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117.下克上鮫は正直です

ちょいと視点がころころ変わります。

ご注意をー。


カイン→コス王→カインです

◇◇◇◇


ようやく大人しくなったルナが、リーンとシリウスを連れて観客席に戻ったのを確認したのとほぼ同時に、あの喧しい司会の声が響いた。


『全員生きているかー!?途中で人に轢かれたりしていたが、なんとか全員ゴールできたようだな!』


愛良に轢かれた奴らは、すごい目で愛良たちを睨んでいるがな。

もうほぼ全員の敵意が集中している気がするほど。

というか、こんなに敵意を集めて愛良とラピスは大丈夫なのか?


「きゃー。ラピスー、みんなが私を見てるー」

「あら、アイラ。負け犬の行動なんて、気にするだけ無駄ですよ?」

「あ、そっか!」


棒読みの愛良と、周りを挑発しにかかるラピス。

いやいや、お前らに対する周囲の目がすごいことになっているぞ。

まぁ、あの二人に集中しているから、俺たちは最初ほど周囲の視線を感じなくて済むが。

……ん?

さっきの愛良の棒読みと言い、もしかして俺たちのためだったりするのか?

そう思いついたのと同時に、少し離れたところに立っていた愛良がこちらに視線をなげながらニヤっと笑みを浮かべた。


(ピンポンピンポン大正解ー。二人とも、こんだけ私たちが周囲の人たちを引きつけてるんだから、優勝逃したりしたら夏休みの間ご飯もおやつも抜きね。二人で寂しく外食してくださいな。私たちは優勝する気ないし、周りを潰すのに専念するからー)


……だから急に心を読むなって。

いや、それよりも夏休みの間ご飯抜きってキツ過ぎる。

まだ一か月弱あるんだぞ?

金には困っていないにしても、愛良に毎日食事を作ってもらっている生活に慣れている中で毎日外食というのは、辛すぎる。

それになにより、リーンに甘すぎる愛良のことだ!

リーンの食生活が崩れるに決まっている!


「絶対に優勝する!」

「俺様も本気出す!お嬢のご飯食べれなくなるとかありえない!ご飯は百歩譲っても、プリンは諦めきれない!!」

「愛良だけだとリーンが絶対野菜を食べない!コス王、全力で行くぞ!」

「おう!」


ただでさえ栄養が不足しているリーンのためにも、全力で優勝してやる!


『では、次の競技に移るぞ!ここは海!今からペアの片方を、ここから見える小島に送る!残った方はどんな手段を使ってでも相方を迎えに行って、真ん中あたりに浮いているあの船にたどり着け!小島に送られた方は、好きに妨害してもいいが、自分で船上に行くのは失格だぞ!』


司会者がそう言うなり、俺の隣からコス王がいなくなった。

周囲ではほとんど女が送られたんだな。

愛良たちはと見れば、ラピスだけが残っている。

運営側には、これだけの人数を一斉に強制転移ができる奴らがいるようだ。

……愛良やコス王のことも強制転移できるということは、相当な実力者がいるということか。


「ラピス、愛良が向こうに送られたのか?」

「ええ、そのようですね。まぁ、次は海ですから、私でも問題ありませんね。カイン。せいぜい優勝できるように頑張りなさいな。他の者たちは私たちが問題なく押さえておきますから。ふふふ……」

「……そうですか」


海を見据えながら、口端を上げるラピス。

背筋がぞくっと来た……。

思わず腕をさすっていると、海面にいくつもの影がみえることに気づいた。

怪訝に思いながら海面を睨んでいると、響いてくる司会者の呑気な声。


『お、言い忘れてたけど、この海にはイベント用にサメとか放しているから死なないように気をつけろよー!』


……はぁっ!?

俺たちは魔法が使えるからいいが、魔法がつかない奴らだっているだろっ!?

運営は何を考えているんだ!?


「サメって……」

「でも、迎えに行かないと……」


ほら見ろ!!

周りの残っている男たちも戸惑っているだろうが!!


『はっはっは!!好きに騒げ!!それじゃあスタート!逝っちまえ!!』


なんかこの司会者、周りを気にしないとことか愛良に似ていないか!?





◇◇◇◇

ん?

気が付けば、隣にいたはずのカインの姿がなく、恐らく先ほど言っていた小島に立っていた。

俺様が、たかが人間ごときに強制転移をさせられたのか?

というか、さっきの強制転移の魔力に身に覚えがあんだけど……だれだっけ?

もう何万年も生きていると、昔の記憶とかも忘却の彼方だしなぁ……。

首をひねりながら考えていると、てくてくと近づいてくる足音が一つ。

もちろん不可抗力にも薔薇組と称されている俺たちに近づいて来るのは、お嬢だけ。


「あー……コス王が、転移させられたんだねー」

「え、お嬢。なんでそんなに憐れんだ表情してるの?」

「周り、見てみたらー?」

「へ?」


周りって……女ばっかですねー。

……ん?

つまり……俺様が彼女役ってこと!?

なんてこったい!


「受けの人らしいし、ぴったり!」

「うぎゃあ!?お嬢までなんてこと言うんだ!?というか、お嬢の方こそ、なんで転移させられて……いぎゃっ!?」


俺様の言葉を遮って、顔の横すれすれに拳を突き出すお嬢。

だって仕方ないだろ!?

さっきの二人三脚だって、お嬢は無駄に男らしかったんだし!

というか、俺の背後にあった木が殴り倒されましたけど!?

他の女どもが唖然としているぞ!?

女の子はこんな乱暴なことはしちゃいけないんだぞ!


「コス王……お口は災いの元って知ってる?」


お、お嬢の顔が穏やかとしか言えないほど優しく微笑んでいる……。

逆に恐怖だって!


「し、知らないでっす!」

「じゃあ今から頭に叩き込んだら問題ないよね」


ニコッと笑ったお嬢はその場にしゃがいこむと、なぜか俺の足を掴んだ。

……はい、おにーさんすっごく嫌な予感がしてきましたー。


「……へ?お、お嬢?何する気……?」

「言ったでしょ?君たちが優勝するのを手伝ってあげるって」

「それが、何故俺様の足を掴む理由になるの!?」

「こーするからだよ♪」

「へっ?……ぎゃぁああああ!!!」

「あははは!!」


お嬢が俺様の足を掴んだまま、自分を軸にして回りだした!

しかも、すげぇ勢いで。

回されている俺様の風圧だけで、女どもが吹き飛んでいるような気がする……。

うっぷ……吐きそ……。


「飛んで飛んで飛んで飛んで~♪回って回って回って~♪」


どっかで聞いたことがあるCMソングを歌いながら回ってるお嬢は、あっさりと俺様の足から手を放した。

さっきまでの遠心力で勢いよく飛ばされる俺様。

そして……。


「落ちぃいいるぅううううう!!?」


顔面から停泊していたゴールの船の真横の海に落ちましたとさ。

お嬢……落とすならいっそ船に落としといてよ!






◇◇◇◇

「あら……今船に向かって飛んで行ったのって、カインの使い魔じゃないですか?海に落ちたみたいですけど」


ラピスに言われるまでもなく、確認出来はしたんだが。

あれって、確実に愛良の仕業だよな?

まぁ、あっち側は自分で船に近づくのはダメみたいだから、ルール的には問題ないのかもしれないが。


「カイン、早く迎えに行ってはどうです?今回のルールは『相手を迎えに行って、相手と一緒に船に行く』ですから」

「ああ、そういう意味か」


だから愛良はわざわざ船の真横にコス王を落としたんだな。

船の周囲にはサメの背びれが見えるが、コス王なら問題ない。

変態でも一応神の名を持っているんだ。

生き物の本能で逆らえるはずが……。


「いぎゃぁああ!!サメに食われちゃうぅううう!!」

「………何でだ!?」

「サメなんですから、人を襲うのは当然じゃないですか?」


コス王が神であることを知らないラピスが不思議そうに首を傾げているが、今はそれどころじゃない!

すぐにコス王の上に飛んで、噛みついてきているサメを引きはがしてやる!

宙に浮かんだまま、魔力を高めてコス王の回りで泳いでいるサメたちに狙いを定める……が!


『あ、言い忘れてたけど。このイベントに参加しているサメは絶滅危惧種の“ゲコクジョウザメ”だから、殺しちゃダメだぞー』


本気でどうでもよさそうな司会者の声に、思わず高めていた魔力が霧散した。

……何だそれは!?


「下剋上鮫!?そんなサメ、初めて聞いたぞ!?というか、絶滅危惧種ならこんなイベントに使うなよ!」


思わず司会者がいるであろう会場に向かって突っ込むが、全くの返答なし。

あの司会者、やる気あるのか!?


「カイン、あなたの相方、助けないんですか?」


水属性の持っているラピスは、悠々と歩きながら聞いてきた。

サメが泳いでいる海面を、堂々と。


「いや、助けるけど……。なんでラピスは無事なんだ?」


海面を歩いているなら、普通は鮫の餌食になるだろ。

なんでラピスの歩く道を開けるように、サメが避けてんだよ。

おかしいだろ。


『よし!説明しておこう!ゲコクジョウザメは本能的に勝てないと察した相手には一切手を出さない!ちなみに、人間に手を出さないのを見たのは初めてだ!』


……つまり、コス王は人間じゃないが下剋上できる相手だと思われて、ラピスは人間だが下剋上できないと思ったわけか。

……その通りだな。


「カインさん、助けてぇええええ!!」

「あ」


しまった……うっかり忘れてた。

いや、それよりも……。


「……お前、何でわざわざ噛まれているんだ?」


襲ってくるかどうかはともかく、コス王の力なり身体能力なりでどうとでもなるはずだよな?

こいつだって、神族なんだろ?

愛良や俺ほどではないにしても、頑丈な肉体は持っているだろうが。


「……あ」


しばらく噛まれたまま茫然としていたコス王は、水面に立ち上がって俺の隣に浮いた。

もちろん、サメに噛まれた痕など存在しない。


「いや、最近やられてばっかだったけど、よく考えたら俺様って強いの忘れていた。うん、絶滅危惧種だろうが何だろうが、普通のサメに俺様がやられるわけないよな」

「……お前もうっかり忘れていたのか」

「……主従そろってうっかり者なんて、お似合いですね」


何故そんなに微笑ましげに見ているんだ、ラピス。

わざとなのか?

わざとなんだな!?


「……なぁ、カイン。もうさっさと船に行こうぜ。俺様、いたたまれない……」

「同感だ……」

「そうしてください。あなたたちがここでグズグズしている間に、愛良は独りで船を使っている参加者たちを押さえているんですから。あんまりゆっくりしていると、怒られますよ?」


小島の方をみれば、愛良が参加者たちを海に落とさないように気を付けつつも、船ごと魔力で浮かしているのが見えた。

そして、無駄に笑顔のままじっとこっちを見ているような気がする。


「「………」」


怒られる。

いや、愛良の場合怒られるだけじゃすまない。

俺は無言のまま、同じく無言のまま恐怖に青ざめていたコス王の肩を掴んで船に避難。


『おおっと!!?カイン・コスペア、面白味も何もない勝利の仕方だ!!アイラ・ラピスペアみたいに、もっと笑いを提供しろ!!』

「笑いを提供するのに命を懸ける馬鹿がいるか!」



愛良の方は……ラピスが迎えに行っている。

というか、すごいな。

下剋上鮫がラピスの通り道を作っているぞ。

逆に恐怖だ。

みろ、小島の女たちが青ざめて木にしがみついているぞ。

あ、ルートも女たちに交じっていた。

全然気づかなかったな。

ん?ということはグレイはこちら側だったのか?

あいつ、いたのか?

……まぁ、別にいいか。



言うまでもないが、2位は愛良たちだったぞ。

ラピス「愛良、迎えに来ましたよ」

愛良「はーい!ラピス、行こー!」

ラピ「ええ。あ、もう船の人たちも解放して大丈夫ですよ」

愛良「うん!おにーさんたちもせっかくお迎えに来たのに邪魔してごめんねー」

ラピ「あら。せっかく船を開放したのに、相方を迎えに行かないんですか?」

ルート「いやいや、待って!?ねえ、今この島の回りに鮫が集まっているんだよ!?こんな状況で船から降りて迎えにいけとか酷だよ!」

ラピ「あら……意気地がないんですね」

愛良「おにーさんたちの彼女さんに対する想いって、その程度なんだー」

ルー「また挑発しにかかってる!?これ以上敵を作るのやめようよ!僕まで被害が来ちゃうよ!」

ラピ「愛良、我が身を優先して恋人を迎えに行けない腰抜けたちと、意気地なしな彼氏を持ってしまった哀れな女性たちは置いておいて、さっさと私たちもゴールしてしまいましょうか」

愛良「賛成ー!目指せ2位!可哀想なおねえさんたち、彼氏さんが迎えに来てくれるように祈っておくね!」

ルー「……ねえ!このみなさんの敵意を集めまくった中で置いてかれるの!?針の筵だよねこれ!?……グレイー!さっさと来てよ馬鹿ー!!」

ラピ「あ、グレイは火属性で水は苦手なので、たぶん来れないですよ」

愛良「ルートくん、ファイト!」

ルー「……散々煽りまくった人が言う!?それ言っちゃう!?」

愛良&ラピ「「言います」」超笑顔

ルー「……」号泣



……なんで自分が書くと、女性陣はえげつない性格になるんだろうか。

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