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103.距離を縮めるには時間がかかりそうです

「ここだ」


哀愁漂わせている皇帝さんに案内されたのは、帝都の裏にある草原。

……ここ?

葉っぱ以外、何もないですけど?

カインと顔を見合わせれば、彼も同様の様子。

足元のしぃちゃんも然り。

だけど、リーンだけが違った。


「きらきらー!きりぇーねー!」


思わず首を傾げた私とカインの前で、嬉しそうに手を叩くリーンちゃん。

んー?

リーンの目にはすでに湖が見えてるのー?

思わず首を傾げれば、隣で腕を組んで前を見ていたカインが納得したように頷いた。


「愛良。俺たちのすぐ目の前に結界が張ってある」

「ほえー?」


結界とな?

じーっと魔力を目に集中させて草原を睨みつける。


「あ、ほんとだ」


しかも超強力な結界だ。

私らでも破るのには時間かかりそうだよー。


「これだけ強力なのを張るには、普通の人間では無理だろ。神じゃないのか?」

「そうかもー」


特定の血筋のみに影響があって半永久的に続く結界なんて、人間には無理だろうし。

お父さん以外の神族の誰かなんだろうね。

お父さんだったら、なんとなく分かるもん。

こういう時は、設定能力の出番!


「私とカイン、しぃちゃんには結界無効化の設定」

「あ、見れたな」

「わう」


うん、見れた見れた。

確かに綺麗な湖だ。

とっても大きくて、向こう岸が見えないくらい。

というより、私たちが見えない間に進んでいたリーンが、ギリギリのところまで進んでいたことに肝が冷えた。


「リーン、あんまり水の近くに行かないようにね?落ちちゃったら大変だから」

「あーい!」


私の言葉に元気よく返事をするなり、こっちに駆け寄ってくるリーン。

そのまま隣にいたカインの足に突撃すると、抱っこしてをアピールするように両手を広げた。

あらあら、リーンちゃん。

背の高い人に抱っこされた方が、遠くまでよく見えるのは分かるんだけどね?

背が高い実のお父さんがすぐ傍にいるのに、違う人に懐いていたら皇帝さんが拗ねちゃうよー。

すでに怖いライオンさんがジト目で睨んでて、すっごくリーンを抱っこしているカインさんが気まずそうにしてますからねー。


「……リーン。皇帝の方に抱っこしてもらった方が、遠くまでよく見えるぞ」

「やっ」


清々しいまでの拒否っぷりだね。

さっきまでのドSっぷりの皇帝さんが、落ち込みすぎなんだけど。


「えーっと、皇帝さん。とりあえずお昼にしましょう!一緒にご飯食べて仲良くなりましょう!ね!?」


何で私がこんなに気を使わなきゃいけないんだ……。

私、普段こんなふうに他人に気を使うなんて性格じゃないのに。

むしろ酷い性格なのに。

そんな私に気を使わせるほど、落ち込んでいる皇帝さんが哀れだ。

湖の傍でレジャーシートを引いて、とりあえず皇帝さんを座らせる。


「……本当に湖が見えているんだな」


湖の傍で引いたことで、本気で見えていることに気づいた皇帝さん、本気で驚いている。

設定能力って、ぶっちゃけ神様の一番の力だからね。

世界を作る上での基礎になるわけだし。


「よし!湖見ながらお弁当食べよう!」


そしてリーンは、皇帝さんと仲良くなってあげてください。

マジで。

レジャーシートの上にお弁当を広げれば完成!


「あ、皇帝さんもどうぞー」


何故か座ったまま無表情のまま絶句している皇帝さん。

早くしないと、ご飯がなくなっちゃいますよー?


「……この神聖な湖でピクニックをする奴など、今まで見たことがない」

「あー……あんまり形式にこだわらない奴なんで、すいません。やめさせた方がいいですか?」


カイン君。

食べる気満々でお弁当の前を陣取っている君が言っても説得力ないですよ?


「う?とーと、いりゃにゃい?」


そしてリーン。

皇帝さんのことを誘うにしても、その一定の距離を保ったままってのはやめてあげて。

なんで皇帝さんとリーンの間に2mの距離があるの。

さっきの台詞と上目遣いを皇帝さんの目の前でやったら破壊力抜群なのに、そんだけ距離があいていたら可愛いけど威力は半減だよ。

もうちょっと、こっちに寄っておいでよ。


「……」


何より実の息子との距離感に、無表情のドライ皇帝さんがそのうち男泣きしそうだから。

まぁ見てみたい気もするけどね。


「……いただこう」


負のオーラが半端ない皇帝さんは、渡したお箸とお皿を持ってお弁当を突きだす。

それを見て、リーンちゃんは私とカインの間に腰を下ろした。

……別に、私が座らせたわけじゃないよ?

皇帝さんの隣に座らせようとしたら、涙目でこっちに来たんだよ?


「……とりあえず、食べようか」

「いただゃーましゅ!」


リーンが元気よく挨拶したのと同時にお弁当に手を伸ばす。

子ども用のスプーンとフォークを渡しているにもかかわらず、素手で。


「わう!?」

「ちょっと待った!」


しぃちゃんがリーンの手がミートボールを鷲掴みする前に袖を噛んで止めて、その隙にカインがリーンを後ろから抱き上げた。

あら、普段は仲悪いのにナイスなコンビネーション。


「リーン。これは素手で食べるもんじゃない。フォークをこうやって使って食べるんだ」

「うにゅ?こー?」

「そう、上手だ」

「えへへ~」


びっくりだ。

カイン、子どもに教えるの上手。

あのリーンがちゃんとフォークを使ってご飯を食べてる。

私、末っ子だから甘やかすことはできても、躾とか分かんないんだよね。

さすが長男。

下の子の面倒、よく知ってるわ。


「いや~カインがいてよかったって初めて思ったかも」

「……初めて?」


ありゃ?

カインがずーんてなっちゃった。


「カインー?冗談だからねー?」


7割ぐらいは本気だったけど。


「……頼むから、そういう冗談は言わないでくれ。立ち直れない」

「うちゅてーしゃん、いーこいーこ」

「わふ~」


リーン。

項垂れているカインの頭を撫でるのはいいけど、『鬱帝さん』は逆効果だよ。

そしてしぃちゃん。

これみようがしにカインの前で笑っちゃダメよ。

落ち込ませた私が言うのもなんだけど。


「……お前達は、いつもこんな感じなのか?」

「だいたいこんな感じですねー。飽きないですよねー」

「……お前たちにこの子を本当に預けて問題ないのか、不安になってきた」

「えー?」


顔を引きつらせている皇帝さん。

どこに不安がる要素があるんでしょーか?

とっても不思議なんですが。


「マーマ、しーたん!いっしょ!」

「わうわう!」

「だよねー?」


もう自分からぎゅーって抱きついてくるとか、可愛すぎ!


「マーマ、しーたん、だいしゅきー!!」

「私も大好きだよー!」

「わ~う~!」


「「…………」」


大好きと言ってもらえない男二人が項垂れてるけど気にしない。

むしろ、この子たちの可愛さの前ではどーでもいいことだね!


「あー……躾とか、俺も面倒見るので」

「……頼むぞ。普通の、一般常識を身につけさせてくれ」


ん?

私、遠回しに普通じゃないって言われた?


「私もちゃんと一般常識知ってますよー」

「「……」」


なぜそこで黙り込む野郎共。

皇帝さん、お顔が怖いライオンさんじゃなかったら、お仕置きしてますよ?


「……不安だ。カイン、頼むぞ」

「はい」


カインは後で弄って弄って鬱帝にしてやるんだから。

……覚悟しといてくださいね?

愛良「私だって一般常識知っているのに、しっつれいだよねー」

鬱帝「一般常識を知っているだけでは意味がないんだぞ?」

愛良「……」

鬱帝「おい。そこで目を逸らすってことは、知っているだけで実施していないことを認めるんだな?」

愛良「……えへ♪」

鬱帝「愛良?」

愛良「気にしないもーん。どっちにしろ、カインは弄ってやるから気にしないんだから」

鬱帝「おい!?」


愛良ちゃんは、やっぱり愛良ちゃんでした……。

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