111.見れないなら 作ってしまえ ホトトギス
お久しぶりです。
今回の話はエブリの方では完全に入れていなかったお話なので、なかなか難産でした…。
◇◇◇◇
中兄ちゃんとお別れして、座標を元にオーロラが見れるっていうフォルス公国の高山に直接空間転移をしたのですが……オーロラ、どこにもありません。
おっかしいなぁ……。
今は夕方だから、夜になったら見れるとか?
「そもそも、オーロラの発生条件って何?」
「さぁな。雑誌には書いてないが……ん?」
未だに寝ているリーンを背負ったまま私が持つ雑誌に目を通していたカインは、ふいに目を瞬いた。
どったの?
彼の視線を辿れば、雑誌の隅っこに書かれた小さな文字。
『数十年に一度、魔力密度が高まればオーロラは発現します。100年ほどぼんやり空を眺めながら待っていたら見れることでしょう』
「「いやいや、待てるか」」
何でオーロラを見るためだけに100年もぼんやり空を眺めていなきゃならないんですか。
オーロラ見るのを待っている間にリーンが100歳超えちゃうよ。
むしろ死んじゃうよ。
無理、時間がもったいなさすぎる。
「んー?そうかー?100年なんて、あっという間だけどなぁ」
そうのんびり欠伸混じりに言い出すのは、中身中年おっさんなコウモリ。
そりゃ何万年も生きているであろうコス王にとっちゃ100年なんてあっという間だろうけどさ、私たちは正真正銘16年ちょいしかまだ生きてないんだから、そんなに待ってられません。
しかも100年もずっと上を見上げていたら、首が痛くなっちゃうよ。
「お嬢ったら、お馬鹿さん!そういう時は、寝転んでいたらいいだけだぞ!」
「コス王に馬鹿にされると、なんでかすっごく腹が立つよね」
「あぎゃぁっ!?」
ニヤニヤしながら笑うコス王を、カインの頭から叩き落として握りしめる。
ちょっとだいぶ腹が立つから、このまま握りつぶしちゃおうかな。
しかもさらっと心読まれていたし。
そんな風に人の内心に自然とツッコんだりしたら、カインが話についていけないでしょうが。
「……いや、今はお前と能力を共有していて読めるから気にしなくていいぞ」
「普通に読めてた!?」
「おおー……さっそく神族の能力を使いこなすとか、カイン才能あるなぁ」
えらい普通に会話に入ってきたカインだけども、そんなことより内心読めていることにびっくりだよ!
なんてことでしょう……まさか、カインさんに内心が筒抜けでした!
やっばい。
私、もうこの人の前で駄目鬱帝とかうっかり者とか内心で罵れない!
「現在進行形で罵っているがな!?」
「え?……無意識だった」
いやぁ、罵っているつもりではなかったんだけど、結果的に罵るのと同等になってたね。
びっくりびっくり。
だけど、こうなるとちょっと内心読まれるの困るよねぇ。
一応、私だってプライバシーの問題があると思って読むの控えているし。
「はい!心読むのは禁止条例を設けましょう!」
「えー……人の内心読むのなんか、神族にとっちゃ普通のことなんだしいいんじゃねーのー?読まれたくない奴は自分で読まれないようにしているし、そこらへんは神族本人が自衛しなきゃいけないんだぞ」
張り切って手を上げて宣言した私の言葉に、さっそく異を唱えるコス王。
お黙り、コス王。
神族として自覚したばっかの子に、そんなもんを求めるんじゃありません。
自衛でそこまで出来るほど、自分の力を制御できてると思わないもん。
人の心だって、そんなに読まないように気を付けているんだからね!
たまに力を制御するの忘れて聞こえちゃったりするけど!
「まぁ、もともと聞こえないものとして生活していたから俺は問題ないが……怪しい奴とかがいたら、読んでいいか?」
「それはいいと思うよ」
なにしろ私も邪神さんが送り込んできた転生者君に対して、普通に読んでいたからね。
見た目はイケメンだったのに、中身が残念過ぎて笑えたけど!
「よし、では怪しい人以外の内心を読むのは控えましょう!決定!」
「ああ」
「へーへー。おにーさん、ちゃんと読まないように気を付けますよー」
あっさり頷くカインとは別に不承不承という感じのコス王だけど、もう決定です。
どっちにしろ、内心読まなくても何考えてるか分かるし問題ないよ!
「うにゅ……」
あら、ちょっと騒がしかったからか、カインにおんぶされて寝ていたリーンが起きちゃいました。
眠たそうに小さな手で目を擦って唸っている。
「うー……」
「リーン、起きた?」
「にゅー……あい」
まだ眠いんだろうなぁという様子でお返事をするリーンちゃん、超可愛いです。
頭がゆらゆら揺らしながら、眠気と戦っています。
そんなリーンの様子に、起こそうと思ったのか私の腕の中で大人しくしていたしぃちゃんが尻尾をブンブン振りながらカインの肩に飛び移った。
「わうわう!」
「はわー!しーたん、おあよ!」
「わう!」
器用にカインの肩の上に足を置いて立つしぃちゃんは、そのまま頑張って起きようとしているリーンのホッペに擦り寄り、リーンはリーンで目を覚ましたのかキョトンとした直後には満面の笑みを浮かべてしぃちゃんにギュッと抱きついた。
なんて可愛い光景でしょうか。
この世界に来てからしぃちゃんが使い魔で、可愛いリーンも引き取れて本当に幸せ。
「……お嬢ぉ。リーンやお犬様が可愛くて仕方がないのは分かったけどさぁ、幸せな理由にもうちょっと誰かさんを入れてやってもよくない?」
「内心読むの禁止!」
「おにーさん、今のは読んでません!お嬢が自分で言っちゃっていたんです!」
あれ、そうだった?
本当に気づかないうちに独り言って出てるよねー。
気をつけなきゃ。
「リーン、しぃちゃん。おいでー」
「あーい!」
「わう!」
カインの背中でおんぶされていたリーンを受け取って、しぃちゃんも飛びついてきた。
素直でよい子たちです。
もう本当に幸せー。
「……カイン、お前頑張れよ。まずはお嬢の幸せな理由のカテゴリに入れるようにな」
「……黙ってくれ」
カインとコス王ったら、何で二人揃って床に手をついちゃってるの?
まぁいっか!
「マーマ、おーりょらはー?」
「うーん……」
寝る前にオーロラを見に行こうって言ってたから、すっごい楽しみにしている様子だもんなぁ。
実は魔力密度が高くならないと見えないなんて言ったら、残念がりそう……。
オーロラの意味を分かってなさそうだけど。
「リーン、みりゅー!」
あらまぁ大変。
リーンちゃんが見る気満々だ。
オーロラ……魔力密度が高くなれば見えるもの……。
「あ、オーロラ作れるかも」
「は?」
お手てをポンと鳴らせば、床に手をついたまま顔だけ上げるカインさん。
どういうことだって目が訴えている。
「この高山付近の魔力密度をあげればいいんでしょ?それなら、魔力を垂れ流し状態にしたら、あっという間にオーロラが見れるだけの魔力密度はあがるでしょ」
私って無駄に魔力あるし、ちょっとだけオーロラを見るくらいなら十分いけるはず。
よし!
魔力がないリーンは結界で隔離して、いっきに魔力を垂れ流しちゃいましょう!
「うわ……お嬢、有言実行すぎる……」
「……まぁ、愛良はこんな奴だろ」
「そこのお二人さんや。君たちもお手伝いしてよ?時間がないんだから」
もう本当に魔力の垂れ流しぐらい、普通にしててもできるんだからやってよね。
なーんで君たちはすぐにそうやって二人でコソコソと話を始めるかな。
「こっちに来る前に中兄ちゃんにもらったイベントのチラシに書いてある日程、明日なんだから」
「……愛良?そんな大事なことをお前は何で今言うんだ?」
ゆっくりと立ち上がったカインが、にっこりと笑いながら私のホッペを思いっきり引っ張る。
むー……地味に痛いです、この攻撃。
だって、聞いてこない二人が悪いんだもん。
いいからホッペを放せー!
「きゃー!マーマ、むぎゅー!」
「わうー?」
そして足元のチビーズよ。
私は今カインさんに怒られているのであって、遊んでいるわけではありませんよ?
なーに楽しそうに自分のホッペを引っ張っているんですか。
可愛いだけですからね。
「お嬢ぉ……お嬢はまだ学生だから分からないかもだけどな?ホウレンソウって大事なんだぞ?そんな様子じゃ、立派な神族になんてなれないんだからな」
そして現在進行形で頬を引っ張られている私の頭の上にとまったコウモリコス王が、羽でなだめるように頭を撫でながら説明してくる。
ホウレンソウ……ほうれん草って美味しいよね!
今日の晩御飯のおかずに、ほうれん草のバター炒めも追加しよーっと!
「ああ……ダメだ。この世界に来るまでボッチだったお嬢にホウレンソウが理解できるはずがなかった」
「失礼な。報告連絡相談ってちゃんと知ってるよ。ただ、今までそれができる相手がいなくて活用されなかったから忘却の彼方に行っていただけで!」
「あー……なら、ちゃんと出来るようにな」
「うんうん、お嬢……ちゃんと人との関わりについて勉強できるように、おにーさん応援してる」
あら不思議。
なんだかカインとコス王から、ものすっごく生暖かい視線を感じる。
あんだけわーわー言っていたのに、魔力を開放して魔力密度を上げるのを手伝ってくれているし。
いったい何があったの?
「きゃー!マーマ!きらきらー!」
「わーう!」
だけども、さっそくオーロラが出てきましたね!
夜空に浮かぶ光のカーテン、綺麗です!
リーンとしぃちゃんが喜んでくれて何よりです。
愛良「はい、見たからさっさと海に行って宿を取ろうか」
コス「えっ!?はや!?お嬢!早すぎるって!オーロラが出現してから1分しか経ってない!」
愛良「え、十分じゃない?」
コス「いやいやいやいや!もうちょっと感動とかないの!?」
愛良「わー綺麗ー素敵ー最高ー!……てことで、宿を取りに行こうか」
コス「本気でさっさと行く気満々ですね、お嬢!ちょっとカイン!お前からも何か言ってやれよ!」
鬱帝「リーン?また眠くなったのか?」
リン「にゅー……おーりょら、みたー……パーパ、だっこぉ……」ウトウト
鬱帝「リーンが眠くなったみたいだし、さっさと宿に行くか」
コス「お前もか!この親馬鹿め!!オーロラを未だに見ているのはお犬様だけか!」
しぃ「わ~う~♪」
コス「ぎゃぁああ!!?お犬様、大人しくオーロラを観察しているのかと思ったら、何空気中の魔力を食べちゃってんの!?オーロラ、もうなくなっちゃいましたよ!?オーロラが空で光っていた時間、たったの1分半だぞ!?」
しぃ「わーう!」
愛良「しぃちゃんも(食欲的に)堪能したみたいだし、さっさと次行こうか」
鬱帝「ああ。暗くなったから、リーンも眠たそうだしな」
コス「……何なの、天界でもそこそこ有名なオーロラを見たってのに、この興味なさげな反応!俺様、こいつらの将来が超心配!!」(号泣)