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逸話.世界のどこかで3

◇◇◇◇


ここはリンズバーン学園の地下。

天界で『邪神の神殿』と言われている場所。


「……わしを呼んでいたのは、ここか」


複雑に作られた神殿内部を、たった1時間で突破した闇を纏った影が、巨大な封印門を見上げて小さく呟いた。


「ふむ……なるほどのぅ。邪力が中からあふれ出しておる……。ここが、我らが捜しておった邪神の封印場所であったか……」


何百年も前から探していた邪神の封印場所。

強い封印の力でその存在を探し出すことがほぼ不可能であったが、この神殿の入り口の門が開いていたことにより、僅かな邪力を感じ取ることができた。

何故かは知らないが、影にとっては好都合だ。


「この門の封印は強力じゃな……わし一人では封印を破ることができぬ。邪神よ、今しばしその中で待っておれ」


影は扉に手を当てながらそう口を開くと、触れていた手先から邪力を体内に取り込む。

纏っていた闇が、濃く、そして禍々しさを増す。


「すばらしい……これだけの力があれば、人間どもを一掃できようて。邪神よ、お前の封印を解くための生贄として捧げよう」


封印を解くだけの魔力も血も、これだけの力を手にすることができたなら容易い。

この神殿上にある人間たちの溜まり場も、一瞬で消すことができるほどだ。

……いや、そんな短絡的に物事を進めるのは面白くない。

まずは配下の魔族たちにも邪力の恩恵を与えよう。

手始めに、魔族たちの拠点として、あの魔王を名乗るふざけた堕天使の城を乗っ取ってやる。

そして人間たちに宣戦布告をし、奴らを恐怖のどん底に突き落としてやろう。


「わしこそが、真の魔王となるのじゃ……」


怪しげな笑みを浮かべ、禍々しい闇を背負った6歳くらいの幼女は封印門に背を向けた。









◇◇◇◇

その頃、天界では、変態神がグレイプニールで縛り上げられた状態で地面に伏せていた。

背中にあった羽は、見るも無残に千切られている。

血だらけで衣類もボロボロであるが、回復力の速い肉体に傷はない。

つまり、半裸の変態である。

そしてその変態の前で、爆笑しながら写真を撮りまくっている青年。


「あっはっは!親父、ざまぁ!!んな変態なことばっかしてっから、そんな目に合うんだろうが!」

「ち……ちぃちゃん?パパを助けてあげようという、優しい気持ちは……」

「あん?親父に対して、んなのあるわけねーだろ?つーか俺、親父の罰言いに来ただけだし?」

「え、罰?」


何のこと?という様子で首を傾げる変態。

その変態を見下ろしながら、三男はニヤっと笑みを浮かべて薄い本を取り出した。


「そ、それはステータスブック!?ちょっとちぃちゃん!?それ、パパに返しなさい!」

「却下ー。つーか、親父がむしろ触るなだってさ。自分の娘の設定を好きに変えるような奴に管理は任せられない。娘に会うのも観察するのも2か月禁止って、親父の上の立場の方からのお言葉だぜ?」


上の立場の方から、という言葉に変態の顔色が青くなった。


「……ちぃちゃん、パパをからかっちゃいけないよ?愛良ちゃんのあの設定は、世界をもう一個作れるくらいの力を込めた結界を作って隠しているんだから。なのにバレるなんてこと、あっていいはずがない!」

「いやいや、何神力の無駄遣いを自慢げに語ってんだよ?」


変態の訳の分からぬ自信に、呆れ交じりのため息をつく三男。


「まぁ、俺はコレに関わってたから知ってたし、結界も消しちまったけどな。おもろそーだったから、カインの奴にも見せてやったぞ」

「カイン君に!?だからあの子、すっごく怒っていたわけ!?でも、だからって僕の愛良ちゃんコレクションを持って行っちゃう理由にはならないよ!!僕の愛良ちゃんがぁああ!!」

「いや、今回のは違う理由だろ」


何やら血の涙を流しながら号泣している変態。

なんでこいつが俺らの父親なんだろうかと、最近ガチで悩んでる三男である。


「とりあえず、親父がステータスブックを管理すんの禁止な。これの管理は上が直接するってさ。ついでに言うと、昔親父らが付け加えた愛良のステータスは全部無効にするんだと。あ、俺のは特に害がなさそうだからオッケーだとよ」


爽やかな笑みを浮かべて口を開く息子に、顔色をどんどん土色に変色していく父親。


「それって……」

「カインの執念がすげぇってことだけ言っとくなー」


三男も、まさか妹と両想いになりたいがために世界神をここまで追い込むとは思わなかった。

しかも、キレた時は共有している愛良よりも強い。

人間の底力ってすごいとしか言いようがない。

もう人間じゃないけど。


「よし、じゃあ俺は下界に帰るわ。あ、そうそう。愛良を覗こうとしたりするだけで、親父がまだ隠し持ってる愛良コレクションを消していくってさー」

「いやだぁああ!!愛良ちゃん愛良ちゃん愛良ちゃぁあああん!!愛良ちゃんに会ーいーたーい――!!」


子どものように縛られたままごろごろ転がる変態。

タダでさえボロボロの服がどんどん剥がれ落ちていっている。


「あっはっは。……あんまし煩せぇと大にぃと中にぃ連れてくんぞ?」

「ひっ……ごめんなさい」


この変態、自分の息子である鬼畜と腹黒が恐怖の対象であったりする。

なので、変態を黙らせたい時はこれに限る。


「それじゃあなー親父。いい加減子離れしろよー?」

「無理ぃいいい!!愛良ちゃんもちぃちゃんもパパ離れしないでぇええええ!!」

「……え゛?俺も子離れできない対象だったのかよ。マジ勘弁。つーか無理」


割と本気な三男は、すごく嫌そうな顔をして部屋から消えた。

というか逃げた。

妹だけだと思っていた執着の対象が、まさか自分にまで及んでいるなんて思っていもいなかったから。

今度から兄二人のように、父に対しては厳しめに接しようと心に決めた三男であった。









◇◇◇◇


「た、ただいまー……」


世界神からの長いお使いを途中で切り上げた熾天使セラフィムは、自分の仕事部屋をそっと覗き込んだ。

誰もいない。

机の上に書類が溜まっているだけだ。


「よかった……」


何しろ3か月も仕事を放置していたのだ。

これがバレたら怒られるのは確実だ。


「すぐに終わらせたら、怒られなくてすみますよね……?」

「いえ、怒りますが」

「ひっ!?」


独り言だと思っていた呟きに、現れた背後に般若を背負ったミカエルがにっこり笑って答えた。

先ほどまで誰もいなかったはずなのに。


「セラフィム様、お帰りなさいませ。ただの邪神様の神殿までのお使いに3か月もかかるとは、どういうことでしょう?」

「あ、あの……ちょっと、道に迷って……遭難を……」


綺麗なはずの笑みを浮かべたまま静かに歩み寄ってくるミカエルに、セラフィムは泣く寸前だ。


「………はぁ」


涙目でプルプル震えているセラフィムに、ミカエルはため息をついた。


「セラフィム様ですから、3か月も道に迷って遭難するのは仕方がありません。ですが、セラフィム様?邪神様の神殿扉の門、ちゃんと閉めて帰ってきましたか?」

「あっ!?時神様に拉致られたから、閉めてないです!すぐに閉めてきます!」


封印門でないにしても、神殿入口の門を開けっ放しというのはマズい。

邪神の存在を感じ取れるものがいるかもしれない。

中に天界の者がいればその存在を打ち消すことが可能だが、今は誰もいないはず。

すぐに行って閉めて帰れば間に合うはず!


「もう手遅れです。すでに魔族の中心的人物が神殿内に侵入し、邪力を手に入れたようです」

「うえぇっ!?ごめんなさい!」

「私に謝られても困ります」


どこまでも冷静な部下ミカエルと、どこまでも残念な最高位の天使セラフィム。

変態神までいるミカエルの苦労は計り知れないだろう。


「お嬢様へのご説明は、ご自分でなさってくださいね」

「……はい……」









◇◇◇◇


その頃、魔族たちのもとへ戻った幼女は、部下を引き連れて堕天使の城へ攻め入っていた。

新しく手に入れた邪力で、城に張られていた強力な結界を消し去る。


「あれほど苦労させられた結界が、こうも簡単に消し去ってしまえるとはのぅ」


邪力で次々と城も攻略し、あっという間に玉座の間へとたどり着けてしまった。

少し手に入れただけの邪力で。

邪神の封印を解き、さらに多くの邪力を手に入れることができれば、これ以上の力を手に入れられよう。

その力さえ手に入れてしまえば、人間どもを一人残らず滅ぼすことだって可能だ。

数だけ多い人間だが、一人ひとりの力など恐れるに足らず。

全てを滅ぼしてやる。

そう遠くない未来を描いた幼女は、玉座の間へと続く扉の前で口端を上げた。

まずは手始めに、魔王を名乗る堕天使を滅ぼしてやろう。


バンッ!!


びよよーん!!


「ふみゃああ!!?」


勢いよくドアを開けた幼女は、部屋の中から飛び出てきた物を見て腰を抜かした。


「な、なんじゃこれは!?」


ドアを開けた瞬間出てきたのは、赤い髪に真っ白な顔。

口は笑みを浮かべているように真っ赤に描かれている、いわゆるピエロの顔である。

そのピエロの首から下にはバネがついていて、扉を開けた瞬間に飛び出てきたのだ。

びっくり箱ならぬ、びっくり部屋である。


「……ぬ?」


半泣きになりながら恐る恐る部屋に入った幼女は、いまだにバネでビヨンビヨン動いているピエロの頭に紙がはってあるのに気が付いた。

何か書いてある。


「なんなのじゃ?」


不気味なピエロに近づいて取ろうと思った幼女だが。


「……にゅ?……む?……ほっ!」


取れそうなところでバネで動いているピエロの頭に翻弄されて取れない幼女。


「うー……取れないのじゃ!」


どこまでも翻弄されている幼女が、ついに涙目で地団駄を踏んだ。

それを後ろで眺めている部下たちの表情が、できの悪い子ほど可愛いと言わんばかりにほっこりしている。


「……取ってくれなのじゃ」


上目遣いの涙目でお願いしてくる幼女の願いが叶えられたのは、当然のことである。


「なになに……『はーい!リディたんの大好きま魔王さんだよー!リディたんは相変わらずかわゆいねー!いっそ魔王さんの養女になる!?いつでも大歓迎だよー!』……嫌なのじゃ!」


鳥肌を立てながら首をふる幼女。

誰だって、ロリコンの養女にはなりたくはない。


「『そんな全力で拒否しなくてもいいのにー』……なぜ手紙如きに儂の行動が読まれているのじゃ!?」


それは幼女が単純なだけかと思う。

……と、部下の面々は思っているのだが、手紙にツッコミを入れながら声を出して読んでいる幼女が可愛いので黙っている。


「『まあまぁ。そんなにツッコミばっかしていると、疲れちゃうぞ☆』このやり取りが余計に疲れるわ!……『はいはい、分かった分かった。魔王さんは優しいから要件だけ伝えるぞー』最初からそうしろ!」


この幼女、ツッコまないと読めないのだろうか。

そしてロリコン魔王はどこまでこの行動を読んでいたのだろうか。


「えーと……『リディたん、もうすぐ誕生日だよねー』……なぜ知っているのじゃ!?」


それはロリコンだからとしか言いようがない。


「『なぜリディたんの誕生日を知っているのかは秘密だ!驚いているリディたんも、またかわゆす!』……どこかで見ているのじゃ!絶対に見ているのじゃ!!」


悪寒を感じながら部屋中見回す幼女。

しかし、人の姿を見るたびに抱きついて来ようとするロリコンは姿を見せない。


「『魔王さんが近くにいると思ったリディたん、残念!魔王さんはもうこの大陸にはいないよー!』……よかったのじゃ」


ロリコンの手紙を頭から信じている様子の幼女。

そんなんで真の魔王になれるのだろうか。


「『悲しまないで、リディたん!リディたんが悲しまないように、魔王さんから誕生日プレゼントをあげるから!プレゼントは……』……?」


何故かそこで途切れている手紙。


「プレゼントは何なのじゃ?」


首を傾げた幼女は目の前にあった、いまだにバネで跳ねているピエロを見上げた。

それと同時に、ビョンビョン跳ねていたピエロの顔が幼女の顔面で急停止。


「ひっ……!?」


思わず涙目で固まった幼女の目の前で、ピエロの口が開いた。



『プレゼントは……魔王さんの、L・O・V・Eだよ』



「いらないのじゃぁああああ!!!」


確かに、ロリコンの愛など誰もいらない。

おどろおどろしい不気味な声と台詞に泣き叫びながら、邪力を纏った拳でピエロの顔面を殴りかかった幼女。

しかし、それより早くピエロの顔が風船のように膨らみ、破裂。


「みゃぁあああ!?」


まさか破裂するとは思わなかった幼女は、破裂音に驚いて尻もちをついた。

そんな幼女の目の前に、破裂したピエロの顔から出てきた紙が落ちる。

まだ何かあるのかと、ビビりながら紙を拾い上げた幼女。


「『なーんてのは、リディたんにはちょっと早いからオアズケね!』……一生いらないのじゃ!びっくりしたのじゃ!!」


涙目のまま床をバンバン叩く幼女、完全に八つ当たりである。


「『本当の誕生日プレゼントは、この魔王さんのお城だよー』……なんじゃと!?」


魔王にからかわれまくっていた幼女だが、当初の目的は忘れていない。

この城を手に入れるために来たのだ。


「『ホントホント。魔王さん、嘘つかない。魔王さんはこれから楽しい使い魔ライフを堪能するのだ!あ、リディたんが人間に喧嘩売るなら相手するかも。そん時は、いーっぱい……ア・ソ・ボ・ウ・ネ?』……ひぃっ!?」


手紙を通して嫌な予感を嗅ぎ取った幼女。

その危機察知能力、間違っていないだろう。


「『じゃあ、リディたん!また会える日を楽しみにしているよ!』……儂は二度と会いとうないわ!……『お城の管理、ちゃんとするんだよ!あ……あと、花壇の水やり、忘れないようにね!お花を枯らしちゃだめだぞー』……む、花壇の水やりをせねばならんのじゃ。城の城主として当然じゃな!では、行ってくるのじゃ!」


基本、この幼女は素直なようだ。

何のツッコミもなく花壇の水やりにパタパタと音を立てて走って行ってしまった。

あれほど魔王にツッコんでいたのは誰だというほど、あっさりと。

そんな幼女を見て、部下たちは自分たちの力で幼女を立派な真の魔王、大魔王にしようと心に決めたそうな。

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