121.司会者登場!もちろんあの人です!
視点がコス王→愛良→カインと変わります
◇◇◇◇
『今大会の優勝は薔薇組代表カイン・コスペアに決定!準優勝は百合組代表アイラ・ラピスペアだぞ!』
いつの間に設置してたの、こんなステージ!
なーんて思わず突っ込みたくなる壇上に立たされている俺様達。
目の前の観客席で、目が覚めたリーンを背負ったカインの妹が静かに写真を撮りまくっているが、気にしない。
気にしたら負けだ。
腐女子の餌食になって、俺様なってない。
『準優勝のアイラ・ラピスペアには新鮮な魚介類1年分プレゼントだ!普通は食べきる前に腐らせちまうが、魔法が使えるこのペアには何の問題もないだろ!!新鮮さを逃がさないために、イベントが終わった後で渡すな!』
「よし!新鮮な食材ゲット!!ボックスが使えてよかった!!魔法って素晴らしい!」
「今度お邪魔しますから、ごちそうして下さいね」
「うん!お刺身もいいけど、バーベキューとかいいね!わー、楽しみー!」
ガッツポーズをしながら浮かれきってるお嬢。
お嬢たちが優勝しないって宣言していたのは、これの為だったわけね……。
いや、食材のためだけに俺達含む他の選手たちを蹴散らすとか恐怖のどん底に突き落とすとか、すばらしい主婦根性だと思います。
とりあえずバーベキュー楽しみだな!
魚とか貝ばっかじゃなくて、肉も焼いてくれよ!
『さて、優勝のカイン・コスペアには、ある日突然天から降ってきた謎の魔本をプレゼントだ!どんな奴でも強くなれる素晴らしい本!まぁ、お前らに必要か!?って代物だけどな!』
……ん?テンション高い司会の声が、生でも聞こえるな。
まさかの、司会からの手渡しか!?
いったい今まで姿を見せなかった司会、どんな奴、なんだ……って、え?
ステージに上がってくる、あの、長男と次男にそっくりな姿は……。
「ちーす!司会でーす!」
「ぴぎゃぁああああ!!三男んんん!!?」
爽やかな笑顔で片手をあげる三男に、絶叫をあげる俺様。
だって、仕方がないんだ……。
こいつの楽しさ重視の破天荒さに振り回されまくった悪夢が蘇るぅううう!
いやぁああ!!誰か夢だと言ってくれぇええ!!
「あ、ちぃ兄ちゃん。司会お疲れさまー」
「やっぱり愛良の兄貴だったか……」
2人は気づいていたんかい!
教えろよ!!俺様に!!
こいつ、微妙に声を高めにしていたから気づかなかったじゃねぇか!!
「はっはっは。てめぇはいっぺん黙れや?……な?」
「……うぃーす」
三男に一瞬で背後に回られて、足カックンされた……。
いや、殴られるより良いんだけど、何もこんな大勢の前でやらなくてもよくない?
やっぱり苛めっ子気質満々じゃん!
「ほれ、とりあえずこれが景品なー。お疲れー」
そう言って三男がカインに手渡したのは、薄っぺらい雑誌。
あれ、この世界の住人全部のステータスブックって本じゃないの?
俺様見たことないけど、薄すぎだろ!
『まぁ細かい事は気にするな!それではザ☆ベストカップル対決は終了だ!世のカップルども!やおいに負けた事を後悔して別れちまえっ!!はっはっは!あ、ドベの二人はちゃんとステージ上でディープキス晒して帰れよー』
なぜそこはマイクで、なおかつ決め顔で言うわけ?
まぁ三男は昔からこういうイベントでカップルを破局に追い込むの大好きな奴だけど!
だけど、あんな難しい年頃の男子2人を晒しものにするなんて、鬼かお前は!
「「いやだぁああああ!!」」
うん、嫌だよな。けど安心しろ?
野郎同士のなんて、みんな見たくなくてさっさと解散してるから。
三男は知らないけど。
やれって言ったからにはやらすだろうけど、どうなるかは分からん。
いや、楽しい事大好きな三男の思考回路は分からんから、考えるだけ無駄だ。
何百年前かも、暇だから楽しい事しろって冥界に押しかけて来たんだよなぁ……。
あの時は何十年、冥界に居座っていたかなぁ……。
「コス王ー?何黄昏てんのー?早くステージから降りておいでー」
ステージ下で魚介類1年分もらっているお嬢が、すんごい機嫌の良いキラキラ笑顔で俺様を呼んでいる。
あーゆー時は、マジで天使!
「おら邪魔だ。早く来ねぇと、また冥界に遊びに行ってトラップしかけんぞー?」
何で天使に呼ばれた直後に、悪魔に脅されなきゃいけないわけ!?
しかもトラップ!?それだけは止めてっ!?
昔みたいに寝室に戻るだけで魔力も神力も体力も使い果たすことになるのは嫌だ!
俺様が逃げ降りたのと同時に、強制転移でステージ上に連れて来られたグレイとルート。
『ほれ、さっさとやれよ~』
煽るな。可哀そうだから、マジでそれ以上煽ってやるな。
そして一部残っている観客。カメラを構えてやるな!
2人がマジでやったのかは知らん。
だって、お嬢の興味は魚介類だったんだもん!!
基本お嬢の側を離れたがらないカインが主なんだから、俺様見てねぇし!
ただ、気持ち悪い悲鳴が聞こえて来たとだけ言っておこう!
◇◇◇◇
ステージを降りた裏で、山盛りになった魚介類を片っ端からボックスに放り込む。
「お魚さんと貝さん、たくさんゲットー♪」
嬉しいな~。
しかも入れた時のそのままの状態で保存できるボックスがあるから、半年後でもお刺身も可能だよ!
賞味期限も消費期限も必要ない!
なんて素晴らしい魔法!
「ラピスは本当に半分いらないの?」
「ええ。自分で料理もできませんし、実家では嫌というほど魚介類は出てきますから。でも、遊びに行った時は御馳走して下さいね」
「オッケー!」
一年分まんまゲットできちゃいました!
もうしばらくお魚屋さんに行かなくて済みそう!
ラピスさまさまです!
「愛良。とりあえずはリーン達を迎えにい……」
「おい待て待て。その前にちょーいと面貸せや」
あ、カインがちぃ兄ちゃんに頭鷲掴みされて捕まった。
まぁでもちぃ兄ちゃんだし、上2人みたいなことはされないから大丈夫でしょう。
「愛良ー。お前もこっち来いなー」
「はーい。ラピス、この人私のお兄ちゃんなの。んで、久々に会ってお話したいみたいだから、先にルナとリーンの所に戻っててくれる?私たちもすぐ戻るから」
「あら、道理で色々なところが似ていると思いました。分かりました」
一番性格に似ている部分が多いのがちぃ兄ちゃんです。
てなわけで、殆どの人に納得されるんだよね。
「では二人とも。先に戻っていますね。燃え尽きたであろうグレイとルートの様子も見に行きたいですし」
ふふふって笑いながらステージ裏から離れていくラピス。
……うん。あの子たちがどうなったのかは気にしたくないから、別にいいや。
私、知らない。
「で、ちぃ兄ちゃん。何の用ー?早くリーンとしぃちゃんを迎えに行きたいんだけどなぁ」
「あん?これの使い方教えてやろうという、優しい兄ちゃんの心を察しろ、妹」
私の頭をグリグリと乱暴に撫でながら、カインが持っているステータスブックを指さすちぃ兄ちゃん。
やーめーてー。せっかくまとめているのに、髪の毛がぐしゃぐしゃになるー。
「お前、上二人と違って妹でも態度変わんないのな……」
「んあ?大にぃとか中にぃみたいに、変えてほしいのか?物好きだな」
「やめてください」
微妙な表情になってジト目になっているコス王の肩に、カインの頭を鷲掴みにしている方とは逆の腕を回してニヤっと笑うちぃ兄ちゃんが、獲物を見つけた狩人の目になってます。
ちぃ兄ちゃん、コス王のこと気に入ってるんだねー。昔何かあった?
……別にいいか。早くリーンたちの所に戻りたいし。
「ちぃ兄ちゃん、早く教えてー。ついでにカインを放してあげて―」
もう上二人に色々やられたから、条件反射で頭鷲掴みされたまま硬直しちゃってます。
身動きを少しでもとったらやられると言わんばかりに動かないです。
なのに、目線だけで助けを求めてくるという器用なことを披露してるんですよー。
「んー?お、わりぃわりぃ。そういや掴んだままだったな」
軽く謝ったお兄ちゃん、カインの頭をぽんぽんと軽く叩いて放してくれました。
そんなあっさりと解放された様子に、呆気にとられるカイン。
残念でした。ちぃ兄ちゃんは楽しい事にしか手は出さないから、そんなに苛められないって。
「このステータスブックはな、この本を開きながらステータスを見たい奴の名前を言うんだ。そしたら出てくるぜ。試で見たい奴の名前、フルネームで言ってみ?」
カインが持っていたステータスブックを指先でトントンと叩きながら教えてくれるちぃ兄ちゃん。
……見たい奴?あ、いた!
「ルナ・ダーク!」
やっぱ気になるのは突然腐女子と化していた腐ルナですよね。
あ、ルナのデータが出てきた出てきた。名前とか個人情報いっぱい。
けどそこらへんはいいの。
問題は、追加設定のところ。
それを見た瞬間、思わず思考が停止しちゃいました。
そこには手書き感満載の字で、こう書かれていました。
『お兄ちゃん大好き腐女子!』と……。
「「……は?」」
◇◇◇◇
「『お兄ちゃん大好き腐女子!』?」
なんだ、これは?
もしや、これがルナの変貌に関係しているのか?
「ああ、それ?書いたの俺。見事にあのスク水少女、腐女子になったろ?」
「お前が原因か!!」
いきなり襲い掛かってきたりしないから、愛良の兄貴たちの中で一番マトモかもしれないって思った俺が馬鹿だった!
余計にタチが悪い!
「はっはっは!いや何、中にぃから『愛良がカイン君とカップルとして大会に出ないようにしなさい』って指示が来てさぁ。どーしよっかなーって思ってた所にお前らの友達が来ただろ?性格すら変えることができる実証にもなるし、これは使えると思ってなー」
「あー……だから突然ルナが大暴走したんだね。そして組み合わせにまで腐女子要素を取り入れたわけかー」
愛良、頼むからそこで納得するな。
その被害者、俺の妹だから!
「やっぱりあの腹黒がカップル向けのイベントに出るように促したことに対して、もっと疑問を持つべきだった……」
というか三男がこのイベントの関係者なら、ステータスブックも回収できたんじゃないのか!?
俺たちがこんな恥をかくこともなかったんじゃないのか!?
「あん?無理無理。これ拾ったのって俺じゃなくて俺の現世の父親である大公だ。まぁ、これの意味は分かってなかったがな。ついでに言うと、今回のイベントって国主催だぞ?だから第3公子である俺が関わっていたわけだし。何より、普通に俺が回収したんじゃ、つまんねーだろうが」
最後のが本音だよな?
本音にしか聞こえない!
「当たり前だろー」
そして普通に心を読むな!
プライバシーの侵害はやめてくれ!
「嫌だしー。心を読むなんて、神様の基本だろうが。何より楽しい」
「カインも読んじゃえばいいんだよ」
「三男はこういう奴だから、諦めたほうがいいぞ」
なんなんだこの開き直っている兄妹らと、諦めている奴は。
「そんなことより、ちぃ兄ちゃん。聞きたいんだけど、ルナって元に戻れるの?」
それは確かに気になる。
ルナがあのままだと、俺はさらに鬱になるぞ!
「書いた所を消せば戻んぞ」
「今すぐ消してやる!」
創造を使って消しゴムを作って、すぐさま取り掛かる。
鉛筆で書かれていてよかった!
「綺麗に消えたねー……」
真っ新になった追加事項欄を見て、呆れたように笑う愛良。
消しゴム一つ消費する勢いで消したからな。
これでルナは元通りのはず!
「お前、たかが文字を消すために必死になりすぎだろ……」
「俺はおもろいから別にいいぞー」
「お前らは少し黙れ」
コス王と三男は、本気で少し黙っていてくれ。
腐女子な妹は恐怖の対象なんだ。可愛い妹を取り戻すために、必死に消して何が悪い!
「第一、ルナが腐っているのとか愛良だって嫌だろ」
常日頃からルナのことを癒しと呼んでいるんだから。
俺がそういう意味を込めて聞けば、愛良は考えるように頬に手を当てた後、首を傾げてニッコリ笑った。
「まぁ確かに嫌。けど人の趣味に口出しするのもどうかと思って」
「ルナの趣味じゃないから!こいつのせいだから!」
「元の元凶は中にぃだかんなー?」
「いやいや。お前が一番楽しんでたじゃん」
さすがだ、コス王。
俺も同じことを思ったぞ。
「あ?おいハゲ。そんなに俺と遊んでほしいんか?」
「すんませんでしたー!」
「ハナっから黙ってりゃいいんだよ」
コス王……お前、土下座するのに慣れていると前から思っていたが、原因こいつじゃないのか?
ルナ「……?」
ラピ「ルナ、どうかしましたか?」
ルナ「……ぼく、寝てた…?」
ラピ「いいえ?起きていましたよ?」
ルナ「??……覚えて、ない」
ラピ「変な行動をとっていましたが、寝ぼけていたんですか?」
ルナ「そう、かな……?海、楽しみで……夜、寝れなかった……から」
ラピ「そうですか。ではしっかり夜は休むようにしてくださいね。できれば腐ルナはもう見たくないので」真剣
ルナ「腐ルナ……?」首傾げ
ラピ「いえ、なんでもありません。忘れてください」
ルナ「?分かっ、た……」
……こうして、カインの悪夢は終わったのであった(笑)