に来たらいいからの」
「あい!」
……おじいちゃん、すっごくリーンを可愛がってるなぁ……。
まぁ、いざとなった時のリーンの預け先が出来ただけ、喜んだらいっか。
マスターに預けるのは、(いつオネェが出て来るか心配で)ちょっと不安だったし。
よし、さっさと帰ろー!
~とある日の見守ろう会議~
土帝「ということで、アイラの関心が他に向いてしまう可能性があったわけじゃの」
炎帝「あ、危なかったわぁ……アイラちゃん、全くそういったことに関心なさそうだから、少しでも他に目をやってしまってほしくなかったんだものー」
水帝「マスター、オカマに戻っていて気持ち悪いです。カインが頑張って真面にしようとしているんですから、気を付けてください」
炎帝「うっ……はい……」
風帝「まぁまぁ、水帝。落ち着けって。どうせ土帝が手を回したんだろー?」
土帝「うむ。まぁ簡単な学力テストをしたところ赤点どころか0点だったのもあっての、Sクラスから一番遠いEクラスで要勉強じゃな。生徒会の雑用係に任命するとカイン達が言っておるが、せめて基礎的なものを身に着けるまでは仕事量を減らすように伝えておる。まぁ、これで大丈夫じゃろ」
水帝「さすがは土帝です。では、カインが恋心を自覚したことですし、今後も二人の仲が進むことを祈りましょう」
風帝「よし、会員への伝達は俺がやっとく」
炎帝「では、今後もこっそり二人を見守ろう!」
……こうして『カインを暖かく見守ろう会』はこっそりと活動していたとか。